不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その53

 本日は、元従業員と会社との関係解消事例を見ていきたいと思います。本件は地裁と高裁の結論がが異なり、基礎となった事実のうち重視した点が異なるように思います。どうして結論が異なったのか、地裁と高裁を2回に分けて、みていきます。

 予めお詫び:本裁判例は、Westlaw Japan(文献番号1982WLJPCA01260001)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  神戸地判昭57・1・26〔フロインドリーブ事件・第一審〕昭55(ワ)1419・判タ 469号254頁

原告 有限会社ジヤーマン・ホーム・ベーカリー(以下、原告会社)(代表者A)

原告 A
被告 神戸フロインドリーブ有限会社

 

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が、被告に対し、「「神戸フロインドリーブ有限会社」の商号の使用の差止、「神戸フロインドリーブ有限会社」の商号のうち「フロインドリーブ」の部分の抹消登記手続、及び、被告の本店及び支店の各店舗に、「フロインドリーブ」及び「FREUNDLIEB」と表示してパン、洋菓子の製造、販売をしてはならない旨、及び、右各店舗、販売するパン及び洋菓子、包装、什器備品、自動車における「フロインドリーブ」及び「FREUNDLIEB」の表示の抹消又はその表示のある包装用紙、シールの廃棄等を求めた事案です。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

1.原告表示の表示主体と周知性等

 裁判所は、争いのない事実及び認定事実に基づき以下のように判断しました。

(1)「原告Aが原告商号、商標の各権利者(筆者コメント:判決文中の登録第749215号は「FREUNDLIEB\フロインドリ-ブ」(J-PlatPat:こちらであること、原告会社が昭和30年1月、パン、洋菓子の製造販売を目的として設立され、原告商号、商標を使用してパン等を販売していることは、いずれも当事者間に争いがなく…総合すれば、原告Aは、先代(原告と同姓同名)が大正13年頃から、原告商号を用いて個人営業してきたパン、洋菓子の製造販売業を引継ぎ、その後昭和30年1月にこれを有限会社組織に改めて原告会社を設立してその代表取締役に就任し、右営業の一切を同会社に承継させるとともに、原告商号、商標の使用についてもこれを許諾したこと、右の如き経緯からして、原告会社の実権はすべて原告Aによつて掌握され、あたかも同原告のワンマン会社の観を呈していること、原告会社の製造販売にかかるパン等は、その製法、味等につきしばしばマスコミに取り上げられるなどして、製パン業界においては、比較的長い伝統と相まつて、原告商号、商標である「フロインドリーブ」の表示は著名である上、少くとも、その主要な営業活動地域である神戸市及びその周辺においても、一般需要者に広く知られた存在であることが認められ」る。

 

(2)被告が昭和44年6月、パン、洋菓子の製造販売を目的として設立され、昭和55年6月以降…被告本店その他において、被告商号を表示してパン等を販売し」、「原告商号、商標と被告商号とを比較すれば、その要部とみられる「フロインドリーブ」において同一であるから、その類似性は顕著であり、しかも、被告会社が神戸市内に本店を置き同一商品の製造販売を行」い、「その商品及び営業上の活動等が原告会社のそれと混同を生ぜしめるおそれがあることは、経験則上明らかである」。

 

2.被告の抗弁(使用許諾ないし権利濫用の主張)
 裁判所は、以下のように認定し、判断しました。

(1)「原告会社は、設立以来その業績が毎年上昇し、生産能力が需要に追いつかない状況となつたため、昭和44年6月、新たに原告商号を付した被告会社を設立し、原告会社の生産設備拡充計画の達成(三年後と予定)までの間、被告会社においてパンの需要分を製造させ、その製品のすべてを原告会社に小売価格の七割の価格で納入(売渡)させることにしたこと」、「被告会社の代表取締役には、原告会社の代表者である原告Aが自ら兼ねてこれに就任し、原告会社をはじめ、その役員であるB、Cらも被告会社に出資してその社員となつたこと」、「その存立期間は四年としたこと」、しかし「被告商号の使用に関しては、定款及び設立目論見書等においても、特に条件、期限等は何ら付されていなかつたこと(以上のうち、被告会社の設立経緯については、当事者間に争いがない。)」
 

