不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その28

 本日も、元従業員(本件では、業務委託を受けていた者)と、委託先の会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  東京高判平7・2・28〔学研映像政策室事件・控訴審?〕平5(ネ)2971

被控訴人(一審原告) 株式会社学習研究社(代表者S)
控訴人(一審被告)  株式会社学研映像制作室 (代表者D)

 

 

■事案の概要等 

 本件は、被控訴人(一審原告)が,控訴人(一審被告)の使用する商号は、原告の略称として全国に広く知られた「学研」の表示に類似するため、原告の営業活動と混同を生ぜしめ、右商号使用行為により原告の営業上の利益が害されるおそれがあるとして、旧不正競争防止法(平成5年法律47号による改正前のもの)1条1項2号(現行法2条1項1号に該当)に基づき、本件商号の使用の差止めなど求めた事案です。原判決では、原告の請求を容認したため、被告が控訴したのが本件です。

 

■当裁判所の判断

1.周知性

 裁判所は以下のように認定・判断しました。

 「被控訴人は、昭和22年3月31日設立され(現在の資本金は、180億5202万円余)、図書、雑誌、教科書その他印刷物の開発、製作、販売及び各種のPR映画、ビデオソフトウエア、テレビコマーシャルフィルム、教育映画の企画・製作等の事業を全国的規模で行った結果、遅くとも昭和54年までには、本件略称が被控訴人及び被控訴人の系列会社であることを示す営業表示として、日本国内において取引者、需要者の間に広く認識されていた事実を認めることができ」る。

 

2.使用許諾の有無

(1) 上記を前提に、裁判所は、H常務らの本件略称を商号として使用する許諾権限を有していたか、及び、Dに許諾したかについて以下のように判断されました。
 「昭和54年当時、H常務らが、被控訴人会社において、それぞれ控訴人主張の地位」(すなわち、常務取締役であり、かつ、映像局長であったH常務は、映像局の業務に関連して、また、右当時、映像局映像システム部長であったI部長は、同部の業務に関連して、いずれも、第三者に対して、本件略称の使用を許諾する権限を有していた)にあり、「Dが昭和52年2月頃から、右映像システム部で産業用PR映画の営業等の仕事を担当していた」。

 「被控訴人会社とDの関係は、被控訴人会社がDに対し、産業用PR映画の受注、制作等を主たる内容とした業務を委託した契約関係による」。「被控訴人会社の映画制作部門の組織改編に伴い、昭和54年8月、Dとの右業務委託契約が解消され」、これを契機に「Dは、自己の経験を生かして、産業用PR映画の制作等を業務とする会社の設立を計画し、控訴人会社を設立した」。
 また、控訴人会社は「昭和54年9月11日、名称を「株式会社学研映像制作室」、会社の目的を各種産業映画、ビデオ、スライド、テレビコマーシャルの企画制作等、代表取締役をD、として設立されたが、商号を「株式会社映像文化社」と変更し、その後、再び、従前の商号に戻し、現在に至る。

 

(2) 裁判所は、以下のような事実を認定した上、「下請けプロダクション等に対する本件略称の使用許諾をもって、本件略称の商号としての使用許諾に当たるとする控訴人の主張は採用できない」と判断しました。

 訴外Kは、自己の氏名の肩書として「学研映画」、「制作」と二段に書き分けるとともに「O・N・Oプロダクション」の名称とその住所地及び電話番号等をそれぞれ記載した名刺を作成、使用していた」。Kが「被控訴人の映画制作の仕事に従事する者であることは窺われるとしても、その所属するプロダクションが「O・N・Oプロダクション」であることは前記の記載自体から明らかで」、「右名刺の記載をもって本件略称を右プロダクションの商号として使用したものと認める余地はない」。また「被控訴人の映像局においては、映画制作に当たり、各種プロダクション等を下請けとして使用する際、当該映画の制作期間中に限って、業務の円滑な進行を図る観点から、右下請けのプロダクション等に本件略称を使用することを許していた」。この事実によれば、その事例の一つと推認でき、「前記の名刺の存在が、本件略称を商号として第三者が使用することを許諾していたことの根拠とな」らない。「被控訴人が受注した映画の制作上の必要から、いわば当該プロダクションが被控訴人の監督下にあることを示す趣旨で、右制作期間中に限って採られた措置で」、「永続的な営業表示としての使用を許諾する後者と許諾の趣旨が異なる」。

