今日は、4月21日の記事で取り上げたタイポス書体事件(不正競争防止法)の高裁判決を見ていきます。

 

 本ブログは、『日々是淡々練』と称するように、ひたすら腹筋、軽いジョギング、ストレッチ、深呼吸・・・と、毎日、知財運動をしている感じで、人に読んでもらう代物ではなく恐縮ですほっこりあせる

 BLMは、現在、大学院に通っていまして、論文テーマ絡みで、うんざりするほど、「不正競争防止法第一条第一号」(現行法2条1項1号)のいわゆる「他人」該当性のネタを投稿してます。といっても裁判所のホームページから引っ張った判決を読むだけで、まとまりもなく恐縮ですにやり汗

 

 思うんですが、運動とか、ピアノとか、毎日練習すれば、少しずつデキルようになっていくのに対し、一日さぼると、何日分かは後退してしまうって、よく聞きますよね。

 

 頭(考えること)も、毎日1,2時間くるくる動かすことが、何らかの成果に繋がるような気がしています。一方、やらないと、2,3日分後退します。年齢のせいかも?ですが、「なに考えてたっけ???」と、すっぽりと忘れてしまう…ぼけー

 で、1年ちょっと毎日(KOIPさんと交代なので2日に1度)、ブログを書いてみて、やっぱり何か蓄積している感はあります。

 

 まぁ要するに諦めないこと真顔ビックリマークが重要だなぁ、なんて思います。

 

 さあ、今日も一日頑張りましょうおーっ!ビックリマーク

 

 

 以下は、もう個人的な淡々練なので、ここまで読んで頂いた方に、お礼にお茶でも。写真ですが…ほっこり ビアードパパ。期間限定のチョコバナナ味でした。ここはシュークリーム生地がサクッとクッキーみたいで美味しいですね。(4月17日撮影)

 

タイポス書体事件(不正競争防止法) 東京高裁昭和55(ネ)689 昭和57年4月28日判決

 

(判決文は、最高裁HPより引用。LEX/DBインターネットデータベースも参考。「」内は引用、それ以外はBLM任意に抽出しまとめています。改行、太字、下線等はBLM。)

 

控訴人(原告) 伊藤勝一 外三名
被控訴人(被告) 株式会社京橋岩田母型

 

主 文

本件控訴をいずれも棄却する。

 

事案の概要

 一審原告らは「いずれも書体デザイン等の創作、研究に従事しているデザイナーであるが、昭和三四年、新しい時代の要求に合致し、かつ、読みやすい文字書体を創作するための研究グループ(後に「グループ・タイポ」と称した。)を結成し、以後共同で新書体の開発、研究を進め、昭和四三年には名称を「タイポス45」とする別紙目録第一記載の書体を含む一連の新書体を創作し、その後も数多くの新書体を創作して現在に至つている(原告らの創作にかかる新書体はいずれも「タイポス書体」の名称で一般に通用している。以下、これらの書体を総称して「タイポス書体」という。)。 そして、原告らは、昭和四四年三月一〇日株式会社写研(当時の商号「株式会社写真植字機研究所」。以下、「写研」という。)との間で、タイポス書体のうち、タイポス35、タイポス37、タイポス45及びタイポス411の四書体につき」「契約を締結した。また、原告らは、昭和四六年一一月八日写研との間で、タイポス44、タイポス66、タイポス88及びタイポス1212の四書体につき、右契約の内容とほぼ同内容の契約を締結した。そして、原告らは、これらの取引によつて営業上の利益を得ているものである。」

(上記は裁判所ホームページより引用(地裁判決より))

 

 一方、「被告は、活字字型、精密彫刻品及び印刷用機材の販売等を目的とする会社であるところ、昭和四七年頃から名称を「キツド」とする別紙目録第二記載の書体(以下、「キツド」という。)による活字及び母型の製作、販売を開始し、現にこれを継続中である。」

 そして、キツドは「タイポス45と極めて類似しており、その結果、需要者において、キツドの創作者は原告らではないかとか、あるいは、被告と原告らとの間には何らかの協力関係があるのではないかとの誤認をするなど」している。 

