不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その72

 本日は、事業承継事例に係る紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28061961)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

  東京地判平13・9・14〔ライフエナジー事件〕平12(ワ)10198

原告 株式会社啓和
被告 有限会社アイ・ビー・イー
被告 アイビーイー・テクノ株式会社(旧商号 アイ・ビー・イー販売株式会社)

 

■事案の概要等 

 本件は、被告は原告に「家庭用浄水器ライフエナジー」の独占的販売権を譲渡したが、被告は自らライフエナジーの販売を開始し、販売手数料を原告に支払う合意が成立し、その後、原告は当該「ライフエナジー」の商標権を取得したが、被告は販売手数料を原告に支払わないため、原告は被告に当該支払いを求めた事案です。

 

◆争いがない事実等
(1)当事者
・原告:家庭用・業務用浄水器の製造及び販売等を目的とする。
・被告有限会社アイ・ビー・イー(以下「被告IBE」):生物活性剤による水質の改善研究,生物活性剤等の生産及び販売等を目的とする。
・被告アイビーイー・テクノ株式会社(以下「被告IBEテクノ」):生物活性剤による水質の改善研究,生物活性剤等の生産及び販売等を目的とする。
(2)被告IBEは,アイワ株式会社(以下「アイワ」)に対し,ライフエナジーという名称の浄水器(以下「ライフエナジー」)を販売する権利を譲渡した。
(3)被告らは,平成3年ころから,自らライフエナジーの販売を開始した。アイワは,平成5年7月までの間に,被告IBEテクノとの間で,被告らがライフエナジーを国内で販売する場合は1台につき1万円,国外で販売する場合は1台につき5000円の金員(以下この金員を「販売手数料」)をアイワに支払う旨を合意した。(ただし,この合意が国内販売の場合4000円、国外販売の場合3000円の合意に変更されたか否かは,当事者間に争いがある。)
(4)アイワは本件商標を取得した(登録第2643043号)。原告はアイワから本件商標権を譲り受け、移転登録を了した。また、原告はアイワとの間で、アイワの全ての営業について譲渡を受ける旨を合意した。
(6)原告及び被告らは、被告IBEテクノからアイワへの「手数料未払金」(約2700万円)を,被告IBEからアイワへの貸付金,及び,被告IBEテクノからアイワへの売掛金と相殺するなどの以下を内容とする合意をした。
ア原告と被告らの提携の証として,被告IBEテクノは,今後も,「商品名・ライフエナジー,発売元・原告」の商品を扱う。ただし,被告IBEテクノは,原告に対し,「商標権代」を支払わない。
ウ 被告IBEは,原告に対し,今後毎月,UFO※200本を無償供与する。(※筆者注:ユーエフオーワンという称呼する標識を付した商品のようです。)
エ 原告と被告らの一体感を増すべく,今後,合同研修会を実施する。
(7)原告は,平成12年3月29日、被告らに対し,本件合意を解除する旨の意思表示をした。

 

■当裁判所の判断(下線・太字筆者)
 裁判所は、認定事実に基づき、以下のように判断しました。
Ⅰ.不正競争防止法2条1項1号
1.認定事実
(1)被告IBEは、アイワに「被告IBEが製造する家庭用浄水器ライフエナジーを,総販売元として独占的に販売する権利を1000万円で譲渡した」一方、被告らは「自らライフエナジーの販売を開始し」たため、「被告IBEテクノとアイワの間で…販売開始に遡って販売手数料をアイワに支払うという合意が成立」した。
(2)「被告IBEは…アイワによる商品の販売が被告IBEが有する特許権を侵害している旨の警告書を送付し」、「アイワと被告らの協議の結果,被告IBEが…アイワに2000万円を貸し付け」、「被告らからアイワに副社長を派遣すること,同年5月31日(※)をもって販売手数料の支払を廃止することの各合意が成立し」、「アイワ代表者が亡くなるまで,アイワ代表者からの販売手数料の請求はなかった」。その後「アイワ代表者が死亡し同人の妻であった原告代表者アイワの代表者とな」り、「原告代表者は,被告ら代表者と交渉し,数回にわたって販売手数料の支払を求めたが,被告らの了解は得られず,アイワが被告らからライフエナジーの供給を受ける立場であったことからそれ以上強く支払を求めることもできなかった」。「原告代表者は,販売手数料に商標使用の対価を含むものと考え,これを「商標権代」と称して,被告らに支払を求めていた」。
(3)「原告は,平成9年8月25日,アイワから全ての営業について譲渡を受けたが、ライフエナジーの販売という事業の継続のためには,被告らから営業譲渡についての承諾を得ることが必須で」、原告代表者は被告らに「販売手数料の支払を求める書面を送付し」、「国内販売の場合は4000円,国外販売の場合は3000円による支払を求めていた」。 

