不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その65

 本日は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例と思ったのですが、蓋を開けてみると、ちょっと違っていました。元従業員と会社等との紛争事例、使用許諾事例といったところになるかと思います。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25445641)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  福岡地判平25・3・6〔元祖ラーメンN家事件〕平22(ワ)3490、平23(ワ)2121、平24(ワ)132(福岡高判平26・1・23〔同・控訴審〕平成25(ネ)366

原告 原告会社(代表取締役C)、原告A、B
被告 

 

■事案の概要等 

 本件第1事件は、原告Aが、被告は原告Aの有する商標権に係る商標と酷似する被告標章を使用することにより原告Aの商標権を侵害していると主張して、被告に対し,商標法36条1項に基づき,被告標章及び本件商号「元祖ラーメンN家」の使用の差止等求めるとともに、原告Bが、原告A及び原告Bが共同で経営するラーメン店の至近距離において被告標章を用いてラーメン店を営業する被告の行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
 本件第2事件は,原告A及び原告Bが上記ラーメン店の経営等を目的として設立した株式会社である原告会社が,被告による上記不正競争行為を理由として、被告に対し、不競法3条1項に基づき,被告標章及び本件商号の使用の差止等求めた事案です。
 本件第3事件は、被告が、原告A及び原告Bは共謀の上で被告に対して違法な脅迫、強要行為を行っており、また,原告A及び原告Bが第1事件を提起したことは不当訴訟に該当するなどと主張して,第1事件の反訴として,原告A及び原告Bに対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

 本件は控訴されていますが原判決が維持されていますので、本ブログでは第一審を見ていきます。

 

◆前提事実
(1)当事者
ア 原告Bは、平茂21年12月12日,「元祖ラーメンN家」という屋号のラーメン店(以下「原告店舗」)を開業した者であり,原告会社は,平成22年8月2日に飲食店経営等を目的として設立され,同日以降,原告店舗を経営している株式会社である。なお,原告会社の代表取締役としてCが,取締役として原告A及び原告Bが,それぞれ登記されている。
イ 原告Aは,登録第5327392号(指定役務 ラーメンを主とする飲食物の提供)の商標権を有する。 
ウ 被告は,平成22年4月6日,「元祖ラーメンN家」という屋号のラーメン店(以下「被告店舗」)を開業した。


(2)原告Bが原告店舗を開業するに至る経緯
 原告Bは,昭和56年3月20日から,元祖N屋という屋号のラーメン店(以下「元祖N屋」という。)に勤務していたが,経営者との経営方針に関する見解の相違等を理由として,平茂21年8月31日,他の従業員ら(15名程度)とともに元祖N屋を退職し…原告Bは、上記退職者のうちの数名(被告を含む。)の協力の下…原告店舗の営業を開始。被告は、原告店舗の開業準備に当たり、取引業者の選定等の業務を行った。原告店舗は、平成22年5月移転前の元祖N屋から見て,道路を挟んで斜め向かい側の位置にあり,原告店舗と元祖N屋との距離は直線で約34メートルある。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

 裁判所は以下のように認定し、判断しました。

 

Ⅰ.認定事実
(1)原告店舗の開業等
 「原告Bは,平成21年8月31日に元祖N屋を退職後,同時に元祖N屋を退職した被告らとともに原告店舗の開業の準備に当たり,同年12月12日に原告店舗を開業したところ,開業…資金は,すべて原告Bが自らの名義で銀行等から融資を受けるなどして準備し…原告店舗に係る不動産の賃貸借契約も,原告Bの名義で締結された。また,原告Bは,同年10月16日,福岡市中央保健所長に対し,営業所の名称,屋号又は商号を「元祖ラーメンN家」として,原告店舗における飲食店営業の許可を求める旨の申請をし…許可する旨の処分を受けた。


