不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その64

 本日は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25109118)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平27・12・22〔ゴーゴーカレー事件〕平成26(ワ)26819

原告 株式会社ゴーゴーカレーグループ
被告 A
被告 B
被告 C

 

■事案の概要等 

 本件は、原告は、本件各商標※の商標権者から本件各商標の独占的通常使用権の許諾を受けて使用しているところ、被告Aとの間において平成23年12月27日付けライセンス契約(以下「本件契約」)を、また、被告B及び同Cとの間において同日付け連帯保証契約(以下「本件各連帯保証契約」という。)をそれぞれ締結した。被告Aは,本件契約に基づき,ゴーゴーカレー大宮東口スタジアム(以下「本件店舗」という。)において,本件各商標を使用してカレー店の営業を行っていた。本件は,原告が,被告Aにおいて本件契約が定めるロイヤリティの支払を複数回にわたり懈怠したため,被告Aの債務不履行を理由に本件契約を解除したにもかかわらず,被告Aにおいて本件契約の解除後も本件各商標の使用及び本件店舗におけるカレー店の営業を継続したことが,本件契約の定める競業避止義務及び商標等取扱義務に違反し,また,商標権侵害(不法行為)及び不正競争(不正競争防止法2条1条1号)に当たると主張して,被告らに対し,次のとおりの連帯支払を求める事案です。

 

(※ブログ筆者注:「ゴーゴーカレー」の文字を多少デザイン化(登録第4912303号)、「ゴーゴーカレー」(登録第4963204号)「GO!GO!CURRY!」の文字と図形を主とする商標(登録第5534932号) 「GO GO CURRY」(登録第5658947号))(但し、2024年5月3日時点では、登録第5534932号は株式会社ゴーゴーカレーグループが権利者)


前提事実(当事者間に争いのない事実・証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
 「原告は,飲食店業,カレーの製造・加工販売,飲食店のフランチャイズ本部の運営等を目的とする株式会社(平成15年12月設立,資本金5500万円)」。「原告は,本件各商標権を有している有限会社みやぢ(代表者は原告代表者と同一である。)から本件各商標の独占的通常使用権の許諾を受けている。本件各商標は,原告の営業表示として消費者の間で広く認識されている」。
 「被告Aは,被告のフランチャイジーとして,平成24年2月から本件店舗で本件各商標を使用してカレー店の営業をしていた者で、「被告B及び被告Cは,いずれも,被告Aが原告に対して負担する債務につき,原告に対し,連帯保証した者」。
(2)本件契約等の締結及び営業の開始(一部筆者にて省略)
ア「原告は,平成23年12月27日,被告Aとの間において本件契約を締結し」「被告Aが本件店舗…において,原告のライセンシーとして,カレー店の営業を行うことを許諾した。なお,本件契約には,次の内容の条項が定められている。
 (ア)原告は,被告Aに対し,被告Aが原告の指定する商品を販売するために,本件店舗において,原告の商標・サービスマーク・その他の標章を使用することができる。(3条1項)
 (イ)被告Aは,原告に対し,本件店舗の総売上に5.5%を乗じた金額に,消費税を加算した金額をロイヤリティとして支払う。ロイヤリティの算定期間は…(省略)…(5条1項,2項,別紙1)
 (ウ)被告Aは,原告に対し,業務連絡,通達及び管理業務(売上管理,発注仕入管理,勤怠管理)に用いるシステムの使用料として…(省略)…(6条)
 (エ)原告は,被告Aに対し,原告指定の商品を継続的に販売し,被告Aはこれを購入する。被告Aは,暦月の1日から末日までに原告が納品した商品の代金を…(省略)…支払う。(7条1項,2項)
 (オ)被告Aは,本件契約終了後に原告の商標等を使用してはならない。(19条4項)
 (カ)「乙(判決注:被告A)が本条(判決注:19条)の定めに反した場合は,乙は,通常のロイヤリティとは別に少なくても違約金として…(省略)…」(19条5項。以下「本件違約金条項1」という。)
 (キ)
「乙(判決注:被告A)(中略)は,本契約中並びに本契約終了後5年間は,甲(判決注:原告)の書面による承諾がない限り,甲と競合する事業に,経営,出資,従事等により関与してはならない。なお,乙が本条の定めに反した場合は,乙は,違約金として少なくてもロイヤリティの24ヶ月相当額を甲に対して支払うものとする。当該違約金は,これを上回る甲から乙への損害賠償及び本条以外に定められた違約金の請求を妨げるものではない。」(20条。以下,上記第2文及び第3文の定めを「本件違約金条項2」といい,本件違約金条項1と併せて「本件各違約金条項」という。)
 (ク)被告Aが次の各号の一つに該当するときには,原告は催告を要せず直ちに本件契約を解除することができる。(27条1項)(8)号 本件契約に基づく金員の支払を怠ったときその他本件契約及びこれに付随する契約の各条項に違反したとき
 (ケ)被告Aは,本件契約及びこれに付随する契約により負担する債務の支払を期日までに履行しなかったときには,その遅延分につき年利12.5%の割合の遅延損害金を原告に支払うものとする。(30条)
イ …(省略)…被告B及び同Cがそれぞれ連帯して保証する旨の本件各連帯保証契約を締結した。
ウ 被告Aは,本件契約に基づき,平成24年2月15日から本件店舗において「ゴーゴーカレー」の店舗として本件各商標を使用してカレー店の営業を開始し,原告は,本件契約に基づき,被告Aに対し,システムの提供,指定商品の販売及び販促活動等を行った。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

