不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その24

 本日も、元従業員と、その所属先であった会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  名古屋地判平16・6・24〔チルド赤箱シュウマイ事件〕平15(ワ)3454(名古屋高判平17・5・19〔チルド赤箱シュウマイ事件・控訴審〕平16(ネ)674 )

 

原告・有限会社ラクショクフーズ
被告・有限会社楽食

 

■事案の概要

 本件は、原告が製造販売している焼売の包装箱等に類似する包装箱等を被告が使用して混同を生じていると主張して、被告に対し、不正競争防止法2条1項1号等に基づき、類似の包装箱等の使用差止等を求めるとともに,法4条に基づき損害賠償を求めるほか,原告のメーカコード番号を無断で使用していると主張して,その使用差止めを求める事案です。


◆当事者等
 ア)原告は漢方生薬の輸入販売等を目的とし「有限会社泰山製薬」の商号をもって設立され、平成12年6月26日、現在の商号に変更し、その目的を焼売、ギョウザ、春巻等中華料理食品の製造及び販売等に変更しました。
 イ)被告は、平成13年10月25日に、上記と同様の中華料理食品の製造及び販売等を目的として設立されました。
 ウ)訴外楽食株式会社は昭和51年5月18日に設立され,上記と同様の中華料理食品の製造販売を業としてきたが第1回目の不渡りを出して事実上倒産し…
原告から破産を申し立てられ、平成14年5月17日、横浜地方裁判所で破産宣告を受けました。
 

 原告は,平成12年7月下旬若しくは8月ころから「チルド赤箱焼売」「チルド肉焼売」「チルド牛肉焼売」「チルド焼賣横濱名菜」及び「チルド肉シュウマイ」の各商品名を有する焼売をそれぞれ順に別紙原告包装箱目録イないしホの包装箱に入れて販売し,さらに,「チルド肉焼売まんぷく」及び「チルド中華焼売」の各商品名を有する焼売をそれぞれ順に別紙原告シール目録イ,ロのシールを貼付して販売しています(以下,上記各包装箱と各シールを併せて「本件包装箱等」といい,上記各焼売の商品を併せて「本件各商品」)。
 

 被告は,平成14年1月ころから,「チルド赤箱焼売」「チルド肉焼売」「チルド牛肉焼売」「チルド焼賣横濱名菜」及び「チルド肉シウマイ」の各商品名を有する焼売をそれぞれ順に別紙被告包装箱目録イないしホの包装箱に入れて販売し、「チルド肉焼売まんぷく」及び「チルド中華焼売」の各商品名を有する焼売をそれぞれ順に別紙被告シール目録イ,ロのシールを貼付して販売し(以下,上記各包装箱と各シールを併せて「被告包装箱等」)、被告包装箱等は,字体,図柄,配置,配色などから成るデザイン,規格,材質等の面において,いずれも対応する本件包装箱等に酷似しています。
 なお、訴外会社は、流通コードセンターに流通コードセンターが事業者を識別するために事業者単位で事業者に貸与する7又は9けた「JANメーカコード」の貸与申請を行い,コード番号「4903355」(以下「本件バーコード」)の貸与を受け,使用していました。被告は、その販売する商品に本件バーコードを表示して使用していました。

 

■争点
 本件包装箱等と類似する被告包装箱等を使用して焼売を販売する被告の行為が,法2条1項1号の商品主体混同行為に該当するか。具体的には、
ア)本件包装箱等は,原告を出所とする商品表示足り得るか。
イ)本件包装箱等は,本件各商品を表示するものとしての周知性を有するか。
ウ)被告包装箱等を使用して焼売を販売することにより,本件各商品との混同を生じさせるか。
(2)原告は,被告による本件バーコードの使用の差止めを求めることができるか。
(3)原告の被った損害額

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.不正競争行為の成否(争点1)について

1.趣旨
 不正競争防止法2条1項1号の趣旨は「一般に,商品等表示は,商品の販売若しくは営業の遂行に際し,その商品又は営業を他の事業者のものと区別するために使用されるものであり,かかる事実状態が積み重なることによって,その商品又は営業に対する需要者の信用が次第にその表示に化体,形成されるが,そのような他人の商品等表示と同一又は類似の表示を使用して需要者の間に混同を生じさせることにより,表示に化体した他人の信用に不当にただ乗りする行為を規制することにある」。

