不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その15

 ここ数日、原告の元従業員が絡み紛争となった事例を見ていますが、同旨のものとして、今日は、組合とその脱退した元組合員の事例を見ていきます。

 

  新潟地判昭63・5・31[個人タクシーの表示灯事件〕昭60(ワ)66、昭60(ワ)67、昭60(ワ)68、昭60(ワ)69、昭60(ワ)70等

原告 新潟市個人タクシー事業協同組合(代表理事 S.T.)
昭60(ワ)66事件被告P1、昭60(ワ)67事件被告P2、昭60(ワ)68事件被告P3、昭60(ワ)69事件被告P4、昭60(ワ)70事件被告P5、昭60(ワ)71事件P6、昭60(ワ)72事件被告P7、昭60(ワ)73事件被告P8、昭60(ワ)74事件被告P9

 

■事案の概要等 

 本件は、原告組合は、新潟市とその近隣を営業区域として、個人タクシー営業を行う者を構成員とする事業協同組合であり、個人タクシーの全国組織である全国個人タクシー連合会(以下「全個連」)に加入するに際し、全国連の専用灯(通称「でんでん虫マーク」で基本地は黄色で、そこに「個人」と表示されている。以下「本件表示灯」を原告組合の組合員全員に設置するように、原告組合の定款および運営規約に規定を設けていたところ、元組合員9名が原告組合脱退後(うち一名は除名決定され、同人はこれを争った結果、裁判所は原告組合を自然脱会したと認定。)も、本件表示灯(及びこれと類似する表示灯も含む。)を使用し個人タクシー営業を行っていたため、その使用の差止等を求めた事案です。

 原告組合は、主位的に被告らが原告組合を脱退したことにより、原告組合の運営規約第八条に基づき、右被告らが各営業車に設置してある表示灯が、右規約の「組合員たるを証する表示」として、各被告の本件…表示灯と同一の表示灯の使用の差し止めとその取外しを求め、予備的に原告組合は、各被告らに対し、右各被告らが本件…表示灯と同一(又は類似)の表示灯の使用する行為は、旧不正競争防止法1条1項2号に規定する「他人の営業たることを示す表示と同一のものを使用して他人の営業上の施設又は活動と混同を生ぜしむる行為」であるとして、同法による右被告らの表示灯の使用の差し止めとその取り外しを求めました。

 

◆原告組合の運営規約第八条

『本組合員は、組合員たるを証する一切の表示をしなければならない。本組合を脱退したときは、その時限をもって取外し、又は返還すべきものは直ちに返還しなければならない。』と規定して、原告組合員は、本件…表示灯を自己の営業用の車に設置することを義務付けている。

 

■当裁判所の判断
 

1.主位的請求に対する判断

 原告組合が主位的に主張する右各被告らが原告組合を脱退したことにより、原告組合の運営規約第八条に基づき、右各被告がそれぞれの車輛に設置してある本件表示灯と同種の表示灯の取りはずしを求めている点について、認定事実に基づき、次のように判断しました。すなわち「本件…表示灯が、原告組合の運営規約第八条で規定する「組合員たるを証する……表示」に該当するものであると認められ、それと同種の表示灯を…被告らが、各自の車輛の屋上に設置して」おり、「そうすると…各被告らが設置している各表示灯が、原告組合の所有に属するものであるならば、その返還」又は「その取りはずしを求めることは肯定できるけれども、右各表示灯は、各被告が各自の費用で設置したもので」、「原告組合の運営規約は、原告組合内部において、構成員に対する私的なしかも自発的な内部規律でしかな」く、「右規定があることから、直ちに、原告組合として、同組合を脱退した被告らに対して、各自が自己の費用で設置してある各表示灯の使用の禁止とその取りはずしを求めることはできない」。「そうだとすると、原告組合が、右組合を脱退した…各被告らに対して、原告組合の運営規約に基づく…表示灯の取りはずしを求める請求はいずれも理由がない」。

