不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その74

 本日は、元従業員等(本件は元取締役)に係る紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28101317)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  大阪高判平17・6・21〔エニイワイヤ事件〕平16(ネ)3846(最三小判平成17・11・22〔同・上告審〕平17(受)1812

控訴人(1審原告) NKE株式会社(以下「原告」)
被控訴人(1審被告) 株式会社エニイワイヤ(以下「被告会社」)
被控訴人(1審被告) B(以下「被告B」)

 

■事案の概要等 

 本件は、原告会社が、元取締役であり且つ原告を退職して被告会社を設立した被告Bに対し、被告らが原告商品等表示を類似した表示を使用して自社製品を販売したことは不競法2条1項1号に該当し、また、被告らが虚偽の事実を流布したことは同項14号に該当するなどと主張して、被告製品等の製造販売、虚偽流布等の差止及び損害賠償を求めた事案です。

 

◆基礎となる事実(当事者間に争いがない事実等)
(1)ア)「原告は,各種機器の設計及び製作等を業と」し、昭和62年ころから、原告表示「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との商品等表示を用いて省配線システムを構成する製品を製造,販売…(以下,「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との商品等表示を用いた製品により構成される省配線システムを「ユニワイヤシステム」…)。
イ)「原告は…昭和61年ころから、黒田精工株式会社(以下「黒田精工」)と業務提携を行い,ユニワイヤシステム関連の製品の開発,販売等を共同で行」い、「「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」なる商標は,黒田精工が有する商標権に基づくものであり,原告は黒田精工からその使用許諾を受け…使用し」、「ユニワイヤシステム関連の製品を販売する企業は,株式会社日立製作所…を含め30社ほどあり…ユニワイヤシステム関連の製品全般を製造,販売する企業…は、原告,黒田精工のほかに吉田電機工業株式会社,CKD株式会社がある(以上の企業からなるグループを,以下「ユニワイヤグループ」)。黒田精工は,これらの企業に対しても上記商標の使用を許諾」。
ウ)「…本件で問題とされている省配線システムとは,主に産業機械の電子制御のために用いられるシステムである(以下,「省配線システム」…)」。「同時並列的に発生する電気信号をいったん直列信号に変換した上で配線上を伝送させ,伝送完了後,再度並列信号に変換する技術(シリアル多重伝送技術)を用いることで,2本の電線により多数の同時並列的に発生する電気信号を伝送することが可能となる。このシリアル多重伝送技術自体は公知の技術であるが,信号の伝送手順(プロトコル)には様々な種類があり,省配線システムに係る製品を製造,販売する企業がそれぞれ採用する伝送手順を前提とした製品を製造,販売している。省配線システムの主たる需要者は,産業機械を導入するメーカー等」。
 

(2)「被告会社は,電気電子機械器具,通信機械器具,制御用機械器具等の設計,製造及び販売等を業と」し、「平成13年4月2日に被告Bを代表取締役として設立」し」「「エニイワイヤ」「AnyWire」との商標登録を行い,これらの商標を商品等表示として用いて省配線システムに係る製品の製造,販売を行」い,「原判決別紙「製品一覧」…記載の製品が含まれている(上記商品は,後記AnyWire DB氏リーズに係る製品である。以下,AnyWire DBシリーズに係る製品を「被告製品」といい,「エニイワイヤ」「AnyWire」との商品等表示を「被告表示」)」。「被告会社は,被告製品を販売するに当たり,被告製品がユニワイヤシステムとの「上位互換性」を有するとして販売活動を行」う。
(3)「被告Bは,原告入社前,立石電機株式会社…に勤務し,電子機器に関する開発に携わ」り、「昭和57年8月,原告…に入社し,その後,常務取締役に就任し,平成13年3月まで同職にあった」。「被告Bは,同月当時,原告においてユニワイヤシステムの製造,販売を担当する電子事業部の事業部長として,電子事業部の外注先や顧客との交渉等を統括していた」。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為の成否について
1.周知性について
(1)裁判所は認定事実に基づき、以下のように認定し、判断しました。