 

2.商品等表示性
 「この点…商品表示性の有無は,その表示が一定の出所ないし主体を示すものとしての特徴,すなわち自他識別機能を有しているかという問題であり,その出所ないし主体がだれなのかという問題とは関わりないところ,…本件各包装箱は,その字体,図柄,配置,配色などから成るデザイン等の面において,いずれも相応の特徴を有しており,焼売の容器等として極めてありふれたものではないと認められ」、「商品表示性を肯定するのが相当である」
 

3.「需要者の間に広く認識されている」こと(周知性)

 「「周知性」とは,保護の対象となる表示について他人の信用が蓄積されたと評価できる程度に,換言すれば,他者による冒用を許すことが取引秩序上の信義衡平に反すると評価できる程度に知られていることを意味すると解されるから,通常は,商品等表示の使用者が,相応の時間と費用をかけて,あるいはそれほど使用期間が長くない場合には,そのことを考慮する必要がないほど,営業努力を払うことが求められる」。「もっとも…同一ないし類似の商品等表示を使用する相手方の営業地域において,その営業対象とされている顧客層を基準として,当該表示にその主体の信用が化体していると評価し得る程度に営業上の優越的な地位が肯定されることが必要にして十分であり,かつその基準時は,差止請求については口頭弁論終結時であり,損害賠償請求については損害が発生したと主張する時点である」。そこで本件について判断するに…以下の各事実を認めることができる。


ア 訴外会社における焼売等の販売状況
(ア)「訴外会社は,焼売,ギョウザ,春巻等の中華料理食品の製造販売等を目的として昭和51年5月18日に設立され…焼売製造業界では高級品を製造する業者として知名度が上がり,中央卸売市場や大手スーパー数社を得意先として,最盛期には一月当たり数億円以上の売上げがあった」。「なお,訴外会社の代表者であったDは,その設立以前から焼売に関する仕事を行っており,訴外会社においても,商品開発,企画,デザイン,技術指導等の中心となっていたほか,営業活動をも担当していた」。
 「しかし,景気の悪化に伴って,販売店が特売を仕掛けるたびに,訴外会社は,量産を強いられたが,製造能力が追い付かなかったため,欠品が続き,それによる損害額が1000万円以上に上った。‥‥手形不渡りの後,訴外会社は,スーパー等の信用を失って取引を続けることができ」ず、「一月当たりの売上げは,同年3月が7000万円で,同年7月が5000万円にとどまった」。


イ 原告が訴外会社の工場等を譲り受けた経緯
(ア)「原告は,漢方生薬の輸入販売業等を目的とし,泰山製薬の商号をもって,平成10年7月28日に設立され」、平成12年5月10日,訴外会社が使用していた設備を730万円で買受(同日に500万円,同月22日払),可児工場の土地建物については,原告代表者の兄らが取得した」。「その後,原告は,同年6月26日,現在の商号に変更するとともに,その目的を焼売,ギョウザ,春巻等中華料理食品の製造及び販売等に変更した」。
(イ)訴外会社の債権者は「平成12年7月5日、訴外会社に対して,売掛代金…の支払の催告と,これがなされない場合は資産の差押えを行う旨記載した内容証明郵便を送付」し、訴外会社の代表取締役であったDは「原告との間で営業譲渡契約書と題する書面に記名押印した」。「その2条には,本契約に基づく営業譲渡に伴い譲渡される財産は,譲渡日現在の訴外会社の本営業に属する資産のみとし,負債は除外する旨…」等定められている。「訴外会社の臨時株主総会において,原告に対する営業譲渡と可児工場の賃貸を承認した旨の議事録が,Dら3名の取締役の記名押印をもって作成され」るなどしている」。なお、「訴外会社の債権者らから複数の詐害行為取消訴訟等が横浜地方裁判所に提起されて,現在も係争中である」。


