2月17日の記事では、ZOLLANVARI事件の地裁の判断を見て行きました。今日は、高裁の判断を見ていきます。
当事者
控訴人株式会社絨毯ギャラリー(以下「X」)
被控訴人 有限会社オリエンタルアート(以下「Y」)
事案の概要
「こちら」をご参照。
控訴人の商標権は以下(詳細は「こちら」をご参照。)
J-PlatPatより2021年2月15日抽出(公開情報より抜粋)
地裁の被告標章目録記載1は「裁判所ホームページ」より抜粋。
1.
2.ZOLLANVARI
3.ゾランヴァリ
被告ウェブサイト目録 (省略)
当裁判所の判断
(判決文は、最高裁HPより引用しましたが、BLM任意に抽出しまとめていますので、原本通りの文章ではない部分もあります。正しい判決文をお知りになりたい方は、上記最高裁HPをあたってください。)
認定事実
裁判所は、
ZOLLANVARI社(以下「ゾ社」という。)の代表者Aが、本件訴訟提起後に、その提起前の一定期間内において、被控訴人代表者の夫であるCに対してじゅうたんを販売していたことを証明する文書をイラン国内において提出したこと、
当該Cが、被控訴人のためにイランからじゅうたんを仕入れていること、
Cは,B(ゾ社のセールスマネージャーで,控訴人との取引をも担当)との間でメール等で商談を行ったり,輸出入書類の案文のやり取りを行ったりしており,また,イランに行った際にはゾ社を訪問することもあったこと、
被控訴人は,一定期間イランから6度,合計5000枚以上のじゅうたんを日本に輸入しており,その輸出入書類の荷送人業者はゾ社ではないが、荷送人の電話番号等はゾ社のものが記載されていること、
イランから輸入したじゅうたんは,ゾ社のスタンプが押捺等され(Bがサイン等含む。)、商品,数量及び価格が記載されたリストが作成されたこと、
被控訴人がイランから輸入したじゅうたんは,C等が,ゾ社の代表者のA名義の銀行口座に振込み又はAを受取人とした小切手を振り出す等し代金を支払ったこと、
被控訴人は,平成24年にゾ社に宛ててギャッベ83枚を返品したこと、
被控訴人商品に付されていたタグは,商品番号1411416等の6枚で、これらは、被控訴人がイランから輸入した際のパッキングリストに記載の商品番号に由来すること、
被控訴人タグの付されていない被控訴人商品には,被控訴人各標章が付されておらず,バーコード,商品番号,寸法及び商品名のみが記載されたタグが付されていること、
被控訴人は,被控訴人商品を上記タグに記載された商品番号で管理し、これを被控訴人ウェブサイトも説明し,被控訴人ウェブサイトで商品を選択すれば,その商品番号を確認することができるようにしていること、
を認定しました。
争点(1)(被控訴人商品に被控訴人タグを付したのは被控訴人か)について
(BLMコメント:商標が付された商品の品質管理において、タグ等の目印について、誰が付したのか、何のために付したのか等によって、申請商品の並行輸入該当性に影響しそうです。少々細かく見ていきます。BLMで任意に文章をまとめています点は、上記の通りです。)
裁判所は、
(1)認定事実によれば、被控訴人代表者の夫Cは、被控訴人のために,ゾ社の日本における総代理店である控訴人と同様、ゾ社のセールスマネージャーBと商談を行い、ゾ社のスタンプが押捺された商品のリストに基づいて、約4年の間に合計5000枚以上のじゅうたんをイランから輸入し、その代金は、ゾ社の代表者であるAに対して支払われており、返品はゾ社に対して行われていたのである。 A自身も、Cに対してじゅうたんを販売していたことを認めていたのだから,被控訴人商品は,被控訴人がゾ社から購入したものと認められる。ゾ社のBは、日本国内にいるCを通じ、日本の会社である被控訴人に対しゾ社の製品であるじゅうたんを販売して輸出する取引をしているのであるから、ゾ社においても、被控訴人に販売した商品が日本国内で販売されることを前提として,被控訴人に対してゾ社の製品を販売したものと認められる。
(2)控訴人は,被控訴人商品のタグは、ゾ社がイラン国内で販売する際に付するもので被控訴人商品は,ゾ社がイラン国内の市場でCに対して販売したものである旨主張し,A及びBの説明には,これに沿う部分がある。しかし、ゾ社が控訴人と日本における総代理店契約を締結し、ゾ社がその製品を日本国内で販売されることを前提として被控訴人に対して販売することは,控訴人との間の総代理店契約に違反することになると考えられ、AやBとしては,前記(1)の取引を控訴人に対して秘匿したい立場にある。実際、Bの発言には控訴人に対して秘匿するのに口裏を合わせてほしいと協力を求める趣旨のものが認められ、ゾ社が被控訴人に対して販売した事実やインボイスの控えもない旨回答した経緯等に加え、本件訴訟提起後のAが作成した報告書では,被控訴人が私たちから輸入し販売しているじゅうたんは,イラン国内の地元市場でCに販売したものである旨説明し、説明内容は変遷している。これらのことをも考慮すると,A及びBの上記説明は直ちに採用できるものではなく前記(1)の認定を左右しない。