 ①「原告が,昭和63年以降、原告表示を使用して継続的に販売活動を行」い、②「原告が,遅くとも平成7年以降,各種業界紙,雑誌等においてユニワイヤシステムに関する広告宣伝を行うとともに,省配線システムの需要者が来場することが見込まれる展示会に出展するなどして,継続的に広告宣伝活動を行」い、③「平成13年度当時,省配線システムに係る製品全体に占める,ユニワイヤグループや原告のシェアが相当程度を占めており,これらの事実と前記1認定の省配線システムの市場規模の推移や原告の工場出荷額の推移等を総合すると,平成12年末においても原告を含むユニワイヤグループのシェアが少なくとも同程度であったと推認されることに照らせば,遅くとも平成12年末ころには,「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との商品等表示は,全国の省配線システムの需要者の間で,少なくとも,原告を含めたユニワイヤグループに係る製品の商品等表示として広く認識され,周知の商品等表示にな」り、「原告が同グループの中核企業の一つとしての地位を占めることが認識されていた」。
 

(2)判断基準

 「不正競争防止法2条1項1号にいう「他人」には,当該商品等表示について商標権を有する者のみならず,その使用許諾権者と使用権者とのグループのように,当該商品等表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に結束していると評価できるようなグループも含まれるものと解するのが相当である」

(3)本件に関する判断

 「被告らは,黒田精工が「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」の商標権者であり,原告は黒田精工からその使用許諾を受けていたにすぎないことや,黒田精工がユニワイヤグループを構成する他の会社に対してもこれらの商標の使用を許諾していたことを根拠に,これを用いた原告表示が,原告の商品等表示として周知であったとはいえず,不正競争防止法2条1項1号は適用されないと主張する」のに対し、上記判断基準に照らし、裁判所は「ユニワイヤグループは,「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との商品等表示の出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に結束していると評価でき,かつ,原告も同グループの中核企業の一つとして認識されていたから、「原告も不正競争防止法2条1項1号の「他人」に該当し,その保護の対象となると解するべきである」。
 

2.類似性ないし混同行為について
(1)判断基準

 「ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号所定の他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,需要者等が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである」。

(2)本件に関する判断
 「原告表示を含む「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との商品等表示と被告表示とは,確かに「ワイヤ」や「WIRE」ないし「Wire」の部分は同一ではあるが,「ワイヤ」や「WIRE」ないし「Wire」は「針金,電線,楽器の弦」を指す普通名詞であるから,それ自体が格別の識別力を有することはなく,識別力を有するのは,主として,上記商品等表示における「ユニ」「UNI」と被告表示における「エニイ」「Any」の部分であると認められる。そして,上記商品等表示と被告表示とは,「ユニ」と「エニイ」との部分が異なり,また,その字数及び音数も異なることから,両商品等表示の全体的な外観,称呼からみて,需要者が類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえない」。

 「省配線システムの需要者は産業機械を導入するメーカー等であることに照らせば,一般消費者向けの商品に比較して,これらの需要者は,省配線システムの維持,管理に高い関心を有し,省配線システム関連製品の出所について高度の注意を払うのが通常であると推認され」、「原告製品と被告製品の商品等表示を観察した場合,両商品等表示を類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえない」。よって「類似性があるとはいえない」。
(3)「原告は,被告製品と原告製品との混同が生じている例」を提出するが、「複数の企業が被告製品を原告に誤って発注した事実は認められるが,これをもって直ちに被告製品の商品等表示が,その出所につき一般的に混同を生じさせるおそれがあると断言することはできない」。

