不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その10

 本日も、原告の元従業員が新たに組織を立ち上げ、原告と同種の業務を行ったことにより紛争となった事例を見ていきます。これまで、製造業者が主だったのですが、今回は福祉関係のサービス業分野の事例です。

 

  大阪地判平10・2・26〔ひまわり園事件〕平8(ワ)10947

原告 日本心身障害者更生援護会ひまわり園ことK.T.
被告 ひまわり園ことS.H.
被告 ひまわり園ことS.K. 

 

■事案の概要等 

 本件は、現在大阪府羽曳野市はびきの4丁目6番4号において「ひまわり園」の名称で簡易心身障害者通所授産施設を運営している原告が、同市羽曳が丘西3丁目6番14号で「ひまわり園」の名称で心身障害者施設を運営している被告S.H.及び被告S.K.の姉弟に対して、「ひまわり園」の名称は原告の営業を表示する商号として広く認識されており、被告両名は「新ひまわり園」又は「ひまわり園」の名称を使用して原告と同様の心身障害者施設を運営することにより、原告の営業との誤認混同を生じさせているから、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たると主張して、同法3条に基づき同名称の使用の差止を求めたものです。被告両名は羽曳が丘西3丁目6番14号所在の「ひまわり園」は原告及び被告両名の三名で共同して運営してきたと主張し、原告は、被告両名を従業員として雇用して原告単独で運営してきたもので、平成8年10月に現在のはびきの4丁目6番4号に移転したと主張しました。
 

■中心的な争点

 ・「ひまわり園」の名称が原告の営業を表示する商号として広く認識されているか

 ・被告両名が上記各名称を使用した心身障害者施設の運営が出所混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害しているか

 

■当裁判所の判断

1.認定事実

(1)原告は、昭和43年から日本心身障害者更生援護会の名称で福祉活動をしていたところ、昭和61年二月以降、被告両名とともに…福祉関係の機関誌発行等行い、昭和63年2月17日、被告S.H.に手続を依頼して…営業の種類を印刷及び出版、一般区域貨物自動車運送事業、内航運送業等、商号使用者を原告とする「日本心身障害者更生援護会」の商号登記をし、また、遺体搬送の事業を行うため、平成2年3月30日、近畿運輸局長から一般区域貨物自動車運送事業(限定)の免許を受け、…被告S.K.所有の本件土地建物について、賃貸人を被告S.K.、賃借人を日本心身障害者更生援護会会長K.T.(原告)とし、使用目的を事務所、有蓋車庫等とする平成元年10月1日付賃貸契約書を作成などしたが、いずれもうまく行かず、行き詰まった、

 

(2)被告両名は、昭和63年頃から本件土地建物の正面に「ここに知的障害者の施設を被告両名が援護会の原告の後援で作る」旨の看板を設置していたが、平成3年4月、原告が代表者、被告S.H.が園長、被告S.Kが指導員となって本件土地建物において知的障害者の社会的自立を目的とした「ひまわり園」を開設し、羽曳野市に対し、簡易心身障害者通所授産施設の羽曳が丘聖海更生訓練所「ひまわり園」、設置運営主体・日本心身障害者更生援護会として開所届を提出、その際、「日本心身障害者更生援護会会長 K.T.」名義の「羽曳が丘西3丁目町内会六番ブロック(11軒)及び向い三軒の開所挨拶の経過報告書」も提出した、

 

(3)被告S.H.は、園生による園内外での自動消火器の取付け、大人用紙おむつ・介護用品の製造販売等の作業の指導、援助を行い、園長として各団体から作業受注のための営業活動を行うとともに、作業収益金を集金し「日本心身障害者更生援護会会長K.T.」名義の領収証発行等の経理も担当し原告は「ひまわり園」の対外的な代表者として開設に当たって羽曳野市との折衝を行ったほか、園生の食事の調理や園生による園内での作業の指導・援助を行い被告S.K.は、食事の調理の手伝い等行った

 「ひまわり園」での二つの主たる作業の「大人用紙おむつの販売」は、その販売用チラシに「取次・連絡先 羽曳が丘聖海更生訓練所・ひまわり園 製造・発売元 日本心身障害者更生援護会」と印刷され、被告S.H.が園生とともに富田林病院で出張販売するほかは、各福祉事務所を通じて販売する程度であり、もう一方の自動消火器の取付け作業も、被告S.H.が取付け現場まで園生とともに赴き、実際にはその作業の大半を自ら行っていた

 

