不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その49
本日も、事業承継(但し厳密には、一部店舗の賃借権、什器備品、商品等の譲受と表示の使用許諾)の事例を見ていこうと思っいます。また、原告の元従業員が絡み紛争となった事例、周知表示主からの使用許諾の事例とも言えそうです。
予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号25109104)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。
名古屋地判平8・5・29〔タカヤナギ事件〕平5(ワ)4214、平7(ワ)1303
原告・株式会社タカヤナギ商事(甲事件原告・乙事件被告)
被告・株式会社柳グループ(甲事件被告・乙事件原告)
株式会社高柳(乙事件被告)
有限会社高柳(乙事件被告)
N藤広(甲事件被告)
■事案の概要等
甲事件
本件は、原告タカヤナギは、被告柳グループに対し、不正競争防止法2条1項1号等に基づき、ランドセルを販売するに当たって別紙被告標章目録記載の標章を使用することの差止めを求めるとともに、被告柳グループ及び被告Nに対し、同号等に基づき損害賠償等求めた事案です。
乙事件
被告柳グループによる標章の使用は、不正競争行為に当たるものではないく、また、原告タカヤナギ及び被告有限会社高柳は、あえて甲事件の訴えを提起した。また、文書の配布は、原告タカヤナギ、被告株式会社高柳及び被告有限会社高柳が共謀の上、行ったもので、右文書は、被告柳グループがあたかも原告タカヤナギらの標章と同一又は類似の標章を使用して不正競争行為を行っているとの印象を与えるものであるから、右文書の配布は、故意に競争関係にある被告柳グループの営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為であり、ランドセル等の販売額が減少する損害を被ったとして、不法行為による損害賠償等求めた事案です。
◆争いがない事実等
1.当事者
(1)甲事件原告・乙事件被告株式会社タカヤナギ商事(以下「原告タカヤナギ」):ランドセルの製造販売、カバン、袋物の製造販売等を目的として、平成4年9月3日設立。
(2)乙事件被告株式会社高柳:カバン、袋物の製造販売等を目的として、平成6年2月23日設立。
(3)乙事件被告有限会社高柳:革製品、袋物の販売等を目的として、昭和28年8月1日設立。
(4)甲事件被告・乙事件原告株式会社柳グループ:毛皮・皮製コート、ハンドバック、ランドセル等の販売、加工、修理、輸入等を目的として、昭和63年4月1日設立。
(4)甲事件被告N藤廣(以下「被告N」):被告柳グループの代表者。
2 原告タカヤナギ等によるランドセルの販売
(1)被告有限会社高柳:設立以来、愛知県を中心に、ハンドバック、ランドセル等の革製品を販売、昭和43年ころまでは、主として店頭販売を行ってきたが、昭和44年ころから、ランドセルのカタログを、愛知県内の幼稚園、保育園において、小学校に入学する予定の在園児の保護者に…配布し注文を受けるという形態で、ランドセルを販売するようになった。
(2)原告タカヤナギ:被告有限会社高柳の外商部門であった商事部が独立して設立。同被告の商事部が行っていた営業の譲渡を受け、被告有限会社高柳が行ってきた右のカタログによるランドセルの販売業を引き継ぎ、ランドセルの販売。
3 被告内藤の退職と被告柳グループの設立
(1)被告内藤:被告有限会社高柳に勤務していたが、昭和62年12月31日をもって退職。
(2)被告有限会社高柳:K原広光、京子夫妻(以下「K夫妻」という。)に、愛知県稲沢市井ノ口町大坪二七一〇所在のグランドショップ・パル(以下「グランドショップ・パル」という。)内の店舗を賃貸して、「タカヤナギ」の名称で、鞄類を販売することを認めていた。昭和62年9月ころ、K夫妻から、被告有限会社高柳に対し、右店舗の営業を止めたいとの申入れがあった。
(3)被告内藤は、昭和63年2月6日、K夫妻から、右店舗の賃借権、什器備品、商品等を譲り受け、その後、被告柳グループを設立し、同グループは昭和63年4月1日から、右店舗で「タカヤナギ」の名称で、鞄類の販売を開始。
(4)被告有限会社高柳:昭和63年8月29日、被告内藤に退職金を支払った。その額は、被告有限会社高柳における所定の退職金の額55万8900円から「タカヤナギ」の使用料16万7670円を差し引いた37万1230円。
4 被告柳グループによる標章の使用