(3) 被控訴人商品は日本国内で販売されることを前提としてゾ社がその製品を被控訴人に対して販売したものと認められる以上、その一部に付されている被控訴人タグは、ゾ社が付したとしても不合理ではなく、被控訴人タグに記載された商品番号は、被控訴人がイランから輸入した際のパッキングリストに記載された商品番号に由来しているのであるから、むしろ、イランから輸出したゾ社が付したと考えるのが自然である。 被控訴人代表者は,被控訴人タグが付されるようになった経緯として、控訴人がゾ社から仕入れたじゅうたんの裏にスタンプを押すようになり,そのスタンプがないと本物のゾ社の製品でないとの認識が取引者・需要者の間に広まったことから,Cは、Bに、ゾ社との取引停止を通告したところ、ゾ社が取引の継続を求め、Cがその条件として売買契約書やタグ等、ゾ社の製品であることの根拠となるものを要求した旨説明しているが、この説明に特段不合理な点がない。 被控訴人タグは、被控訴人商品の一部にしか付されていないが、被控訴人がこれを付したのであれば一部にのみ付する合理的理由は見いだし難いが、被控訴人の主張では、ゾ社が一部にのみ被控訴人タグを付したのは、じゅうたんを山積みにして陳列する際、一番上のじゅうたんにのみ付されていれば、それでタグの役割は十分果たされるとの説明を受けたとされ、控訴人には総代理店契約との関係上,被控訴人との取引を秘匿したく、被控訴人タグの提供を最小限にしたいと考えていたと推測される対応として十分あり得る。
また,控訴人は,ゾ社の製品のうち輸出用として選別された控訴人商品には,被控訴人タグと異なる控訴人タグが付されている旨主張するところ、ゾ社としては、日本の被控訴人に輸出用商品を販売することが控訴人との関係では総代理店契約に違反することから、被控訴人商品には控訴人商品とは異なるタグを付すことにしたと考えられ、控訴人タグが付されていない輸出用商品の存在を認めることができる。以上によれば,被控訴人タグは,ゾ社によって付されたものであると認められる。
…等と判示しました。
争点(2)(被控訴人各標章の使用行為は商標権侵害としての実質的違法性を欠くといえるか)について
(BLMコメント:商標権侵害を構成するか否かの行為を、下記①②③に分類し、検討しています。一度商標権侵害に該当する、と言って、~なので該当しない、というのは、まわりくどい感じがしますが、相手方の行為を商標権侵害と言いたい控訴人(原告)と、自分の行為は侵害にはならないと言いたい被控訴人(被告)の両立場を考えると、合理的なのかと思います。)
(1)はじめに
ア 控訴人が本件において主張する被控訴人の商標権侵害行為は、
① 被控訴人商品に被控訴人標章1を付した行為、
② 被控訴人標章1が付された被控訴人商品を販売し、販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為、
③ 被控訴人商品の広告に被控訴人各標章を付して被控訴人ウェブサイトに掲載した行為であるところ、このうち上記①は、被控訴人の行為と認められない。上記②及び③は、被控訴人各標章がいずれも控訴人商標に類似し、かつ、被控訴人商品がいずれも控訴人商標の指定商品に含まれるから、外形的には被控訴人商標権を侵害することになる。それにもかかわらず、被控訴人の主張するように、これらの行為が商標権侵害としての実質的違法性を欠くといえるかにつき、以下において検討する。
イ 商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害するが、そのような商品の輸入であっても、
① 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、
② 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、
③ 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解される(フレッドペリー事件最高裁判決)。
(2) 被控訴人標章1が付された被控訴人商品の販売等について
ア 被控訴人標章1が記載された被控訴人タグは、ゾ社によって被控訴人商品に付されたと認められる。
