商標法は商標に施した創作を保護するのか?
商標法は、商標権者に、原則として、「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」と、同法25条で規定しています。つまり、商標出願をして、審査をして、登録され、商標権が発生すると、出願人として願書に名前を書いた者は、商標権者になります。
ただ、ふと、考えると、出願した商標は、例えば、「APPLE」とする場合、審査で登録されると、使用出来なくなるわけです。
なぜ「APPLE」という言葉が、使えなくなるの!!!と、よくよく考えてみると謎ですよね。この点、まずは、「指定商品又は指定役務」という縛りがある、という点が重要です。つまり、「指定商品等に使用する」限りにおいて専有できるのです。
でも、うちは八百屋だけど、海外の人にも解るように、「林檎」の商品のそばに「APPLE」と表示するようにしたのだけど、これって商標権侵害になってしまうの
というと、そうではありません。
商標は、自他商品(役務)識別機能を発揮する文字等でないと登録されません。商品「林檎」に、「APPLE」を付しても、「KOIP農家」で作った林檎も、BLM農家」で作った林檎も、英語で言えば「APPLE」だということは日本人の常識といってもいい、と言えます。そうすると、「APPLE」は、「林檎」という商品については、自他商品(役務)識別機能を発揮しない文字と言えます。
一方で、指定商品を「林檎」として、商標を「凛王」(BLMが勝手に今考えたのですが、もしかして登録があったりして???)とする場合、登録される可能性があります。「林檎」のことを「凛王」と一般に称されているとは言えないからです。一般的ではない言葉等を考案しなければならないので、この点を捉えると「商標の創作」が必要ですが、商標法は、短い文字等(商標って、一般に、シンボリックで簡潔ですよね。)に創作性を認めて法で保護する構成をとっていません。
商標法は、言葉の創作性を保護するのではなく、消費者が、「“凛王”は、“糖度が多くて、みずみずしく美味しい」・・・等の評価し、八百屋やスーパーで一見すると同じように見える林檎の中から、“凛王”の商標を手掛かりに、二度三度、消費者が購入する
だろうことを想定して、まだ、商品に商標を付して販売しない段階でも、出願をして登録を得ることで、事業開始の準備を安心して行うことができるようなっています。まあ、ここまで具体的に想定はしてないと思うけど…。
すなわち、商標法は、「未使用の表示に関しても排他的の庇護を与え信用の化体を促すとともに(商標の発展助成機能の促進)、具体の信用の保護を万全なものとし、もって混同の抑止に役立てようとする登録商標権の制度」、と位置付ける学者さんもいらっしゃいます(田村善之「商標法概説[第2版]」(平成15年,弘文堂)1頁)。
そして、同学者さんの見解によれば、上記商標法との関係で、不正競争防止法2条1項1号は、「他人の表示と類似する表示を用いて有意な混同を生じさせるおそれのある行為を禁止して、具体の信用の保護を図る」(同上1頁)制度と位置付けられます。
今一度思い出す混同惹起行為の規制
そもそも、商標法による、混同惹起行為に対する規制の起源は、例えば英米法だと、コモン・ローにおける「passing off」((営業上の)詐称通用)の規制だとされています。田中英夫編「BASIC英米法辞典」(東京大学出版会,1996)によれば、「passing off」とは、「他人の商号、商標または商品の包装、記述等について虚偽の表示をし、または欺瞞的表示をすることによって、自己の営業または商品を他人のそれであるかのように見せかけて、買手を欺き、取引させること」と説明されています。しかも、商標法という法分野ができる前の時代では、差止請求権を認める法的根拠も定まっておらず、議論があったようです。
一方、その昔、米国法で、Technical trademarksという対象、いわば創作性のある造語商標、を財産として捉え保護していた時期があるようです。しかし、今日では、標識法(商標法や不正競争防止法)分野では、商標自体を財産として見るのではなく、商標に蓄積された信用又はgood will等の情報を財産として、保護する建て前をとっているように思います。
ただ信用又はgood will等を財産として見ること自体にも批判的声があるように思います。こういった議論では、需要者保護の観点、自由な競争を阻害しない限度での保護の観点からの批判が入ってきます。
ちょっと、ここで一休み。
先般イギリスのアンティーク屋さんで購入した時、一緒にサービスで戴いたクッキー。紅茶にあいます。
不正競争防止法による混同惹起行為規制
すごーく、すごーく前置きが長くなってしまいましたが、最近、BLMが、なぜ不正競争防止法上2条1項1号の混同惹起行為に対する規制制度にこだわっているかというと、誤解をおそれず言えば、商標法の原始的な形態ともいえる制度だと思うからです。商標権を得れば、一定条件の下で、登録商標を独占できるという当たり前とおもっていたけど、実は当り前じゃない。本来必要な立証も不要な商標法制度での保護、不正競争防止法上2条1項1号で保護を受けようとすると、けっこう要件を満たすのは大変です。あぁ、商標法がないと、ここまで主張しないとダメなのね・・・。
すなわち、1号は、「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競業と定義しています。
これを一定の纏まり(要件)にして把握すると、少なくとも以下①乃至⑤を主張立証する必要があります。
他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの→「①他人性」「②周知な商品等表示」という存在がまずあること、
そして、これと同一又は類似の商品等表示を使用すること→「③類似性」。
他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為→「④混同のおそれ」。
これに加え、
3号「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し」→「⑤営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」。
3号「その侵害の停止又は予防を請求することができる」となります。
自己が不正競争防止法2条1項1号等を利用し他人の使用を規制したい場合
さて、具体的に考えてみましょう。
まず、不正競争防止法による行為規制を考えるとき、相手方の行為が、不正競争防止法2条1項に列挙された「不正競争」のどの行為に該当するか考えます。で、今日は1号の混同惹起行為に該当しそうだ、ということで、話を進めます。
次に、自己が、その行為によって「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(差止請求主体、つまり上記①他人性と⑤の営業上の利益を侵害されるおそれがある者)に該当するかを考えます。通常の会社で、自分達が創業者であれば、上記②乃至④を満たす限り、問題とならないでしょう。混同によって営業上の利益を害されると、「要件の立証の緩和を図」られると考えます(同旨:最判昭和56年10月13日(民集三五巻七号一一二九頁〔マクドナルド事件〕。参考:牧野利秋=飯村敏明編『知的財産関係訴訟法』(新・裁判実務体系4・2001年・青林書院)424-437頁に掲載された髙部眞規子先生の「V 不正競争 28.営業上の利益」)。
通常は、自己の商品等表示が周知性を取得しているのか?(上記」「②周知な商品等表示」)を主張立証するための証拠収集がもっとも大変な気がします。
さて、今日はここまで・・・。
by BLM
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