 

2.予備的請求に対する判断

 原告組合は、本件表示灯は、原告組合の構成員のシンボルとして、内部規律で各構成員に設置を義務付けているものであり、これは、原告組合の構成員の営業であることを示す標章または表示であるとして、原告組合の構成員でない被告らが各自、本件表示灯と同一または類似の表示灯を設置して営業をなすことは、原告組合の構成員の営業活動と混同を生ぜしめる行為にあたるとして、旧不正競争防止法1条1項2号(現行法2条1項1号)に基づく差止請求を求めました。

そこで裁判所は以下のように、認定事実に基づき判断しました。(下線筆者)

 

(1)旧法1条1項2号の趣旨

「周知営業表示と同一または類似の表示を使用した結果、営業の主体について混同を惹き起こすおそれのある場合に、その行為を規制することを目的としているものである。そして、営業表示を媒体として、他人が企業の努力により結晶させた信用名声を他人の犠牲において勝手に使用し、周知表示により得られる取引上の優越的な地位を不当に横取りし、営業主体の混同を惹起し、もって、公正な自由競争秩序を破壊する行為を禁圧するものである。
 

(2)営業表示の主体等
 「原告組合は、組合自体として、いわゆる営業を行うものではない。本件における保護の対象として、不正競争防止法による救済を求めるのは、原告組合の構成員の各自の営業である。すなわち、街中や駐車場で客の求めに応じて乗車させる営業用自動車(いわゆるタクシー)を保有して、個人で営業を行っており(いわゆるタクシー営業)、それらの各営業は、同法が保護しようとする営業にあたることは明らかである」。「そうすると、原告組合は、個人でタクシー営業を行う構成員によって、中小企業等協同組合法によって設立された法人であり、同法の目的とする「協同して事業を行うために必要な組織」として作用することからすると、各構成員の利益保護のため、各構成員を代表して…不正競争防止法の保護を受けうる営業主体と解するのを相当とする。」 「認定の各事実によると、本件…表示灯は法1条1項2号にいう原告組合の営業用の標章と認め」られる。


(3)類似性

 「被告らが、現に使用している各表示灯が、原告組合の主張する本件…表示灯と同一または類似の表示灯である」。
 

(4)周知性
①「原告組合の主張する本件…表示灯は、原告組合の前身であるタクシー協会の時代に個人タクシーの全国的組織体である全個連に昭和44年3月に加入し、それによって、タクシー協会とそれに続く原告組合の構成員全員が、その構成員であるかぎり一律に同種の表示灯…を設置するように義務づけられ、構成員全員は、本件…の表示灯と同一または類似の表示灯…を各自の車輛の屋上に設置して、個人タクシーの営業を行なってきた」。

②「いわゆる個人タクシーを含めタクシー業界においては、現在においては、各車輛の屋上に非常灯として、各社の社名を表示した表示灯を設置してあり、本件…の表示灯についても、「個人」と表示されてあることからすると、各タクシーを利用する顧客としては、本件…表示灯のように「個人」と表示してあるマークを設置して、タクシー営業を行っている車輛は、個人タクシーでありその同一または類似の表示が一個だけでなく数多く存在することからすると、個人タクシーの集団として営業を行なっているものと認識して利用している」。「そうすると、本件においては、本件…表示灯と同一または類似の表示灯を設置して、タクシー営業を行なっている車輛は、新潟市およびその近郊においては、個人タクシーであり、原告組合の構成員の車であろうと認識し、それによって、本件…表示灯は、広く周知性を有しているというべきである」。

 

