2月19日の記事で、フレッドペリー最高裁判決で示された「真正商品の並行輸入」に該当し、商標権侵害の実質的違法性が阻却されるための要件(判断基準)が適用された事例のうち、バーバリー事件を見て行きました。19日の記事では、第一要件で示された「適法性」の意味を考えました。今日は、同最高裁判決で示されたいわゆる「同一人性」について考えていきたいと思いますが、これを考えるにあたり、クロコダイル事件を見ていきたいと思います。

 

 本事件は、「わが国登録商標権者(原告)のCrocodile商標と実質的に同一といえるほど類似している商標の付されたシャツ(被告商品)を、この商標のマレーシアにおける権利者より輸入して、日本国内で販売する行為が商標権侵害となるかが争われた事件で」、「原告はシンガポールの会社よりCrokodile商標にかかる商標権を譲り受けたもので」す。「この判決は、マレーシアの商標権者と原告との同一人性を否定し、加えて、被告会社が被告商品の輸入を開始した当時には既に、原告は上記シンガポール会社等の外国企業に依拠することなく、Crokodile商標について「独自のグッドウィルを形成していたもの」等とし、「被告の行為は出所表示機能、品質保証機能を害するものであるとして侵害が肯定されている」ものです(「」内引用:宮脇正晴著「商標機能論の具体的内容についての一考察―フレッドペリー事件上告審判決の検討を中心に―」立命館法学4号(290号)(2003年) )。

 

クロコダイル事件 大阪地裁平5(ワ)7078号 平8年5月30日判決

 

(判決文は、LEX/DBインターネットデータベースより引用。「」内は引用、BLM任意に抽出して、省略しました。改行、着色、太字は、BLM。)

 

当事者

原告 ヤマトインターナショナル株式会社
被告 株式会社オカモトコーポレーション

 

事案の概要

 「原告は、昭和55年4月21日、次の商標権を前商標権者であるシンガポールのリー・セン・ミン・カンパニー・センデイリアンバーハッド(以下「シンガポールのリー社」という。)から移転登録(原因・昭和五四年七月一二日譲渡)を受けて有している」。

 

「登録番号 第五七一六一二号

 出願日 昭和三四年四月二七日(商願昭三四―一二九九三)

 登録日 昭和三六年五月一日

 存続期間の更新登録 昭和五六年七月三一日、平成三年七月三〇日

 商品の区分 旧第三六類

 指定商品 洋服、オーバーコート、レインコート、股引、脚絆、帽子、襯衣、ズボン下、手袋、靴下、カラ、カフス、ネクタイ、襟巻、ガーター、腕止、巻ゲートル、手巾、装身用ピン」

 

本件登録商標は以下。(J-PlatPatも公開情報より引用。)

(現在、書換制度により新しい商品と区分に変わっています。登録情報はこちらご参照。)

 

 被告は、下記のような「平成四年、別紙被告標章目録(一)記載の標章(以下「被告標章1」という。)を織ネームに使用したシャツ、及び同目録(二)記載の標章(以下「被告標章2」という。)を包装袋に使用したシャツ(以下、これらのシャツを一括して「被告商品」という。)を販売した」。(LEX/DBインターネットデータベースより引用。)

 原告は、商標及び商品が同一又は類似であるとして、被告が被告商品を販売する行為は本件商標権を侵害すると主張して、被告に対し、商標法三六条一項に基づく差止等を請求した事案である。
 

争点に対する判断(裁判所の判断

一 争点1(被告標章1、2は本件登録商標と同一又は類似するものであるか)

…省略… 被告標章1及び2は、「全体として本件登録商標と類似するものであることは明らかである(類似するというより、むしろ実質的に同一であるとさえいうことができる。)。」と判断されました。

 

二 争点2(被告会社の行為は、真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くか)

1 「商標法の目的は、商品の出所表示機能、品質保証機能を果たすことを本質とする商標を保護することによって商標を使用する者の業務上の信用(いわゆるグッドウイル)の確保を図るとともに、併せて需要者の利益に資することにある。そうすると、国内における登録商標と同一の商標を付した商品が国外から輸入され、国内で販売される等する場合、当該商品が国外において右商標を適法に付された上で拡布されたものであって、かつ、右国外で商標を適法に付して拡布した者と国内の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視されるような特殊な関係があるときは、両商標が表示し又は保証する商品の出所、品質は同一ということができ、出所表示機能及び品質保証機能を何ら害するものではないから、当該商品を国内において販売等する行為は、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害行為としての違法性を欠き、許容されるものというべきである但し、国内の商標権者が登録商標の宣伝広告等によって当該商標について独自のグッドウイルを形成し、当該商標と国外で適法に付された商標の表示し又は保証する出所、品質が異なるものであると認められるときは、前記商標権の機能からして、真正商品の並行輸入として許容されるものでないことは当然である。」