(2)本件各覚書を作成するに至る経緯等
 被告は,平成21年12月12日から原告店舗において勤務していたが,原告Bとの間で,原告店舗の売上金の管理等をめぐってトラブルとなった。…被告が原告Bに対して原告店舗の帳簿を見せるように求めるなどしたところ,原告Bは,被告に対し,そんなに帳簿を見たいのであれば,店の名前を使っていいから,近くにラーメン店を出して自分で経営すればいい旨の発言をした。これを受けた被告は…原告Bに対し,口約束では信用できないから書面を作成して欲しい旨を述べて本件覚書〔1〕への署名・押印を求めたところ,原告Bは,これに応じて…署名・押印した。他方,原告Bが,被告に対し,被告が原告Bに対して原告店舗の営業に関するクレーム等を言わないことを約する書面」を要求し、被告は「「元祖N家」という屋号のラーメン店を開店し営業すること」とある部分を「「元祖N家」という屋号のラーメン店を営業していること」と訂正するなどした書面を作成し,これに被告及び原告Bが署名・押印して…本件覚書〔2〕…が作成された。「本件覚書〔1〕作成当時,原告Bが経営していたラーメン店は原告店舗のみであり,また,本件覚書〔1〕を作成する際,原告Bが,被告に対し,被告が開業する店舗の屋号及び原告店舗との距離について,何らかの制限を加える趣旨の発言をすることはなかった」。


(3)原告Aによる本件商標の商標登録の出願等
ア「被告は…原告Bとの間で本件各覚書を取り交わした後,被告店舗開業のための準備に着手し,平茂21年12月末ころには,被告店舗の入るテナントを見つけるなどした。一方,原告Bは,平成22年1月初めころ,被告が原告店舗の近くにラーメン店を出そうとしていることを知った」。
イ「原告Aは…原告Bから話を聞くとともに本件各覚書を確認し,原告Bと被告の間において…本件各覚書が取り交わされたこと,及び,そのことについて原告Bが後悔していることを知った」。「原告Aは,同月21日,本件商標について,自らの名義で商標登録の出願をし…登録を受けた。なお,上記商標登録に必要な費用は,原告Bが拠出した」。


(4)原告Aによる被告に対する警告等
ア「原告Aは…被告と電話で会話した際,本件覚書〔1〕を締結したのは原告Bであり,原告店舗の名義は原告Aになっているから,その効力は及ばない旨を述べるなどして,被告に対し,原告店舗の屋号を使用しないように求めた。その際,原告Aは…被告に対し,「力ずくで武力行使するぞ。」などと発言した」。
イ「原告Aは…被告が「元祖N家」という商号を使用することは,原告Aの商標権の侵害となり,不競法にも違反することとなるため,上記商号を用いてラーメン店の営業を開始しないよう警告する旨,及び,これに応じない場合には法的措置を取る旨,などを記載した警告書…を,その代理人(弁護士)を通じて被告に送付した」。
 

Ⅱ.原告Aの被告に対する商標法36条1項及び2項に基づく請求について(第1事件)
1.原告Aによる本件商標の使用許諾の有無
(1)「被告は,原告Bが被告に対して「元祖ラーメンN家」という屋号の使用の許諾(本件許諾)をし…原告Aは,本件許諾の効力が及ぶのを免れるという不当な目的の下,原告Bと通謀して,自己の名義で本件商標の登録を受けているから,原告Bと原告Aは同視されるべきで…原告Bによる本件許諾は,原告Aによる本件商標の使用許諾と同視されるべき」と主張したのに対し、裁判所は以下のように認定し判断し「被告の主張を採用」できないと判断しました。

 

(2)ア)「原告Bは,被告に対し,店の名前を使っていい旨を告げているところ,その当時原告Bが経営していたラーメン店は原告店舗のみであったことからすると,原告Bの上記発言は,被告に対し,原告店舗において原告Bが現に使用している「元祖ラーメンN家」という屋号の使用を許諾したものと捉えるのが自然で」、「原告Bによる本件許諾があった」。
 

 イ)「本件覚書〔1〕には「元祖ラーメンN家」ではなく「元祖N家」と記載されている」が、「両者は「ラーメン」という文字の有無に違いがあるにすぎない上,原告B及び被告が,本件覚書〔1〕を作成するに当たり,「元祖N家」と「元祖ラーメンN家」を意識的に区別していた」と認められず、本件覚書〔1〕は上記(1)の「意味に捉えることができる原告Bの発言を受けた被告が,その存在及び内容を明確にするためにその文面を考案したもので…本件覚書〔2〕の記載内容及びその作成経緯からすると,原告B及び被告は,原告店舗が現に使用している屋号は「元祖N家」であると認識していたことがうかがわれ」、「これらの事情を踏まえると,原告B及び被告は,本件覚書〔1〕を作成する際,原告Bが原告店舗において現に使用している屋号を示すものとして「元祖N家」という表示を用いたことが認められるというべきである」。
 

