不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その19

本日も、原告の元従業員(取締役)と、原告との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  大阪地判平30・3・15〔GOMIC事件〕平27(ワ)6555,同6557,同6781,同8600、同8602、平28(ワ)5501(大阪高判平31・2・14〔同・控訴審〕平30(ネ)960

 

原告 日本クリーンシステム株式会社
被告 P1
被告 太陽工業有限会社(以下「被告太陽工業」という。)
被告 銀座吉田株式会社(以下「被告銀座吉田」という。)
被告 株式会社サン・ブリッド(以下「被告サン・ブリッド」という。)
被告 P2

 

■事案の概要
 本件は、原告が、ゴミ貯溜機に関する「本件技術情報」が不正競争防止法上の営業秘密である旨主張して、P1を除く被告らに対し、ゴミ貯溜機の製造販売等の差止等求め、P1に対し同法及び秘密保持契約違反に基づきゴミ貯溜機に関する本件技術情報の使用開示等の差止め、被告ら全部に対し、同法違反の不法行為に基づく損害賠償、P1に対し上記契約違反に基づく約定損害金の支払を求め、また、ゴミ貯溜機の商品表示が周知商品等表示であることを前提とする不競法に基づき又は同商品表示の商標権に基づき、被告銀座吉田に対し類似標章の使用差止め及び商標権侵害に基づき損害賠償を求めた事案です。

 

■争点

(1)本件技術情報は不競法上の営業秘密であるか。
(2)各被告の不正競争行為の成否
(3)被告らの不正競争行為により原告の受けた損害の額
(4)P1の秘密保持義務違反の成否
(5)被告銀座吉田による商標権侵害等の成否

 

◆当事者及び関係者
ア)原告:ごみの収集機器の製造・販売等を業とし、本社以外に東京支店と福島工場、シンガポールと香港に現地法人がある。
イ)P1:平成9年7月1日から同26年9月30日まで原告取締役、同日退職。原告在職中、原告と被告銀座吉田との取引担当。
ウ)被告太陽工業:福島県伊達市に工場(以下「伊達工場」。平成26年1月頃1億5000万円借入れで新規購入)を持ち、溶接加工・機械製造加工を行う。
エ)被告銀座吉田:工業製品の輸出入等を業とし、平成6年頃から、香港、シンガポール、中国で、原告唯一の代理店で、原告製造に係るゴミ貯溜機等の販売、周辺機材及びメンテナンス提供等行う。現在、後述経緯で原告との取引関係はない。
オ)被告サン・ブリッド:被告太陽工業と同住所に本店を置き、電気機器用部品の製造販売等行う。代表者も被告太陽工業の代表取締役と同一。被告サン・ブリッドは,原告製ゴミ貯溜機の部品の一部を原告に供給していたことがある。
カ)P2:上記ウ)被告太洋工業、オ)被告サン・ブリッド代表取締役P3の弟で、被告太陽工業の元従業員。
キ)有限会社サキダス:平成9年設立、平成17年7月1日からP1が代表取締役を務める。
ク)JCS社(正式名称省略):原告と被告銀座吉田の取引継続中、香港で原告の代理店となるため、被告銀座吉田の代表者が出資して香港に設立。原告も、パンフレット中に原告の現地法人と記載。
ケ)JCS北京(正式名称省略):被告銀座吉田の代表者が出資し、「Executive Director(執行役員)」を務める。