他方、ゾ社は、イランにおいて、「ZOLLANVARI」をペルシア文字で表記した商標の登録を出願したが拒絶され、「ZOLLANVARI」に関する商標について商標権を取得していないことが認められる。しかし、ゾ社は世界各地に直営店を設けている中で、日本においては、控訴人が、ゾ社の総代理店として、直営店と同じ扱いと待遇を受けていると認められる。 控訴人は、ゾ社から権限を授与されて初めて控訴人商標の登録を受けることができたのであるから、ゾ社がイランにおいて商標権を有している場合と実質的には変わるところがない。
そうすると、被控訴人が、被控訴人標章1が付された被控訴人商品を輸入した上、これを販売し、販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為は、控訴人商標の出所表示機能を害することがないといえる。
イ ゾ社と控訴人との間の総代理店契約において、控訴人が控訴人商品の品質管理に直接関与していることを示すものはなく、控訴人商品の品質管理は、基本的にはゾ社において行われていると認められ、被控訴人商品は、ゾ社から、被控訴人が日本国内で販売することを前提として販売されたと認められるから、被控訴人商品の品質については、これが日本において販売されることを前提としてゾ社において管理していると認められる。そうすると、ゾ社が外国における商標権者でなくても、控訴人商品につき、控訴人商標の保証する品質は、控訴人がゾ社を通じて間接的に管理をしていて、そのゾ社が、控訴人商品と同じく日本に輸出して日本において販売される商品として被控訴人商品の品質を管理しているのであるから、被控訴人商品と控訴人商品とは、控訴人商標の保証する品質において実質的に差異がないといえる(本件は、被控訴人商品と控訴人商品のいずれも、ゾ社の下で製造されているという点において、フレッドペリー事件最高裁判決の事案と異なるということがいえる。)。
この点に関し、控訴人は、被控訴人商品がゾ社の製品であるとしても、それはイラン国内のバザールで販売していた製品であり、ゾ社が日本輸出向けとして選別し控訴人タグを付した控訴人商品とは品質の点で異なる旨主張し、A及びBの説明には、被控訴人商品に付されている別紙3のタグは、国内市場でのみ使用し、輸出向け商品には使用しないとの趣旨の部分がある。ゾ社の取り扱うじゅうたんは、工場で生産されるものではなく、イラン国内において複数の織子から仕入れる手織りのものをゾ社において仕上げていると認められる。そうすると、製品ごとにその品質には相当のばらつきがあることが推認されるから、控訴人が主張するように、輸出向けと国内販売向けの製品を選別するという取扱いも十分考えられるところである。また、控訴人商品のゾ社からの購入代金は1㎡当たり224ないし715米ドルであるのに対し、被控訴人商品のゾ社からの購入代金は1㎡当たり40ないし70米ドルであると認められ、明らかに控訴人商品の方が高いといえる。
しかし、被控訴人代表者及びCが作成した、CとBとの間の会話を反訳及び翻訳した文書の注記には、控訴人が取り扱っている商品が主にルリバフなどの高級品であるのに対し、被控訴人はギャッベなどの比較的安価な商品を取り扱っており、控訴人と被控訴人とでは同じゾ社の製品でも取り扱っている商品が違う、顧客層が違うとの記載があるが、直ちに、両者の品質が異なるということにはならない。
また、別紙3のタグが付された被控訴人商品の中には、当該タグを収納しているビニール袋の内側に、当該タグに記載されたのと同じ寸法及び控訴人代表者の姓である「D」との文字が、おそらく意図せずに転写されているものが複数あったことが認められる。このことは、ゾ社において、控訴人向けとなる商品と、被控訴人向けとなる商品とが重なり合っていることを示すものといえる。
そして、控訴人商品についても、その品質管理を実質的に行っていると認められるゾ社自身が、控訴人商品と同じく日本に輸出して日本において販売される商品として被控訴人商品を被控訴人に販売している以上は、被控訴人商品と控訴人商品とは、控訴人商標の保証する品質において実質的に差異がないとの評価は左右されず、被控訴人商品と控訴人商品の品質が同一とまではいえなくても、控訴人商標の品質保証機能を害することはないというべきである。
そうすると、被控訴人が、被控訴人標章1が付された被控訴人商品を販売し、販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為は、控訴人商標の品質保証機能を害することがないといえる。
