特許が身近にあるということはよく言われますが(例えば、スマホには非常に多くの特許が詰まっています)、意匠も結構身近にあります。
今回は、見直にある「植木鉢」に関する意匠の争いを見てみます。
◆事件の概要
今回取り上げる事件は、「意匠に係る物品」を「植木鉢」とする意匠権を有する原告が、被告による植木鉢(被告製品)の製造販売行為に対し、差止請求等を求めた事件です。
対象の意匠権は、意匠登録番号第1244149号です。どんな植木鉢でしょうか?上記意匠の意匠公報の参考斜視図を引用します。
(上記意匠公報から参考斜視図を引用)
実線の部分が意匠登録を受けた部分です。つまり、本件は部分意匠です。
一方、被告製品はどうでしょうか。上記裁判例の添付資料から斜視図を引用します。
(上記裁判例の添付資料から斜視図を引用)
青色部分になっているところが、争いの対象となった部分です。両意匠を見比べると、被告意匠の方がカクカクッとなっている印象がします。
さて、裁判所は類否をどう判断したのでしょうか?
◆裁判所の判断
裁判所は以下のように需要者が誰であり、その需要者であればどこに注目するかを判示しています(以下、『』は裁判例からの引用)。
『本件意匠に係る植木鉢は,給水用のボトルを倒立状態で保持するための保持孔が背面側のフランジ部に形成されたものである。(甲4)そして,本件意匠に係る植木鉢が,主として,学童向けのあさがお等の育成に用いられるものであることからすれば,本件物品の需要者は,学童あるいは初等教育機関の教員であるといえる。これらの需要者は,植物の世話をしたり,給水用の容器であるペットボトル等を入れ替えたりすることから,植木鉢を背面の斜め上から見下ろすことになるため,本件意匠においては,その上部に主として注目するものと考えられる。』
需要者を植木鉢の取引者等ではなく、実際に使用する人々、特に小学生やその先生であると認定しています。そして、需要者は取引者等ではないので植木鉢のどこに注目するかというと、やはり、実際の使用態様を認定した上で植木鉢の『上部』がメインの注目点であるとしています。
そして裁判所は、公知意匠を認定した上で意匠の要部を以下のように認定しています。
すなわち、『本件意匠の物品にかかる植木鉢の用途,需要者の注目する部分のほか,上記(2)の公知意匠からすれば,本件意匠の基本的構成態様における給水ボトル挿入用の円形孔部は,公知の意匠であって新規な形態とは認められず,また,公知の意匠として,土を入れる容器と水分を供給する容器を取り付ける部分とが同一の枠内で一体となったものがあることからすれば,本件意匠において新規で創作性の認められる部分は,給水容器の保持部が植木鉢の内側に入り込む形で一体となっている形状,すなわち,円形孔部が植木鉢の背面の上方に内側に侵入する状態で内側枠体部及び土入れ部背面部が形成され,円形孔部の一部が外側に突出する状態で外側枠体部が形成されている点にあるといえる。
そして,上記(1)のとおり,本件意匠の物品に係る植木鉢において,需要者は通常植木鉢の背面の斜め上から見るもので,本件意匠の上部である円形孔部及びその周辺の意匠に注目することからすれば,枠体部の奥になって見えなくなる土入れ部背面部を除いた,植木鉢の背面上方に形成された給水ボトル保持部を形成する枠体部の形状が要部であるといえる。』としました。
続いて裁判所は、本件意匠と被告意匠とを対比しています。つまり、まず両意匠の基本的構成態様は共通するとしたうえで、具体的構成態様の共通点と差異点を認定して類否判断しています。
具体的には、
『ア 以上を踏まえて検討すると,上記のとおり,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様が共通しているところ,土入れ部背面部自体は要部ではないが,植木鉢の背面上方に円形孔部が形成された枠体部は本件意匠の要部であることからすれば,円形孔部が形成された枠体部が植木鉢背部の内側に侵入して形成された枠体部を有する本件意匠と被告意匠とは,一定の美感の共通性が生じているといえる。
しかし,本件意匠の要部である枠体部の具体的形状において,両意匠は多くの点で異なっている。すなわち,本件意匠と被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部がある点については共通するものの,本件意匠においては内側枠体部も外側枠体部も円形孔部の円弧に沿うようにほぼ円形であるのに対し,被告意匠は,平面視において,内側枠体部は略台形状で直線的な形状であり,外側枠体部についてもなだらかな山状の形で,その稜線部分が直線状であることから,その印象は異なっている。また,本件意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面に比して低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より高く,しかも,両者の間に中央枠体部が構成され,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されていることから,両者の枠体部の上面の凹凸は異なっており,上から見た印象を異なるものとしている。
イ 以上の点をふまえ,本件意匠と被告意匠を全体としてみると,両意匠はいずれも植木鉢背面内側に入り込む給水ボトル挿入用の円形孔部を形成する枠体部が存在することによって一定の印象の共通性は生じるものの,その枠体部の構成,枠体部を構成する各部の高さやその形状が異なることにより,本件意匠は,枠体部が円形孔部に沿ってほぼ円形で,背部から見た場合,奥まった内側枠体部が手前に見える外側枠体部の上面より低い形状になっていたとしてもさほどの段差感を受けることがないから,全体的に丸くシンプルな印象を受けるのに対し,被告意匠は,内側枠体部が略台形,外側枠体部が山形といった直線的な形状をしており,さらに,外側枠体部が内側枠体部の上面より低くなっていることから,内側枠体部の形状がより看取しやすく,また,枠体部の上部において内側,中央,外側部分が凸凹になっていることとも相まって,直線的でごつごつした印象を受けるものであるから,それぞれの意匠を全体として観察したときに,本件意匠と被告意匠とが類似の美感を生じるとまでは認められず,両意匠が類似しているということはできない。』とし、両意匠は類似しないと判断しました。
なお、本事件は知財高裁に控訴されましたが、知財高裁でも非類似とされています(平成29年(ネ)第1627号 意匠権侵害差止請求控訴事件)。
◆雑感
今回、需要者は学童や初等教育機関の教員、つまり小学生や小学校の先生方であり、そういった需要者の視点で意匠の要部が判断されています。したがって、植木鉢であっても、例えば、店舗用とかオフィス用とか園芸用とかになると需要者が変わり得るので、意匠の要部を検討する際も注目ポイントが変わってくるのでしょう(ただ、そもそもデザインが変われば要部も当然変わり得ますね)。
by KOIP
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