◆本件紛争の経緯等
ア)原告は、平成6年頃から,被告銀座吉田と提携して「ゴミック」を商品名とする原告製造に係るゴミ貯溜機(以下「原告製品」)の香港、シンガポール、中国への輸出を開始し、平成26年頃までに合計輸出台数が100台超える。
イ)P1は、平成26年8月29日付で秘密保持義務及び競業避止義務を定め、「退職の誓約に関する確認書」に署名押印。
ウ)被告銀座吉田は、中国成都の施設に原告製品納品の商談につき、平成26年10月20日、原告に注文確定の連絡。
エ)原告は、平成27年1月5日、シンガポールに現地法人設立、同月、被告銀座吉田に、今後同社からの注文受けない旨通知し取引打ち切る。そこで、被告銀座吉田は、原告が被告銀座吉田との取引を打ち切ってシンガポールに代理店を設置して被告銀座吉田を排除して自ら取引をしようとしたとして、大阪地地裁に機械輸出禁止仮処分申立て、原告と被告銀座吉田間に原告製品についての独占的総代理店契約があり、原告行為は被告銀座吉田に与えられた独占的営業・販売権を侵害すると主張。原告は否認等。 
オ)上記中国成都の取引は、被告銀座吉田から原告へ発注されなかったが、被告太陽工業の伊達工場で,原告製品と同形状のドラム式ゴミ貯溜機が製造され、同工場敷地内にサキダス(代表者P1)の従業員稼働等。
カ)原告は、伊達工場でゴミ貯溜機が製造されているとし、P1及び同太陽工業に訴訟提起(P1に対して平27(ワ)6555。被告太陽工業に対し同6557),さらに、被告太陽工業に損害賠償請求訴訟提起(平27(ワ)6781)。
キ)上記ゴミ貯溜機(以下「伊達工場出荷物件」)は、伊達工場から搬出。その設置先は被告らから明らかにされていない。
ク)原告は,さらに、被告銀座吉田に上記ゴミ貯溜機の製造搬出の事実等に被告銀座吉田が関与していると主張して差止等提起(平27(ワ)8600,同8602)。
ケ)被告銀座吉田が申し立てた上記エの仮処分申立事件は,同年8月31日却下。
コ)上記ウの取引で原告製品が納品されるはずであった中国成都のショッピングセンターには原告製品の型番「GMR-20000」と外観も内部構造もほぼ同一のゴミ貯溜機(以下「本件製品1」)が,同センター隣接ホテル「THE TEMPLEHOUSE 博舎」には原告製品の型番「GMR-8000」と外観も内部構造もほぼ同一のゴミ貯溜機(以下「本件製品2」)が設置され、本件製品1には、型番を原告製品と同じ「GOMIC GMR-20000」…等表記する製造者が「SUN・BRID・CO.LTD」と理解できる銘板が付され、本件製品2にも型番を原告製品と同じ「GOMIC GMR-8000」とするほかは、本件製品1と同じ表記内容の銘板付され、上記ショッピングセンター内の本件製品1設置位置は原告が被告銀座吉田に提供した設置図面どおり。
サ)原告は、被告サン・ブリッドに本件製品1,2は、被告サン・ブリッドが製造したとし損害賠償等請求(平28(ワ)5501)。

 

◆ゴミ貯溜機について
 ゴミ貯溜機は,昭和48年頃から、国内の多くのメーカーにより製造され、現在、新明和工業株式会社、三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社,富士車輌株式会社…等で製造販売され,海外のメーカーでも製造販売。ゴミ貯溜機は、基本的構造は,貯蔵する回転ドラムの内側に大小の羽根(フィン)を螺旋状に溶接し、既存部品製品の組合せで構成される装置,ドラムを回転させることで投入口から投入されたゴミが内側の羽根(フィン)に沿って排出口に向かい,閉じられた排出口によって行き場を失ったゴミが圧縮され体積を減らし,ドラムの回転で排出作業を行う。


◆原告の商標権
 原告は商標権:登録第5720759号(出願日平成26年7月22日、登録日平成26年11月21日、指定商品等:第7類 廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置,廃棄物貯留搬送装置)
 被告銀座吉田は、中国で「ゴミック」の商標登録を受けている。

 

■当裁判所の判断

1.本件技術情報は不競法上の営業秘密であるか(争点1)
 裁判所は、以下のように認定・判断しました。

 すなわち、原告が「営業秘密として主張する本件技術情報と同種の技術情報であると考えられる原告製品の図面等が被告銀座吉田はもとより、原告製品購入者,あるいは部品製造委託先に交付されていた事実が認められ」、「そもそも原告は、P1及び被告銀座吉田による秘密管理性を否定する事実関係の主張について全く沈黙し」、「その指摘に係る図面等の技術情報の外部提供について、営業秘密の管理上、いかなる配慮をしていたか一切明らかにしていないことも併せ考慮すると,原告のゴミ貯溜機を製造するに必要な設計図面等の多くは、P1及び被告銀座吉田が主張するように、特段の留保もなく購入者はもとより取引関係者に交付されていた」と認定し、そうすると「技術情報そのものが,上記図面等に含まれていると的確に認めるに足りる証拠はな」く、「これら技術情報についてのみ他の同種技術情報と異なる特別の管理がされていた」証拠もない以上、同様の管理状況であったと推認するほかなく,「上記技術情報が不競法にいう「秘密として管理されていた」とは言えないと判断しました。

