これまでアート関連特許を紹介してきましたが、中にはデザイン(特に、工業デザイン)よりの特許も含まれていたと思います。そこで、今後はよりデザインよりな特許(これはKOIPが独断と偏見で分類しているに過ぎませんが)をデザイン関連特許として取り上げます。

 さて、デザイン関連特許その1は、伝統工芸の「玉虫塗」に関する技術の特許です。「玉虫塗」は、鮮やかな色と光沢を特徴とする仙台の漆芸です。

◆どんな特許か?
 発明の名称を『粘土と樹脂と有機溶剤を含むコーティング剤、それを用いた保護膜、及び製品』とする特許出願(特開2017-101228、出願人:国立研究開発法人産業技術総合研究所、有限会社東北工芸製作所)が取り上げる特許です。ブログ執筆時点でまだ審査中です。

 この出願では、出願人に民間企業だけでなく、産総研も入っている点が目を引きます(それがなぜかは、後段に記載)。

 今回の特許に係る発明は、日常使われる食器等の表面を丈夫にすることが求められる中、『低温処理で漆器表面に十分な強度で密着し、ハードコート性を有し、食洗機による洗浄などに対する耐久性を有するとともに、透明であり、かつ、耐紫外線性があり、紫外線遮蔽性がある保護膜の開発が求められている』という背景から生まれています(上記出願公開公報の段落[0004])。

 請求項1を引用します。
合成粘土と有機化剤とにより構成される合成有機化粘土と、樹脂と、有機溶媒を含むコーティング剤であって、
  前記樹脂30重量部に対する前記有機溶媒は5~70重量部の範囲内であり、前記有機溶媒が、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンからなる群より選択される2種以上を含む、コーティング剤。
』 

 ポイントは有機溶媒の種類と添加割合、ということでしょう。

 実際、上記出願公開公報の段落[0015]には、『紫外線硬化樹脂と合成有機化粘土を含むコーティング剤を塗工層上に塗工する際に、コーティング剤の溶媒としてトルエンにキシレンと酢酸ブチルが添加されている混合溶媒を用いると、純粋なトルエンを用いるよりも、塗工層上にコーティング剤を均一に付与できることを見出し』たと記載されています。

 また、段落[0017]には、『有機分子である紫外線吸収剤を粘土結晶の間に挟み込む構造をとることによって、紫外線吸収剤を安定に高ローディングすることが可能になる。このような工夫は、粘土と樹脂とのナノコンポジット構造になっていることで初めてできることである。本発明は、従来の漆器塗工面上に粘土などの無機ナノ粒子を含む保護膜をコーティングすることで、耐擦過性・耐紫外線性・耐久性を付与するはじめての試みであり、従来の技術と明確に異なっている。』と記載され、粘土、つまり、層状無機化合物に有機分子をインターカレーションさせる技術を応用しているようです。図らずも、無機ナノシートにちょっと関連しているといえるかもしれません。

 産総研は様々な研究を行っていますが、いわゆる粘土系の研究も多いので、親和性が高いといえそうです。

◆昔っからデザイン経営はなされていた
 出願人さんのHPによると、玉虫塗は『国立工芸指導所で、「輸出」のために開発され』、『東北工芸製作所』が、『昭和14(1939)年に玉虫塗の特許実施権を得て、その後、国内・海外向けに次々と新商品を製作して』きたとのことです。

 実際、その特許(特許第110460号(発明者:小岩峻、特許権者:工藝指導所))をJ-PlatPatで参照することができます。

 この国立工芸指導所、当時の商工省が1928年に仙台に作られ、『産業工芸から伝統技法にわたるものづくりの広い範囲を工芸ととらえ、その科学的研究ならびに輸出振興が設置の主要な目標』だったとのことです(産総研TODAY、Vol.5 No.6、p40より)。

 つまり、当時からデザインを取り入れた製品開発に、しかも国が力を入れていたことが分かります。工芸指導所は、『世界的なデザイナーであるB.タウトやC.ペリアン』を招き(同p40)、モダンデザインを取り入れて伝統工芸を産業に応用し、「デザイン」された製品開発、そして「デザイン」を利用した経営を後押ししていたといえます(もっと言えば、日本の伝統工芸を含む領域の産業をどういった形に持っていきたいのか?というビジョンのもとに工芸指導所が作られ、実際に運営されていたわけなので、デザイン思考を基にしたデザイン開発、技術開発、製品開発、そして輸出という出口戦略が立案され、経営されていたといえるのではないでしょうか。)。

 

 そういったデザイン経営が昭和初期から営々と続いており、その結果、現在も上記特許のように産総研と民間企業との共同発明も生まれる、ということなのだろうと思います。

 特許庁等がデザイン経営を進めていますが、日本にはもともとデザインを経営に活用する素地があったといえるのではないかと思います。


by KOIP

 

 

 

 

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