(事案の概要は、地裁判決より引用。)

 

 そこで、原告は、被告に対し、旧不正競争防止法一条一項一号に基づき、「別紙目録第二記載の書体にかかる活字及び母型を製作し、販売してはならない旨」等の請求を行いました。

 原審では、原告の請求はいずれも認められませんでした。そこで控訴した事案が本件です。

 

理由(当裁判所の判断)

第一 不正競争防止法第一条第一項第一号の規定に基づく差止請求について
一 裁判所は、証拠・原審における控訴人A尋問等の結果によれば、次の事実を認定しました。
「控訴人らは、現在、いずれもグラフイツクデザイナーとして、書体の研究、制作等に従事するものである。昭和三四年、当時、武蔵野美術学校(現在の武蔵野美術大学)に在学していた控訴人Aと同Bは、共同して、明朝体の漢字と調和し、かつ、読み易さを旨とする平仮名及び片仮名の新しい書体を研究、開発することを企画してこれに着手し、昭和三六年には、明朝体、ゴシツク体、その中間体の三種類の書体の長所を取り入れた混合体ともいうべき新書体を作るようになつた。この書体が後に完成した「タイポス書体」の原形となつた。」


「昭和三七年には、この研究、開発の事業に控訴人C、同Dが参加して、以後は控訴人ら四名(以下、単に「控訴人ら」という。)が共同して新書体の研究、開発を進め、同年中に「タイポス37」及び「タイポス411」と称する二書体を創作したのを手初めとして、昭和四二年には原判決別紙目録第一記載の「タイポス45」を、次いで昭和四三年には「タイポス35」をそれぞれ創作、完成し、その後もこれら四書体と同一の、いわゆるフアミリーに属する「タイポス44」、「タイポス66」「タイポス88」「タイポス1212」等を創作して今日に至つている。
 控訴人らが創作した右の書体は、一般に「タイポス書体」又は単に「タイポス」と総称されているが、各々の名称に付された数字(例えば、「タイポス45」の「45」の数字)は、文字枠の一辺の長さを一〇〇とした場合の、当該文字の横線及び縦線の太さを示す数字を、横―縦の順に並記したものである(例えば、「45」は、横線が枠の長さを一〇〇として四の太さ、縦線が五の太さの書体となる。)。」


二 さらに裁判所は、以下検討しました。
1 「「タイポス45」が不競法第一条第一項第一号の規定にいう「商品」に該当するか否かの」検討
 「控訴人らの主張の要点は、右法条にいう「商品」とは、必ずしも有体物に限られるものではなく、無体物であつても、それが現実に商取引の対象となつているものであれば右にいう「商品」に該当すると解すべきであるというのである。」とした上、これに対し、
 裁判所は以下のように判断しました。

「思うに、不競法は、「商品」の概念について定義する規定を設けていないので、右「商品」の意義内容はこれを解釈によつて確定するほかはない。
 不競法第一条の規定は、取引秩序を破壊する不正競争行為は公衆の社会協同生活上許すべからざるものであつて、これに対し、損害賠償による間接的な抑制のみでなく、直接的にその差止めをすることができることを定めたものと解されるが、いかなる行為をもつて不正競争行為とするかは、同条第一項の第一号から第六号までに明文をもつて限定されている。
 そこで、右第一号ないし第六号の規定についてみると、「商品」については、その「容器包装」(第一号)、「原産地」(第三号)及び「品質、内容、製造方法、用途、数量」(第五号)等の語が用いられており、「商品」は、「販売、拡布、輸出」(第一号、第三号ないし第五号)あるいは「産出、製造、加工」(第四号)の対象となるべきものであることが明定されているのであつて、これらの用語法や行為の態様からすると、ここにいう「商品」とは、有体物をいい、無体物はこれに含まれないと解するのが自然であり、かつ、合理的である。(なお、ここにいう「有体物」には、酸素、水素、天然ガス、液化石油ガス等のように、それ自体は無定形のものであつても、自然界に存在し、容器に収めて取引の対象とされるものを含む。)
 また、一般に、「商品」の語は、取引市場における流通に置かれるべきものとして生産、加工され、それ自身経済的価値を有すべき前記のような有体の動産ないし物件をいうものと解するのが、社会通念に合致する。
 さらに、右第一号の規定は、「商品」に、他人の商品たることを示す表示(他人の商品表示)と同一又は類似のものを使用するなどして、他人の商品との混同を生ぜしめる行為を禁圧しようとするものであるが、無体物については、それ自体に、商品表示をすることがもともと不可能と考えられる。」
 以上の諸点を考え合せると、旧「不競法第一条第一項第一号の規定にいう「商品」とは、少なくとも有体物(容器に収めて取引される無定形物を含む。)であることを必要とし、無体物はこれに含まれないと解するのが相当である。」