(4)「ひまわり園」の開園は、平成3年5月16日付朝日新聞、羽曳野市民生児童委員協議会同年12月1日発行の「民児協はびきの」…等で取上げられ、朝日新聞の記事は、「心身障害者の施設『ひまわり園』開園」との見出しの本文一行一二字二〇行の小さな記事、「民児協はびきの」の記事は、「心身障害者の授産施設ひまわり園 お力添えを」との見出しの本文一行一二字五七行(写真入り三段)の記事であり、設置運営主体の点について、いずれも日本心身障害者更生援護会(K.T.会長)であることが記載されているが、「北区社協だより」の記事は、問合せ先として「羽曳が丘聖海更生訓練所 ひまわり園」の名称と住所・電話番号が掲載されているにとどまり、また、被告S.H.は、福祉機器住宅研究会1996年(平成8年)3月2日発行の「ハンディをささえるモノづくり通信」に、「ひまわり園・園長 S.H.」の肩書で「自立、社会参加を促す」「人格を持った人間として」との見出しのもとに平成3年4月に日本心身障害者更生援護会会長の原告が「ひまわり園」を創設したことなどを記載した文章を掲載した、

 

(5)「羽曳が丘聖海更生訓練所・ひまわり園」に対する補助金に関して、平成6年度分の交付申請書類、平成5年度分の収支報告書及び平成7年度収支報告書各添付の「指導員等職員体制」の欄には、いずれも事業責任者として原告の氏名が、指導員として被告両名の氏名が記載され、平成7年度事業実績書には、設置主体及び運営主体の各欄に「日本心身障害者更生援護会(代表者名:K.T.)と記載され、「ひまわり園」の税金に関しても、経理担当の被告S.H.が担当し、「日本心身障害者更生援護会 K.T.」として…所得税の確定申告をし、平成6年分所得税青色申告決算書には「給料賃金の内訳」の項に被告両名と園生一名の各氏名が記載されている、

 

(6)「ひまわり園」の運営資金の管理のために、原告名義の銀行預金口座を開設し、各預金通帳及び銀行届出印を経理担当の被告S.H.が管理していたところ、平成7年秋に至って、同年七月に被告S.H.が受領した作業代金の問題から原告と被告両名の間がうまく行かなくなり原告は、その後「ひまわり園」を欠勤しがちになり被告両名に事前に相談することなく、同年12月、各銀行の届出印をすべて改印し、平成8年6月、「ひまわり園」が使用していた電話回線を、上記はびきの4丁目6番4号へ移転する手続をとり、また、同年5月31日付の「日本心身障害者更生援護会 会長K.T.」宛の健康保険厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書には、被保険者である被告両名が同日退職により資格を喪失したことを確認する旨記載される等し、

 

(7)被告S.H.は、平成8年5月、近畿銀行羽曳野支店に「ひまわり園 S.H.」名義の普通預金口座を開設したうえ、「羽曳が丘聖海更生訓練所・ひまわり園 S.H.」名義で大人用紙おむつを発注するなどして同口座に作業代金の振込みを受ける等し

 

(8)被告両名は、平成8年9月2日付内容証明郵便により、原告に対し、原告との「ひまわり園」の共同経営を解消し、かつ、被告S.K.所有の本件土地建物を「ひまわり園」の施設として提供するとの合意を解約する旨通知し園生の保護者九名及び園生本人一名から「ひまわり園 S.H.」宛の入園申込書の提出を受けそのうちの保護者6名及び園生本人2名は、原告に対し内容証明郵便で、平成8年8月末日をもって日本心身障害者更生援護会が運営していた「旧ひまわり園」を退園し、同年9月1日より被告S.H.の運営する「新ひまわり園」に通園しているので、今後原告とは一切かかわりたくない旨通知した

 

(9)一方、原告は、平成8年10月、「ひまわり園」を羽曳野市はびきの4丁目6番4号に移転したとしており、原告の申入れを受けて羽曳野市が原告と被告S.H.の双方が一緒に役所に来て説明しない限りいずれにも補助金を交付できないとしているため、被告両名も原告も、平成8年度以降の分の補助金の交付を受けられないままになっている…。
 

