券売機や精算機はほとんどがタッチパネル式だと思います。そういった機器の意匠権に関する事件を取り上げます。

◆事件の概要
 原告は、意匠登録第1556717号(「本件意匠権」、本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」と言います)の意匠権者です。なお、本件意匠は「部分意匠」です。

 その原告が、被告に対し、「被告製品」(被告製品のうち本件意匠に相当する部分の意匠を「被告意匠」といいます)の販売等が本件意匠権の侵害であるとして、差止請求や損害賠償請求等を求めた事件です。

 被告意匠と本件意匠とが類似するか否かが争点の1つになっています。

 

 本件意匠の斜視図を意匠公報から引用します。実践部分が部分意匠として登録されている部分です。

(本件意匠の斜視図を意匠公報から引用)

 また、被告製品の写真を裁判例から引用します。

(被告意匠のタッチパネル部分の写真を裁判例から引用)

 パッと見、原告の意匠の方が面長っぽく見えますね。裁判所はどう判断したのか、見てみましょう。

◆裁判所の判断
 まず裁判所は物品が類似することは当事者間に争いがないとした上で、本件意匠と被告意匠の構成態様を認定しています。

 それによると、本件意匠の構成態様については、
(基本的構成態様)
 上方を後方に傾斜させたタッチパネル部の正面部分であり,ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形状である。

(具体的構成態様)
 A タッチパネル部の縦と横の比が概ね1.5対1となっている。
 B ディスプレイ周囲のケース部分は,ディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部で構成されている。
 C ケース部分の外枠部は,正面視及び斜視において,内枠部の外縁から外枠部の外縁に向かって傾斜する傾斜面となっている。
 D ケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅の概ね4倍の幅広に形成されている。
』と認定しています。

 一方、被告製品の構成態様については、
(基本的構成態様)
 上方を後方に傾斜させたタッチパネル部の正面部分であり,ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形状である。

(具体的構成態様)
 a タッチパネル部は,縦と横の比が概ね1.2対1となっている。
 b ケース部分は,ディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,ケース部分の上下左右の幅が全て等しくなっている。
』と認定しています。

 本件意匠の具体的構成態様C,Dが大きく異なりそうですね。更に裁判所の判断を見てみましょう。

 次に裁判所は両意匠を対比しています。
 まず、
(ア)本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は一致する。
(イ)本件意匠と被告意匠は,具体的構成態様について,①本件意匠はタッチパネル部の縦と横の比が概ね1.5対1となっているのに対し,被告意匠はタッチパネル部の縦と横の比が概ね1.2対1となっている点,②本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していない点,③本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような傾斜面を全く有していない点,④本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも概ね4倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅がすべて等しくなっている点で差異がある
』としました。

 4つの相違点を裁判所は認定しています。

 また、本件意匠は部分意匠であるため、部分意匠の物品全体に対する位置、大きさ、範囲が部分意匠の美観に影響を及ぼすか否か検討し、『本件においては,本件意匠と被告意匠との間において,類否判断に影響を及ぼす位置等の違いはないと認められる』と判断した上で、類否判断しています。

 裁判所は、
ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で一致し,具体的構成態様において,上記(2)ウ(イ)のとおりの差異点がある。
 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われ(意匠法24条2項),具体的には,意匠に係る物品の性質,用途,使用形態,公知意匠にはない新規な創作部分の有無等を参酌して,需要者の注意を惹きやすい部分を把握し,そのような部分において両意匠が共通するか否かを中心としつつ,全体としての美感が共通するか否かを検討すべきである。』と判断基準を述べた上で、3つほどの公知意匠を用いて『自動精算機を購入する需要者にとり,本件意匠の基本的構成態様や具体的構成態様A,Bが,特に注意を惹きやすい部分であるとはいえない。そして,このことを考慮すれば,具体的構成態様C,Dは,本件意匠においては,本件図面において実線で示されている部分の中では一定の大きさを占めているといえるものでもあり,注意を惹きやすい部分であるというべきである。
』としています。

 「需要者」は一般消費者や自動精算機を利用する人々ではなく『自動精算機を購入する』人としています。自動精算機の取引を考えると、通常はBtoBなので『自動精算機を購入する需要者』になったのでしょう。裁判所は、そういった需要者にとって注意を惹きやすい部分(要部)が具体的構成態様C,Dであるとしました。

 そして、裁判所は、
本件意匠と被告意匠の差異点(前記(2)ウ(イ))のうち,③本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような傾斜面を全く有していない点,④本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも略4倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅がすべて等しくなっている点は,本件意匠の具体的構成態様C,Dに係る部分の違いであり,②本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していない点は,具体的構成態様Dの前提となる構成自体が異なるというものである。それらの違いは,特に注意を惹きやすい部分であるとはいえない基本的構成態様が共通することから受ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠は,全体として,異なった美感を有するものであり,類似しないと認められる。』としました。

 なお、裁判所は原告の他の反論(本件意匠の要部の原告による認定によれば、具体的構成態様の差異点が両意匠の共通性を凌駕するものではない等)も否定しています。 

 結局、被告意匠と本件意匠とは非類似との結論になり、被告の行為は本件意匠権の侵害とは認められませんでした。

◆雑感
 裁判所が『登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われ(意匠法24条2項),具体的には,意匠に係る物品の性質,用途,使用形態,公知意匠にはない新規な創作部分の有無等を参酌して,需要者の注意を惹きやすい部分を把握し,そのような部分において両意匠が共通するか否かを中心としつつ,全体としての美感が共通するか否かを検討すべきである』としているように、意匠法24条2項は「需要者の視覚」がポイントになります。

 ただし、「需要者の視覚」がポイントになるものの、需要者の注意を惹きやすい部分を把握するためには、「公知意匠にはない新規な創作部分の有無」も参酌されています。

 したがって、目立つだけで需要者の注意を惹く部分と判断されるわけでなく、新規な創作であるか否かも考慮されます(いくら目立っても、公知の意匠と同一・類似であればダメ、ということです)。

 意匠法の目的は「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」(意匠法1条)なので、やはり、「創作部分」は重要な要素の1つになるということだと思います。

 

 なお、今後は非接触型のパネルも出てくると思うので、そうなると、非接触型に適したデザインも考えだされると思います。その場合、また、新たな意匠が生まれてくるのでしょうね。


by KOIP

 

 

 

 

  (^u^)コーヒー ====================================

知的財産-技術、デザイン、ブランド-の“複合戦略”なら、

ビーエルエム弁理士事務所の弁理士BLM

今知的財産事務所の弁理士KOIP

========================================コーヒー (^u^)