(1)被告柳グループは、平成4年10月頃~同5年3月頃、及び、平成5年10月頃~同6年3月頃に、別紙被告標章目録記載の標章1及び標章2を使用したランドセルのカタログを、愛知県内の幼稚園、保育園で小学校入学予定の在園児の保護者に配布して注文を受けるという方法により、ランドセルを販売。平成6年11月頃~平成7年3月頃、別紙被告標章目録記載の標章3及び標章4を使用した同様の方法で販売。平成7年10月頃から、別紙被告標章目録記載の標章5及び標章6を使用し同様の方法により販売。
(2)原告タカヤナギ等の名による文書の配布
原告タカヤナギ及び被告株式会社高柳の連名による別紙一の「お知らせ」と題する文書が平成6年11月末ころから、原告タカヤナギの名による別紙二の「お知らせ」と題する文書が平成7年11月ころから、それぞれ愛知県及び岐阜県内の幼稚園及び保育園に配布。
1.被告柳グループの不正競争防止法2条1項1号該当性について
裁判所は以下の事実を認定し、判断しました。(以下、下線・太字筆者)
1.周知性について
「遅くとも平成4年10月ころには、「タカヤナギ」は、被告有限会社高柳の営業を表示するものとして、「Aマークランドセル」は、被告有限会社高柳の商品を表示するものとして、愛知県において小学校に入学する児童を持つ保護者の間で、広く知られるようになっていた」と認めました。そして「原告タカヤナギは、被告有限会社高柳から、営業譲渡を受けて…周知になった営業表示及び商品表示を承継し、これらを使用して、ランドセルの販売を行っている」。
2 類似性について
(1)「別紙被告標章目録記載の標章1は、「タカヤナギ」の下部に「Yanagi group Co., Ltd.」と記載したものであるところ、この記載は、「タカヤナギ」に比べると小さく、しかも、アルファベット表記であるから、この部分は需要者に対し格別の注意を喚起するものではな」く、「標章1は、全体として、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」と類似している」。
(2)「別紙被告標章目録記載の標章2は、「ランドセル」、「YGL」、「A」、「タカヤナギ」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各文字を組み合わせたものであるところ、「ランドセル」、「A」の各文字が他の文字に比べて大きく、「A」の下には「タカヤナギ」と記載され」、「最も需要者の注意を引く部分は、「ランドセル」、「A」、「タカヤナギ」の各部分であり、アルファベット表記である「YGL」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各部分は、需要者に対し格別の注意を喚起するものではない」。「「タカヤナギ」は、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」と同一であるし、「ランドセル」及び「A」の部分は、原告タカヤナギの商品表示である「Aマークランドセル」を想起させる」といえるから、標章2は、全体として、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」及び商品表示である「Aマークランドセル」と類似している」。
(3)「別紙被告標章目録記載の標章3は、「タカヤナギ」に、「グランド」、「grand」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各文字を組み合わせたものであるところ、「grand」及び「グランド」は、いずれも、「規模が大きい」等を意味するありふれた言葉である上、「grand」はアルファベット表記であり、「グランド」は「タカヤナギ」に比べて小さいから、「grand」、「グランド」の各部分は、需要者に対し格別の注意を喚起」せず、「「Yanagi group Co., Ltd.」の部分は、アルファベット表記である上、文字も「タカヤナギ」に比べて小さいから、この部分も、需要者に対し格別の注意を喚起するものではない」。「標章3は、「タカヤナギ」という部分が、最も需要者の注意を引」き、「この部分は、原告タカヤナギの営業表示と同一であるから、標章3は、全体として、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」と類似している」。
