不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その63

 本日は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25109118)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  高松地判平8・10・22〔駄菓子販売店フランチャイズ事件〕平6(ワ)512、平7(ワ)48

原告・株式会社夢や
被告・株式会社ハマナカ

 

■事案の概要等 

 本件は、被告との間で駄菓子販売店の本件フランチャイズ契約を締結した原告が、本件契約を合意解除した後に、本件契約に基づき原告が被告に開示した駄菓子販売に関する営業秘密たる本件情報を利用して駄菓子販売店を経営することは、不正競争に該当するとして、被告に対し、本件各店舗における駄菓子販売業務の差止等求めるとともに、本件契約に基づき被告に納品した商品の売買代金等の支払を求める本訴を提起したのに対し、被告が原告に対し、本件契約の締結に際して原告が虚偽の説明をしたとして、原告の不法行為による損害賠償請求権を自動債権とする相殺の抗弁をし、被告が原告に支払った加盟金から、抗弁の相殺額を控除した残金の損害賠償を求める反訴を提起した事案で、本件契約締結に当たり、原告の代表者が虚偽の説明をした事実を認めるに足りる証拠はない等、被告の相殺の抗弁には理由がないが、原告から開示を受けた営業秘密の被告による使用は、本件全証拠によるも、これを認めることはできない等として、原告の本訴請求の一部を認容し、被告の反訴請求を棄却した事例です。


◆争いのない事実

(1)原告と被告は、ⅰ)「被告所有の店舗において、原告が指定する商品を販売するため、「だがし夢や」の名称を用いて営業する権利を与え」、ⅱ)「被告は、原告が指定する商品を、原告からのみ買い受け、原告は、これを被告に売り渡」し、ⅲ)被告は、所定の方法等により、原告に売買代金、加盟金、ロイヤリティ等を支払う等を内容とする被告との問でフランチャイズ契約を締結しました。同契約には、このほか、原告又は被告が本契約に違反した場合、相手方は、催告を要せずして、本契約を解除できる旨、本契約が終了した場合、被告は、原告に対する本契約上の債務を所定の内容で支払う旨、本契約が終了した場合、被告は、原告の商標、商号、マーク等の使用をしてはならず、従来被告の営業のために標示していたこれらの標示物件を即時に撤去する等についても規定されていました。原告は、被告に対し、本件契約に基づき、平成6年5月31日までの問に、代金、運賃及び消費税合計954万8426円の商品及び副資材を売り渡しました。
(2)その後、被告は「だがし静や」の名称で駄菓子の販売を行っています。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

Ⅰ.売買代金、ロイヤリティ等の支払請求について
裁判所は、争いのない事実によれば、「被告が、原告に対し、本件契約に基づき支払うべき売買代金あ、運賃及び消費税は合計954万8426円である旨認め、そのほか、被告が、原告に対し本件契約に基づき支払うロイヤリティ金額を示しました。

 その上で、被告の求めた相殺の抗弁に対し以下のように認定し、判断しました。

 

(1)不法行為による損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁

 「抗弁2の事実のうち、原告代表者が、本件契約の締結及び被告によるフランチャイズ加盟金の支払に先立ち、被告に対し、「絶対にもうかる。」と述べた事実は、これを認めるに足りる証拠がなく、20坪の標準店で月商600万円あり、37パーセントの荒利が確保できる旨の表示については、これが標準店に関するものであるうえ、小売り店舗の月商及び荒利が月によって変動するものであることはその性質上明らかであるから、原告代表者が右表示をなしたことが、直ちに不法行為を構成するものとはいい難い」。「また、証拠(甲一二、原告代表者)によれば、各県一店舗の割合で出店するのは、大都市圏以外であることが被告に知らされていたことが窺われる。抗弁2のうち、被告が、原告代表者が述べたと主張するその余の各事実については、本件契約締結に当たり、原告代表者がこれらの事実を述べたとしても、そのことが直ちに不法行為を構成する性質のものでない」。「そうすると、その余の点について検討するまでもなく、不法行為による損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁は理由がない」。

 

(2)不当利得返還請求権を自動債権とする相殺の抗弁

 被告は、本件契約が合意解除されたことを理由として、本件契約に基づき被告が原告に支払ったフランチャイズ加盟金について、不当利得返還請求権が生じる旨主張するため、これについて、裁判所は、以下のように認定し、判断しました。

