不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その39

 本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。元従業員等との紛争事例にも該当しそうです。

 

  東京地判平 4・12・21〔枇杷葉温圧事件〕平(ワ)16879 

原告 株式会社枇杷葉温圧(代表H.K.)
被告 有限会社三栄商会 (代表M.T.) 
被告 株式会社あなたと健康社(代表G.Y.) 
被告 K.T.  

 

■事案の概要等

原告の商品に表示された「枇杷葉温圧」という名称が、枇杷の葉の上から着火した棒状のもぐさを押し当てるという同療法の態様を端的に表現していることを考慮すると、「枇杷葉温圧」の名称が相当広く知られているといっても、それは同療法を普通に表現した名称として知られているのであって、同業他社の商品や療法の普通名称から原告の商品を識別する表示として知られていたものと認めることはできない。
     2.    被告の商品に表示された「ビワの葉温灸」の語は、枇杷の葉を使った温灸療法を表す普通名称であると認められ、被告商品の用途を普通名称で示しているものと認められる。

 

◆当事者等  

「原告代表者H.K.の元の夫であるH.T.の父H.K.は寺院の出身であるところ、寺に伝わる秘法として、檀家や知人に好意的に、「びわ温灸」と称して枇杷葉温圧療法を施していたが、はり・灸の免許を取得してからは患者に同療法を施していたこと」、上記「夫妻はピアノ教師を生業としていたが、そのかたわら昭和三九年頃から、父と共に「びわ温灸」の普及にたずさわり、昭和四九年初め頃にそれまでの「びわ温灸」を「枇杷葉温圧」と名付けたこと、昭和四九年二月二一日付け「東京スポーツ」紙の全国版に、大きく枇杷葉温圧療法が紹介されたことがきつかけとなつて、全国から注文が来るようになつた」。
 「昭和五〇年八月、H.K.を代表取締役として、有限会社枇杷葉温圧が設立され、同社が、枇杷葉温圧療法の普及と右療法に使用する商品の販売活動を行つていたが、昭和五六年一一月に株式会社に組織変更されたのが原告である」。
 「被告K.T.はH.K.の妹の夫であるが、H夫妻の依頼により、昭和五一年七月頃それまで勤務していた会社を退職して有限会社枇杷葉温圧に専務取締役として入社し、会社経営の経験のないH夫妻を補佐して社内の体制を整備し、販路の拡張に務めたこと、昭和五五年頃H.T.の行為を巡つて会社内部に紛争が生じ、被告K.T.が一時退社したこともあつたが、結局、H夫妻が別れ、H.T.は独立して事業を行い、H.K.が有限会社枇杷葉温圧を引き継ぐこととなり、被告K.T.も同社に戻るようになつたこと、その後、昭和五六年一一月に有限会社枇杷葉温圧が株式会社に組織変更され、被告K.T.が代表取締役に就任した」。
 「原告の販売する商品の主なものは、枇杷葉温圧セツト(箱、棒状もぐさ一六本、消納筒、もぐさの枕、ローソク立て、布一組、紙一組及び手引書)、補充用棒状もぐさ(一五本入りと三一本入り)である」。

「原告の販売する商品の内枇杷葉温圧セツトの外箱には別紙目録(一)(3)の表示が、内箱に、消納筒、棒状もぐさ、紙には別紙目録(一)(1)の表示が、棒状もぐさの箱、ローソクの箱には別紙目録(一)(2)の表示がされていたこと、また手引書は「枇杷葉温圧の手引」と題されていて、その表紙には表題のほか「どなたにも安心して出来る家庭療法」との記載があり、その内容でも「枇杷葉温圧」が療法の名称であることが明らかにされていて、商品は「枇杷葉温圧セツト」と呼ばれている」。
「昭和四九年二月二一日付け「東京スポーツ」紙の全国版に、枇杷葉温圧療法と「枇杷葉温圧健康会」会長のH.T.が大きく紹介された。その記事の中で「枇杷葉温圧」と呼ばれているのは枇杷葉温圧療法であつた」。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.不正競争防止法上の判断

