不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その69

 本日は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28061028)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平12・5・31〔壁の穴事件〕平8(ワ)21398、平9(ワ)11834、平10(ワ)3409(東京高判平12・10・31〔同・控訴審〕平12(ネ)3119、最一小判平13・4・11〔同・上告審〕平13(オ)102

商号登記抹消登記請求事件:東京地裁平成8(ワ)21398(以下「甲事件」)
商号抹消登記請求事件:東京地裁平成9(ワ)11834(以下「乙事件」)
商号使用差止等請求事件:東京地裁平成一〇年(ワ)第三四〇九号(以下「丙事件」)

 

甲事件・乙事件・丙事件原告:株式会社壁の穴(代表者 F木M光)
甲事件被告 U河H
乙事件被告 株式会社壁の穴(代表者 W邊Y次郎)
丙事件被告 壁の穴フーズ株式会社(代表者 U河H)

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

 裁判所は以下のように認定し、判断しました。

 

Ⅰ.甲事件について
(1)裁判所は、請求原因1(原告)について,証拠及び弁論の全趣旨により認めました。
 すなわち原告は以下主張(請求原因1)しました。

 原告は昭和51年「株式会社大阪壁の穴」(本店大阪市、目的飲食店の経営等)を設立同年「壁の穴大阪キタ店」を、N松T安の事業であった「壁の穴」フランチャイズの一号店として開店した。そして、N松の事業が法人成りした「株式会社パスタの専門店壁の穴」…から、昭和56年2月27日に渋谷区宇田川町の「壁の穴」本店及び同区内の原宿店の譲渡を受けるとともに、同社と共に全国的なフランチャイズ事業を共同管理することとなり、同年6月4日、商号を「株式会社壁の穴」に変更。原告は、今日までスパゲティ専門店「壁の穴」の経営及び全国チェーンである「壁の穴」フランチャイズ事業の管理等を行ってきたが、平成8年9月1日、「パスタの専門店壁の穴」からその営業全部を譲り受け、今日に至っているとし、甲事件被告(以下「被告U河」という。)は、昭和52年2月22日から、東京都渋谷区内に「壁の穴」の商号(以下「本件商号(一)」という。)を登記(以下「本件登記(一)」)しているが、正当な事由なく、少なくとも平成3年4月20日以降現在まで東京都渋谷区内において営業を行って」いない。」など(以下省略)と主張しました。

 これに対し被告U河は「平成7年2月28日、被告壁の穴フーズに本件商号(一)の使用を許諾し、それ以降被告壁の穴フーズが本件商号(一)を使用して営業している。したがって、被告内河は本件商号(一)を使用しており、右商号は廃止されていない」、「被告U河自身も、自ら本件商号(一)を使用している」などと反論しました。

 

(2)裁判所は、被告内河の商号(一)を使用する営業所の住所には、(筆者:別事務所が存在し、特許庁への申請のため住所を使わせた経緯があり)、「被告U河が本件登記(一)上の営業所所在地において本件商号(一)を使用していたとは認められ」ないと認め、これにより「廃止されたものと認められるので、仮にその後に右商号の使用許諾がされたとしても、右使用許諾は既に廃止された商号についてされたものであるから、それによって法的に保護すべき商号が復活するいわれはな」く、「そもそも商号は商人が営業関係において自己を表すために用いる名称であるから、右商号使用許諾時における被告壁の穴フーズの商号が「新世界興業株式会社」である以上、更に自己を表す名称として「壁の穴」を使用することは許されない」等と解し、被告内河の右主張は失当と判断しました。


Ⅱ.乙事件について
(主位的請求)
1.請求原因1(原告の営業表示の周知性)について
(1)裁判所は、N松が昭和39年に渋谷区宇田川町にスパゲティ専門店「壁の穴」を開店させたことは当事者間に争いがないとし、以下の事実を認定し、判断しました。
 すなわち「成松が経営するスパゲティ専門店「壁の穴」や同人が考案した和風スパゲティは、昭和40年ころから、テレビ等のマスコミや多数の料理雑誌等によって幅広く紹介されており、「壁の穴」の営業表示は、遅くとも昭和51年ころには、少なくとも東京都周辺において、スパゲティ専門店を経営する成松の営業表示として一般消費者の間に広く認識されていた」。