 ウ)「原告Aは,原告店舗の至近距離において被告がラーメン店を営業することを原告Bは許容していたものではなく,当然合理的な距離を空けることを予定していたと主張する」が、「原告Bは,被告に対し,原告店舗の近くにラーメン店を出すことを勧める趣旨の発言をして」おり,「本件覚書〔1〕には…距離について何らかの制限を設ける旨の記載はない」ため,「原告Bと被告の間で,その旨の会話がされたこともうかがわれない」。「原告Bは,元々勤務していた移転前の元祖N屋から見て,道路を挟んだ斜め向かい側,直線距離で約34メートルの位置に原告店舗を開業し…原告店舗の開業に携わった被告は当然このことを知って」おり、「これらの事情を踏まえると,原告Bの内心は別として,外部に表示された当事者の意思を合理的に解釈すれば,原告Bと被告の間において,移転前の元祖N屋よりも原告店舗から離れている…位置において,被告店舗が開業することは十分に想定されていた」。仮に「原告Bの動機の錯誤…と捉え」ても「合理的な距離を空けるのであれば営業を許容するという原告Bの動機が明示的に表示されていたとは認められず…黙示に表示されていたことを根拠付ける事実を認め」られない
 

 エ)「原告Aは,被告は本件許諾に付随して原告Bの信用を失墜せしめないという信義則上の義務を負っていた」が、「覚せい剤取締法違反で逮捕されて有罪判決を受けるなどして上記信義則上の義務に違反した」とし,原告Bは債務不履行に基づいて本件許諾を解除した,と主張するが、「被告が原告Bの信用を失墜させない義務を負うことを明示的に約したことを認め」られない。また「原告Bが,被告に対し,その経営する原告店舗の屋号の使用を許諾している」ため「道義的・抽象的には被告は当該屋号の価値を失墜させないように努力することが求められると」しても,「本件許諾に至る経緯及びその内容から,当該義務に違反した場合には債務不履行となり解除権が生じるような具体的な信義則上の義務を被告が原告Bに対して負っていると直ちに解」せない。また,仮に,被告が原告Bに対して上記信義則上の義務を負っており,被告が覚せい剤取締法違反で逮捕されて有罪判決を受けたことによって,一定程度原告店舗やそれを経営する原告Bに対する取引先や客からの信用を失墜させたり,その社会的評価を低下させたりすることがあり得るとしても,そのことから当然に解除権が生じるというべき根拠は見いだせ」ない。

(3)「原告Aは,原告Bと別個独立の法人格であるから,原告Bがした本件許諾をもって,直ちに原告Aによる許諾と同視」できず、「原告Bが本件許諾を行ったのは,原告Aによる本件商標が登録される前で」、「原告Aは,被告に対し,原告店舗の屋号を使用しないように求めるなどしている」ため,「原告Aが事前又は事後に原告Bの本件許諾を承認したとい」えず、「他に原告Bによる本件許諾が,原告Aによる本件商標の使用許諾と同視されるべきことを根拠付ける事情を認め」られない。
 

2.信義則違反又は権利濫用の成否
(1)「原告Bが原告店舗を立ち上げ,その営業をしているにもかかわらず,原告Aがその名義で本件商標の登録を出願して本件商標権を取得して」おり、「原告Aは,〔1〕原告Bと共同して原告店舗を経営しており,〔2〕原告Bには本件商標の登録を出願する時間的余裕がなかったため,原告Aが出願したにすぎないと主張し,これに沿う原告A及び原告Bの各供述並びに両者作成の確認書…があるが,裁判所は、以下の理由で採用できないと判断しました。


