不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その38
本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。最初は複雑ではないものから。
京都地判平10・1・29〔商標及びシール等の使用禁止事件〕平4(ワ)2658
原告 野崎繊維工業株式会社(代表:N.K.)
被告 N.Y.
被告 N.R.
被告 やまの株式会社(代表:N.Y.)
■事案の概要等
本件は、原告会社が、(請求1)被告N.R.が原告会社に在職中に、不当に商品を値引き販売したことにより損害を被ったとして、同被告に対し不法行為による損害賠償請求権に基づき同額の金員及び遅延損害金の支払いを、(請求2)被告N.Y.が原告会社に在職中に、営業担当者として適時適切な報告をすべき義務を怠ったことにより損害を被ったとして不法行為による損害賠償請求し、(請求3)被告N.Y.及びN.R.が原告会社に在職中に、商品・シール等を横領したことにより損害を被ったとして不法行為による損害賠償請求を、(請求4)被告らが原告会社の商標及び周知の商品表示を付したシール等を使用した行為が商標権の侵害及び不正競争行為あるいは不法行為に該当するとして損害賠償請求を、(請求5)同様の理由により、被告らに対し、原告会社の商標及びシール等の使用の禁止等を求めた事案です。
◆当事者
・原告会社:代表取締役N.K.(35年就任)の実父亡N.M.の個人企業であった越後加茂商会を前身とし昭和23年亡同人が設立した絹織物製造販売等を業とする。本社は新潟県、営業所は一時期設置した東京店を除いては、村松工場・販売所と京都店の二か所。
・被告N.Y.:N.K.の甥。昭和44年原告会社に入社。同46年から京都店勤務となり、同49年に取締役就任。原告会社は、平成2年11月1日に取締役解任したとし、これに対し同被告は、右解任決議は無効とし係争中。被告N.Y.は退職届提出、原告会社は同年12月20日付けで同被告に懲戒解雇の通知。被告N.Y.は、平成4年1月5日、被告やまの株式会社の代表取締役就任。
・被告N.R.は被告N.Y.の弟、昭和47年に原告会社入社、一時東京で勤務したほかは京都店で勤務し、同56年に取締役就任、原告会社は平成2年6月7日に被告N.R.が取締役辞任したとし、被告N.R.はその辞任届が偽造されたと主張。また、被告N.R.は原告会社に退職届提出、原告会社は、同年12月20日付けで懲戒解雇通知。被告N.Y.は平成4年1月5日、被告やまのの取締役就任。
被告やまの株式会社:亡Mの長男Kがかつて東京都小平市で経営し休眠会社となっていた関東車輛サービス株式会社を、被告N.Y.が譲り受け、平成4年1月5日付けで商号を「やまの株式会社」に、目的を絹織物、染呉服及び絹製品の製造、加工及び販売等と変更し、本店を肩書地に移転した。
本ブログでは、不正競争防止法2条1項1号の判断について主に見ていきます。
1.原告会社と被告らの関係等
「平成元年ころから、N.K.と被告N.Y.及びN.R.を含む他の親族との間が不仲となり、同被告らが他の株主とともに原告会社を相手として定時株主総会不存在確認訴訟を提起したほか、新株発行無効及び被告N.Y.の取締役解任決議の不存在確認等を求める訴訟を提起するなどの事態に至り、被告N.Y.及び同N.R.らとN.K.の関係が悪化し」、結果、「同被告らは原告会社を退職することを余儀なくされ」、「平成3年11月30日付けで原告会社に対し退職届を提出」、「原告会社から同年一二月二〇日付けの懲戒解雇の通知を受けたことの後、上記◆当事者の説明の通りです。これらを前提に裁判所は、原告会社が問題とする被告らの各行為について順次検討していきました。
2.被告N.R.が商品を不当に値引販売したことによる不法行為の成否(争点2)
裁判所は 「…当時は非常に市況が悪かったとの見方もあり…右のようなデータのみでその販売方法を違法とまで断ずることは困難である。原告会社の主張…によれば、被告隆司らが退社し、原価割れ販売を止めたところ、最大手の顧客であった鳴河を初めとして軒並み売り上げが激減しており、被告隆司らが一部商品で原価割れ販売をせざるを得なかったことを物語るものともいえる」等とし、「被告N.R.が商品を不当に値引販売したことを理由とする原告会社の被告隆司に対する不法行為による損害賠償請求は理由がない」としました。