 「N松は、昭和53年4月12日に「パスタの専門店壁の穴」を設立し、法人成りの形で右営業を全部譲渡し、さらに「パスタの専門店壁の穴」は、平成8年9月1日に原告に右営業を全部譲渡している上、原告は、「株式会社壁の穴」の商号で右営業を継続し、拡大するに至っているから、右営業譲渡に伴って原告に周知性が承継されたと認めるのが相当である
 「これに対して、被告壁の穴は、「壁の穴」の商号は、昭和62年から平成2年ころに被告壁の穴フーズの営業表示として周知となったと主張するが、「壁の穴」が遅くとも昭和51年ころまでにはN松の営業表示として周知となり、これが「パスタの専門店壁の穴」に承継されたと認められ」、「もともと被告U河は、N松の開店した「壁の穴」がスパゲティ専門店として話題になっていたことから、N松と料理法の指導等を内容とする契約を締結し、「元祖壁の穴チボリ」及び「壁の穴新宿西口店」を開店したにすぎないことや、被告壁の穴が主張するような時点において、右二店舗が成松や「パスタの専門店壁の穴」とは区別された形で一般消費者の間で特に紹介されたというような事情も認められないことをも考慮すれば、そのような時点において「壁の穴」の商号が被告壁の穴フーズの営業表示として周知となったと認めることはできない」。
 また「被告壁の穴は、原告は「パスタの専門店壁の穴」から「壁の穴」の商号の周知性を承継してはいないと主張するが、商号は営業と一体として一つの価値を形成しており、営業と切り離されて存在するものではないから、営業譲渡と共に右営業を表示する商号の周知性も承継されると解するのが相当であって、被告壁の穴の右主張は理由がない」。


2.請求原因4(混同のおそれ)及び請求原因6(営業上の利益の侵害)について

 裁判所は、「被告壁の穴は、平成6年4月28日、商号を「株式会社壁の穴」、本店を新宿区、目的を高級レストラン、飲食店並びに料理教室の経営等として設立され」、「平成10年5月31日、被告壁の穴フーズから全部の営業を譲り受け、レストラン店の営業及び「壁の穴」の商標のスパゲティやソースの販売等を行って」おり、また、原告と乙事件被告の両号は同一であると認定した上、混同のおそれについて、以下判断しました。
 「被告壁の穴は、「壁の穴」の商号でレストランの営業及び「壁の穴」の商標を付したスパゲティやソースを販売しており、原告と被告壁の穴が同一グループの事業者であるとの誤認や、原告の経営するスパゲティレストランが直接右スパゲティやソースを販売しているかのような誤認を与えているから、原告の営業と被告壁の穴の営業との混同を生じさせ、又は混同を生じさせるおそれがある」。

 「被告壁の穴が「壁の穴」の商号を、被告壁の穴の営業表示として使用し、レストランの営業及びスパゲティ等の販売等を行うことは、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当し、これにより、原告は営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある」。したがって、原告の同号、3条に基づく乙事件主位的請求は理由がある。


Ⅲ.丙事件について
1.請求原因1(原告の営業表示の周知性)、二 請求原因2(被告壁の穴フーズの行為)、請求原因3(営業表示の類似性)

 裁判所は、上記のように原告の営業の周知性を獲得している点、そして、「被告壁の穴フーズは、昭和37年10月5日、商号を「新世界興業株式会社」、本店を東京都新宿区、目的をレストランやゲームセンターの経営等として設立され、右事業を営んできたが、平成9年11月13日、商号を「壁の穴フーズ株式会社」に、目的をスパゲティ・パスタの製造、販売並びに輸出入等に変更し、同月19日にその旨の変更登記をした。そして、さらに、平成9年11月13日に渋谷区に支店を設置したとして、平成10年1月12日に東京法務局新宿出張所に、同月21日に東京法務局渋谷出張所にその旨の支店設置登記をした。被告壁の穴フーズは、被告U河が実質的に支配する会社である」点、そして、「被告壁の穴フーズ」の営業表示である商号の要部は「壁の穴」であり、原告の営業表示と同一であるとして、原告と丙事件被告の商号は類似する点を認めた上で、以下認定し判断しました。

 

2.請求原因4(混同のおそれ)及び請求原因6(営業上の利益の侵害)
 裁判所は、「被告壁の穴フーズは、昭和52年ころから平成10年5月31日に被告壁の穴に対して全営業を譲渡するまでの間、原告と同種のスパゲティ店を営業してきており、現在は不動産の賃貸業等を行っているものの、右営業譲渡後においてもスパゲティ・パスタの製造、販売及び輸出入等を目的としており、今後の事情いかんによってはスパゲティ店の営業等を行うこともあり得ることが認められるから、原告の営業と被告壁の穴フーズの営業との混同を生じさせ、又は混同を生じさせるおそれがある」と判断しました。

 そして、「以上によれば、被告壁の穴フーズが「壁の穴」の商号を、被告壁の穴フーズの営業表示として使用し、レストランの営業及びスパゲティ等の販売等を行うおそれがあるから、これにより、原告は営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある」と認めました。 

 