ウ 平成13年10月までの本件各商品の製造販売状況
(ア)「原告は,平成12年7月下旬ないし8月ころから,原告が借り受け若しくは買受けた訴外会社の工場において,訴外会社の元従業員らを雇用して,焼売の製造販売を開始したが,その際,訴外会社の包装箱等や本件バーコードの使用を継続し,訴外会社の営業所,本社事務所もそのまま使用する」などとした。他方、訴外会社の代表者であったDは「原告の被用者として焼売製造の技術指導,生産管理等の業務に従事するようになったほか,従前の人脈をいかして,営業をも担当した」。「なお,1年間の棚上げが了承されなかった訴外会社の従前の債務については,原告が,訴外会社に対する立替金の形式をとって,返済してゆくこととなった」。


(ウ)「しかし、Dは、平成13年10月ころ,訴外会社の債務の処理を巡って原告代表者等と争いになり,原告を退職した」。


エ 被告の設立とその後の状況
「被告は,平成13年10月25日,Dの妻Eの弟であるBを代表者とし,焼売,ギョウザ,春巻等の中華料理食品の製造及び販売業等を目的として設立され」、「チルド赤箱焼売」「チルド肉焼売」「チルド牛肉焼売」「チルド焼賣横濱名菜」「チルド肉シウマイ」「チルド肉焼売まんぷく」及び「チルド中華焼売」の各商品名を有する焼売をそれぞれ製造し、「被告包装箱等を使用して,関東地方や東海地方を中心に販売を開始した。そして,Dは,従前の人脈をいかして被告の営業活動に従事している」。
 「原告の売上げは,被告が設立された平成13年10月ころから減少し始めたため,原告は,平成14年1月12日、被告とは関係がない旨を記載した書面を関東地方の取引先に送付したが,かえって,同地方における売上げの激減を招いた」。


オ 訴外会社の破産
 訴外会社は「いったんは任意再生が試みられたものの,平成14年1月24日,原告が横浜地方裁判所に対して訴外会社の破産を申し立てたことにより,同年5月17日午前10時,同裁判所において破産宣告を受けた」。


(4)以上の認定事実を基に,本件包装箱等の周知性の有無について判断する。
「前記認定事実アのとおり,訴外会社は,卸売業者や大手スーパーを得意先とし,一時期は一月当たり数億円を売り上げたこともあったが,景気の悪化に伴って,特売を催す販売店の需要に応えられずに欠品が続き,平成12年1月31日に第1回目の手形不渡りを出したこと,そのため,スーパー等との取引も中止せざるを得なくなったこと,訴外会社の1月あたりの売上は,同年3月が7000万円,同年7月が5000万円であったが,焼売市場の…に照らすと,わずかな市場占有率にすぎないこと,大口債権者らから債務の返済を1年間猶予してもらって経営再建を試みたが,困難な状況にあったこと,以上の事実が認められ,これに,焼売については商品開発が度々なされること、本件包装箱等の形態は、焼売の包装箱等としてはだれもが注目する際立った特徴を有するとまではいえないこと…をも考慮すれば,出荷販売量が激減した同年7月ころには,本件包装箱等は,訴外会社の商品を表示するものとしての周知性を相当程度失ったと判断するのが相当である」。

 そして「原告は,訴外会社の工場等を借り受け若しくは譲り受けて…訴外会社の元従業員を雇用して本件各商品の製造・販売を開始したが,本件各商品のうちで最も販売量が多いチルド赤箱焼売の販売数は,同年9月には22万パックであったものの,…落ち込み,その後,…持ち直した」、「原告の主力市場である名古屋地区」も、「同様の傾向が見られ…る」。しかし「東海3県の小売販売店のうち系列販売店だけでも823店舗に上ることを考慮すると…1店舗当たりわずかな数量しか販売して」おらず、「関東地方の販売店舗数が少なくとも東海3県のそれを大幅に上回ると考えられることに照らせば,その販売密度は極めて薄い状態が相当期間継続し…たと判断」できる。
 加えて「被告が設立された平成13年10月以降,原告の商品売上げが減少し,被告が原告と関係を有しない旨を通知した平成14年1月以降,関東地方の売上げが激減したことや,原告が焼売等の製造販売を開始した…ころから被告設立までの間,原告が独自にその商品等の販売のための宣伝・広告を行った形跡をうかが」えないことを考慮すると、「平成13年10月当時,さして多いとはいえない原告の売上げは、専らDらの個人的人脈や訴外会社とのつながりによって支えられていたものであり,原告が営業上の努力を尽くした結果,その信用が本件包装箱等に化体していたとは到底認められないから,本件包装箱等が原告の商品を表示するものとして被告が営業活動をしている横浜地区及び名古屋地区における周知性を肯認することはできない」