 また,原告は、①「被告Bが被告会社で原告のユニワイヤ製品と競合する製品を扱うことを秘した上で退職した」、②「被告Bが当初原告・被告B間で予定されていた外部スタッフ就任を拒否した」、③「被告B及び被告会社が,原告に在籍していた被用者を被告会社に多数引き抜いた」といった事実主張を基に、「被告B及び被告会社は,原告のユニワイヤシステムに係る事業を乗っ取るとの意図を有しており,上記意図の下で,原告のユニワイヤシステムに係る顧客を引き継ぎ,原告の事業との連続性を維持するために,あえて原告の商品等表示と類似し,混同のおそれがある商品等表示を用いたと主張する」ところ、「平成13年2月から3月にかけて,被告Bが,原告の顧客を自身が新たに設立する新会社(被告会社)の顧客とする計画を立て,被告Bの計画に賛同した者とその実施方法を協議していた事実,被告Bが被告会社で原告のユニワイヤ製品と競合する製品を扱うことを原告に秘していた等の事実は認められる」が,「被告会社において,原告の事業との連続性を維持するため,ことさらに,原告製品と類似し混同のおそれがある商品等表示を,被告製品の商品等表示として採用した事実までは認められ」ない。
(3)「原告は,原告表示のうち「ワイヤ」「WIRE」の部分にも強い識別力が認められる旨主張するが,省配線システムに係る製品の需要者等は,同システムが各機器間の配線(電線)数を減少させるためのシステムであることから,「ワイヤ」「WIRE」を「電線」を意味するものとして受け取ることは明らかであり,そうである以上,当該部分には格別の識別力はないというべきであ」る。
 また「原告は,平成12年ころの時点では,需要者等が,「ワイヤ」WIRE」の名称の付された省配線システム機器=(イコール)「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との印象,連想を抱くに至っていたとも主張する」が、認められず、「省配線システムを導入するエンドユーザー等にとって,同システムでつながれた機器が支障なく作動することが最大の関心事であると考えられることからすると,特定の省配線システムを導入した後に当該システムを構成する製品の一部を取り替える必要が生じた場合には,なるべくは,当初の製品と同一ないし互換性が完全に保証された製品を選択しようとするのが通常であると考えられることからすれば,需要者等がその出所に特に関心を持たないなどということは考えられず,この点の原告の主張も採用」できない。


3.小括

 裁判所は、以上により「不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に関する原告の主張は理由がない」としました。


Ⅱ.不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為の成否について
(詳細省略)
 裁判所は「被告Bないし被告会社の被用者において上記のような表現を用いて販売活動を行ったとしても,これをもって不正競争行為ということはできない」と判断、同項14号の不正競争行為に関する原告の主張も理由がないとしました。


■結論
 裁判所は、「以上の次第で,原告の本件請求は,いずれも理由がないからこれを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がない」と判断しました。

 

■BLM感想等 

 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。本件では、元取締役が独立したケースですが、この一連のケースの一つ考えられます。本件特有の問題としては、「原告は…昭和61年ころから、黒田精工株式会社(以下「黒田精工」)と業務提携を行い,ユニワイヤシステム関連の製品の開発,販売等を共同で行」い、「「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」なる商標は,黒田精工が有する商標権に基づくものであり,原告は黒田精工からその使用許諾を受け…使用し」た者にすぎない点、「ユニワイヤシステム関連の製品を販売する企業は,株式会社日立製作所…を含め30社ほどあり…ユニワイヤシステム関連の製品全般を製造,販売する企業…は、原告,黒田精工のほかに吉田電機工業株式会社,CKD株式会社がある(以上の企業からなるグループを,以下「ユニワイヤグループ」)。黒田精工は,これらの企業に対しても上記商標の使用を許諾」している点でした。しかし、裁判所は「ユニワイヤグループは,「ユニワイヤ」「UNI-WIRE」との商品等表示の出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に結束していると評価でき,かつ,原告も同グループの中核企業の一つとして認識されていた」から、「原告も不正競争防止法2条1項1号の「他人」に該当し,その保護の対象となると解するべきである」と判断しています。ここで「保護の対象」となるというのは、差止請求権も有しているという意味です。そうすると、かかるグループから離脱した被告はどうなるのでしょうか。この点、商標・その他の表示を使用する商品・サービス又はシステムは、特許権が取得されていたり、営業秘密として保護されるものではないようなので、表示の問題となりますが、非類似と判断されました。非類似であれば、需要者・取引者の原告や原告を含むグループ(本件では「ユニワイヤグループ」)の主体の同一性に入ることなく、別の主体として表示を使用するわけで、出所の混同も起こらない、すなわち不正競争行為も観念できない、ということになるわけですね。

 

By BLM

 

 

 

 

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