 

(3) 裁判所は、「控訴人が被控訴人に対する関係において、一貫して「株式会社映像文化社」の商号を使用し続けていたことからみて、控訴人が本件商号の使用の許諾を被控訴人から得ていたとするには極めて重大な疑問があるものといわざるを得ず、前記の単なる経理処理上の便法であるとの記載及び供述部分をもって右疑問を払拭することは到底困難である」と判断しました。
 

(4) Dは「H常務らが、関西電力から受注したPR映画の処理の必要上、本件略称を商号として使用することをDに対して懇請し、これを許諾したとの控訴人の主張」があるが、「被控訴人と関西電力との関係については…契約面はもとより実質上の制作面においても何ら変更はなか」く、「被控訴人の映像局の組織改編の結果、被控訴人において、関西電力から受注した前記のPR映画の処理のために、Dに本件略称を商号として使用することを許諾する必要性が生じたとする合理的理由を見いだすことは困難である」。

 

(5)種々の認定事実から、裁判所は「Dにおいて、H常務らから本件略称を商号として使用することの許諾を受けたとの控訴人主張は、H常務らが許諾権限を有するとの点においても、また、同人らがDに対し許諾を与えたとの点においてもいずれもこれを認め」られないとしました。


(6) 裁判所は、「本件商号が、被控訴人の営業表示として全国的に周知である本件略称を要部とすることはその構成自体から明らかであるから、両者は類似し、控訴人が、本件商号を用いて映画制作等の営業活動は被控訴人のそれと混同を生ぜしめるものと認められ,これにより被控訴人が営業上の利益を害せられるおそれがあるため、被控訴人の請求は理由があると判断しました。
 

■結論

 旧不正競争防止法1条1項2号に基づき,本件商号の使用の差止め及びその抹消登記手続を求めた事案の控訴審において,本件略称を被告の商号として使用することについて,原告から許諾を得ているとの主張を斥け,原告の請求を認容した原判決を支持しました。


■BLM感想等

 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。これまで見てきた裁判例では、元従業員等が、その勤務先の会社等において、製品の製造ノウハウや販売方法等を自己に蓄積させ、それをもとに自分で事業を始める際に、従前勤めていた会社と紛争になるケースが比較的多かったように思います。これに対し、周知性が認められるような表示を巡る紛争においては、結果として、元従業員等のフリーライドが認定されるケースとなるような気がします。本件では、従業員というよりは、業務委託者と受託者の関係解消事例ではありますが、ある顧客から依頼を受け、映像製作等のように、下請けプロダクションを用いて一つの作品等をつくるような現場で、下請け業者(受託者)が、その委託者の組織の一人のようにふるまうというのはあり得るわけで、その際に、委託者の商号や営業表示を用いる場合もあり、エスカレートすると本件のようなことが起こり得るのかもしれません。

 上記裁判例で、一例として、「Kは、自己の氏名の肩書として「学研映画」、「制作」と二段に書き分けるとともに「O・N・Oプロダクション」の名称とその住所地及び電話番号等をそれぞれ記載した名刺を作成、使用していた」との事実が認定されていますが、そのような使用は、裁判所の言う通り「右名刺の記載をもって本件略称を右プロダクションの商号として使用したものと認める余地はない」と言えると思いますが、知財リスクを考えると、「学研映画」、「制作」と二段に書き分けるとともに「O・N・Oプロダクション」の名称とその住所地及び電話番号等をそれぞれ記載した名刺を作成」すること自体、なるべく避けるべきで、名刺に併記するのであれば、その表示の使用上の約束等は一定程度定めておく必要があるように思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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