(2)原告Aと原告Bの共同経営関係の有無について

 裁判所は以下の事情を踏まえ、「原告Aは原告会社の取締役として登記されているものの,原告Aが原告Bと共同して原告店舗を経営しているという実態がなかったことは明らか」と判断しました。 
 すなわち「原告A及び原告Bが供述するところの原告Aが原告店舗の共同経営者として行った業務とは,原告Bが原告店舗を立ち上げるに当たり,資金の借入先,飲食物の仕入れ先,建築業者及び看板業者等の紹介又はこれらに関するアドバイスをしたこと,原告店舗の従業員に対し,その服装等について指導したこと,客との間の釣銭をめぐるトラブルに対応したことなどであるが,これらは一従業員でもなし得る業務にすぎ」ず「経営者として原告店舗の経営方針や業務執行に関する意思決定に関与したものと評価」できない。また,原告A及び原告B作成の確認書…には,両者が原告店舗を共同で経営している事実を確認する旨などが記載されているが…被告との間で原告店舗の屋号の使用をめぐるトラブルが生じた後に,原告Bと原告Aによって作成され…,両者が原告店舗の共同経営者の関係にあることを客観的に裏付けるものとい」えない。他に「原告Aが原告店舗の経営者たる実態を有していたことを根拠付ける事実を認め」られない。
 かえって「原告Aは,原告Bが原告店舗を立ち上げた当時,株式会社H商会に勤務し,主として同社の業務に従事し」,その後も「原告店舗の製麺所で働きつつ,同社の業務に従事し」、「原告Aが原告店舗又は原告会社の設立の際に出資しておらず,原告会社の株式を所有」せず,「原告Aは原告会社から原告店舗の製麺所における業務に対する給与の支払は受けているが,取締役としての報酬の支払は受けて」おらず,「原告Aが原告店舗又は原告会社の経理には一切関与していないこと」が認められる。
 

(3)原告Bによる出願の可否について

 原告Bが原告店舗を立ち上げ,その営業をしているにもかかわらず,原告Aがその名義で本件商標の登録を出願して本件商標権を取得している点に関し、原告Aは「原告Bと共同して原告店舗を経営し」、「原告Bには本件商標の登録を出願する時間的余裕がなかったため」、原告Aが出願したにすぎないと主張した。これに対し、裁判所は、「原告A及び原告Bは,商標登録の重要性を認識し」、「原告店舗の開業準備をしていた平成21年9月ころから商標登録について話し合っていた」というが、「原告Bが原告店舗を開業する同年12月12日までの間に,原告Bが本件商標を登録するのが自然であり,これが不可能であったことをうかがわせる客観的資料は見当たらない」などとし、「原告Bが、本件店舗の開業後、自らの名義で本件商標の登録をすることは客観的に可能であった」などとし、各主張は採用できないと判断しました。


(4)「原告Aが本件商標の登録をすべき合理的な理由が存した」といえず、

「原告Bは,平成22年1月初めころ,被告が原告店舗の近くにラーメン店を出そうとしていることを知ったこと」,

「原告Aは,同月初旬から中旬ころ,原告Bと被告の間で本件各覚書が取り交わされたこと及びそのことを原告Bが後悔していることを知り,それから1か月も経たない同月21日に本件商標の登録の出願を行っていること」,

「原告Aは,本件商標の登録出願後,被告に対し,原告店舗の名義は原告Aになっているため,原告Bが締結した本件覚書〔1〕の効力は及ばない旨を述べるなど」し、

「「元祖N家」という商号を使用しないように求めていること」,

「本件商標の登録に係る費用は原告Bが拠出していること」などの事情を踏まえると,「原告A及び原告Bは,原告Bと被告の間で本件覚書〔1〕が作成されていることから,原告Bの名義で本件商標を登録すると,被告に対して商標権に基づく請求をすることができないが,原告Aの名義で本件商標を登録すれば,原告Bがした本件許諾の効力は原告Aには及ばないとして,被告に対し,商標権に基づき,被告が原告店舗の近くにおいて原告店舗の屋号を用いたラーメン店を開業することを阻止することができると考え,その意思を通じ,専ら上記目的のために原告Aの名義で本件商標の登録をしたことを推認することができる。
 

