これまで無機ナノシート自体が特定の機能を発揮するような特許を取り上げてきましたが、無機ナノシートが利用できるのは他にも様々なものがあります。その中には、無機ナノシートが他の化合物の研究の縁の下の力持ち的な存在になる場合もあります。

 今回の無機ナノシート関連特許その23は、タンパク質の構造解析に無機ナノシートを利用した技術に関する特許を取り上げます。

◆どんな特許か?
 発明の名称を『ナノシートを含むNMR測定用配向剤』とする特許(特開2018-200233、出願人:国立研究開発法人理化学研究所、国立研究開発法人物質・材料研究機構)が取り上げる特許です。現在、審査中の案件です。

 NMRとは「Nuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴)」の略称です。そして、NMR装置という分析装置があります。大雑把に説明すると、この装置に分析対象物を入れて測定すると、分析対象物を構成している原子が置かれた状態が分かり、原子同士がどのようにつながっているか等も分かります。

 そういったNMR測定に、無機ナノシートがどう役立つのでしょうか?

 ごくごく簡単に言えば、NMR測定の分析対象の分子は溶媒の中でランダムに熱運動しています。測定精度を向上させるためには、分子を磁場配向させる必要があります。つまり、好き勝手に動き回っている子供たちを整列させ、点呼を取りやすくするようなものですね。

 そのため、分子を配向させる配向剤が用いられることがありますが、濃度調製や温度調整等が難しく、コストもかかってしまい、使用後に回収できないという問題がありました。それを今回の特許は無機ナノシートを用いて解決しています。

 請求項1を引用します。
ナノシートが、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、イミダゾール基及びグアニジン基から選ばれる少なくとも1種の官能基を1分子中に35個以上有し、かつ分子量1,500以上の化合物で被覆されているNMR測定用配向剤。

 こういったNMR測定用配向剤を用いると、「従来の配向剤に比べて、広い温度範囲でタンパク質のNMR測定用配向剤として機能」し、かつ、「従来の配向剤では回収不可能であったNMR測定対象のタンパク質を簡便な遠心操作により回収でき、配向剤であるナノシート自体も再利用可能であることがわかった」とのことです(上記特許の公開公報の段落[0100]及び[0102])。

 再利用可能である点は、研究機関のように何度も分析するようなところにとっては非常に魅力的ではないでしょうか。

◆無機ナノシートの「並べる」機能
 無機ナノシートには様々な機能があります。その機能を利用して有機材料との複合材料等が研究されていますが、今回の特許は分子を配向させる用途に無機ナノシートを利用しています。

 無機ナノシートは原子レベルで平滑な表面を持っています。しかも、電荷を有しているので、その表面に分子を並べることができる「場」としての機能を持っています。

 ナノの世界で分子や原子は好き勝手に動き回り得るのですが、機能材料を得たい場合、求める機能を発揮するように分子等の配列・配向をデザインしたい場合があります。そういった場合に無機ナノシートは思い通りの配列・配向を実現することができるポテンシャルを有しているので、様々な研究の「土台」になるのではないかと思います。

 実際、分子配列を所望の配列にするために無機ナノシートを使っている研究も多数存在しますので、今後、益々面白い結果が出てくるのではないかと思います。

 

by KOIP

 

 

 

 

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