3.被告善弘が営業担当者として適時適切な報告をすべき義務を怠ったことによる不法行為の成否(争点3)
裁判所は、事実認定により「被告善弘が営業担当者として適時適切な報告をすべき義務を怠ったことを理由とする原告の被告善弘に対する不法行為による損害賠償請求は理由がない」としました。
4.被告N.Y.及びN.R.が、原告会社の商品、シール等を横領したことによる不法行為の成否(争点3)
裁判所は、事実認定により、「原告会社の商品、シール等を横領したことを理由とする原告会社の同被告らに対する不法行為による損害賠償請求は理由がない」と判断しました。
5.被告らの商標権侵害及び不正競争行為等の有無(争点4)
裁判所は以下の事実を認定しました。
「訴外Tは、原告会社の社員であるところ、平成5年8月26日、まるやま武生店において、「石持セットC.P」「墨染黒シリーズ」「キャンペーン期間中、お買上げの方にサムソナイト旅行バッグ(定価22、000円)プレゼント」「キャンペーン特別価格¥398、000」等と表示されたポスターが掲示されて、「浜ちりめん石持墨染黒」、「駒絽石持墨染黒」(ただし、反箱の中の反物生地は「黒橡染」と表示されている)ほか一八点のセット商品(…以下「武生店セット商品」…)が販売され、その景品のサムソナイト旅行バッグ…の中に「やまの(株)」のゴム印が押されているサムソナイトのパンフレット…があるのを見つけ、N.K.にファクシミリで「やまの墨染紋付セット398,000サムソナイト22,000相当サービスのポスターあり」と報告したこと、Tは、N.K.から指示を受けて、翌日、再度、まるやま武生店を訪問し、同店の女子事務員に、もの作りの参考にすると告げて、その商品や店頭での展示状況等の写真を取ったこと、その後、同年九月に右商品を原告会社がまるやま武生店から購入したこと、右「浜ちりめん石持墨染黒」…の反物生地に貼付されている品質保証シールの番号は〇〇三二四四であり、右「駒絽石持墨染黒」…の同番号は〇〇四四五五である」。
「そして、武生店セット商品や前記のポスター自体に、右セット商品を被告やまのが販売したことを直接示す表示はなく、被告やまのとの関係を示すものは、右セット商品の景品とされていたサムソナイトの旅行バッグの中に被告やまののゴム印が押捺されたサムソナイトのパンフレットが存在していたことのみで」、「セット商品の景品が被告やまのから仕入れたもので…も、直ちに本体のセット商品も被告やまのから仕入れた…ということはできない。Tは、武生店セット商品が、被告やまのから販売されたものであることにつき、まるやま武生店の女子事務員に確認したと証言するが」、「具体的なものではない上、Tが右セット商品を発見したとするのは本件訴訟中で、常日頃から原告会社の偽ブランドがまるやま傘下で出回っているとN.K.から聞いて」おり、「右商品を発見してN.K.に報告したところ、証拠に写真を撮るように指示されて翌日再度まるやま武生店を訪問して」おり、「商品の出所に関する情報は最も重要で、N.K.が満足しそうな情報であると考えられるのに、TのN.K.に対する報告…には、その旨の記載がないことなどに照らし、たやすく採用できない」。その他種々主張を検討し「以上を総合すると…各商品を被告やまのが販売した…可能性は否定できない」が、「これまでに検討した証拠のみでは、右各商品の全部または特定の一部を被告やまのが販売した」と認定できない。
「そこで、他の証拠を総合して、…被告らが、前記1の各表示をし、各シールを貼付するなどの行為をしたと認定できるか否かについて」、「原告会社は、プランニング・ナカムラは番号〇〇〇〇〇一から〇〇七〇〇〇までの品質保証シールを原告会社に納品していないにもかかわらず、これらの番号の品質保証シールが貼付された商品…を被告やまのが販売していたことは品質保証シールが偽造品であることを裏付けると主張するところ、なるほど、プランニング・ナカムラは、原告会社の問合せに対し、〇〇〇〇〇一番ないし〇〇四五〇〇番のシールを原告会社に納入したことはないと回答していること…が認められ、また、プランニング・ナカムラ代表者