(4)平成9年10月19日,三河湾リゾートリンクスにおいて,本件合意が成立した。「本件合意において相殺によって支払われることになった「手数料未払金」は,平成7年5月31日までの間のライフエナジーの販売数量を基礎として,国内販売の場合は4000円,国外販売の場合は3000円でそれぞれ計算された金額で,平茂7年6月1日以降の販売手数料を含まないものであったが,原告代表者は,被告らから営業譲渡についての承諾を得て,ライフエナジーの安定的な供給を受けることを第一に考えていたので,平成7年6月1日(※)以降の販売手数料の支払を含まない内容の本件合意を行うに至った」。「原告代表者と被告ら代表者はいずれも,本件合意当時,販売手数料と商標使用料を明確に峻別して認識していたわけではなく,本件合意中の1項の「手数料」と2項の「商標権代」は,同一のものと認識していた」。

(※筆者注:特許権を侵害している旨の警告書送付後の話し合いで同年5月31日をもって販売手数料の支払を廃止することの各合意が成立しているため、翌日の6月1日という日にちが出てきていると解される。)


(5)以上の事実により、「被告らは,平成9年10月19日付けの書面によって,アイワから原告への営業譲渡を承諾した。
 裁判所は、「被告IBEテクノは,平成5年7月に,アイワに対し,販売手数料の金額を,国内販売の場合は4000円,国外販売の場合は3000円にする旨の書面を送付したが,これに対して,アイワの側は異議を述べ」ず,「原告代表者が平成9年9月9日付けで被告らに対して送付した書面においても,国内販売の場合は4000円,国外販売の場合は3000円による販売手数料の支払を求め」、「本件合意において,平成7年5月31日までの販売手数料について,国内販売の場合は4000円,国外販売の場合は3000円によって計算した金額について清算することが定められた」ことを総合すると,「販売手数料の金額が,国内販売の場合は4000円,国外販売の場合は3000円に変更された事実」を認めました。

 また裁判所は以下のように認定しました。

 すなわち、「平成7年1月ころには,被告らとアイワの力関係は,被告らが優位に立ったことが窺われるから,被告らが販売手数料を支払わないといえば,アイワは不本意ながらも,融資等と引換えにそれを受け入れざるを得ない状況にあったものと推認され」、「アイワ代表者が死亡するまでの間に,アイワ代表者が被告IBEテクノに対して,平成7年6月1日以降の販売手数料の支払を求めたことはな」く、「原告代表者は,被告らに対して,販売手数料の支払を求めていたが,証拠(原告代表者)によると,原告代表者は,夫であるアイワ代表者の存命中は専業主婦であって,当時のアイワの経営に関与して」おらず、「原告代表者は,従前の経過を認識した上で,支払を求めているとは解されないこと」,本件合意において,平成7年5月31日までの販売手数料について清算することが定められたのみであること」を総合すると,「平成7年5月31日をもって販売手数料の支払を廃止するとの合意が成立した事実を認めることができる」と判断しました。


(6)以上の認定事実から、裁判所は、「もともと販売手数料は,独占販売権の一部買戻しの対価として支払が約されたものであり,販売手数料についての取決めがされた時には,本件商標権は登録されていなかったのであるから,販売手数料の内容に商標使用の対価を含んでいたものとは考えられない」とし、「原告代表者も被告ら代表者もいずれも,販売手数料と商標使用料を明確に峻別して認識していなかったというのが実態ではあるが,少なくとも,アイワも原告も,販売手数料の他に別途商標使用料を請求できるとは考えていなかった」とし、「本件商標権の登録後も,被告らにライフエナジーの販売が許諾されており,平成7年6月1日以降は,販売手数料が支払われなくなったことと考え合わせても,アイワによって,本件商標の使用が無償で許諾されていたものと解するほかない」と判断しました。
 そして「原告は,アイワによる本件商標の無償使用許諾を承継する立場にあったから,本件合意のうち,「原告と被告らの提携の証として,被告IBEテクノは,今後も,『商品名・ライフエナジー,発売元・原告』の商品を扱う。」という部分は,被告らに対する本件商標の使用許諾を確認的に記載したものであり,「ただし,被告IBEテクノは,原告に対し,『商標権代』を支払わない。」という部分は,それが従前どおり無償であること及び従前どおり販売手数料を支払わないことを確認したものであると解される」と判断しました。


 したがって,仮に被告らに上記債務の不履行があったとしても,それを理由とする本件合意の解除によって,本件商標の使用ができない状態となったということはできず,他に使用許諾の解除原因及び解除の意思表示があった旨の主張立証もない。
 そうすると,原告の被告らに対する本件商標の使用許諾は現在まで継続しているということになるから,その余の点を判断するまでもなく,原告の本件商標権に基づく差止め等の請求及び商標権侵害による損害賠償の請求はいずれも理由がない。
 なお「被告らは,平成12年8月1日以降,原告へ供給する分を除くライフエナジーの製造販売を中止し,被告らが販売する家庭用浄水器の商品名をアクアエリアスに変更し,現在は被告標章を使用していないことが認められる」。