 「本件契約の如き継続的契約については、合意解除の効果は将来に向かってのみ生じるものと解するのが相当であって、仮に被告主張の合意解除がなされたとしても,そのことから直ちにフランチャイズ加盟金について、不当利得返還請求権が発生するものではない」とし、不当利得返還請求権を自動債権とする相殺の抗弁は、主張自体失当であると判断しました。

 

(3)裁判所は、「以上によれば、本件契約に基づき、売買代金、ロイヤリティ等の支払を求める本訴請求は、996万0770円及びこれに対する弁済期後である平成6年6月26日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。」と判断しました。

 

Ⅱ.販売業務差止め及び損害賠償請求について
1.営業秘密の使用について
 裁判所は、「以下のとおり、原告から開示を受けた営業秘密の被告による使用の事実は…これを認め」られないとしました。
(1)「原告が、被告に開示したと主張する情報のうち、店舗の設計、構造、レイアウト…、店舗内の構成及び備品とその配置…については、店舗を訪れた顧客等によって自由に認識できる性質のものであるから、これらが営業秘密」といえない。
(2)「原告が、被告に開示したと主張する情報のうち、駄菓子商品の仕入先リスト…については、かかるリストが原告から被告に開示されたこと及び被告が右リストを使用して別紙店舗目録記載の各店舗において駄菓子の販売を行っていることを認めるに足りる証拠がない」。
(3) 同上「情報のうち、商品分類別売上構成の方法…については、被告がかかる情報を使用して別紙店舗目録記載の各店舗において駄菓子の販売を行っていることを認めるに足りる証拠がない」。
(4) 同上「情報のうち、商品分別とその陳列及び販売方法…については、これらが営業秘密に該当することを認めるに足りる証拠がない」。

(5) 同上「情報のうち、各駄菓子商品の売れ筋情報等の顧客の需要に関する情報…については、如何なる情報が被告に開示されたかについて証拠が全くない。
(6)同上「情報のうち、営業上自己を表示するための吊旗、のれん、タペストリー、包装紙等の表示物…については、これらが営業秘密に該当しないことは、その性質上明らかである」。
(7) 同上「情報のうち、その他の原告指定の商品販売に関する経営ノウハウ…については、主張自体において、特定性を欠いており、失当である」。


2 営業主体の混同について
 裁判所は、「「だがし夢や」と「だがし静や」の各営業表示の類似性は、右各営業表示の要部たる「夢」と「静」を比較することにより判断すべきものであるところ、これらは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても全く異なるものであって類似するものではないから、両営業表示間に混同が生じるとは考え難く、両営業表示が類似するものであり、営業の混同が生じることを前提とする本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない」と判断しました。


(本ブログでは、反訴請求についてについては省略。いずれも理由なし。)

 

■結論

 裁判所は「不正競争防止法に基づく、駄菓子販売業務の差止及び損害賠償の各請求は、いずれも理由がない」と判断しました。

 

■BLM感想等

 本件は、前回、前々回とフランチャイズ契約に関してい関係解消事例を見ています。これまではシンプルバージョンで、一定程度周知な表示や商標権がある登録商標と、そのフランチャイズの内容を結び付けて、使用許諾をなし、契約解除後は、商標・その他の表示の使用の差止が主な争点になるといったものでした。本件は、おそらく、フランチャイズ契約締結後、その契約内容に基づくノウハウ等の提供を受けたフランチャイジーは、契約を締結しなくても、自分でできると判断したのではなかろうかと思います。「儲かると言ったじゃないか」といった趣旨の主張もしていますが、契約を締結し、原告から何らかの提供を受けた以上、それに対する対価を払いなさいと裁判所は判断しています。しかし、契約を解除した後、被告が使用していた表示は「だがし静や」でした。原告のフランチャイズ契約で使用許諾した商標・その他の表示は「だがし夢や」であり、これは周知でもなく、商標権もないという状況であったと思うのですが、その点は争点ではなく、「だがし夢や」と「だがし静や」の各営業表示の類似性が問題となっています。非類似と判断されました。筆者の実務経験からも、原告の商標・その他の表示が周知性を獲得している等の事情がない状況では、これはさすがに非類似だなと思います。

 一方、商標・その他の表示を付す対象たる商品やこれを提供するサービスについては、どうでしょうか?本件はフランチャイズ契約終了後、被告は同種の駄菓子屋を営んでいます。原告は、フランチャイズ契約の下で提供した情報は「営業秘密」と主張しましたが、認められませんでした。

 

By BLM

 

 

 

 

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