(2)「被告会社は、設立当初は他から工場を貸借してパン製造を営んでいたが、昭和46年1月30日の社員総会で、新工場の建設など将来の発展を目して増資を決議し、各社員の要請により、原告AB及びCが均等に増資分を引受けることとし」、「これと同時に、被告会社の存立期間の定めが廃止されたこと」、「新工場は現在の被告本店所在地に建設され、原告会社の従業員もこれに出向し、その製品の大半は原告会社に納入され、事実上、原告会社のいわゆる子会社としての関係が極めて深かつたこと」、しかし「一方では、被告工場の建物、機械諾設備等はすべて被告が所有し、その後増築した同工場二階一部は原告会社に賃貸したり、製品の納入に関しても、原告会社との間で契約により納入数量、価格等が決められていたほか、原材料の調達、人件費、損益等も被告会社自身の出捐と計算においてなされるなど、その資産、経理面では、むしろ原告会社とは別個独立の企業として営業を行つていたこと」。


(3)ところが「昭和五三年七月、被告会社の社員の前記Bが死亡して、その出資持分4500口が前記Cに遺贈されたため、同人が出資総口数1万4500口のうち8750口を所有するに至り、これを契機に、原告AとCとの間に紛争が生じ」、「その結果、同年11月21日の社員総会において、原告Aに代わつて社員のDが代表取締役に、CとEが取締役に各選任されたこと」、そして「被告は原告会社に対し、前記賃貸借契約の解約及び納入価格の引上げ等を申し入れたが、原告会社はこれを拒否したこと」、そこで「被告は、原告Aらが保管していた被告帳簿の執行官保管を求める仮処分(当庁昭和53(ヨ)866事件)を申請し」、「他方、原告会社は、被告が前記賃貸部分の明渡とパン等納入の停止を通告したのに対抗して、前記工場の使用妨害禁止、製造パンの供給継続等を求める仮処分(当庁昭和53(ヨ)854事件)を申請し、いずれもその旨の各仮処分が発せられたこと」、そして、「後者の仮処分異議事件(当庁昭和54(モ)12)において、同年6月4日、原告ら(原告Aは利害関係人として参加)と被告との間で、「被告は昭和55年5月末日まで製造パンをすべて原告会社に納入し、原告らは被告のパン製造に協力すること」、「前記工場一部の賃貸借契約は合意解約し、その明渡期限を同日まで猶予する。」旨の裁判上の和解が成立したこと(以上のうち、出資口数の変化、仮処分、和解の点については当事者間に争いがない。)」。
 

(4)「原告らは昭和55年5月、被告に対し、被告商号中「フロインドリーブ」部分の使用禁示とこれに伴う被告商号の変更を議案とする社員総会の開催を求め…臨時社員総会が開かれたが、商号変更の議案は否決されたこと」、そして「それ以降は、被告がその本店及び支店において、被告商号を表示してパン等の一般販売も行つていること」


(5)以上認定の事実関係から、裁判所は「被告会社は、専ら原告らの発案ないし出資のもとに、自らその代表取締役ないし社員となり、しかも、その商号の採用にあたつても、原告ら自らがこれを付して設立させた会社であるから、被告会社の商号の使用については、原告らにおいて、その設立の当初からいわば原始的にこれを許諾していた」と認定し、「原告らが自ら作成した被告会社の定款ないし設立目論見書によつても、本件の如く、将来、両社間で競業関係が生じる場合を想定して、かかる場合には、被告商号の変更ないしその使用を禁止、制限するなどの条件等は一切これを設けておらず、他に被告との間において、明示ないし黙示の商号使用に関する特約、規約等の存在も認め難い」ため、「原告らのした右商号使用の原始的許諾は、無条件のものとみるほかない」と判断しました。