1 認定事実
 裁判所は、以下の事実を認定し、判断しました。
(1)本件説明会
 「被告Aは,原告を取上げたテレビ番組を見て原告に興味を持ち,平成23年9月15日,原告が原告の運営するフランチャイズシステムへの加盟希望者向けに実施した説明会…に被告Bと共に参加した。同説明会では,原告の関係者3名が説明を行ったが,フランチャイズシステムに関する説明は,このうち,原告から説明業務を委託された会社の従業員であるD…が担当」。「本件説明会において,原告は,参加者に対し,乙1と同一又はほぼ同一の資料を配布し,これをスライドに投影しながら,原告のフランチャイズシステムや店舗経営における売上や経費等についての説明を行った。本件説明会の終了後,被告AはDに対し,加盟から開店までの期間や開業資金の調達方法等について質問するなどした」。
(2)本件説明会後から本件契約締結までのやり取り
 「被告Aは,平成23年10月子ろ,原告に対し,原告の運営するフランチャイズシステムに加盟する意思を伝え」、「被告Aが,これ以降,本件契約を締結するまでの間にDに送信した電子メールには次のとおりの記載がある」。

 (…省略…)
(3)本件契約の締結及び営業の開始
ア「原告は,平茂23年12月27日,被告Aとの間において本件契約を締結し…被告Aが本件店舗…において,原告のライセンシーとして,本件各商標を使用してカレー店の営業を行うことを許諾した」。
イ「被告Aは,本件契約に基づき,平成24年2月15日から本件店舗において「ゴーゴーカレー」の店舗としてカレー店の営業を開始し,原告は,本件契約に基づき,被告Aに対し,システムの提供,指定商品の販売及び販促活動等を行った。
(4)未払ロイヤリティ等
 「被告Aは,本件契約に基づく平成26年1月分以降のロイヤリティ,商品代金及びシステム使用料等につき…その全部又は一部を支払っていない」。