ウ 前記ア及びイのとおり、被控訴人が、被控訴人標章1が付された被控訴人商品を販売し、販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為は、控訴人商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、また、商標を使用する者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうものでもないから、商標権侵害としての実質的違法性を欠くというべきである。
(3) 被控訴人ウェブサイトにおける被控訴人各標章の使用について
ア 被控訴人商品の広告に被控訴人各標章を付して被控訴人ウェブサイトに掲載する行為については、
まず、被控訴人各標章が付された広告において宣伝された被控訴人商品は、被控訴人が、控訴人商標の外国における商標権者と同視できるゾ社から、日本国内で販売することを前提として、購入して輸入したものである。そして、控訴人は、ゾ社の日本における総代理店であって、ゾ社の直営店と同じ扱いと待遇を受けており、控訴人商標の出所表示機能を検討する際には、控訴人とゾ社とは同視することができる。そうであれば、被控訴人商品の広告に、控訴人商標と類似する被控訴人各標章を付して被控訴人ウェブサイトに掲載しても、控訴人商標の出所表示機能を害することがないといえる。
また、被控訴人商品と控訴人商品とは、控訴人商標の保証する品質において実質的に差異がないといえるから、被控訴人商品の広告に、控訴人商標と類似する被控訴人各標章を付して被控訴人ウェブサイトに掲載しても、控訴人商標の品質保証機能を害することがないといえる。
イ そうすると、被控訴人商品の広告に被控訴人各標章を付して被控訴人ウェブサイトに掲載する行為は、控訴人商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、また、以上に述べたところによれば、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうこともないから、商標権侵害行為としての実質的違法性を欠くというべきである。
以上によれば、その余の争点については検討するまでもなく、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却するとされました。
BLM感想
本件は、フレッドペリー最高裁判決の「真正商品の並行輸入」該当性を判断するための3要件を踏襲していると思いますが、同最高裁判決で問題となったのは、著名なグローバル・ブランドでした。これに対し、本件事案は、なんというか、レベルを異にしている感じがします。例えば、①控訴人が自己の名前で出願した際、商標法4条1項10号のいわゆる未登録周知商標の保護の規定で拒絶され、ZOLLANVARI社(「ゾ社」)の承諾を得て出願した旨の証拠を提出している(我が国における本件商標の出所と考えられるのは、ゾ社であると認定されている)のですが、ゾ社はイランでは商標権を取得できていなかったようです。ゾ社自身のブランド管理が、いわば欧米の高級ブランド並みの高いレベルにあったとは思えません。ただ、見方を変えれば、商品自体の魅力があったのかなあと思います。ブランドマークで商品を売る、というよりは、商品自体の各デザインが人気が高かった事例のような気がします。
そして、人間味が溢れているというか、ゾ社が、控訴人との間に締結した総代理店契約に違反して被控訴人に販売していることを、ゾ社(に属する自然人)が自覚していて、「秘匿したい立場にある」と裁判所が認定しています。このことを前提に、控訴人が主張する内容が否定され、被控訴人がゾ社から購入した商品は、日本向けである点(すなわち、控訴人商品と品質において差異がないと判断している点)を判断する等しており、フレッドペリー最高裁判決では、契約違反が、「品質」に影響すると判断したのに対し、本件では、ゾ社が控訴人との間で締結した契約の違反は、全く「真正商品の並行輸入」該当性には影響を与えず、むしろ、ゾ社が契約違反をして被控訴人に商品を販売していた事実を、じわじわと証拠等をもとに認定していっている点が本件の面白いところでもあります。
標識法というのは、市場の競争秩序を維持することを一つの目的としていると思うのですが、標識法が実現しようとする秩序とは、契約違反によって販売された商品を食い止めることまで必ずしも想定していない、と言えるのでしょうかね。
by BLM
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