N作成の「証明書」と題する書面…には、〇〇六六〇五番及び〇〇六八三九番の品質保証シールを作成して原告会社に納入した事実はないとの記載が存する」が、同上番号「の品質保証シールについては、その番号を含めた〇〇四五〇一番から〇一三五〇〇番の九〇〇〇枚につき原告会社が受領している旨のプランニング・ナカムラ宛の原告会社作成の文書が存すること」、「プランニング・ナカムラは、ナンバーを他のシールと兼用しているので、番号をどのシールに使用したかは今さら調べようがない旨の回答も原告会社に」しているなどに照らし、前記の番号のシールが原告会社に納入されていない」か疑問がある。
「被告らが、原告会社が問題とする表示及びシール等を貼付して販売したと原告会社が主張する前記1の各商品は、被告やまのが販売した商品である可能性は否定できないものの、その事実を認定するに足りる証拠はなく、また、被告らが、原告会社が問題とする前記1の各表示をし、各シール等を貼付するなどしたと認定できる的確な証拠はない」とし、「前記1の各商品が原告会社の製品でないとすると、どのような経緯で原告会社の使用するもの…と同一ないし類似の前記1の各表示、各シール等あるいはT.H.名義の署名及び落款のゴム印が押捺されているのか判然としない」が、「既に検討したとおり、前記1の各商品が被告やまのの偽造品であると断定するN.K.の供述…等の記載は、具体的根拠、客観的裏付けを有するものではない上…採用できないほか、…自己に有利な証拠を得るために第三者に執拗に働きかけ、あるいは事実を歪曲して証拠を提出するなどの原告会社(N.K.)の訴訟態度等に照らせば、原告会社の主張を具体的に裏付ける客観的な証拠や第三者の証言等なくして、被告らが前記1の各商品に、同各表示をし、各シールを貼付するなどして販売したとの事実を認定することはできない」。
以上のほか種々検討し、「被告らの商標権侵害、不正競争行為又は不法行為を理由とする損害賠償請求及び差止請求は、その余を検討するまでもなく理由がない」と判断しました。
■BLM感想等
本件は、代表取締役N.K.の実父亡N.M.の個人企業であった越後加茂商会を前身とし昭和23年亡同人が設立した絹織物製造販売等を業とする原告会社において、N.K.の甥である被告N.Y.と、その弟である被告N.R.は元社員(取締役)であったが、被告らに対し、原告を懲戒解雇し(又は被告らが退職届提出し)した事案でした。さらに、被告N.Y.及びN.R.が、休眠会社を被告N.Y.が譲り受け、平成4年1月5日付けで商号を「やまの株式会社」に、目的を絹織物、染呉服及び絹製品の製造、加工及び販売等と変更し、本店を肩書地に移転したあと、本件訴訟が提起されました。原告会社(N.K.)が、被告らが不当に値引販売したとか、適時適切な報告をすべき義務を怠ったとか、原告会社の商品、シール等を横領したとか、又は被告らの商標権侵害及び不正競争行為をしたなどと主張しています。被告会社設立後ですが、原告会社は一部請求については、被告N.Y.とN.R.の原告在職中の行為に対して損害賠償請求等しています。これに対し、被告らが原告会社の商標及び周知の商品表示を付したシール等を使用した行為が商標権の侵害及び不正競争行為等に該当するとの主張は退職後の行為に対するものと言えます。
そして、本件のような関係解消事例で、元従業員等の行為を止めさせたい場合に、不正競争防止法2条1項1号の適用上、「周知性」の立証が難しい場合(本件も認められていません。)は、本件事案では。同じく認められていませんが、被告らが「原告会社の商標及び周知の商品表示を付したシール等を使用した行為」について、盗んだとか、横領した等の理由で、間接的に不正競争防止法2条1項1号の行為規制を行い得ると考えました。難しいでしょうかね・・
なお、不正競争防止法2条1項1号の問題としては、「プランニング・ナカムラは、ナンバーを他のシールと兼用しているので、番号をどのシールに使用したかは今さら調べようがない旨の回答も原告会社に」しているなどとしていいますが、シール(本件では品質管理シール等が含まれるようです)の管理をしっかり行うべきでしょう。
By BLM
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