2020年10月23日の日経新聞のHPに『進まぬ産学連携、遠い目標 目利きや人材流動性に課題』という記事が掲載されていました(以下、『』は同記事の引用)。
記事には『「企業から大学への投資が不十分」「大企業とスタートアップの事業連携が困難」「大学発スタートアップの創出が不足」』というような課題が長いことあることや、『企業からは「(大学の)スピード感が障壁」といった声が根強くあ』ること等が記載され、大学が『学内に企業の研究所を設ける』ようになってきたとありました。
実際、広島大学や大阪大学等、企業と大学とが密接に連携しているところもあるようです。
◆「連携」は必須だが…
このような連携は必須のことだと思います。そして、記事には長期的視野を企業が持ち、企業が、長期的観点からの基礎研究を大学に求めるようになっているとありましたが、大学の先生方の時間感覚(あるいはスピード感)と、企業の時間感覚との差を企業側が埋めつつある点は非常に良い傾向だと感じます。
というのも、やはり大学の先生は、企業のように製品(商品)やサービスを消費者に提供して生計を成り立たせているのではなく、研究するために大学にいます。企業と連携していたとしても、企業の商売は大学の先生方にとっては第1に大事にしなければならないわけではない場合が多いでしょう。
そうであるならば、企業側が長い視野のもとに大学の研究と自社の開発とをマネジメントしていく、というのが現実的なのだと思います。
ただ気になるのは『企業側にも課題がある(中略)大学のシーズを知るためにも、産学の人材の交流や流動性を高めることが必要』とあるのですが、どうもここでいう「産学」には偏りがあるような気がしてなりません。
◆真の連携に必要な視点とは?
それはどういうことかというと、様々な分野の人々による異分野連携といっても、それが、特定分野のみの連携に留まっているのではないかと危惧するからです。「産学」といっても、その「学」にはどのような「学」が入っているのか?がポイントだと思います。
そこに、理学、工学系、更には医学系は入っているでしょう。しかし、人文科学、法学、そしてデザイン、アート系は入っているのでしょうか?
これらは必要ないといえるのかというと、そうでもないと思います。というのも、社会に有用な価値を実装するためには、自然界の中の社会、そして社会の中の人間という立ち位置の中で考える必要があるからです。つまり、人間は社会の中で生きているのであり(あるいは生かされているのであり)、社会とのつながり(人と人とのつながり、人と自然界とのつながり)を考えずにいると、結局、有用な価値を社会に実装できなくなる結果になりがちです。
例えば、蟻が有する機能やミツバチが有する機能を技術に再構築して用いることを考えたとします。この場合、生物学(昆虫学)と工学との融合で足りるでしょうか?
しかし、これらの再構築した技術が有用なのは、ある特定の環境下でのみである場合があります。というのも、これらの技術は蜂の社会やミツバチの社会システムの中で使われていたからであり、その文脈を無視して使おうと思ってもうまく使うことができる場面は限られてくることがあるからです。
そのため、更に思考を発展させて、蟻の社会やミツバチの社会システムに存在する機能を導き出し、導き出した機能を人間社会に「実装」させて何らかの有用な価値を生み出す必要性が出てきますが、その場合、生物学や工学分野の知見だけではなく、社会科学、社会学、更には経営学等の知見も必要になると思います。どのような生物も単体で生きているわけではなく、何らかの社会システムに生きているからです。
真の異分野連携とは、技術面だけでなく社会面、そして社会の中の人間が分かるようになる連携なのだろうと思います。そうすると、ある少数の特定分野の融合による研究開発に留まってしまう恐れがあるような「連携」ではうまくないということです。そのため、特定分野のみの人々との融合だけではなく、社会、そして社会と人間との関わりあいに敏感なアンテナを有するデザイナーやアーティストと協働することが今後ますます求められるのではないかと思います。
長期的視野に立ってイノベーションを目指すのであれば、『アート思考は「そもそも何が課題なのか」という問題を創り出し、「何が問題なのか」といった問いから始める』(「アート思考」(秋元雄史著)p27)というアーティストの特徴から分かるように、アート思考のような観点を「連携」に持ち込まないと、いくら資金を投下しても得られる結果は果たして満足するものかどうか、怪しいと思ってしまいます。杞憂に終わればよいのですが。。。
by KOIP
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