1.「枇杷葉温圧」の識別力・周知性

(1)裁判所は、認定事実に基づき、「「枇杷葉温圧」は、枇杷の葉を快癒点(ツボ)に当てて、その上から着火した棒状のもぐさを押し当てる、枇杷の葉とお灸を組合わせた民間療法の名称として、健康運動、民間療法に関心を持つ人の間を中心に一応広く知られていること、この「枇杷葉温圧」という名称は、従前「びわ温灸」と呼んでいた療法にH夫妻が名付けたものであり、「枇杷葉温圧」という名称がそのように知られるようになつたのは、H夫妻、原告(有限会社枇杷葉温圧を含む)、被告K、被告あなたの健康社が宣伝、広告、紹介に努めたことによるものと認められる。
 しかしながら、「枇杷葉温圧」という名称が、枇杷の葉の上から着火した棒状のもぐさを押し当てるという同療法の態様を端的に表現していることを考慮すると、「枇杷葉温圧」の名称が相当広く知られているといつても、それは同療法を普通に表現した名称として知られているのであつて、同業他社の商品や療法の普通名称から原告の商品を識別する表示として知られていたものと認めることはできない
 即ち…原告の販売する商品には別紙目録(一)の(1)ないし(3)の表示がされていたものであり、…別紙目録(一)(1)の表示がされた棒状もぐさが相当数販売されたものであるが、…枇杷葉温圧についての宣伝、広告、紹介においては「枇杷葉温圧」が療法の名称とされており、原告の販売する商品が「枇杷葉温圧」と表示されていたわけではなかつたのであり、しかも、棒状もぐさを他のものと組み合わせた原告の主な商品である枇杷葉温圧セツト中の手引書にも「枇杷葉温圧」が療法の名称であることが明らかにされていることを考慮すれば、…別紙目録(一)の(1)ないし(3)の表示は、需要者にはそれらの商品の用途が枇杷葉温圧療法であることを普通に表示したものに過ぎないと理解された場合も多いものと認められそれらの表示が付された原告の商品が相当数販売されたことをもつて「枇杷葉温圧」が原告の商品表示として自他識別力を有するものとも、周知であつたものとも認めることはできない。(下線筆者)

 

(2)「被告三栄商会が、昭和六二年頃からその製造する棒状もぐさ又は棒状もぐさと施灸用具のセツトの容器、包装及びその広告に被告商品表示を使用し、右表示を使用した棒状もぐさ又は棒状もぐさと施灸用品を販売していること、被告あなたと健康社が、被告三栄商会が製造し、その容器、包装に被告商品表示を使用した棒状もぐさ又は棒状もぐさと施灸用品のセツトを販売していること、同社が「あなたと健康」誌に被告商品表示を使用して右商品の広告を掲載している」。
 「被告三栄商会が製造、販売し、被告あなたと健康社が販売、広告する商品の主なものは、ビワの葉温灸セツト(箱、棒状もぐさ一六本、消納筒、もぐさの枕、ローソク立て、布二枚、紙一組及び手引書)、補充用棒状もぐさ(一二本入りと二五本入り)であること、ビワの葉温灸セツトの外箱には別紙目録(二)(2)の表示があるが、その直後に幾分小さ目ではあるが同様の陰付きの枠を伴う「セツト」との表示がついていること、また、ビワの葉温灸セツトの内箱には別紙目録(二)(1)の表示があること、ビワの葉温灸セツトの棒状もぐさには「ビワの葉温灸 もぐさ」との、紙には「ビワの葉温灸紙」との表示がされている」。

 

(3)「被告あなたと健康社の代表者G.Y.は、自己の体験から自然食、自然療法等の健康運動に関心を持ち、同社を設立」。「昭和五〇年頃、H夫妻から枇杷葉温圧療法を紹介され、自らこれを体験し、雑誌の読者にもテストをしてもらつた上、その効能を信用し、「あなたと健康」昭和五二年一月号から三月号まで、同年五月号、六月号に枇杷葉温圧療法を紹介する記事を掲載するとともに、巻末のメールオーダー御案内の欄に「ビワ葉温圧療法セツト」、又は「ビワの葉温圧療法セツト」、「ビワの葉温圧用棒もぐさ」の通信販売を取り次ぐ旨の案内を掲載した。それらの記事や案内の中でも「枇杷葉温圧」と呼ばれているのは療法であり、棒もぐさ等の商品ではなかつた」。
「H.K.は昭和五一年一月、啓明書房から「奇跡のビワの葉療法」という図書を出版して枇杷葉温圧療法を紹介した」。
「小学館発行の「女性セブン」誌の昭和五五年八月一四日・二一日合併号に四頁にわたり枇杷葉温圧療法が紹介されたが、その記事の中で「枇杷葉温圧」と呼ばれているのは療法であり、棒もぐさ等の商品ではなかつた」。
「原告代表者であつた被告K.T.は、Dと共著で昭和五六年一二月、「ビワ葉療法の秘密」をKKロングセラーズから出版して枇杷葉温圧療法を紹介した。同書は、昭和六二年まで六五版増刷された」。(以下省略)