(…金額省略…)
 「原告は,被告らに対して,同年4月2日付け内容証明郵便を送付して,再度,同年1月分ないし3月分のロイヤリティ等の未払分を同年4月10日までに支払うよう催告し,同書面は,同月3日,被告A及び同Bに到達した。被告Aは,同月21日,原告に対し,同年1月分ないし3月分のロイヤリティ等の一部である50万円を支払った」。
(5)本件契約の解除
「原告は,平成26年4月23日、被告らに対して,同年1月分から3月分までのロイヤリティ,商品代金及びシステム使用料等合計409万0608円の不払を理由に本件契約を解除する旨の書面を送付し,同書面は,同月24日,被告A及び同Bに到達した(本件解除)。


2 争点1(本件解除の有効性)について
 裁判所は、以下のように認定、判断しました。

 「被告は,本件契約が継続的契約であることから,その解除には契約関係の継続を困難ならしめる事由が必要であると主張するが,被告の主張を前提としても,ロイヤリティ等の支払義務が本件契約における重要な義務であること,被告Aの不払(一部不払も含む。)が3か月間にわたり,不払額の総額も400万円超(ただし,保証金充当前の金額)と多額であること,被告Aが原告の再三の支払催告に応じなかったばかりか,本件解除前には具体的な資金繰りの見込みを示すことさえしなかったこと(被告A本人)に照らせば,被告Aによるロイヤリティ等の不払が,本件契約の継続を困難ならしめる事情に当たることは明らかである」。
 「被告らは,被告Aのロイヤリティ等の不払の理由について,原告側の対応に問題があったため,その改善を促す目的でやむなく支払を停止したなどと主張するが,被告Aが,本件解除に至るまでの間,原告に対し,そうした主張を一切していなかったばかりか,かえって「本日,2013年12月分のゴーゴーシステム様宛の支払いの期限かと思うのですが,こちらの都合でもうしわけありませんが,資金の調達などの関係で,2014年1月25日までに振込みさせてもらいます。こちらの都合で申し訳ありませんが,よろしくお願いいたします。」…(省略)…「今月末日までにはお支払できる予定ですので,もうしばらくお待ちください。」(甲7の1)などと,資金繰りが付かないことを理由に,再三にわたってロイヤリティ等の支払の延期を求めていたことに照らせば,上記主張は到底採用することができない」。
 「したがって,本件解除は有効である。それにもかかわらず,被告Aは,本件契約の解除後も,本件各商標の使用及び本件店舗におけるカレー店の営業を,仮処分決定に基づく保全執行が実施されるまで4か月間以上も継続し」、「被告Aには,本件契約上の義務違反(競業避止義務違反,商標等取扱義務違反),本件各商標権の侵害及び不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争の成立(本件各商標の周知性には争いがない。また,被告Aが本件各商標を本件店舗において使用したことにより,原告の営業との混同のおそれも認められる。)がそれぞれ認められる」。


3 争点2(原告の損害額)について
 裁判所は、「原告は、本件店舗における1か月当たりの利益について、393万0152円(平茂26年3月の売上)から150万2536円(同月の原材料費(税込))を控除した242万7616円であると主張するところ」、「原告の上記主張に沿う事実が認められる一方、本件店舗における利益額がこれを上回る、又は下回ると認めるに足りる証拠はない」ため、「本件店舗における利益の額は原告の主張どおりと認めるのが相当である」とし、「被告Aは、本件契約の解除後に本件各商標と同一の商標を使用して本件店舗の営業を継続したことによって、本件解除の翌日である平成26年4月25日から同年8月26日までの124日間,上記利益を受けているから,これが原告(本件各商標の独占的通常使用権者)の損害額と推定されるところ(商標法38条2項類推,不正競争防止法5条2項),同推定を覆す事情を認めるに足る証拠は見当たらないから,原告の損害額は合計971万0463円(計算式は242万7616円÷31日×124日)と認めるのが相当である。