 原告は、営業秘密の管理の程度が会社の規模による点や、管理されていることの認識可能性で足りるように主張するが、「図面等の交付を受ける者がその交付を受ける際に秘密保持義務は課されていた事実は認められ」ず、また「ゴミ貯溜機の基本構造自体は公知の技術で」、「原告が原告製品の営業秘密の対象とする原告製品のドラム部分、…、ドラム内の分割羽…も、その詳細な設計情報が原告製品固有の情報」としても、技術的側面では「公知の技術」と認定し、「特段の留保なく図面等の交付を受けた者は、それが当該製品の製造のために必要な図面であると認識できたとしても、当該図面等が原告において不競法にいう営業秘密として管理されているものと認識可能であったとはおよそ認められない」と判断しました。
 

 他方、「PLC制御プログラムは,上記の図面関係の資料のように取引関係者に紙媒体により図面として交付されていたとは考えにくいが、そもそも同プログラムは…原告製品GMR-8000とGMR-20000のPLC(programmable logic controller)を制御するため,三菱電機株式会社のシーケンサプログラミングソフトウェア「GX Developer」により作成されたプログラム情報で」、「原告製品の動作を制御する機能を担」い、「ゴミ貯溜機の引渡しに伴って顧客に引き渡される」と認めました。「これが機械の制御プログラムである以上、購入者は、不具合が生じた場合に備えて、そのバックアップをとっておくことも予定され」、「メンテナンスを担当する業者」も、「そのプログラム情報にアクセスできる必要があ」り、「これでは原告の営業秘密として管理されているとはいえない」とし、「原告製品に類似したゴミ貯溜機を製造し、その制御プログラムとするために、上記プログラムをコピーして利用することは…少なくとも不競法上の営業秘密の利用の問題は生じない」と判断しました。


 したがって「本件製品1,2は,原告製品の設計図面等が用いられて製造され、またそのPLC制御プログラムは、原告製品のそれをコピーしたものと認められるものの、そもそも原告主張に係る本件技術情報が不競法2条6項の要件を充足するに足りる秘密管理がされていたものと認められないから」、「本件技術情報をもって、同法上の営業秘密とい」えないとしました。

 

2.各被告の不正競争行為の成否(争点2)、被告らの不正競争行為により原告の受けた損害の額(争点3)
 裁判所は次のように認定・判断しました。すなわち「原告における原告製品の図面等の管理状況に加え…本件の経緯からすると、本件製品1,2は、被告銀座吉田及びP1が主張するように取引関係者に交付された原告製品の図面等を利用して製造された」ことが容易に推認でき、「被告らが主張事実を否認するだけで、関係しているはずの具体的事実を一切明らかにしようとしないことも併せ考えると、被告らが…少なくとも間接的に、その製造に関与したことも認められないではないが」、「本件技術情報をもって不競法にいう「営業秘密」とは認められ」ず、「被告らの不正競争行為はいずれも認められない」。「被告らの不正競争行為を前提とする原告の被告らに対する差止請求及び廃棄請求並びに損害賠償請求はすべて理由がない」。
 

3.P1の秘密保持義務違反の成否(争点4)

 裁判所は次のように認定・判断しました。すなわち、P1は、平成26年8月29日付で秘密保持義務及び競業避止義務を定め、「退職の誓約に関する確認書」に署名押印しているところ、P1について「秘密を持ち出し開示した事実関係を認め」られないとし、「被告らのした行為をさまざまに推測し、まず被告銀座吉田が、他の被告らと共謀し、P1に原告の本件技術情報を不正に取得させて、その技術情報を利用しているという」原告の主張について、「本件の経緯が、被告銀座吉田が原告との取引を打ち切って自ら製造する計画のもと、P1に働きかけて技術情報を持ち出させて取得したというのなら、原告のする推測も理解できるが、そもそも…被告銀座吉田は原告から取引を一方的に打ち切られた立場」で、「P1は、その時点で既に原告を退職して原告内の技術情報にアクセスできる立場ではな」く、「P1が原告の技術情報を持ち出したという原告の推測に根拠がない」(下線筆者)。
 なお「本件製品1,2は、伊達工場で製造されたものと認定するのが合理的で」、「製造には原告主張に係る原告製品の技術情報が使用されていると考えられるが」、「原告主張に係る本件技術情報の管理状況は…営業秘密とは認められないから、上記製造の事実から、P1による原告の主張する営業秘密の持ち出しないし開示は推認」できない。
 また「原告主張の本件確認書に基づく合意違反のうち、競業避止義務違反をいう点は,原告が競業避止義務違反と主張する事実を認めるに足りる証拠はな」く、「第3条1項の義務違反は問題にならない」。「他方、同条2項は、行為を特定せず、直接間接を問わず、しかも地域、期間も限定せず、代償措置もないのに無限定に退職取締役に一般的な競業避止義務を負わせようとする合意であるので,公序良俗に反し無効である」。「したがって,原告のP1に対する本件確認書に基づく合意違反を理由とする請求は,その判断に及ぶまでもなく理由がない」。