(下線筆者)


イ 次に,原告が,本件口頭弁論終結時までに本件包装箱等の周知性を獲得したかについて判断する。
「平成13年10月以降本件口頭弁論終結時までに,被告の主たる営業範囲である関東地方及び東海地方において,本件包装箱等を使用した焼売の販売の点で,原告が被告よりも優位に立っており,本件包装箱等に原告の信用が化体しているとは到底認められない」。

 「〔1〕仮に被告が不当な安売りを行ったとしても,法2条1項1号は,一定の商品等表示において優位に立っているという事実状態を保護するものであるから,かかる事情は,その結果である販売数量を周知性の判断資料とすることの妨げになるものではないこと,〔2〕…原告が「みなと新聞」で広告した商品は,本件各商品ではないから本件包装等の周知性を基礎付けるものではないこと,…〔3〕…「ニュー赤箱シュウマイ」と本件各商品とは異なり,前者が好評だからといって本件包装箱等の周知性を基礎付けるものとはいえない」。「よって,本件包装箱等は,平成13年10月頃はもとより,口頭弁論終結時においても,原告の商品を表示するものとして周知性を有するとは認められない」。


2.本件バーコードの専用使用権の有無(争点2)
 「本件バーコードは,かつては訴外会社が流通コードセンターから貸与され,使用していたが,現在では,被告の製造販売する商品に表示されて使用されていることが認められるところ,原告は,訴外会社から,営業譲渡の際に,本件バーコードの専用使用権を譲り受けたと主張し,被告に対して,その使用差止めを求めている」。しかし「その商品等にJANコードを表示したり,その識別番号として利用しようとする事業者は,流通コードセンターが定める貸与規約を承認した上で,同センターに申請してJANメーカコードの貸与を受けなければなら」ず、「JANメーカコードの使用権限は,同センターと貸与された事業者との間の契約に基づいて発生する債権的なものである」。「上記契約当事者の関係にない原告から被告に対して,本件バーコードの使用差止めを求め得るものではなく(ちなみに,上記規約第9条によれば,営業譲渡等によって貸与されたJANメーカコードを他の事業者に使用させようとする場合…,その他原告の排他的使用権を理由付ける法律上の根拠が明らかでない以上,上記請求を認めることはできない」。

 

■BLM感想等
 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。本件では、これまで見てきた元従業員と会社の紛争事例とは異なり、従来、焼売等の商品について、一定程度周知性が認められ得た訴外会社が破産し、その前段階で、当該訴外会社の代表取締役Dは、原告に営業譲渡と可児工場の賃貸を行っており、原告が従前の営業を引き継ぎ、事業を継続する一方、訴外会社の元代表取締役Dが、被告を設立し、従前と同様の商品を製造・販売し、紛争となった事案でした。

 原告としては、訴外会社の代表取締役Dが被告を立ち上げ、同様の商品を販売することは、裏切り行為のように思え、差止等したい気持ちは多少解ります。しかし、本件では、競業避止義務違反等や契約により縛りの話は出ていないようです。さらに、訴外会社の元代表取締役Dとの関係について、裁判所は「被告設立までの間,原告が独自にその商品等の販売のための宣伝・広告を行った形跡をうかが」えない」とか、「さして多いとはいえない原告の売上げは、専らDらの個人的人脈や訴外会社とのつながりによって支えられていた」と認定し、ある意味、Dの営業努力を評価しているぐらいです。

 かかる状況で、原告としてはどうすればよかったのか考えるに、訴外会社から営業譲渡を受けてから、裁判所の判断基準によれば「商品等表示の使用者が,相応の時間と費用をかけて,あるいはそれほど使用期間が長くない場合には,そのことを考慮する必要がないほど,営業努力を払うこと」が必要であったのでしょう。なお、本裁判例では、強調されていませんが、不正競争防止法2条1項1号の適用上、判例は、出所は匿名でもよいとされているので、出所が原告であるとの明らかな情報を訴求する必要はないと思いますので、結局、従前の評判がまだ残存しているうちに、商品の販売数や売り上げ、品質、宣伝広告等を上げる努力が必要、という単純な話ですが、結局一番難しい話ということになりますね。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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