不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その33

 本日も、元従業員と会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  札幌地判昭51・12・8〔バター飴缶容器事件Ⅰ〕昭50(モ)920

債権者・北誉製菓株式会社
債務者・北海道観光名産株式会社

 

■事案の概要等  

 債権者は申請外洞口製缶所に対し本件ステンレス製牛乳缶型容器の製造を依頼し、当該容器にバター飴を入れたものを販売し、同ようきは、債権者の商品表示として周知性を獲得したところ、債務者は、申請外洞口製缶所に対し本件容器を申請外有限会社天喜屋本舗に販売納入させたうえ、同社から右容器にバター飴を入れたものを商品として仕入れ、これに更に債権者商品のラベル、包装箱などと同一の色を使用し、類似したラベル、包装箱を使用し、かつ、「北海道銘菓バター飴」と記したものを商品として北海道地で販売したため、不正競争防止法第一条第一項第一号に該当するので、債権者はその差止を請求し得べきもので、債権者はこれを被保全権利として債務者を被告として右不正競争行為の差止請求の訴を提起したが、その本案の確定をまつては債権者の蒙る損害が莫大になる虞れがあるので、同日当裁判所に対し債務者の右行為の差止の仮処分申請をした事案です。

 

■当裁判所の判断
Ⅰ.旧不正競争防止法1条1項1号の不正競争行為について

1.債権者のバター飴の容器(ステンレス製牛乳缶型容器)の周知性

 裁判所は以下の事実を認定し、債権者の本件商品は、殊にバター飴の容器にステンレス製牛乳缶型を使用していることにおいて、少なくとも北海道地方では広く認識されていたもの(周知性を有する)商品表示を有していた」と認定しました。

 「債権者が昭和47年4月ころ本件容器にバター飴を入れたものに、ラベル、包装箱を使用し、「北海道名産バター飴」との名称を付したものを、債権者の商品として販売するに至つた」。
 「債権者は申請外洞口製缶所に対し本件ステンレス製牛乳缶型容器の製造を依頼し、これを仕入れたものであること、債権者は、昭和47年4月ころの本件商品の発売以来同51年3月ころまでの3年間、本件商品を販売し、既にその販売数量は合計37万8950缶、卸総額は金2億3380万5000円に達し、債権者の中心的商品となつていたこと、そして、債権者の本件商品は、昭和50年3月優良道産品推奨協議会から優良道産品として推奨を受けた外」、「雑誌やパンフレツトに北海道の代表的土産物として写真付で掲載されたり、有名デパートにおいても販売されるに至つており、北海道内においては、ほとんどの土産品店で販売されるに至つていたこと、昭和47年4月ころ当時、既に申請外池田製菓株式会社、同北海道牧場株式会社は、着色したブリキ製牛乳缶型容器にバター飴を入れたものを商品として販売していたが、これに比し、債権者の本件容器は胴体部分にステンレスを使用していたことなどから好評を博していた」。

 「債権者の本件商品は、右容器の表示を以つてしては、未だ一般観光客、小売店の段階でこの出所が債権者であることを想起させる程度に周知」…とはいえないが、「本件商品は、容器としてステンレス製牛乳缶型を使用している特徴を有していたため、少くとも問屋の段階では債権者の商品として広く認識され」、前示のような販売実績等からみれば、一般観光客、小売店層においても、債権者の本件商品が特定の出所より出たものであることの認識は、かなりの程度で広まつていたものと推認」できる。

 

2.債務者の不正競争行為の有無

 裁判所は以下(1)(2)の事実を認定し「本件容器、ラベル、包装箱を含めて全体として、債権者、債務者の商品表示を比較すると、この間に商品表示の類似が存し、その出所につき何らかの関係が存するのではないかと思わしめる混同の虞」を生じると判断しました。 

(1)債務者及びその商品の販売開始について

「債務者は北海道地方で菓子類の製造、販売を業とすることを目的として昭和48年6月1日設立され」、「債務者が昭和50年4月中旬ころ本件容器にバター飴を入れたものに、「北海道銘菓バター飴」と表示して北海道地方において販売するに至つていた」。債務者代表者Mは「昭和46年2月から同48年2月までの間債権者に雇われ、殊にその間昭和47年4月以降からは債権者の本件商品の販売に従事していた」。

 「Mは昭和48年2月に債権者から退社したが、その後債務者が前示の如く菓子類の製造、販売を目的として設立されるや、その取締役に就任し、以来実質的に債務者の業務の運営に当つていた」。

 「Mは昭和49年8月ころ前示申請外洞口製缶所に対し、「別府市所在の申請外有限会社天喜屋本舗が、九州地方に限り本件容器を使用して菓子販売を行うので、本件容器を同会社に販売、納入してもらいたい」旨申入れたうえ、そのころ申請外洞口製缶所をして、申請外有限会社天喜屋本舗に対し本件容器を販売、納入させた」。そして、

「債務者は昭和50年3月ころ申請外有限会社天喜屋本舗から債務者に対し、右本件容器計12,444缶の転送仕入を受け、債務者はこれにバター飴をつめたものに、ラベル、包装箱を施し、「北海道銘菓バター飴」と名称を付した右商品を同年3月末ころ以降北海道内で販売を開始するに至つた」。