(BLM コメント:えー?!? なんと、現在の感覚では、違和感を感じますが、この時代はこのように判断していたのですね。本件は、古い判決なので、その後、モリサワタイプフェイス事件高裁判決で、この点は異なる判断がなされtります。)


 そして「控訴人らは、もし右の「商品」に無体物が含まれないとすれば、控訴人らのような書体デザイナーや書体創作は法的保護を全く受けられないことになり、その結果は不当である旨主張するが、いまだ、前記解釈ないし判断を左右するに足りない」等と判示しました。

 
2「タイポス45による「写植用文字盤」が不競法第一条第一項第一号の規定にいう「商品」に当ることを前提とする請求について」の検討
 (BLM コメント:タイポス45による写植用文字盤が右法条にいう「商品」に該当することを前提に以下判断されました。)


 「ところで、不競法第一条第一項第一号の規定は、他人の商品との混同を生ぜしめる行為を防止することによつて、いわゆる周知表示に化体された商品主体の信用の冒用、毀損を防止し、もつて、公正な競業秩序の維持、形成を図ろうとするものであると解されるから、この規定によつて保護されるべきものは、信用の保持者たる商品主体、すなわち、商品の製造、加工、販売、輸出入等の商品取扱業務に従事する業務主体に限られるものと解される。」とし、差止請求主体について判断基準を示しました。


 そして、「控訴人らは、前記「写植用文字盤」の商品主体であると主張する」ことに対し、「原審における控訴人D尋問の結果とこれによつて真正な成立を認めうる甲第一七号証、第一八号証によれば、右写植用文字盤に関して次の事実が認められる。」として以下の事実を認定しました。

 「控訴人らは、株式会社写真植字機研究所(後に、商号を「株式会社写研」と変更した。)との間で、昭和四四年三月一〇日にはタイポス35、タイポス37、タイポス45及びタイポス411の四書体につき、次いで昭和四六年一一月八日にはタイポス44、タイポス66、タイポス88及びタイポス1212の四書体につき、それぞれ控訴人ら主張のような内容」「の独占的使用許諾契約(ただし、写植用文字盤への使用に限る。)を締結し株式会社写真植字機研究所が前記各書体による文字を複製して写植用文字盤を製作し、該文字盤を使用、販売することを許諾すると共に、右独占的使用許諾の対価として、同会社は、控訴人らに対し、①昭和四四年三月一〇日の契約においては、金五〇万円と同会社が販売する文字盤各一枚につき金二〇〇〇円(ただし、標準規格以外の文字盤については、タイポス書体のうち「平がな」「片かな」の各一書体につき金一〇〇〇円)、②昭和四六年一一月八日の契約においては、金一〇〇万円と同会社の販売する文字盤各一枚につき金二〇〇〇円(ただし、標準規格以外の文字盤についてはタイポス書体のうちの「平がな」「片かな」の各一書体につき金一〇〇〇円)、を支払うことを約した。以来、同会社は、この契約に基いて、前記八種類のタイポス書体による写植用文字盤を製作、販売しているが、その量は昭和五三年一〇月二七日の時点までで約二万五〇〇〇枚、そのうちタイポス45によるものが約二五〇〇枚であり、前記文字盤各一枚につき金二〇〇〇円の金額は右の時点までに金二三〇〇円に改訂されている。」