2(一)(二)…省略…

(三)「認定の事実によれば、陳三兄弟は昭和三一年(一九五六年)二月二五日から昭和四六年(一九七一年)六月一一日まで、香港における「クロコダイル」商標の商標権者であり、同月一二日、香港のクロコダイル社がその商標権者となったところ、別件訴訟事件が提起された昭和四四年当時は、シンガポールのリー社の代表者が陳賢進であり、また、香港のクロコダイル社の社長が陳賢進の次兄の陳俊、副社長が同じく長兄の陳少輝であった」「わけであるから、少なくともこの時点においては、シンガポールのリー社と香港のクロコダイル社は、経営者が互いに兄弟であり、その兄弟で香港における「クロコダイル」商標の商標権を共同保有していたのであって、相互に密接な関係にあったということができる。」

 また、「平成四年(一九九二年)当時、シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社、マレーシアのクロコダイル社は相互に密接な関係にあったことが認められ、現在においても同様であるものと推認される。」

 「しかしながら、香港のクロコダイル社とシンガポールのリー社とが、昭和四四年当時から二〇年以上を経過した平成四年(一九九二年)以降も相互に密接な関係にあるとの事実、あるいは右両社がシンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社、マレーシアのクロコダイル社と密接な関係にあるとの事実を認めるに足りる証拠はない。」

「前認定のとおり、別件訴訟事件当時(昭和四四年)シンガポールのリー社の代表者であった陳賢進」「が、平成四年又は三年当時シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社及びシンガポールのクロコダイル・インターナショナル社の役員・株主であり、マレーシアのクロコダイル社の株主であること、

シンガポールのリー社との関連を想起させる「リ セン ミンCO (M)有限責任会社」がマレーシアのクロコダイル社の株式四万八一二五株を保有していること、

マレーシアでは、陳賢進及び陳少輝ことユー・シン・ファクトリーが、マラヤにおいて、被告標章2と実質的に同一と認められる商標及びこれから筆記体のCrocodileの文字を除いた商標について商標登録を受け、サバにおいて、被告標章2と実質的に同一と認められる商標から筆記体のCrocodileの文字を除いた商標及び活字体のCROCODILEの文字商標について商標登録を受けており、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社が、サラワクにおいて、左側に筆記体のLi Seng min、右側に大小二匹の鰐の図形、これらの下に黒地に白抜きでCROCODILES BRANDの文字を配し、全体を長方形の枠で囲んだ商標について商標登録を受けていること、

また、マレーシアのクロコダイル社のセールスマネージャーである林寶泉の名刺に、被告標章2と実質的に同一の構成を有するものと思われる商標が印刷されており、同社の株主の陳賢進が同国における被告標章2と実質的に同一と認められる商標の商標権者(陳少輝と共同)であるので、同社は右商標の使用について許諾を得ていると考えられることをもってしては、

未だ前記事実を推認するに足りない。かえって、弁論の全趣旨によれば、現在、香港のクロコダイル社の経営権は陳俊の手を離れ、陳三兄弟とは関係のないライサン社に移っていることが認められる。

 また、別件訴訟事件において、シンガポールのリー社が、同社はメーカーである香港のクロコダイル社の販売部門を担当する会社である旨主張していた」「が、少なくとも平成四年以降において右両社がそのような関係にあることを認めるに足りる証拠はない。

 したがって、少なくとも、平成四年(一九九二年)以降において、香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社がマレーシアのクロコダイル社等とともに被告ら主張のクロコダイルグループというべきグループを形成しているとの事実を認めることはできない。

 

3 「また、本件登録商標を含む「クロコダイル」商標は、陳三兄弟を中心とするクロコダイルグループの努力によって、昭和四六年(一九七一年)には世界的に著名な商標となり、少なくともアジア、中近東各国では確固不動の地位を築き上げていたため、日本国内においても、取引業者や需要者の間では、古くからある海外の著名ブランドとして認識され、それによって識別される商品の出所もクロコダイルグループであると考えられており、国内販売代理店にすぎなかった原告がその生産源、販売源であるとは考えられていなかったとの被告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