2.判断 

 裁判所は平成三年四月に設置運営主体を日本心身障害者更生援護会として開設された「ひまわり園」の事業は、そもそも知的障害者の社会的自立を目的とした簡易心身障害者通所授産施設の運営であり、補助金交付申請のために羽曳野市に提出する書類では原告を日本心身障害者更生援護会の会長、事業責任者あるいは代表者とし、作業を発注した各団体から作業収益金を受領した際の受領証の名義は「日本心身障害者更生援護会会長K.T.」とし、税金の関係では被告両名が原告から給与を受け取ったものとして原告名義で所得税の確定申告をしていたものの、被告S.H.が園長として各団体から「ひまわり園」における作業を受注するためのいわば営業活動を行い、その二つの主たる作業のうちの一方の大人用紙おむつの販売についても…各福祉事務所を通じて販売する程度であり、もう一方の自動消火器の取付け作業に当たっても、被告S.H.が…作業の大半を自ら行っており、原告がこれらの営業活動や園外作業にどの程度関わっていたのかこれを認めるに足りる証拠はないこと、「ひまわり園」の開園は朝日新聞、「民児協はびきの」、「北区社協だより」で取り上げられたが、「ひまわり園」を設置運営する日本心身障害者更生援護会の会長として原告の名前が記載されているのは前二者だけであり、その朝日新聞の記事は、本文一行一二字二〇行の小さな記事であって、読者の注意を惹くとはいい難く、「民児協はびきの」は、本件全証拠によるも、その配布対象、配布枚数、配布回数が明らかでなく、大人用紙おむつの販売用チラシにも原告の名前は印刷されておらず、他方、被告S.H.は、福祉機器住宅研究会発行の「ハンディをささえるモノづくり通信」に「ひまわり園・園長 S.H.」の肩書で文章を掲載していること、被告S.H.は、原告との間がうまく行かなくなった後の平成8年5月、近畿銀行羽曳野支店に「ひまわり園 S.H.」名義の普通預金口座を開設したうえ、同口座に作業代金の振込みを受け、あるいは「ひまわり園 S.H.」名義で発注するなどしたこと、原告は、平成8年10月に「ひまわり園」を羽曳野市はびきの4丁目6番4号に移転したとしているが、園生ないし保護者は、日本心身障害者更生援護会が経営していた「旧ひまわり園」と被告両名が平成八年九月一日以降経営している「新ひまわり園」とを明確に区別したうえで、原告に対し、平成八年八月末日をもって「旧ひまわり園」を退園して同年九月一日以降「新ひまわり園」に通園している旨表明していること、羽曳野市も、原告と被告両名とが紛争状態にあることを認識し、原告と被告英夫の双方が一緒に役所に来て説明しない限り補助金を交付できないとしており、大阪府富田林養護学校進路委員会は、平成九年一月現在、「ひまわり園 園長 S.H.」が運営母体の施設として羽曳野市羽曳が丘西三―六―一四所在の「ひまわり園」を認識していることに徴すれば、日本心身障害者更生援護会の「ひまわり園」の運営の実体が原告と被告両名の共同運営であったか否かはともかく、平成七年秋に原告と被告両名の間がうまく行かなくなった時点、あるいは平成八年九月に被告両名が完全に原告と袂を分かった時点、更には現在においても、「ひまわり園」の名称が原告の営業を表示する営業表示として広く認識されているとか、被告両名が「新ひまわり園」又は「ひまわり園」の名称を使用して心身障害者施設を運営することにより原告の営業との誤認混同を生じさせあるいはそのおそれがあるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 

(以上、下線・太字筆者)

 

3 結論
 裁判所は、原告の被告らに対する不正競争防止法2条1項1号及び3条に基づく請求は、その余の判断に及ぶまでもなく理由がないとし、原告の請求を棄却しました。

 

■BLM感想等

 本件の争点は、「ひまわり園」の名称が、不正競争防止法2条1項1号及び3条の適用上、原告の営業表示として周知性を獲得しているか、被告両名が上記各名称を使用した心身障害者施設の運営が出所混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害しているか、の2点でした。周知性の判断の前提として、誰の商品等表示として周知なのかが問題となりますが、この点、裁判所は、「…施設の運営であり、補助金交付申請のために羽曳野市に提出する書類では原告を日本心身障害者更生援護会の会長、事業責任者あるいは代表者とし、…受領証の名義は「日本心身障害者更生援護会会長K.T.」とし、税金の関係では被告両名が原告から給与を受け取ったものとして原告名義で所得税の確定申告をしていた」ことなどを認定し、これらからは原告が商品等表示主体とする余地はあるものの、さらに続けて、「被告S.H.が園長として…営業活動を行い…自動消火器の取付け作業に当たっても、被告S.H.が…作業の大半を自ら行」い、「原告がこれらの営業活動や園外作業にどの程度関わっていたのか」明らかでないとし、実質的に事業を管理していた者から、商品等表示主体を導きだそう(又は原告の商品等表示主体性を否定しよう)としているように解されます。

 そして不正競争防止法2条1項1号の周知性の要件は、需要者の認識に基づき判断されるところ、新聞、雑誌等で取り上げられている実態を認定した上、対内的にも、対外的にも(かかる言葉を裁判所は用いていませんが)、「ひまわり園」の商号又は名称が、原告の商品等表示として周知性を獲得しているとはいえない旨導き出していると考えます。

 その上で、被告S.H.は、原告との間がうまく行かなくなった後の平成8年5月、銀行に「ひまわり園 S.H.」名義の普通預金口座を開設した頃以降、すなわち関係解消後は、被告らは別途「ひまわり園」(又は「新ひまわり園)の下で、福祉事業を提供することとなり、もはやこの場合は、被告らは、原告とは異なる事業主体と認識でき、原告の営業表示の周知性が認められない以上、被告らは同じ営業表示を使用しても不正競争とはならない、となりました。

 原告としては釈然としないでしょうが、被告らは原告の事業や表示にフリーライドしているわけではなく、それどころか実働は被告S.H.が負っていたとも解されるため、本件判断は妥当と考えます。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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