 上記認定事実により、裁判所は「タイポス45による写植用文字盤なる商品を製造し、販売しているのは株式会社写真植字機研究所であつて(現商号株式会社写研)、控訴人らは、同会社にタイポス書体の独占的使用許諾を与えた対価として契約に定められた一定額の金員の支払を同会社から受領しているにすぎず、右商品の商品主体に該らないことが明らかである。
 なお、」「株式会社写真植字機研究所(株式会社写研)が前記写植用文字盤を販売する際には、これに「タイポス保証書」(もしくは「タイポス書体保証書」)と題する書面が添付されており、この書面には、当該文字盤がグループ・タイポにより創作された純正タイポスであることを保証し、かつ、「タイポスの原字著作権又は原字創作の権利がグループ・タイポにあ」る旨の記載があることが認められるけれども、このような事実は前記の認定を妨げるものではないから、右各証拠をもつて前記認定を左右することはできない。」と判断しました。
 けっかとしてえ、「控訴人らはタイポス45による写植用文字盤の商品主体に該らないのであるから、これを前提とする控訴人らの請求もまた理由がない。」と判断されました。


第二 不法行為を原因とする差止請求及び損害賠償の請求について

「控訴人らは、「キツド書体」(原判決別紙目録第二に記載の書体)と「タイポス書体」との類似の程度は極めて大きく、被控訴人のした「キツド書体」による活字及び母型の製造、販売行為は不法行為を構成すると主張する。」ことに対し、裁判所は、「しかしながら、もともと、文字の書体は、線の一定の配列により特定の音又は意味内容を伝達するものであるから、当然一定の形態をとることになる。したがつて、そのような一定の形態をとる一つ一つの文字自体における個々の形態ないしその創作も保護しなければならず、法律上の保護に値する利益があるものとすれば、無限に存する書体自体の私有化を認めるに等しい結果となり、本来国民共有の財産たるべきはずの文字は、僅かな者の独占的使用に委ねられ、国民による文字の自由使用は不可能になつてしまうのであつて、帰結するところは明らかに不当である。」と判示し、

 「そうすれば、前認定のとおりの構成態様にかかる原判決別紙目録第一記載のタイポス45について、これが控訴人らの創作にかかる書体であり、被控訴人の製造、販売している活字及び母型の「キツド書体」がこのタイポス45の書体に類似し、その他控訴人ら主張のような事実関係が存するとしても被控訴人の右行為が不法行為を構成するということはできない。
 控訴人らの差止請求及び損害賠償の請求は、その前提たる不法行為の成立の点において、既に失当というべく、理由がない。」と判断しました。

 

BLMまとめ

 4月21日の記事で、地裁判決を見た際は、「本件は、控訴審があるので、最終的にどう判断されたのか」等と記載し、覆ることを期待しましたが、いずれの請求も認められませんでした。文字自体がよほど芸術的な創作があるとか、特徴的であるとかしないと著作権法では保護が難しいのかなとも思いますので、せめて不正競争防止法で、と思いましたが。。。

 創作に手間と時間、お金がかかる知的成果に対し、何らかの保護を与えないと、創作や商品化のインセンティブが損なわれてしまいます。

 もっとも、上記判決の判断からは、現株式会社写研が原告となる場合は、請求が認められたのでしょう。しかし、現株式会社写研は契約に基づき、一審原告にお金を支払っているわけです。本件のような請求が認められないということは、誰でも使用してよい文字であり、対価を一審原告に支払う必要がなくなるわけですから、本件訴訟に積極的に関与するメリットを見出せないかも、、、等と思います。

 写植書体は著作権法でも保護されにくいものなので、せめて、不正競争防止法で、本ブログで今までよく扱った「他人性」のグループに含めて解釈してもよかろうにと思いましたが…。うーん、控訴審でも覆らなかったのですね…。その後、新たな展開を見ることとなる、モリサワタイプフェイス事件の高裁判決を、今度見ていこうと思います。

 

By BLM 

 

 

 

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