 そして、裁判所は、もつとも「被告会社を設立した目的が、専ら原告会社の生産を補強する点にあつた」が、「右の目的は、被告会社の設立を発起した原告ら社員がその設立を意図した単なる事実上の動機にすぎない…(有限会社法六条一号により定款に定められたいわゆる会社の「事業目的ではない。)」とし、「設立後、被告会社が本件紛争に至るまでの間、その製品を原告会社に専属的に納入してきたことも、被告会社設立の右動機、経緯、ないし役員共通等の特殊事情があつたがために、事実上、かかる専属的な納入販売が行われてきたにすぎない」から、「原告らがあくまでその専属関係の維持、継続を求めることは、単なる期待の域を出るものではない」といわざるを得ず、「けだし、一旦設立されて独立の法人格を取得した会社が、その後における社会経済状況の変化に対応し、あるいは、会社内部の役員構成の変化、紛争等に伴つて、当初の営業目的やその実質形態が発展的に変わつてゆくことは、企業一般にみられる通常の現象(社会経済的自然現象)であり、しかも、このことは当然予測し得る事柄である」からとしました。

 したがって「若し、原告らにおいて、被告に対し、前示の如き専属関係の維持、継続を望み、かつ、これを条件に商号の使用を許すのであれば、予め(被告会社を設立してこれに法人格を与えた上で)、被告会社との間において、業務提携に関する契約ないしこれに伴う商号使用の制限に関する特約等を締結しておくべきで…このような特約等が存しない限り(この点、被告会社の定款にも、専属的納入を定めた制限規定は存しない。)たとえ、本件の如き競業関係を生じたとしても、これを理由に、設立当初より原始的に使用を許諾してきた商号の差し止めを求めることはできないと解するのが相当である」。「このことは、世上一般にいわれる親子会社とか系列会社などにおける関係が、単に事実上の従属、協力関係を意味するにすぎず、その間に特段の契約(業務提携契約)等がない限り、法律上の関係(法的拘束力)を生ずる余地のないことからも自明の理である」。「まして、本件の場合、原告らは、その後被告との間で成立した前記認定の和解によつても、被告の専属的納入の期限を昭和55年5月末日までとしたのであるから、右期限経過後は、被告が独自に他にも販売できることを実質上容認し、かつ、これに伴い当然必要とされる被告商号の続用についてもこれを再確認したものとみるべきである」と判断しました。

 

(6) 裁判所は「以上説示した次第であって、被告の被告商号の使用は、原告らの承諾(原始的無条件承諾)に基づくものであり、被告に本件競業関係が生じた以後においても、その商号の続用は、少くとも違法性を阻却する」べきとし、「被告商号の続用が許される以上、被告がその店舗や商品等にこれを表示して製造販売を行うことも、当然許容されてしかるべき」…(結局、原告らの主張する本件商号等の差止請求は、要するに、被告会社設立の単なる動機ないし意図に法的効果が付与されることを前提とするものに帰し、到底首肯し難い。)と判断しました。
  また「仮りに、何らかの意味において原告らに被告商号等の使用を差し止める権利があるとしても、被告商号の続用により、原告会社が営業上何らかの損失を被るであろうことは容易に推測できるが、しかし、反面、被告会社が原告会社と競業関係を生ずるに至つた唯一直接の原因は、専ら会社内部の紛争(役員間の勢力争い)に起因するものであり、かかる役員同士の私的紛争の結果、原告Aがこれまで事実上支配してきた被告会社に対する実権を失い、必然的に原告会社とも競業関係になつたからといつて、この一事をもつて、設立以来、自ら原始的に一〇年以上も長期間その使用を許してきた被告商号の剥奪を許容することは、これにより一個の企業としてそれなりの名声と信用を得て社会的にもその存在を認められてきた被告会社に対しその存立、存続自体にかかわる決定的打撃を与えかねないことは必定で、まさに、死を宣するにも等しい痛烈苛酷な報復措置というべく、これら双方の利害得失、その他諸般の事情を比較考量すれば、原告らの本件差止権の行使は、明らかにその濫用にもあたり、到底許されない」と判断しました。

