不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その27

 本日も、元従業員と、その所属先であった会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  大阪地判平7・4・27〔レンジフード用フィルター事件〕平5(ワ)1057

原告 ㈱近畿設備
被告 ㈱ジャパンライフ

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が、被告に対し、その従業員が被告の指示に基づき、原告の商品又は営業表示として周知の「株式会社近畿設備」の商号に類似する「近畿設備」の商号を使用したり、種々の表現で被告が原告の関連会社である旨を標榜するなどして、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告は営業上の信用を害されていると主張し、不正競争防止法2条1項1号、11号等に基づき差止請求等求めた事案です。


◆当事者
(1)原告代表者は、昭和59年ころから「近畿設備」の屋号で浄水器やドアストッパー等の販売を開始し、昭和63年ころからレンジフード用フィルター枠及びフィルターを販売しており、平成元年1月30日に住宅設備機器等の製造販売を目的とする原告会社を設立し、主としてレンジフード用フィルター枠及びフィルターを「フードクリーン」の商品名で訪問販売の方式により販売。
(2)被告は、平成2年6月末ころから同年12月初めころまで原告に勤務していたE.A.により平成3年4月6日に設立され、レンジフード用フィルター、浄水器…等の訪問販売。

 

■争点
 本ブログでは以下の争点1及び2についてみていきます。争点3については認められていません。

損害賠償については、下記争点1及び2の認定に基づき、さらに損害額について検討されておりますが本ブログでは省略します。

1 原告の商号「株式会社近畿設備」は、原告の商品表示、営業表示として需要者の間に広く認識されているか(周知性)。
2 被告従業員は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告の関連会社である旨を標榜しているか。
 これらの行為により、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告の営業上の信用が害されているか。
 これらの行為につき被告が使用者責任(民法715条)を負うか。
3 原告の請求は権利濫用に当たるか。

4 損害賠償請求

 

■当裁判所の判断

1.原告の商号「株式会社近畿設備」は,原告の商品表示、営業表示として需要者の間に広く認識されているか(争点1)

 裁判所は、認定の事実により以下のように判断しました。

 「原告は設立以来レンジフード用フィルター枠及びフィルターを中心に売上を増大させ、平成3年4月1日から平成4年3月31日までの売上高は3億9815万4997円、平成4年4月1日から平成5年3月31日までの売上高は6億6848万5124円に達し、全国に営業所、支社、代理店等を展開し、大量のパンフレットの配布、番組の放映、求人雑誌への求人広告の掲載等により原告の営業及びその販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターの宣伝広告をし、また、レンジフード用フィルター枠及びフィルターの訪問販売に際しては、制服、名札、商品を入れるビニール袋、領収証、社用車に原告の商号の表示をしていた」。
 「そうすると、原告の販売する主たる商品がレンジフード用フィルター枠及びフィルターであって、その販売方法は主としてマンションの戸別訪問販売によるものであるという事情も考慮すれば、原告の商号は、遅くとも平成四年の前半までにはレンジフード用フィルター枠及びフィルターの販売に関して原告の商品表示及び営業表示として広く認識されるに至った」。

 「なお、原告の販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターには「フードクリーン」という商品名があるが、その販売の方法は右のとおり訪問販売であって、販売員は「株式会社近畿設備」を名乗って売込みをし…特に「フードクリーン」という商品名を強調して販売しているわけではなく、消費者は、店頭販売の場合とは異なり、主として原告の商号によって商品を識別している」から、商品名の存在は、原告の商号が原告の商品表示として周知性を取得したと」の認定を妨げない。
 

2.被告従業員は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告の関連会社である旨を標榜しているか。これらの行為により、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告の営業上の信用が害されているか。これらの行為につき被告が使用者責任〔民法七一五条〕を負うか(争点2)

 

(1)被告においても、販売員の給与は歩合給制を採用し、「消費者(マンション居住者)方のレンジフードにフィルターを留めるためのレンジフード用フィルター枠及びフィルターをまず販売し、その後継続的に交換用のフィルターを販売するという販売形態が採られ…原告のレンジフード用フィルターを購入している顧客に被告が…販売することは、一般に困難で」、「原告の商号が原告の商品表示、営業表示として周知性を取得し…後発企業である被告は、販売面で相当の努力を要する」などの事情から、裁判所は「被告従業員の中には、被告のレンジフード用フィルターを、既に原告の顧客となっている者に売り込むに際して、「近畿設備の者です。」等と言って近畿設備の商号を使用する者があった」との事実を認定しました。そして、原告が被告に停止を求めた後も、「近畿設備」の名を挙げて被告が原告と関連する会社であるかのように述べるケースも多」いなどの事実を認定しました。

 

(2)そして、裁判所は「原告の販売するレンジフード用フィルター及びフィルター枠と形状、大きさが類似しているレンジフード用フィルター及びフィルター枠を販売するに際し、被告従業員が、原告の商品表示及び営業表示として周知の「株式会社近畿設備」に類似する「近畿設備」の商号を使用したり、「近畿設備」の名を挙げて被告が原告と関連する会社であるかのように述べれば、原告と被告の商品及び営業に混同を生じることは明らかである(不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」には、類似の商品表示又は営業表示を使用する者が、自己と周知の商品主体又は営業主体との間に系列関係などの緊密な営業上の関係があるように誤信させることも含まれる〔いわゆる広義の混同〕。)と判断しました。

 

(3)また、認定事実により、裁判所は「被告従業員による不正競争行為は、被告従業員が被告の事業の執行につきなした」ことは明らかとし、「被告代表者は、これらの行為を積極的に奨励しているわけではなく、一応これらの行為をやめるように言ってはいたものの、厳しくは注意せず、最終的には放置ないし黙認しており、さらには、被告従業員に対し、顧客から「近畿設備ですか。」と聞かれたときは「メーカーです。」と答えるように指示までしていた」から、「被告自身の行為と評価すべき」で、「これらの不正競争行為の差止めを求める原告の請求は、他に格別の事由がない限り、理由がある」としました。
 また「被告が被告従業員の選任及び監督につき相当の注意をなしたと認められないこと」は明らかとし、「被告は、他に格別の事由のない限り、民法715条に基づき右不正競争行為により原告の被った損害を賠償すべき義務を負う」と判断しました。

 

(4)裁判所は、被告のものが、原告が販売するものより、特に性能が劣る…証拠はないなどとして、「不正競争防止法2条1項1号の商品主体・営業主体混同行為として評価すれば足り、さらにそれを超えて営業誹謗行為が成立するような事情は認められない。」と判断しました。

 

3.結論

 裁判所は、原告の被告に対する請求、すなわち「レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用してはならない」旨、「被告は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備がジャパンライフにフィルターの販売を依頼している。」「ジャパンライフは近畿設備と関連会社です。」…等、被告が株式会社近畿設備(原告)の関連会社である旨を標榜してはならない」旨の請求、一定の損害金の支払い等を認めました。


■BLM感想等

 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。これまで見てきた裁判例では、元従業員等が、その勤務先の会社等において、製品の製造ノウハウや販売方法等を自己に蓄積させ、それをもとに自分で事業を始める際に、従前勤めていた会社と紛争になるケースが比較的多かったように思います。これに対し、本件では、原告の商品表示又は営業表示である「近畿設備」の周知性が認められた事例でもあり、その周知性にフリーライドするような事実が認められ、少々残念なケースでした。換言すれば、周知性が認められるような表示と同一又は類似の表示を使用する場合は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当してしまう点は注意が必要かと思います。このような場合でも、同号の不正競争が成立しない場合について、今後、他に裁判例を見ていく中で探せれば、と思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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