(4)「別紙被告標章目録記載の標章4は、「ランドセル」、「YGL」、「grand」、「A」、「グランド」、「タカヤナギ」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各文字を組み合わせたものであるところ、「ランドセル」、「A」の各文字が他の文字に比べて大きく、「A」の下には「タカヤナギ」と記載されている。したがって、最も需要者の注意を引く部分は、「ランドセル」、「A」、「タカヤナギ」の各部分で」、「YGL」、「Yanagi group Co., Ltd.」、「grand」の各部分は、アルファベット表記であること並びに「grand」及び「グランド」は、いずれもありふれた言葉である上、「グランド」は、他の文字に比べて著しく小さいことからすると、これらの各部分は需要者に対し格別の注意を喚起」せず、「「タカヤナギ」は、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」と同一であるし、「ランドセル」及び「A」の部分は、原告タカヤナギの商品表示である「Aマークランドセル」を想起させ」、「標章4は、全体として、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」及び商品表示である「Aマークランドセル」と類似している」。
(5)「別紙被告標章目録記載の標章5は、「タカヤナギ」に、「grand」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各文字を組み合わせたものであるところ、「grand」は、ありふれた言葉である上、アルファベット表記であり、「Yanagi group Co., Ltd.」は、アルファベット表記である上、文字も「タカヤナギ」に比べて小さいから、これらの部分は需要者に対し格別の注意を喚起」しない。「標章5は、「タカヤナギ」という部分が、最も需要者の注意を引」き、「この部分は、原告タカヤナギの営業表示と同一であるから、標章5は、全体として、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」と類似している」。
(6)「別紙被告標章目録記載の標章6は、「ランドセル」、「YGL」、「A」、「グランド」、「タカヤナギ」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各文字を組み合わせたものであるところ、「ランドセル」、「A」の各文字が他の文字に比べて大きく、「A」の下には「タカヤナギ」と記載され」、「最も需要者の注意を引く部分は、「ランドセル」、「A」、「タカヤナギ」の各部分で」、「「YGL」、「Yanagi group Co., Ltd.」の各部分は、アルファベット表記であること及び「グランド」は、ありふれた言葉である上、この文字は、他の文字に比べて著しく小さいことからすると、これらの部分は需要者に対し格別の注意を喚起するものではない」。「「タカヤナギ」は、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」と同一であるし、「ランドセル」及び「A」の部分は、原告タカヤナギの商品表示である「Aマークランドセル」を想起させる」から、「標章6は、全体として、原告タカヤナギの営業表示である「タカヤナギ」及び商品表示である「Aマークランドセル」と類似している」。
3 誤認混同について
右1、2の事実等を総合すると、被告柳グループの各標章の使用行為は「原告タカヤナギの愛知県において広く知られている営業表示及び商品表示と類似の標章を使用して、愛知県内において、ランドセルという同じ種類の商品を販売する行為であるということができるから、この行為は、原告タカヤナギの営業及び商品と混同を生じさせる行為である」。
4 標章使用の承諾について
4-1.裁判所は、以下のように認定し、「被告有限会社高柳は、被告柳グループに…被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園において、「パル タカヤナギ」の名称で、ランドセルのカタログ販売…を許諾した…と認められる」が、「被告有限会社高柳が、被告柳グループに…幼稚園、保育園におけるランドセルのカタログ販売に際して、「パル タカヤナギ」以外の被告有限会社高柳の営業表示又は商品表示と類似する表示」の使用を許諾しとは認められない、と判断しました。
(1)昭和62年11月ころ、被告Nから被告有限会社高柳を退職したいとの話を聞いた被告有限会社高柳の取締役であった高柳Mは、被告Nに対し、K夫妻がグランドショップ・パル内の店舗の営業を止めることを告げ、被告Nにおいて同店舗を引き継いで経営する意思があるか」尋ね、被告Nは一度は承諾しなかったが、高柳Mは、「再度、被告Nに対し、右店舗を引き継いで経営する意思があるかどうかを尋ね」、高柳Mは、被告Nに「被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園において、ランドセルのカタログ販売をすることを認めてもよい旨の話をしたが、被告Nは、即答しなかった」。
