無機ナノシート関連特許その12です。

 今回はまだ特許出願中で特許にはなっていないものですが、「光る」ことに関連する無機ナノシートの特許を取り上げます。なお、『無機ナノシート関連特許(その9)』で取り上げた「光る」無機ナノシートとは違った観点です。

◆どんな特許か?
 発明の名称を『発光性組成物の発光調節方法およびこれを用いたセンサー』という特許出願です(特開2019-183045、出願人:首都大学東京 ←いまは、東京都立大学ですね。)。

 請求項1と請求項6を引用します。
【請求項1】
  (A)多環芳香族化合物、
  (B)前記多環芳香族化合物を担持する担体、および
  (C)分散媒またはバインダー、を含む発光性組成物の発光調節方法であって、
  i)前記組成物の温度、
  ii)前記(C)成分の種類、あるいは
  iii)前記(A)成分の濃度、を変化させる工程を含む、
  発光調節方法。

【請求項6】
  前記担体が板状である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。


 多環芳香族化合物を担持する「担体」が「板状」であると規定してあるので、「担体」が無機ナノシートに該当し得ると思います。例えば、上記特許の公開公報の段落[0017]には『このような担体としてはカオリン(中略)等の無機層状化合物が挙げられる。これらの中でも、分散媒中で剥離して表面に電荷、特に負電荷を生成できるものが好ましい。』と記載してあります。

 無機層状化合物が剥離すると無機ナノシートが得られるので、「担体」に「無機ナノシート」が含まれると解釈できます。なお、公開公報の段落[0002]の背景技術において『これまでに粘土などのアニオン性のナノシート上にカチオン性有機色素を担持させた複合体が強い蛍光増感特性を有することが知られている』と記載されているので、やはり「ナノシート」であることが前提と考えてよいでしょう。

 つまり、無機ナノシートになっていた方が多環芳香族化合物が無機ナノシートに「出会う」領域が多くなるので、無機ナノシート状態である方がよりよいということなのだろうと思います。

 そして、今回取り上げた特許出願に係る発光性組成物の発光原理は「蛍光」です。つまり、外からエネルギーを吸収した後、そのエネルギーを光として放出するものです。今回の特許の発光性組成物は、その置かれる環境に変化が生じると変化に応じた光を放出します。「環境」は、例えば、温度等です。したがって、温度センサー等に応用できそうですね。

 上記特許出願に係る発明は、有機系色素に無機ナノシートを単に混ぜるだけで蛍光の発光効率が増強されるという、非常に興味深い内容になっています。いろいろと応用分野がありそうです。

◆ちょっとした感想
 上記特許の公開公報では「無機ナノシート」とはせず、『板状』としています。『板状』であることにかわりはないのですが、「無機ナノシート」は、nmオーダーの厚さであり、かつ、縦横サイズがμmオーダーにもなるアスペクト比が高いという独特の特徴を有しているので、単なる「板」とは性質が違うといえるかもしれません(例えば、無機ナノシートが積層したものが層状化合物ですが、「層状化合物」自体もバルクでなければ「板状」といえてしまう形態もあります。しかし、「層状化合物」の状態である場合、「無機ナノシート」としての特性を発揮するとは限りません。)。

 公開公報の段落[0017]の記載をまた引用しますが、『このような担体としてはカオリン・・・ザンソフィライト等の無機層状化合物が挙げられる。これらの中でも、分散媒中で剥離して表面に電荷、特に負電荷を生成できるものが好ましい。』と説明してあるので、「無機ナノシート」、つまり、無機層状化合物から剥離したものといえると思いますが、剥離後の状態の具体的な説明がないので、複数層、重なった状態で剥離したものも含むと解釈できる余地があります。ただ、発明の内容からすれば、多環芳香族化合物を担持できれば良いので、1枚1枚の無機ナノシートであることまで要求する必要はないかもしれません。

 まぁ、無機化学系特許の中でも「無機ナノシート」の仲間を増やしたいKOIPとしては、「無機ナノシート」という用語を発明の詳細な説明に少しでいいので使って欲しかったとちょっと思っただけにすぎませんがキョロキョロ。。。

 

by KOIP

 

 

 

 

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