(5)裁判所は、以上のように、「被告に対して原告店舗の屋号を使用して,原告店舗の近くでラーメン店を開業することを許諾しておきながら,原告Aと意思を通じ,形式的に原告Aの名義で本件商標の登録をさせることにより,被告による被告店舗の開業を阻止しようとしている」とし、「このような原告Bの行為は,本件許諾により被告に生じた原告店舗の屋号の使用等に係る信頼を不当な方法で裏切るものであって,信義則に反する」と認めました。そして「原告Aは,原告Bと意思を通じて…不当な目的の下に本件商標権を取得しているから,被告に対してその権利を行使することは,権利の濫用に当た」ると判断し、「原告Aの商標法36条1項及び2項に基づく請求は理由がない」と結論付けました。


Ⅲ.原告A及び原告Bの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第1事件)
1.不法行為の成否
(1)原告Bの請求について
 「被告は,被告標章を用いて被告店舗を営業するなどしているが…原告Bから本件許諾を受けており,その解除は認められないことからすると,被告の上記行為が,原告Bに対する不法行為を構成するということはできない」。
(2)原告Aの請求について
 「被告が本件商標と酷似する被告標章を用いて被告店舗を営業する行為は,形式的には,原告Aの本件商標権を侵害する行為に当たるといえる」が、「原告Aは,原告Bと意思を通じ,形式的に名義人を原告Aとすることにより原告Bの被告に対する本件許諾の効力が本件商標に及ぶことを免れさせ,被告による被告店舗の開業を阻止するという不当な目的の下,自己の名義で本件商標の登録を出願して本件商標権を取得している」ため、「実質的にみて,原告Aの本件商標権を違法に侵害」せず「不法行為を構成しない」。


(3)裁判所は、以上により、原告A及び原告Bの各不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しました。


Ⅳ.原告会社の被告に対する不競法3条1項及び2項に基づく請求について(第2事件)
1.信義則違反又は権利濫用の成否
 「原告会社は,原告Bにより設立され,その実質的な経営は原告Bが行って」おり、「原告店舗の実質的な経営主体に変更はないにもかかわらず,原告会社が,原告Bとは別個独立の法人格であることを利用して,被告に対し,不競法違反を主張して本件商標の使用の差止め等を請求することは」、「原告Bが被告に対してした本件許諾と実質的に矛盾する行為であり,本件許諾により被告に生じた信頼を不当に裏切るものであるから,信義則に反して許されない。

 裁判所は、以上により、原告会社の不競法3条1項及び2項に基づく請求は理由がない」としました。


Ⅴ.被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第3事件)
1.不法行為の成否
(1)「原告Aは,電話で被告と会話した際,被告に対し,「力ずくで武力行使するぞ。」などと発言し,声を荒げることもあったことが認められる」が、「記発言を受けた被告が,その意味内容を確認しようとしたり,自己の立場や言い分を述べるなどしていることが認められ,原告Aの言動によって畏怖しているとはいえない」など踏まえ、「原告Aの上記言動が,被告に対する不法行為を構成するほどに違法なもの」とはいえない。

(2)判断基準

 「訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)」。
(3)本件に関する判断

 「原告A及び原告Bの各請求はいずれも理由がな」く、「原告Bは原告店舗を経営しており,原告Aは本件商標権を取得して」おり,「被告は,原告店舗と同じ屋号を用い,かつ,本件商標と酷似する被告標章を掲げて被告店舗を営業している上」「被告は平成22年6月4日に覚せい剤の自己使用の事実で逮捕され有罪判決を受けたことが認められることからすると,原告A及び原告Bの主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くとまではいえず,本件訴訟(第1事件)の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと」はいえない。「原告A及び原告Bによる本件訴訟(第1事件)の提起が,被告に対する不法行為」とはいえない。
(4)裁判所は、以上により「被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求は」理由がないとしました。

 

■結論

 裁判所は、「原告らの請求及び被告の請求は,いずれも理由がないから,これらをすべて棄却する」と判断しました。

 

■BLM感想等

 本件は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例と思ったのですが、元従業員との紛争事例、使用許諾事例といえそうです。

 まず、昭和56年3月20日から,元祖N屋という屋号のラーメン店(以下「元祖N屋」)というのがあったわけです、そこに勤務していた元従業員(15名程度)が、経営者との経営方針に関する見解の相違等を理由に元祖N屋を退職しています。