(2)被告Nは、昭和63年、高柳Mに「右店舗を引き継いで経営する旨回答し」、「同年2月6日に、被告有限会社高柳、K夫妻及び被告Nの間で、被告Nは、K夫妻から、右店舗の賃借権、什器備品、商品等を、代金500万円で譲り受けること、被告Nは、K夫妻が使用している商標をそのまま使用するが、適当な時期に変更することができること、右商標使用中は、被告有限会社高柳と被告Nは経営について協力しあうこと、被告有限会社高柳は、被告Nが右店舗を経営する会社を設立した場合には、出資することができること等を内容とする契約を締結した」。
(3)「しかし、被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園においてランドセルを販売することについては、被告有限会社高柳において検討した結果、認めることができないとの結論に至った」。高柳Mは「昭和63年8月に、被告Nを呼んで、被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園においてランドセルの販売をしないように告げ」、「被告有限会社高柳は、同月29日に、被告Nに対して、退職金を支払った」。
(4)「被告柳グループは、昭和63年9月ころから、被告内藤が被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園においてカタログを配布し、ランドセルの販売を始めた」。
(5)「被告有限会社高柳と被告柳グループとの間で話合い、昭和63年11月に、次のような内容の口頭の合意が成立」。
ア)「被告有限会社高柳は、被告柳グループに対し、被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園において、「パル タカヤナギ」の名称で、カタログを配布して、ランドセルを販売することを認め、被告有限会社高柳は、それらの幼稚園、保育園においては、ランドセルのカタログ販売を行わない」。
イ)「被告柳グループは、右アの幼稚園、保育園以外の、被告有限会社高柳がランドセルのカタログ販売を行っている幼稚園、保育園においては、ランドセルのカタログ販売を行わない」。
ウ) 被告有限会社高柳は、被告柳グループには「ランドセルを卸さず、被告柳グループは、他のランドセルを販売」。
(6)被告柳グループは、上記(5)の「合意成立後平成4年3月ころまで、被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園において、「パル タカヤナギ」の名称を付したカタログを配布して、ランドセルを販売」。
4-2.「被告内藤及び被告柳グループは、被告有限会社高柳が被告内藤に対して退職金を支払う際に差し引いた「タカヤナギ」の使用料には、幼稚園、保育園においてランドセルの販売をするに当たって「タカヤナギ」を使用することの対価が含まれていると主張」するが、以上の認定のとおり、被告有限会社高柳は、昭和63年8月には、被告内藤に対し、被告内藤が被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園においてランドセルの販売をすることを認めない」との方針を決め、「そのことを被告内藤に伝え」、「右退職金支払までの間に、被告柳グループ又は被告Nと被告有限会社高柳との間」で、「被告柳グループが、幼稚園、保育園においてランドセルの販売をするに当たっていかなる名称を使用するか」話合いがされたことが認められない。認定事実等を「総合すると、右「タカヤナギ」使用料は、グランドショップ・パル内の店舗において店頭販売をする場合に「タカヤナギ」を使用することの対価」と認められる。
4-3.「被告N及び被告柳グループは、昭和63年11月ころ、被告有限会社高柳と被告柳グループ及び被告N」で、「被告柳グループは、一宮市、稲沢市及びその近郊の幼稚園、保育園において、「タカヤナギ」に「パル」、「グランド」等の文字を付加することにより「タカヤナギ」と区別する…標章を用いて、ランドセルを販売することができる旨の約定をしたと主張」するが、「認定の事実」等を「総合すると、被告内藤は…話合いの際に、高柳Mから、「タカヤナギ」に付加する名称を選ぶように言われたので、「パル」を選んで、「パル タカヤナギ」とすることに決めたこと、右話合いの際に、被告柳グループから被告有限会社高柳に対して出された書面にも、被告有限会社高柳から被告柳グループに対して出された書面にも、被告柳グループが使用する名称としては、「パル タカヤナギ」のみが記載されていること、被告柳グループは、平成4年3月ころまで、「パル タカヤナギ」の名称を付したカタログを配布してランドセルを販売しており、平成4年10月ころに別紙被告標章目録記載の標章1及び標章2を使用し始めるまでは、ランドセルのカタログ販売において、「パル タカヤナギ」以外の名称を使用したことはないこと、以上の各事実が認められ、これらの事実に照らすと、被告内藤の右主張に沿う供述を採用」できない。