 

■結論

 裁判所は「原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がない」等と判断しました。

 

■BLM感想等

 本件は元従業員と会社との紛争であることに違いはないのですが、地裁と高裁の判断は、認定事実と、その事実に対する評価が異なると考えます。高裁では次の回でみていきますが、地裁については、会社を誰が支配するかという点に着目したものと考えます。すなわち、まず、原告(創業家)と被告(元従業員ら)との関係について、①「原告らが自ら作成した被告会社の定款ないし設立目論見書によつても…将来、両社間で競業関係が生じる場合を想定して…被告商号の変更ないしその使用を禁止、制限するなどの条件等は一切これを設けておらず…明示ないし黙示の商号使用に関する特約、規約等の存在も認め難い」ため、「原告らのした右商号使用の原始的許諾は、無条件のもの」であったと判断しています。そして、裁判所は②「被告会社の設立した目的が、専ら原告会社の清算を補強する点にあった」としても、それは「事実上の動機にすぎない」(定款の事業目的ではない)とし、「設立後、被告会社が本件紛争に至るまでの間、その製品を原告会社に専属的に納入してきたことも、被告会社設立の右動機、経緯、ないし役員共通等の特殊事情があつたがため」なので「原告らがあくまでその専属関係の維持、継続を求めることは、単なる期待の域を出るものではない」し、「一旦設立されて独立の法人格を取得した会社が、その後における社会経済状況の変化に対応し、あるいは、会社内部の役員構成の変化、紛争等に伴つて、当初の営業目的やその実質形態が発展的に変わつてゆくことは、企業一般にみられる通常の現象(社会経済的自然現象)で…当然予測し得る事柄」と判断しています。 ブログ筆者として第一審の判断の趣旨を以下のように理解します。すなわち、本件事案では「被告会社の社員の前記Bが死亡して、その出資持分4500口が前記Cに遺贈されたため、同人が出資総口数1万4500口のうち8750口を所有するに至り、これを契機に、原告AとCとの間に紛争が生じ」たところ、かかる状況では、株主総会(意思決定の場)で、少なくとも普通決議であれば、発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席し、その議決権の過半数の賛成によってモノゴトが決まる等していき、その場合は、原告会社はなんら手出しができなくなるという趣旨なのだと思います。よって、そのような事態は想定できるのだから、事前に、商標の使用許諾の内容を明示しておけばよかったのにしていなかったから、あとで内部で分裂して、会社の支配者が代わったからといって、対外的に10年以上、現在の商号で営業をしていきたのに、ばっさり、商号の使用をやめさせるのはいかがなものか、という趣旨と考えます。

 判決文中かなり厳しい調子で、例えば「専ら会社内部の紛争(役員間の勢力争い)に起因」し、「原告Aがこれまで事実上支配してきた被告会社に対する実権を失い、必然的に原告会社とも競業関係になつたからといつて…設立以来、自ら原始的に一〇年以上も長期間その使用を許してきた被告商号の剥奪を許容することは…一個の企業としてそれなりの名声と信用を得て社会的にもその存在を認められてきた被告会社に対し、その存立、存続自体にかかわる決定的打撃を与えかね」ず、「死を宣するにも等しい痛烈苛酷な報復措置」で、「これら双方の利害得失、その他諸般の事情を比較考量すれば、原告らの本件差止権の行使は、明らかにその濫用にもあた」ると判示しています。

 なるほど、という感じですね。さて、高裁はどう判断したのでしょう?

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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