(5)原告組合と、被告らの営業主体として、具体的な混同の危険
 「更に、原告組合の構成員は、各自のタクシー営業において、新潟市内の金融機関と契約して、原告組合独自のタクシーチケットや、各カード会社、全個連等で発行しているタクシーチケットの換金の取扱いをしていることを認めることができ被告らは、原告組合から脱退したことにより、原告組合の構成員の利用するチケット、カード等の利用は認められ」ず、「そのため、被告らにおいて、個人タクシーとしてのチケットの利用を求められた場合には、そのチケットによる換金等の手続は、原告組合の構成員を通じて行っている」。「そうすると、原告組合主張の本件…表示灯と、被告らが現に使用している本件…各表示灯と同種の表示灯は、個人タクシーとして表示され、その営業の内容において、取り扱うチケット類の相違等により、一般人としては、混同の危険が存すると認めるのが相当である」。

 

(6)営業上の利益を害するおそれ及び差止の可否

 「そうすると、…各被告が各自の車輛の屋上に設置して、個人タクシーとして営業を行っている行為は、原告組合に対する営業上の利益を害するおそれがあるとして各自の表示灯の使用の差し止めを求めることができ、右差止めによる使用の禁止に応じない場合には、更に、その取りはずしを求めることができる」。


(7)結論
 裁判所は、「原告組合が、主位的に被告P2ほか四名の被告らに対し、原告組合の運営規約に基づき、右各被告らの設置する本件…表示灯と同種の表示灯の撤去を求める請求は理由がないことに帰するから、これを棄却」し、予備的に旧不正競争防止法1条1項2号に基づく主張については、同号各要件にそって検討した上で、「被告らが設置する本件…表示灯と同一または類似の表示灯の使用を禁止して、その取り外しを求める請求は理由があるから、これを認容する」としました。

 

■BLM感想等

 本件は、個人タクシーという独立した営業主体が加盟した事業協同組合の営業表示の主体性が問題となりました。また、本件表示灯が本来的には、出所識別標識として採用されたわけではないため、不正競争防止法上の営業表示性が問題となりました。もっとも、商標登録はされていましたが、当時、商標法にはサービスマーク制度がなく、登録されていた指定商品は「輸速器具その部品および附属品」だったので、原告組合の営業表示性を別途主張立証する必要がありました。

 また、裁判所は、ア)全国的組織である全個連に加入したタクシー協会(のちの原告組合)と原告組合の構成員全員が一律に同種の表示灯を設置するように義務づけられ、構成員全員が本件表示灯と同一または類似のものを各自の車輛の屋上に設置し営業を行なってきた点、イ)タクシー業界で各社の社名を表示した表示灯を設置してある実情を認定した上、利用客は、本件表示灯のように「個人」と表示してあるマークを設置した車輛は、個人タクシーであり、その同一または類似の表示が数多く存在することで、個人タクシーの集団として営業を行なっていると認識して利用している点を認定し、かかる車輛は、新潟市およびその近郊では、個人タクシーであり、原告組合の構成員の車であろうと認識」され、周知性を獲得したと判断したわけです。上記ア)とイ)は、一定の営業表示を特定できる状態を評価したものと考えます。そうすると、営業表示性については、周知性の中で判断されたと考えます。

 さらに、本件は、出所の混同ですが、「原告組合の構成員は…新潟市内の金融機関と契約して、原告組合独自のタクシーチケットや、各カード会社、全個連等で発行しているタクシーチケットの換金の取扱いをしている」一方、被告らは、脱退後これらの利用は認められず、「個人タクシーとしてのチケットの利用を求められた場合…換金等の手続は、原告組合の構成員を通じて行っている」ため、「その営業の内容において、取り扱うチケット類の相違」等するとし、かかるサービスの質の相違に着目して、出所の混同ありと判断している点が興味深いです。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

  (^u^)コーヒー ==========================

知的財産-技術、デザイン、ブランド-の“複合戦略”なら、

ビーエルエム弁理士事務所兼・今知的財産事務所BLM相談室

の弁理士BLMと、今知的財産事務所の弁理士KOIP

==============================コーヒー (^u^)

東急沿線の商標屋さん!ビーエルエム弁理士事務所

東急目黒線から三田線直通で御成門駅近くの今知的財産事務所