3.小括
 裁判所は、「原告の不正競争防止法2条1項1号、3条に基づく丙事件請求は理由がある」と判断しました。


■結論
 裁判所は、「原告の甲事件請求、乙事件主位的請求、丙事件請求はいずれも理由がある」とし、「甲事件被告の商号登記中、「壁の穴」の商号登記の抹消登記手続をせよ」との旨、「乙事件被告は、「株式会社壁の穴」の商号を使用してはならない」旨、「乙事件被告は…「株式会社壁の穴」の商号登記の抹消登記手続をせよ」との旨、「丙事件被告は、「壁の穴フーズ株式会社」の商号を使用してはならない」旨、及び「丙事件被告は…「壁の穴フーズ株式会社」の商号登記の抹消登記手続をせよ」との旨を命ずるなどの判断をしました。
 

■BLM感想等 

 本件は、単純に、原告側が主体の同一性を維持しながら、周知性を獲得し、一方の被告は「壁の穴」の店を営業しているが、それは、原告から使用を認められているからできることと、単純なん構図に見え、なぜ被告が「壁の穴」を自分の会社の商号とし、自分が「壁の穴」を使用する正当な者だと言えるのか、少し疑問を持たれる方がいるかもしれません。そこで、被告の主張を少し以下見ていきます。あぁなるほど、ある程度知られている表示があり、それに目を付け、自分たちが引継ぎ一般消費者に広め、商標出願もして権利化した、という既成事実があって、特許庁に登録された商用をその商号としたのだなぁという流れが解ります。被告の気持ちも解らないではない。しかし、「壁の穴」を立ち上げた者からその商標の使用を脈々と引き継いでいく以上、主体の同一性(その後グループ化していく場合も含め)が認められる、という点は、これまで本ブログで見た裁判例から明らかであると言えるともいます。

 

被告の主張から抜粋(筆者加工あり)

 「被告U河は、被告壁の穴フーズを、商号を「新世界興業株式会社」として設立し、昭和38年以来、新宿において飲食店「チボリ」を営業し、被告U河は、昭和52年ころ「チボリ」について新規業務による発展を目指していたところ、当時N松の開店したスパゲティ専門店「壁の穴」が話題となっていたので、被告壁の穴フーズとN松は、成松は料理法を指導する、被告壁の穴フーズはその代金を支払うことなどを内容とする契約を締結し、新宿西口京王モール街に「壁の穴」の名称を使用したスパゲティ店を開店した。原告は、N松と被告壁の穴フーズとの関係をフランチャイズと主張するが、両者の関係は、出店及び料理技術指導等を内容とする契約を結んだだけで、何らの資本・物流に基づく組織的なつながりではなく、個人商店の独立した関係であるから、フランチャイズではない」。また「原告は、「壁の穴」の商号は、昭和51年初めころにはN松の営業表示として周知となったと主張するが、当時は食マニアの間で話題となっていたにすぎず、最終消費者である一般人にN松の「壁の穴」が周知となっていたわけではない。「壁の穴」の商号が一般人の間にスパゲティの店として周知となったのは、昭和62年から平成2年ころであるが、その理由は、被告壁の穴フーズが新宿西口の京王モール街においてスパゲティ専門店「壁の穴」を営業し、広範な宣伝活動を行っていたからであって、「壁の穴」の商号は被告壁の穴フーズの営業表示として周知となったのである」。

 原告の周知性の承継については、「「パスタの専門店壁の穴」と「壁の穴」は異なる商号であるから、周知性判断の上で同一に論ずることはできないし、昭和56年当時、「パスタの専門店壁の穴」は設立されてわずか3年であるから、「壁の穴」の商号が周知となってはいなかった。したがって、原告は「パスタの専門店壁の穴」から「壁の穴」商号の周知性を承継することはできない」。

 「被告内河は、「パスタの専門店壁の穴」が設立された昭和53年4月12日以前である昭和52年2月22日に商号登記を行った。原告が「大阪壁の穴」から「壁の穴」に商号登記を変更したのは、その後の昭和56年6月4日である。被告壁の穴の「壁の穴」の商号は、原告が「大阪壁の穴」から「壁の穴」に商号変更する昭和56年6月4日以前の昭和52年2月22日、被告内河によって登記され、その後、被告内河から右商号の使用許諾を受けた被告壁の穴フーズの営業と宣伝活動によって、次第に周知になった」から、「被告壁の穴フーズから全営業を譲り受けた被告壁の穴に不正の目的及び不正競争の目的はない」。

 「被告内河は、昭和52年2月21日、特許庁に「壁の穴」の商標出願をし、翌22日、「壁の穴」の本件登記(一)を行ったのであって、本件商号(一)は、右「壁の穴」の商標をそのまま商号とし」「被告壁の穴フーズは被告内河より使用許諾を得て、本件商号(一)を使用している」。

 

By BLM

 

 

 

 

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