メガネは使っているもののコンタクトは使ったことがないので知らなかったのですが、カラーコンタクトといっても、様々な模様からなる様々な種類のものがあるんですね。

 そういった、模様を入れたコンタクトレンズに関する意匠の類否について争いになった事件があります。以下、『』は裁判例からの引用です。

◆前提事実
 原告は意匠登録出願人で、被告は特許庁(特許庁長官)です。

 まず、原告が、『平成21年7月8日,別紙第1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「コンタクトレンズ」として意匠登録出願(意願2009-015557(甲55),以下「本願」という。)をしたが,平成22年4月21日,拒絶査定を受け(甲56),これに対し,同年8月4日,不服の審判(不服2010-17433号事件)を請求した。特許庁は,平成23年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年4月11日,原告代理人に送達され』ました。

 そこで原告は、この審決を取消すため、今回の審決取消訴訟を提起したのです。

 結果としては原告が勝ち(平成23年(行ケ)第10159号)、その後、意匠登録されています(意匠登録1437447号)。

◆原告の意匠
 原告のコンタクトレンズはどのようなものだったのか、上記裁判例から引用します。


(上記裁判例から原告意匠を引用)

 ちょっと小さいので「平面図」のみ拡大したのが以下の図です。


(上記裁判例から原告意匠の平面図を引用)

 一方、被告である特許庁が引用したコンタクトレンズの意匠は、韓国で登録された意匠でした。そのコンタクトレンズがどのようなものだったのかも、上記裁判例から一部引用します。


(上記裁判例から引用)

 各意匠をそれぞれパッと見たときは、どこが違うのかな?とも思いましたが、比べてみると印象が全然異なります。

 裁判所はどういっているでしょうか?

◆裁判所の判断
 裁判所は『当裁判所は,本願意匠が,引用意匠に類似するとした審決の判断には誤りがあると判断する。』とし、本願意匠(原告の意匠)と引用意匠(特許庁が本願意匠の拒絶に使った意匠。上記韓国の意匠)とのそれぞれについて、どのようなデザインであるかを文章で特定した後、以下のように述べています。

2 類否についての判断
上記認定を基礎に,以下,本願意匠と引用意匠との類否について判断する。
(1) 「内周部」及び「内周縁部」について
 本願意匠は,①「内周部」及び「内周縁部」の全体に,下地として,淡い灰色に着色された直交する直線により,全体に格子状模様が施されているが,下地に施された模様は強い印象を与えないこと,②「内周部」には,灰色に着色され外周部から中心部に向けて延出した「棒状形状」が存在し,「内周縁部」には,濃黒色又は灰色に着色され,内周部から中心に向かって収束する方向に延伸する「棒状形状」(上記各棒形状は,太さ,長さが一様ではなく,また,やや曲がっているものもみられる。)が描かれていること,③「棒状形状」は,長短さまざまであるが,いずれも,中心点から,放射状に配置されている点において共通していること,④「棒状形状」のうち長いものは,内周部の棒状形状と連結して,あたかも一本の棒のように描かれている部分があることに,特徴がある。


 これに対して,引用意匠は,①「内周部」及び「内周縁部」に,色彩及び大きさにおいて相違はあるものの,いずれも「小円」が配置されており,全体が「小円」の集合によって形成された図形であるとの印象を強く与えること,②特に「内周部」には,薄墨色に着色された小さめの小円が,縦横に等距離をおいて,正確に規則正しく描かれていること,③「内周縁部」は,中心部との境界部分は,大きめの濃黒色の「小円」が,ほぼ例外なく配置されており,「中心部」との境界は,真円を描くように明確に区別されていること,④「内周縁部における濃黒色小円からなる上記山形形状」と「内周部における濃黒色小円からなる山形形状」とは,距離を置いて離隔して描かれていることに,特徴がある。

 上記のとおり,本願意匠における「内周部」及び「内周縁部」は,全体的に淡い灰色に配色された下地に,濃黒色及び灰色に着色され,内周部から中心に向かって収束する方向に延伸する「棒状形状」(各棒形状は,太さ,長さが一様ではなく,また,やや曲がっているものもみられる。)が描かれていること,及び「棒状形状」が連結するように描かれていることなどの点に照らすならば,本願意匠は,看者に対して,ヒトの目との比較において,より自然で調和的,かつ穏やかな印象を与えるような美感を有するものと評価できる。これに対して,引用意匠における「内周部」及び「内周縁部」は,規則正しく配置された小円の集合により構成されていること,山形形状部等の全体の模様は,小円の大きさ,濃淡及び配置の相違のみによって表現されていること,山形形状部の高さ等が均一的,画一的であることなどの点において,引用意匠は,看者に対して,ヒトの目との比較において,自然らしさを捨象し,人工的,メカニカルな印象を与えるような美感を有するものと評価できる。

 確かに裁判所が認定した通り、本願意匠の方は、下地が薄い灰色の格子状模様で、内周部等に棒状の濃い模様が入っているところ、引用意匠は小さな円の集合体で構成されています。少し離れてみてみると、引用意匠の方が何となくデジタル的な感じがしないでもありません。

 実際に人がコンタクトをした場合の比較写真もあったらより分かりやすかったかも?

◆需要者・・・
 今回の事件では原告は『本願意匠のような模様の付されたコンタクトレンズの需要者である10代中ごろから20代中ごろの女性は,コンタクトレンズを購入するに当たり,外周部の太さ,延出模様部の態様,薄墨色の斑点の態様,内周縁部の濃さ等に着眼して,選択する。コンタクトレンズに関する意匠の類否判断においては,そのような需要者の視点に立って,各コンタクトレンズにおける,外周部の太さ,延出模様部の態様,薄墨色の斑点の態様,内周縁部の態様について,それぞれの共通点,差異点を評価して判断をすべきである。』と主張し、被告はこれに反論していますが、裁判所は「需要者」には特に触れず、たんに『引用意匠は,看者に対して,ヒトの目との比較において,自然らしさを捨象し,人工的,メカニカルな印象を与えるような美感を有するものと評価できる』と『看者』(取引者・需要者など「見る人」)としているだけでした。

 意匠法第24条2項には、『登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。』と規定されていまが、これはあくまで「登録意匠」についてです。今回の事件は出願した意匠についてなので、審査対象意匠における「類似」の判断主体の根拠にはなりません。

 しかし、物品の種類や需要者が誰であるかによっては審査における意匠の類否判断において、注意を強く惹く部分(つまり、要部)がどこであるかに影響を与える場合もあるのではないかと思うので、事案によっては「需要者」の認定がポイントになるかもしれませんキョロキョロ。もちろん、登録意匠の類否判断においても、同様なことが言えるかもしれません。おいおい、いくつか裁判例を見ていくことにします。


by KOIP

 

 

 

 

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