4 争点3(本件各違約金条項の法的性質)について
 裁判所は「違約金は損害賠償額の予定と推定されるところ(民法420条3項),本件各違約金条項について,同推定を覆すに足る事情は見当たらない。かえって,本件各違約金条項が,いずれも違約金の額を「少なくても」ロイヤリティの24か月分とし,これを超える額の違約金が発生する場合があり得ることを前提としていることに照らせば,本件各違約金条項は損害の有無にかかわらず直近のロイヤリティの24か月分を損害賠償額と定めた損害賠償額の予定(ただし,これを上回る損害が生じた場合にはその額を基準として損害賠償の請求をすることができる。)を定める旨の条項と理解するのが自然であり,本件違約金条項2が,違約金「を上回る」損害賠償の請求を妨げない旨を定めていることも同解釈を裏付ける事情といえる」と判断しました。
 そして、「これに対し,原告は,本件各違約金条項がいずれも違約罰の定めである旨主張するが,原告の主張によれば,違約金は確定額となるべきところ,本件各違約金条項において,違約金が確定額とされていないことは前記のとおりであること等に鑑みると,原告の主張は採用することができない」とし、「本件各違約金条項は,いずれも損害の有無及び額と関係なくロイヤリティの24か月分を請求することができる(ただし,同額を上回る損害が生じた場合には同額の損害賠償請求が可能である。)ことを内容とする損害賠償額の予定であると認めるのが相当である。そして,本件解除がされた日の直近月である平成26年3月分のロイヤリティ額は21万6158円であるから(当事者間に争いがない。),本件各違約金条項の定める各違約金の最低額はその24か月分である518万7792円となり(本件違約金条項2も本件違約金条項1と同額であると解すべきである。),各違約金の最低額を合計すると1037万5584円となって,上記3で認定した原告の実際の損害額の合計である971万0463円を上回るから,原告は被告らに対し,1037万5584円を請求できることとなる」と判断しました。

5 争点4(相殺の成否)について
 …省略…

 

■結論

 裁判所は、「被告Aは、原告に対し、被告B及び被告Cと連帯して、1037万5584円及びこれに対する平成26年11月5日から支払済みまで年1割2分5厘の割合による金員を支払え」とする旨(被告B及びCも同額の範囲で連帯しての支払いが命じられている)等と判断しました。

 

■BLM感想等

 本件は、前回、前々回とフランチャイズ契約に関してい関係解消事例を見ています。 本件は、原告が、被告Aにおいて本件契約が定めるロイヤリティの支払を複数回にわたり懈怠したため、被告Aの債務不履行を理由に本件契約を解除したことを前提に、被告Aが、本件契約の解除後も本件各商標の使用及び本件店舗におけるカレー店の営業を継続したため、裁判所は「被告Aには,本件契約上の義務違反(競業避止義務違反,商標等取扱義務違反),本件各商標権の侵害及び不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争の成立(本件各商標の周知性には争いがない。また,被告Aが本件各商標を本件店舗において使用したことにより,原告の営業との混同のおそれも認められる。)がそれぞれ認められる」と判断しています。なるほど契約終了後は、全く赤の他人ということで、競業避止義務違反というものも課すことができるというわけですね。

 BLMはこのところ、関係解消事例というものを調べていますが、フランチャイズ契約の契約終了後の元当事者というのは、契約で5年間の競業避止義務を課した場合、5年間はこれに拘束するわけなので、5年間の中で元フランチャイジーが商標・その他の表示を使用した場合は、関係解消事例ということになるかもしれません。換言すれば、その5年間は、フランチャイズ契約の関係が継続しているともいえるのでしょうか。または、フランチャイズ契約の終了後は、全くの赤の他人で、関係解消も何もない、ということになるかもしれません。いずれにしても主従の関係は明確なので、紛争処理は粛々と契約通りに進める、ということで、論点になることは少ないのかもしれません。あとは個別に、例えば本件ですと違約金の法的性質といったものがそれぞれ裁判例が蓄積され、規範をつくっていくのでしょうかね。

 

By BLM

 

 

 

 

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