 フランチャイズ契約等まったく交わされていないようですが、元祖N屋の元従業員ということで、サービスの提供肯定やラーメン作りのノウハウ等は受け継いでいるのかもしれません。「元祖N屋」と同一又は類似の表示に基づきラーメン店を営む場合、「元祖N屋」の味と相当異なるか又は美味しくない場合、生き残れない又は偽物とも言われかねません。この点そのような話はないようなので、味の点で顧客の不満が噴出しているケースではないようです。

 原告Bは退職者のうち数名(被告含む)の協力の下で、原告店舗の営業を開始しましたが、平成22年5月移転前の元祖N屋から道路を挟んで斜め向かい側の位置に店舗を建てたのです。法律上問題は特にないようですが…。

 しかも、原告Bは「元祖ラーメンN家」という屋号のラーメン店を開業しています。「屋」と「家」の違いがあるわけです。よくよく見ないと気が付きません。元祖N屋が、不正競争防止法2条1項1号に基づき、元祖ラーメンN家を訴えれば、元祖N屋の表示の周知性が認められ、類似及び出所の混同がが認められれば差止等認められたでしょう。しかしかかる請求はなく、本件裁判所も、元祖N屋と、元祖ラーメンN家とは別物と位置づけ、それを前提に、裁判所の検討が進んでいるようです。

 そうすると、元祖ラーメンN家から話がはじまるわけですが、同店舗の経営者たる原告Bが、原告の元従業員たる被告に対し「店の名前を使っていいから,近くにラーメン店を出して自分で経営すればいい旨の発言をした」とのことで、裁判所はこれが使用許諾であったと判断しています。すなわち「その当時原告Bが経営していたラーメン店は原告店舗のみであったことからすると,原告Bの上記発言は,被告に対し,原告店舗において原告Bが現に使用している「元祖ラーメンN家」という屋号の使用を許諾したものと捉えるのが自然で」、「原告Bによる本件許諾があった」と認められています。

 サービスの提供肯定やラーメン作りのノウハウ等の許諾はないので、商標・その他の表示の使用許諾ということになりますが、同じ店で働いていた関係はあり、需要者の期待(信用)を裏切らない品質の提供が市場で必要と考えます。

 被告は、被告店舗を、原告Bの店舗の極めて近くに構えましたが、裁判所は、そのようなことは事前に想定できたはずだとしています。さらに「被告が覚せい剤取締法違反で逮捕されて有罪判決を受け」ていますが、裁判所は「一定程度原告店舗やそれを経営する原告Bに対する取引先や客からの信用を失墜させたり,その社会的評価を低下させたりすることがあり得るとしても,そのことから当然に解除権が生じるというべき根拠は見いだせ」ないとしています。したがって、これらのことがラーメンに使用する「元祖ラーメンN家」の表示の品質・質保証機能を害したことにはならないと判断されたのでしょう。

 なお、裁判所は、さらに、まどろっこしい判断をしています。まず「原告Aは,原告Bと別個独立の法人格であるから,原告Bがした本件許諾をもって,直ちに原告Aによる許諾と同視」できず、「原告Bが本件許諾を行ったのは,原告Aによる本件商標が登録される前で」、「原告Aは,被告に対し,原告店舗の屋号を使用しないように求めるなどしている」ため,「原告Aが事前又は事後に原告Bの本件許諾を承認したとい」えず、「他に原告Bによる本件許諾が,原告Aによる本件商標の使用許諾と同視されるべきことを根拠付ける事情を認め」られない。

 上記のうえで「被告に対して原告店舗の屋号を使用して,原告店舗の近くでラーメン店を開業することを許諾しておきながら,原告Aと意思を通じ,形式的に原告Aの名義で本件商標の登録をさせることにより,被告による被告店舗の開業を阻止しようとしている」とし、「このような原告Bの行為は,本件許諾により被告に生じた原告店舗の屋号の使用等に係る信頼を不当な方法で裏切るものであって,信義則に反」し、権利の濫用などと判断しています。

 今度は、原告らの行為が不法行為なのではないかとの被告の主張がなされましたが、原告らがそのような行為に至ったのも、解らないではない、と裁判所の心証を形成したのでしょうか…解りませんが、被告の主張もみとめられませんでした。

 

By BLM

 

 

 

 

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