 

2.原告商品表示と被告商品表示との類似性及び両者の誤認混同のおそれ
裁判所は以下のように認定し、両者は「原告商品表示と被告商品表示とは同一であるとも類似であるとも認められず、原告商品と被告商品との混同が生ずるものとは認められない」と判断しました。

 「被告商品表示の要部は「ビワの葉温灸」という文字にある」。「ビワの葉温灸とは、枇杷の葉を快癒点(ツボ)に当てて、その上から着火した棒状のもぐさを押し当てることにより、枇杷の葉とお灸の組合わせにより、体の自然治癒力を高めて各種の疾病を治癒させる民間療法であり、枇杷葉温圧療法と同じものである」。「「ビワの葉温灸」の語は、枇杷の葉を使つた温灸療法を表す普通名称であると認められ、三のような被告商品の用途を普通名称で示している」。
 「「枇杷葉温圧」という表示から生ずる観念である枇杷葉温圧療法は、原告商品の用途を普通に表現した名称であり、この観念には自他識別力がなく、被告商品表示である「ビワの葉温灸」から生ずる観念であるビワの葉温灸療法も被告商品の用途の普通名称であつてこの観念には自他識別力がないものである。そして、二つの商品表示の自他識別力のある部分が同一であるか類似であることによつて他人の商品と混同を生ずるものであるから、本件のように、商品表示から生じる自他識別力のない観念が同一であつても、そのことによつて外観も称呼も類似しない原告商品表示と被告商品表示とが同一であるとか類似であるということはできない」。 

 

3.結論

 裁判所は、「以上のとおり、「枇杷葉温圧」が原告の商品表示として自他識別力を有するものとも、周知であつたものとも認められず、また、原告商品表示と被告商品表示とは同一であるとも類似であるとも認められず、原告商品と被告商品との混同が生ずるものとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない」としました。

 

Ⅱ.被告神谷に対する支払済退職金に関する不当利得返還請求及び不法行為による損害賠償請求

 「被告K.T.が、昭和六一年一〇月一五日原告を退職したこと、その頃原告代表者H.K.と被告K.T.との間に、退職金として一六〇〇万円を支払う旨の合意が成立し、これに基づき同年一〇月一六日頃から昭和六二年三月までの間に」退職金が支払われた」との事実について、原告は、「原告と競業行為を行わない旨を明言し、そのため原告代表者H.K.はその旨誤信して、右合意をしたものである旨主張する」ところ、裁判所は「被告K.T.がH.K.を欺罔し退職金支払いの合意をする意図又は退職金を騙取する意図をもつて、原告と競業行為をしない旨を前記の者に告げたと認めることはできない」とし、原告の被告K.T.に対する退職金の返還請求及び損害賠償請求はいずれも理由がないとしました。

 

■BLM感想等

 本件は、「原告代表者H.K.の元の夫であるH.T.の父H.K.」という始原があり、ここから、原告会社(代表者H.K.)、原告代表者H.K.と解れたあと独立して事業を行うこととなったH.K.の息子H.T.、及び、「被告K.T.はH.K.の妹の夫であるが、H夫妻の依頼により、昭和五一年七月頃それまで勤務していた会社を退職して有限会社枇杷葉温圧に専務取締役として入社し、会社経営の経験のないH夫妻を補佐して社内の体制を整備し、販路の拡張に務めた」という被告K.T.の三者の関係解消事例といえると思います。H.T.は、被告となっていませんが、それはもともとの始原がH.T.の父ということが大きいと思います。一方、K.T.については、元従業員ということで、原告の被告K.T.に対する競業避止義務違反の主張(厳密には支払済退職金の不当利得返還請求)とともに、表示の使用の差止を図っています。元夫婦のH.T.とH.K.は、H.T.の父と共に「びわ温灸」の普及にたずさわり、昭和四九年初め頃にそれまでの「びわ温灸」を「枇杷葉温圧」と名付けたとされているので、内容を共有し、それぞれがその療法を広める努力を行い、被告K.T.も原告で働いていた時代に内容を共有し、ともに広めるグループを形成しているのだと思います。しかし、このグループをまとめる出所識別標識なし、品質保証機能を発揮する表示がない、ということで、それぞれ関係が解消されても、「枇杷葉温圧」を用いてそれぞれの商品を販売し、それぞれが根拠をもって考える話を雑誌なりに書いて情報発信してもよいということになります。標識(商標・商品等表示)に商品やサービス等の情報を集約しなかった裁判例ということでしょう。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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