 

4.被告銀座吉田による商標権侵害等の成否(争点5)

 裁判所は、「原告は、商標権を有すると主張する「GOMIC」の表示を周知商品等表示とも主張するが、同表示を付した原告のゴミ貯溜機の販売期間及び販売台数を主張するだけで、それ以外の宣伝広告の状況や当該製品の市場及び需要者などの取引の実情を全く主張立証していないから、主張に係る表示が周知性を獲得していると認め」られないと判断しました。また、「原告は、原告商標権の侵害も主張するが、被告銀座吉田が香港で同じ表示につき商標権を取得していることは日本における原告商標権の侵害になるわけではなく、また被告銀座吉田が製造販売に関与したと主張される中国成都に設置されている本件製品1,2の銘板中の型番部分に別紙被告標章目録記載の標章である「GOMIC」との表示が付されていること」も、これが被告銀座吉田によってされたと認められず、そもそも、この銘板が日本国内で付された事実を認める証拠もない以上「このことから日本国内における原告商標権の侵害を認め」られないと判断し、その後の判断に及ぶまでもなく理由がないとしました。

 

■BLM感想等
 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。但し、今回取り上げた裁判例では、原告の元取締役P1について、裁判所は、「そもそも…被告銀座吉田は原告から取引を一方的に打ち切られた立場」で、「P1は、その時点で既に原告を退職して原告内の技術情報にアクセスできる立場ではな」く、「P1が原告の技術情報を持ち出したという原告の推測に根拠がない」と判断しており、原告の競業避止義務違反の主張を認めていません。また、原告とP1の合意について、「行為を特定せず、直接間接を問わず、しかも地域、期間も限定せず、代償措置もないのに無限定に退職取締役に一般的な競業避止義務を負わせようと」し,「公序良俗に反し無効」としています。さらに、「原告主張に係る本件技術情報の管理状況は…営業秘密とは認められない」等と判断しており、P1が原告退職後でも、原告製品と同種のものを製造・販売するのは基本的には自由と言えます。

 今回取り上げた裁判例では、製造業者と販売業者の関係解消事例と捉えることもできると思います。この点、当初、被告銀座吉田が、原告から取引を打ち切られるとは想定しておらず、背後の事情はわかりませんが、原告が被告らに対し疑心暗鬼となっていた印象を受けます。被告銀座吉田としては、原告と関係形成を前提に原告製品を海外で販売していく考えで、第三者が先に商標権を取得し、被告銀座吉田らが、海外で事業ができなくなる不都合を回避すべく、商標権取得したと考えられます。もっとも、一般的には原告が日本に商標権を有している以上、海外での商標権取得も、手続きは被告銀座吉田が行うにしても、原告名義で出願をすることが得策であり、少なくとも出願前に相談し、了解を得た旨記録に残すべきではあったと思います。 

 なお、不正競争防止法2条1項1号に基づく主張では、「GOMIC」の周知性が認められず、出所混同惹起行為か否かの判断に至りませんでしたが、仮に、関係解消せず、被告銀座吉田が中心となり販売活動等を行った結果、「GOMIC」が周知性を獲得した場合、原告のほかに、被告銀座吉田も、「GOMIC」の表示主体と認められる余地もあり、その場合、誰が表示主体となるか、別途争いになっっていた事例かもしれません。そうすると、原告としては、原告製品の販売等の主導権を握る者(今回は主に被告銀座吉田)から、その販売等の主導権を取り戻したことは、結果として得策だったのかもしれません。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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