4-4.「別紙被告標章目録記載の各標章には、「パル タカヤナギ」とは異なるものであるから、被告柳グループが、幼稚園、保育園においてランドセルのカタログ販売を行うに当たって、これらの各標章を使用することを、被告有限会社高柳から許諾されたものと認め」られない。
5.よって、被告柳グループによる標章の使用行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たる。
Ⅱ.原告タカヤナギの差止請求権及び損害賠償請求権について
1.裁判所は、以下のように認定し、原告タカヤナギが、被告柳グループに対し、愛知県内においてランドセルの販売をするに当たり(グランドショップ・パル内の店舗において店頭販売する場合を除く。)、別紙被告標章目録記載の標章1、標章3及び標章5の使用、愛知県内においてランドセルの販売に当たり別紙被告標章目録記載の標章2、標章4及び標章6の使用について差止請求ができる旨認めました。
「原告タカヤナギは…愛知県内においてランドセルを販売しているから、被告柳グループの…不正競争行為により、営業上の利益を侵害され」、「被告柳グループが…不正競争行為を行っていることからすると、被告柳グループは、幼稚園、保育園においてランドセルのカタログ販売を行う場合に限らず、愛知県内においてランドセルの販売をする場合には、別紙被告標章目録記載の各標章を使用するおそれがあ」り、「原告タカヤナギの営業上の利益が侵害されるものと認められる」。
もっとも「被告有限会社高柳は、被告柳グループに対し、グランドショップ・パル内の店舗においてランドセルを含む鞄類の店頭販売をする場合には、「タカヤナギ」を使用することを許諾していた」と認められ(…契約締結時には、被告柳グループは、設立されていなかったが…)、「被告Nは、右契約締結時には、右店舗を経営する会社を設立することに決めていたため、そのことを高柳Mに話して右会社への出資を求めたこと」、「その結果、右契約において…出資に関する条項が設けられたこと、以上の各事実が認められ、この事実に、被告有限会社高柳は被告柳グループが右店舗において鞄類の店頭販売をする場合に「タカヤナギ」を使用することについて異議を述べたとは認められないことを総合すると、被告有限会社高柳は、被告Nのみならず、被告柳グループに対しても、右店舗において鞄類の店頭販売をする場合に「タカヤナギ」を使用することを許諾していた」と認められる。「これに対し、被告有限会社高柳が、被告柳グループに対し、グランドショップ・パル内の店舗において鞄類の店頭販売をするに際して、「Aマークランドセル」を使用することを許諾していたものと認め」られない。
2.裁判所は、「被告Nは、被告有限会社高柳の従業員であったところ、同社を退職して、被告柳グループの代表者として、被告有限会社高柳及び同社の営業を承継した原告タカヤナギと同種の業務を行っているものであるから、「タカヤナギ」及び「Aマークランドセル」が愛知県において小学校に入学する児童を持つ保護者の間で、広く知られるようになっていたことを認識していた」と認め、「被告Nは、幼稚園、保育園においてランドセルのカタログ販売を行うに当たって別紙被告標章目録記載の各標章を使用することについて、被告有限会社高柳から許諾を得ていないことを認識していた」と認め、さらに、別紙被告標章目録記載の各標章が、「タカヤナギ」及び「Aマークランドセル」と類似し、これらの標章の使用が誤認混同を生じさせ、原告タカヤナギの営業の利益を侵害することを認識していたものと認められると判断しました。
したがって「被告柳グループが右一認定の不正競争行為を行って、原告タカヤナギの営業上の利益を侵害したことについては、被告内藤に故意がある」とし、「被告M及び被告柳グループは、右一認定の不正競争行為により、原告タカヤナギが被った損害を賠償する責任がある」と判断しました。
Ⅲ.被告柳グループの損害賠償請求権について