 かえって、(証拠省略)によれば、原告は、昭和四四年一二月に本件商標権の当時の保有者であったシンガポールのリー社から本件登録商標の独占的使用の許諾を受け

次いで昭和五〇年一二月二日付契約に基づき昭和五二年二月一四日に専用使用権の設定登録を受け

さらに昭和五四年七月一二日にシンガポールのリー社から本件商標権を譲り受けて昭和五五年四月二一日にその移転登録を受けたものであるところ、

原告が右独占的使用の許諾を受けた昭和四四年一二月当時シンガポールのリー社はわが国において本件登録商標を付した商品を全く展開していなかったため原告が本件登録商標を付した衣類(スポーツカジュアルウエア)を製造して専門店、百貨店等に取引を依頼しても当初は受入れられなかったこと、原告は、昭和四六、七年のワンポイントブームに対応して積極的に本件登録商標を使用した広告宣伝活動を開始し、昭和五二年以降は、本件登録商標とともに原告の商号を明記して宣伝活動を展開し(その反面、シンガポールのリー社の名称は表示していない。)、イメージキャラクターとして阪神タイガースの選手や読売ジャイアンツの元選手を起用する等し、昭和五七年から平成三年までの間に、テレビ・雑誌・新聞・看板その他による広告宣伝費として毎年一億円~二億二四〇〇万円を投じていること

原告は、経営面においても資本面においてもシンガポールのリー社とは全く関係なく本件登録商標を付した商品の開発から、デザイン、原材料、縫製メーカー、販売方法、広告宣伝方法まですべて独自に決定し、素材メーカーに対しても注文を付けていることが認められ

したがって、被告会社が被告商品を輸入して販売した平成四年当時には既に、原告は、シンガポールのリー社、香港のクロコダイル社等に依拠することなく、本件登録商標について独自のグッドウイルを形成していたものと認められるし、被告商品は、原告が本件登録商標を付して販売している商品と品質、形態等において差異がないと認めるに足りる証拠がないというのにとどまらず、差異があるものと推認される

 

 原告が香港のクロコダイル社と香港に合弁会社を設立した事実は当事者間に争いがなく、被告らはこれを根拠に原告は本件商標権の移転登録後も香港のクロコダイル社と密接な関係を保っている旨主張し、原告は本件登録商標に関して独自のグッドウイルを形成していないとするかのようであるが、(証拠省略)によれば、右会弁会社(ペリフェリック・カンパニー・リミテッド。平成元年八月に設立されたが、平成三年、原告が同社の株式を他に譲渡したことにより合弁解消。)は中国の縫製会社に間接的に出資する目的で設立されたものであり、右中国の縫製会社はジーンズの製造を行ったものの、「クロコダイル」商標とは全く関係がないことが認められる。」

 

4 「以上によれば、少なくとも、平成四年(一九九二年)以降において、香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社がマレーシアのクロコダイル社等とともに被告ら主張のクロコダイルグループというべきグループを形成しているとの事実は認められないのみならず、そもそも、原告が被告ら主張のクロコダイルグループの一員であるとの事実を認めるに足りる証拠はないから、仮に被告商品がマレーシアのクロコダイル社によって国外において適法に「クロコダイル」商標を付して拡布されたものであったとしてもシンガポールのリー社から原告が本件商標権を譲り受けたからといってマレーシアのクロコダイル社が原告と同一人と同視されるような特殊な関係があるといえないことは明らかであり、また、被告会社が被告商品を輸入して販売した平成四年当時には既に、原告は、シンガポールのリー社や香港のクロコダイル社等に依拠することなく、本件登録商標について独自のグッドウイルを形成していたものであり、被告商品は、原告が本件登録商標を付して販売している商品と品質、形態等において差異があるから被告会社が被告商品を日本国内に輸入して販売した行為は、本件登録商標の出所表示機能、品質保証機能を害するものであり、前記1に説示したところにより、真正商品の並行輸入として違法性を阻却されるものでないことは明らかである。

 

三 争点3(被告会社は現在被告商品を販売し、又は販売のために展示しているか。将来同様の行為をするおそれがあるか。被告会社は現在被告商品を所有、占有しているか)

…省略… 

 

四 争点4(被告岡本は被告会社とともに不法行為責任を負うか。被告岡本には代表取締役としての職務を行うについて悪意、重過失があったか)

…省略…

 

五 争点5(被告らが損害賠償義務を負う場合、原告に賠償すべき損害の額

…省略…

 

結論

「よって、原告の請求のうち、被告会社に対する被告商品の販売又は販売のための展示の差止めを求める請求、及び被告らに対する損害賠償請求を認容し、被告会社に対する被告商品の廃棄請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。」

 

