不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その25

 本日も、元従業員等と、その所属先であった会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  東京地判昭58・2・16〔桐杏学園事件〕昭54(ワ)10748、昭55(ワ)773

 

原告(反訴被告)・株式会社桐杏学園
被告(反訴原告)・

 

■事案の概要

 原告は「桐杏学園」という名称を用いて小、中学生等の一般教育事業を行つている株式会社であり、被告は、末広英数教育センターという名称で小、中学生を対象とする学習塾を経営する者であるが、昭和54年7月ころ「桐杏学園系列校」という表示を付した生徒募集用の葉書を配布し生徒募集を行つたため、原告が、被告に対し、被告の経営する「末広英数教育センター」と原告とが、あたかも系列関係にあり又は同一の営業に属するかのような誤認混同を生じさせるとして旧不正競争防止法第1条第1項第2号(現行法2条1項1号に該当)に基づいて、「桐杏学園系列校」という表示の使用の差止等求めた事案です。

 なお、被告は、会社組織となる以前の桐杏学園にかつて生徒募集係の事務員としてごく短期間勤務していた者でした。

 

■当裁判所の判断

1.不正競争行為の成立要件

 裁判所は、「被告がその経営する末広英数教育センターという塾の名称に「桐杏学園系列校」という表示を付して生徒募集をした行為は、被告の経営する右の塾が原告の経営する桐杏学園と系列関係にあり、原告の施設又は営業活動とつながりのあるかのような誤認混同を生じさせる行為であることは、被告の用いた右表示と原告の営業表示とを対比すれば明らかである」と判断しました。その上で、被告の抗弁について以下判断しました。(下線筆者)

 

2.被告の抗弁に対する判断

 裁判所は、以下のように認定・判断しました。
(1)被告は、「昭和53年8,9月ころ、原告の企画部長であるBから被告の経営する塾に桐杏学園系列校ないし姉妹校という表示を使用することについての許諾を受けた旨の被告の抗弁」の供述について、裁判所は、以下の事実等を検討し「にわかに措信できず、他に抗弁…の合意の成立を認めるに足る証拠はない」と判断しました。
 「被告は…、小、中学生を対象とする学習塾を開設するに際し、原告の経営する桐杏学園との関連を持つ塾をつくることを思い立ち、原告代表者Sに対し、塾の開設への協力方を数回にわたり申入れたが、はかばかしい返事が得られ」ず、当時原告の従業員で企画部長の肩書を有したBに同様の要請をし…、「被告と初対面であつたBはできるだけのことはする旨の挨拶程度の返事はしたがそれ以上具体的な話はしなかったこと」、「Bは、被告がその経営する塾に桐杏学園系列校ないし姉妹校といつた表示を付することにつき原告を代理して許諾する何らの権限をも有」せず、B自身熟知していた。

 また「被告と原告とのかかわり合いは、被告が会社組織となる以前の桐杏学園に生徒募集係の事務員としてごく短期間勤務したにすぎず、かつ、被告は、Bとの交渉に先立ち原告代表者と交渉してはかばかしい返答が得られなかつたのであるから、被告としては、原告代表者が被告の要請に答えて、被告経営の塾に前記表示を付することを応諾することに否定的であることは十分承知していたと推認され」る。

 

(2)さらに被告は、抗弁2としてBが原告を代理する権限を有しなかったとしても、Bが被告に対して上記表示の使用許諾を追認したと主張している点に対し、裁判所は、「使用を許諾したこと自体が認められない」のに加え、「無権代理行為の追認ということはありえず、また、被告の右主張を原告代表者が被告に対し、「桐杏学園系列校」という表示を使用するについて改めて許諾を与えたものと解するとしても、被告本人尋問の結果中この点についての供述部分は極めてあいまいであつて右事実を認定するに足らず、他にこれを認定するに足る証拠はない」と判断しました。

 

3.差止請求・損害賠償請求について

(1)裁判所は、以下の事実等を認定し「被告が将来再び学習塾を経営し、「桐杏学園系列校」という表示を使用する虞れ」があるとは認められないなどとして、営業上の利益を害せられるおそれを否定し、原告の差止請求は理由がないとしました。

 「被告は、昭和54年7月ころ、その経営にかかる末広英数教育センターの夏期生徒募集用の葉書に「桐杏学園系列校」という表示を使用したが」、それ以前には、継続的に右表示を使用した事実はないこと、「被告は、右の二回にわたり、前記表示を使用して生徒募集をしたが、生徒が集まらず、学習塾の経営に行き詰まり、学習塾の経営を断念して廃業し、現在は別の仕事に従事しており」、「再び学習塾を経営する意思のないことを明言している」。

(2)裁判所は、損害賠償請求についても、損害額の内容が抽象的すぎる等とし、また、被告の「本件行為に応じて末広英数教育センターに入つた生徒は皆無であつた」とし、「被告の本件行為により直ちに原告の社会的信用が害されたものとは認められ」内などとして認めませんでした。

 

■BLM感想等
 本件は、だいぶ昔の裁判例です。現在は、他人の会社や組織の名称等を勝手に使用してはいけないといったことは、いわば常識となっているかもしれません。ですので、本裁判例の事実や判断について特にコメントはありませんが、旧不正競争防止法1条1項2号(現行法2条1項1号)の不正競争の成立要件については検討する余地があると思います。すなわち、原告が「「桐杏学園」の名称は原告の営業を示す表示として広く一般に認識されている。」と主張した点について、当事者間に争いはないところ、裁判所も特に周知性の判断をせず「被告がその経営する末広英数教育センターという塾の名称に「桐杏学園系列校」という表示を付して生徒募集をした行為は、被告の経営する右の塾が原告の経営する桐杏学園と系列関係にあり、原告の施設又は営業活動とつながりのあるかのような誤認混同を生じさせる行為であることは、被告の用いた右表示と原告の営業表示とを対比すれば明らかである」(下線筆者)と判断と述べています。確かに原告表示「桐杏学園」に対し、「桐杏学園系列校」と表示する点では、周知性に対する立証がなくとも、表示の態様から直ちに混同すると判断できるかもしれません。

 しかし、このような使用態様は、そもそも識別力を生じさせるものではなく、記述的使用とも言えます。

 被告の抗弁として、「記述的使用であり、識別力を発揮する使用ではない」といったことであれば、その抗弁自体は認められる余地があると考えます。

 その上で、実際に系列校であったのかが問題となりますが、使用許諾の有無を検討し、裁判所はこれを否定したわけです。そうすると、「系列校」と表示するのは、虚偽表示等の問題であったかもしれません。

 もっとも、裁判所は、被告が廃業等したことによって差止請求を認めず、また、被告の行為によって被告に入った生徒は皆無であった等により損害賠償請求を認めなかったので、結論は、周知性の認定をしてもしなくても変わらないと思います。原告としては、損害賠償請求を多少認めてほしいところではありますが、旧法1条1項2号(現行法2条1項1号)では難しかったということかもしれません。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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