(2)債務者の牛乳缶型容器等について 

①判断基準

 「両商品が、ラベル、包装箱において全く同じ外見を有しているとはいえない」が、「不正競争防止法第一条第一項第一号においていう「他人の表示と同一若しくは類似のもの」とは、商品の出所につき誤認混同を生ずる虞があるか否かによつて決すべきであり、それには商品に使用された表示がその外観、称呼、観念等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とするのである。従つて、右類似のものというには、商品表示が細部にわたるまで完全に一致することが必要とされるわけではない。即ち、需要者は、一般的に商品購入の態度として商品を詳細に比較して購入するものではないし、又、必ず両商品が同時に販売されているわけでもないので、常に細部にわたり比較ができるわけのものでもない。そして、需要者は通常記憶している商品表示のイメージに基づいて商品の選択、購入をなすものであるから、商品表示の類似の判断に際しては、取引事情を全体として観察したうえ、一般需要者ないし取引者において、これを同一又は類似のものと考えるのが通常であるか否かによつて決すべきであるからである。そして、又、その商品表示のイメージを構成する主要な部分で共通のものがあれば、その商品表示は全体として類似があるものとみることができる」。

②本件に関する判断
 「債権者、債務者の両商品とも、その商品のイメージを構成する主要な部分は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶型容器を使用していることであり、債権者の本件容器の胴の部分に牛と北海道の地図のマークを組合せた打出しがあることは細部の違いに過ぎず、全体的にみれば、全く同一と考えてよいのである」。右ラベルは「その色、デザインに前示程度の違いがあるが、このラベルが本件容器に付けられた場合、本件容器の特徴ある形態および素材からして、債権者と債務者の商品につき、混同が生じなくなるとは考えられない」。包装箱は「周辺の部分がオレンジ色で縁どりされている点、地に黄色が使われている点は両商品とも同じであり、ただ債務者の商品の場合には、側面の地の上方部分に緑色が使用されているに過ぎないのであるから箱全体のイメージそのものは同一に近い」。「箱における他の部分における違いも、右の全体的イメージを変換させるものとはいえないうえ、そもそも、ステンレス製牛乳缶型容器入りバター飴を購入しようとする観光客等の需要者は、その包装箱によつてではなく、本件容器そのもので債権者の商品を選択しようとすると見るのが相当であるから、箱のデザインが多少異なつてい…ても、直ちに本件の商品においてその混同が生じなくなるものとは解せられない」。

 

3.債務者の反論(ステンレス製牛乳缶型容器の識別性・意匠出願との関係)

(1)「債務者は、債権者の本件商品の容器がステンレス製牛乳缶型であるところ、これを菓子の容器としたこと」は、「既に他の菓子製造業者において牛乳缶型容器入りバター飴を売出していたから、債権者の本件商品の容器及び販売方法に何らの独創性、新規性もなく、一般に慣用され自由に使用されていた表示である旨主張」したのに対し、裁判所は以下のように認定しました。

 「…同じ牛乳缶型容器とはいつても、一方はブリキ製の着色缶であり、他方はステンレス製の缶であるなど容器の形態、外見が全く異なつており、その間に混同を生ずるものということはできず、したがつて、本件商品はその容器において自他商品の識別力を十分そなえ」、また、「菓子の容器として本件容器を使用することが慣用せられた表示であると認めるに足りる証拠は存しない。そして不正競争防止法第1条第1項第1号にいう周知商品表示は必ずしも新規性、独創性のあるものであることを要しない」。


(2)上記のほか、他社の使用実態等も検討しても、債権者の本件商品表示の周知性の妨げとならず慣用表示ともいえないとしました。また、かつて、訴外会社が本件容器につき意匠登録出願をなしたが登録を拒絶された事実を認めたうえ、「債権者の本件商品が広く販売され、本件容器のため広く認識せられ周知性を獲得した場合に、これが不正競争防止法上保護されるかという問題であるから、債権者において本件容器の意匠権等の独占的権利を有することが前提とな」らないとし、意匠権を有しないことなどが、債権者の本件商品の周知性の認定に妨げとならないとしました。(その他省略)

 

4.現実の混同、営業上の利益の侵害のおそれ

 「債務者が債務者の本件商品を販売した昭和50年3月末から4月にかけて、問屋筋から債権者に対し本件商品の出所についての問合せが、現実に殺到し、債権者と債務者との商品の出所に現に混同が生じ」、「債務者の本件商品の販売がなお行なわれた場合に債権者が営業上の損害を受けることは明らかであり」、「債権者は、不正競争防止法第1条第1項第1号により、債務者の本件容器を使用した商品の製造、販売、頒布の差止を求めうるものということができ、又、右差止を仮処分によつてなす必要性もこれを肯認することができる」。

(以下省略)

 

■結論

 裁判所は、債権者の本件仮処分申請は理由があり、これを認容してなされた本件仮処分決定は相当であり、又これを取消すべき事情はないから、これを認可することとし、民事訴訟法第八九条を適用して、主文(債権者と債務者間の札幌地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第二七九号不正競争行為の差止の仮処分申請事件につき、当裁判所が昭和五〇年五月二四日なした仮処分決定は、これを許可する。)のとおり判決する。


■BLM感想等

 元従業員が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員が従前の会社の商品と同種の商品を製造・販売等する場合、元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。もっとも本件では、元従業員がステンレス製の牛乳缶型容器を使用したとしても、同容器を表示として識別力を発揮できるのか問題となり得るところであり、実際に、債務者もこの点争っています。

 BLMとしては確信はないのですが、本件で債務者の代表者Mは、債権者の元従業員であり、かつ、退社後、菓子類の製造、販売を目的とし債務者(会社)を設立し、原告も依頼していた申請外洞口製缶所に対し、「別府市所在の申請外有限会社天喜屋本舗が、九州地方に限り本件容器を使用して菓子販売を行うので、本件容器を同会社に販売、納入してもらいたい」旨申入れており、そういった流れの中で、不正競争の目的が認定しやすくなったこともあるのではないか、とも思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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