BLM感想 (本件に関する評釈を参考に)

 本件について、宮脇正晴著「商標機能論の具体的内容についての一考察―フレッドペリー事件上告審判決の検討を中心に―」立命館法学4号(290号)(2003年) を参考にすると、フレッドペリー最高裁判決において、真正商品の並行輸入として商標権侵害の実質的違法性を欠く要件(判断基準)の一つとして、「外国商標権者とわが国登録商標権者が同一人といえる関係であることを要求するもの」があるわけですが、当該最高裁の下級審判決は「いずれも、この要件は採用せず、代わりに、「[輸入品]に付された商標が表示する出所と、商標権者の使用する商標が表示する出所が実質的に同一」であることという要件を設けてい」ました。しかし、同最高裁判決では、「一、二審のこのようなアプローチは採用せず、従来の裁判例どおり「同一人性」を要求するものとなっている」と指摘されています。(「」内引用:宮脇15頁)。この点について、宮脇先生は、以下のように指摘しておられます。

 

「例えば外国の商標権者の商標が世界的に著名で、わが国の商標権者のほうは、その外国権利者の商標の付された商品を輸入販売する限りにおいて登録商標を使用しているに過ぎない場合を考えた場合、「同一人性」が充足されないからといって、侵害が肯定されるのは不当に思われる」とし、「わが国登録商標の識別する出所は外国権利者のほうであり」、「輸入品の出所と一致しているので、出所表示機能が害されているとはいえないはずだからである。」と指摘されておられます。

 BLMの理解だと、そうすると、フレッドペリー最高裁判決の一、二審における“商品に付された商標が表示する「出所が実質的に同一」かどうか”という観点で判断した方が妥当である、ということなのだろうと思いますが、この理解で正しければ、BLMも係る見解を支持します。特に、一、二審では、「フレッドペリーグループ」という言葉を用いており、「出所」をこのように捉えることに賛成です。

 

また、先生は、「「同一人性」要件を批判するもう一つの有力な根拠として、同一人性が認められる場合であっても、わが国商標権者が独自のグッドウィルを築いている場合にも侵害が認められないこととなってしまう、とするものがある」とし、注69として、「中山信弘「BBS事件批判」村林隆一還暦記念『判例商標法』(発明協会,1991年)、田村善之『商標法概説〔第2版〕』(弘文堂,2000年)、茶園成樹〔大阪事件二審批判〕発明100巻2号」をあげ、「確かに、商標法が保護するのはわが国登録商標権者の信用(グッドウィル)」「であるので、商標権者がわが国で独自の信用を築いている場合に外国商標権者の商品の輸入を認めると、その信用が脅かされることとなるので、その場合に侵害を肯定すべきとする判断は正当である」としています(宮脇18頁)。

 そして、ここからが、今日見て来たクロコダイル事件にやっと関連してくるのですがほっこり汗、先生は「これまでに、わが国商標権者の「独自のグッドウィル」を根拠の一つとして侵害を肯定したものとして、クロコダイル事件」がある、と紹介しておられます。

 BLMの理解だと、そうすると、今日みてきた上記クロコダイル事件で、もともとは並行輸入に係る海外の商標権者(シンガポールのリー社)から、原告は商標権を譲り受けているので、海外における「クロコダイル」ブランドは、海外の会社を「出所」として需要者に認識されていると解される場合、原告は、我国の商標権者であっても、当該海外の会社と「同一人」とされる可能性があるということだろうか。しかし、本事件では、原告の我国における独自のグッドウィルの獲得を認めて、原告とは関係がないルートで日本に入ってきた海外の商品については、真正商品の並行輸入該当性を否定した、ということである。裁判例を見ていくと、そもそも海外においても商標の管理が統一化されていない状況もあったようであるが、いずれにしても、我国の国内の問題に関しては、我国商標権者が独自の品質管理をしていれば、他社の海外からの併行輸入に商標権の効力を及ぼし得る、ということだろう。

 

 BLMとしては、フレッドペリー最高裁判決で示された「真正商品の並行輸入」該当要件(判断基準)をすんなり受け入れていたのですが、最高裁が示したといえども、諸々論点があるようで、とにもかくにも、学者さんはじめ、実務者でも、そういった問題点を、よくぞ指摘できるものだと感心します。確かに、考えれば考えるほど、なるほど、納得がいかないものも出て来ますが、こういう話は、法律分野外の方から見ると、「何やってるんだ?」と思われるかもしれません。でも、正直、面白いですよキラキラひらめき電球

 

by BLM

 

 

 

 

 

 

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