1.「甲事件の訴えは…実質的な争点となっていた部分については、すべて原告タカヤナギの主張が認められて、請求が認容されているから、訴えの一部に理由のない部分があるとしても、原告タカヤナギが甲事件の訴えを提起したことが、違法な行為であるということはできない」。「被告有限会社高柳は、原告タカヤナギと共に、被告柳グループに対して、ランドセルを販売するに当たり別紙被告標章目録記載の標章1ないし4の各標章を使用することの差止めを求める訴えを提起したが、後に、その訴えを取り下げた」。「被告有限会社高柳は、もともと周知の営業表示及び商品表示の主体であった上…被告柳グループによる不正競争行為が認められ」、「被告有限会社高柳が原告タカヤナギと共に右訴えを提起したことが違法な行為であるとまでい」えない。
2.「「お知らせ」と題する文書には、被告柳グループが幼稚園、保育園においてランドセルのカタログ販売を行うに当たって配布しているカタログに付されている標章は、原告タカヤナギが使用している「タカヤナギ」及び「Aマークランドセル」と同一であるか又は類似しており、誤認混同を生じるおそれがあること並びに被告柳グループは、原告タカヤナギとは関係がないことを記載したものである」が、「右文書は、その読者に、被告柳グループは、原告タカヤナギが使用している右表示と同一又は類似の標章を使用して、不正競争行為を行っているとの印象を与えるものであるということができる」が、「被告柳グループは…不正競争行為を行ったのであるから、右文書は、真実を述べたもので」、「右文書配布をもって不法行為に当た」らない。
Ⅳ.「原告タカヤナギの損害」についての原告タカヤナギの主張について
本ブログでは省略
■結論
裁判所は「原告タカヤナギの請求のうち、差止請求は、愛知県内においてランドセルを販売するに当たり(グランドショップ・パル内の店舗において店頭販売する場合を除く。)、別紙被告標章目録記載の標章1、標章3及び標章5を使用すること並びに愛知県内においてランドセルを販売するに当たり、別紙被告標章目録記載の標章2,標章4及び標章6を使用することの差止めを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、損害賠償請求及び遅延損害金請求は、理由があるので認容し、被告柳グループの請求はいずれも理由がないので棄却する」などとして判決しました。
■BLM感想等
前回、被告会社が「株式会社クリタ」の商号を使用して原告会社と同種の営業行為を行うことに実質的に合意をし、その後、そのような合意をしていないと主張し、商号の使用を認めないとしているため、いわば契約の相手方が梯子を外される状況に陥った事案を見てみました。本件も、事業承継ではありませんが、一部店舗の賃借権、什器備品、商品等の譲受と、その店舗での表示「パル タカヤナギ」の使用を認めており、また「被告有限会社高柳は、被告柳グループに対し、被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園において、「パル タカヤナギ」の名称で、カタログを配布して、ランドセルを販売することを認め、被告有限会社高柳は、それらの幼稚園、保育園においては、ランドセルのカタログ販売を行わない」ことを認めました。しかも、 「被告有限会社高柳は、被告柳グループには「ランドセルを卸さず、被告柳グループは、他のランドセルを販売」するとしています。さらに、裁判所は「鞄類の店頭販売をする場合に「タカヤナギ」を使用することについて異議を述べたとは認められないことを総合すると、被告有限会社高柳は、被告Nのみならず、被告柳グループに対しても、右店舗において鞄類の店頭販売をする場合に「タカヤナギ」を使用することを許諾していた」と認めています。
かかる状況の中で、どうやって、「タカヤナギ」のブランドを守ることができるのか、少々疑問です。本件のような紛争は上記のような取り決めをした時点で、想定できたのではないかと思います。さらに退職金から店舗での「タカヤナギ」の使用料を差し引く意図で、退職金が減らされており、BLMとしては、被告Nとしては、なんだかやるせない気持ちもあったように推測します。
退職金は退職金、その後の店舗での販売は、「タカヤナギ」の商品を使い、原告の品質管理が及ぶ範囲に限り「パル タカヤナギ」の使用を認め、「タカヤナギ」の製品以外を扱うのであれば、被告Nが被告有限会社高柳の従業員として担当していた幼稚園、保育園においても、「パル タカヤナギ」の名称で、カタログを配布して、ランドセルを販売することは認めるべきではないように思います。
とはいえ、裁判所は、当事者の合意通りに、不正競争防止法2条1項1号に該当する行為と該当しない行為を精査して判断した点で、原告の請求通りになったと思いますが、本判決にたどり着くまでの労力や訴訟費用、幼稚園・保育園等の顧客の信頼確保の点で、相当大変だっただろうと推測します。
By BLM
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