2 争点(2)及び(3)について
(1)「Bは,平成11年7月6日,原告が同日,ライフエナジーの説明会を開いた会場と同じ札幌市内のワシントンホテルにおいて,ライフエナジーの説明会を開いたこと,Bはもともと原告の代理店であったが,この時点においては被告らの代理店になっていたこと,Bは被告らの代理店ではあるが,独立の販売業者であり,被告らとの間の代理店契約に基づきライフエナジーの供給を受けているにすぎないこと,以上の事実が認められる」とし、裁判所は、かかる認定事実に基づき、「Bは被告らの代理店ではあるものの,あくまで独立の販売業者であり,被告らから商品の供給を受けて販売しているにすぎないから,Bが開催した説明会を,直ちに被告らが開催したものと評価することはできないし,他に被告ら自身が開催したものと同視できるような事情も認められない」と認定し、「原告の不正競争防止法2条1項1号に基づく差止請求は理由がない」と判断しました
(争点(3)、省略)


3.争点(4)乃至(6)について
(省略)

 


■結論
 裁判所は原告の請求、すなわち、被告アフトシステム株式会社は、その自動車運送取扱,自動車のリース業その他これらに付帯する一切の営業に別紙目録記載の各標章を使用してはならない旨、本店,埼玉県等の各所在の営業所の各店舗内,営業用運送トラック及び社員使用に係る名刺に付された営業表示から,前項記載の各標章を抹消せよとの旨、「アフトシステム株式会社」の商号を使用してはならない旨、「アフトシステム株式会社」の商号の抹消登記手続をせよとの旨の判断をしました。

 

■BLM感想等 

 本件は、やや関係が難しいのですが、まず、被告IBEは、アイワに「被告IBEが製造する家庭用浄水器ライフエナジーを,総販売元として独占的に販売する権利を1000万円で譲渡した」一方、被告らは「自らライフエナジーの販売を開始し」たため、「被告IBEテクノとアイワの間で…販売開始に遡って販売手数料をアイワに支払うという合意が成立」しています。独占的販売権なので、被告らに対しても、販売を禁止しなければ、独占の意味がないようにも思われますが、販売手数料が取れれば、販売者の数が増えれば、原告としてもよきことと思ったのかもしれません。もっとも特許権侵害が見つかり、結局販売手数料の支払いの廃止が合意され、結局、独占的販売権というよりは、アイワが被告らから商品の安定供給を受けるための契約だったように思われます。いずれにしても裁判所はかかる契約は有効と判断し、そのような当事者としての地位を、アイワ代表者の死亡後、妻が代表者である原告が引き継いだということになります。妻としてはそのような複雑な契約内容を知らなければ、「なぜ、販売手数料が支払われないのだろう?」と疑問に思ってもおかしくないように思います。ただし、結局、「アイワが被告らからライフエナジーの供給を受ける立場であったことからそれ以上強く支払を求めることもできなかった」としています。そこで、原告は商標権を取得するわけで「原告代表者は,販売手数料に商標使用の対価を含むものと考え,これを「商標権代」と称して,被告らに支払を求め」たのですが、裁判所は、無償で使用許諾したものと認定しています。原告から被告らへの商標権侵害が認められたとしても、その代償として、原告からの商品の供給がなくなることを考えると、被告IBEとアイワとの間における「被告IBEが製造する家庭用浄水器ライフエナジーを,総販売元として独占的に販売する権利を1000万円で譲渡した」という契約は意味があったのか、疑問に思えてきます。上述したように、実質的には、商品の安定供給を受けるための契約として意義があり、一方、被告らの使用については、少なくとも商標を変えて販売するよう交渉した方がよかったかもしれません。同じ製品でも被告らが提供できない付加価値を原告が提供できれば、原告が優位に立てると考えられます。すなわち、例えば、「Bは,平成11年7月6日,原告が同日,ライフエナジーの説明会を開いた会場と同じ札幌市内のワシントンホテルにおいて,ライフエナジーの説明会を開いたこと,Bはもともと原告の代理店であったが,この時点においては被告らの代理店になっていたこと,Bは被告らの代理店ではあるが,独立の販売業者であり,被告らとの間の代理店契約に基づきライフエナジーの供給を受けているにすぎない」というのは、原告にとって理不尽なようにも思いますが、前提となる上述のような契約をしてしまった以上、被告らの販売を差止できないわけなので、致し方ないということでしょうか。裁判所は、原告の被告らに対する不正競争防止法2条1項1号に基づく行使も、B自身は「独立の販売業者であり、被告らから商品の供給を受けて販売しているにすぎない」とし、被告らとBは同視できないので、請求を認めませんでした。結局、原告(及びアイワ)が、商標・その他の表示によってコントロールできていないという状況にあると考えます。標識に基づく関係が形成されていなかった事例と言えるのかもしれません。

 

By BLM

 

 

 

 

  (^u^)コーヒー ==========================

知的財産-技術、デザイン、ブランド-の“複合戦略”なら、

ビーエルエム弁理士事務所兼・今知的財産事務所BLM相談室

の弁理士BLMと、今知的財産事務所の弁理士KOIP

==============================コーヒー (^u^)

東急沿線の商標屋さん!ビーエルエム弁理士事務所

東急目黒線から三田線直通で御成門駅近くの今知的財産事務所