「無機ナノシート」関連の特許、その4です。
今回は、偏光板を保護する「偏光板保護フィルム」に関する特許です。光は電磁波なので、波としての性質を持っています。太陽光などは様々な方向に振動する無数の光を含んでいます。偏光板は、そういった光のうち、特定の方向に振動する光だけを通過させる板です。
どういったところに偏光板が使われるかというと、皆さんの家庭にもある液晶ディスプレイなどに用いられています。身近にありますね。
◆無機ナノシートの特許の例
そういった偏光板、性能が劣化しないように空気中の水分になるべく触れないようにすることや、摩擦などで傷がつかないようにする必要があります。今回の特許は、発明の名称を『平板状粒子とそれを含むハードコート相形成用組成物、フィルム、偏光板保護フィルム、偏光板及び液晶表示装置』とする特許(特許第6475109号、特許権者:富士フイルム株式会社)です。
上記特許の特許公報の段落[0011]には、『膜厚10μm以下において、透湿度が100g/m2/day以下、鉛筆硬度がH以上であるフィルム』を得ることが発明の目的の1つであることが記載されています。かなり具体的に記載されているので、何らかの製品に要求されている性能かもしれません。
この特許の請求項1を見てみます。
『3つ以上の重合性基を有するモノマーを基礎とする繰り返し単位が1~4単位連結してなるグラフト部が、平板状無機層状化合物粒子の少なくとも1つの主面に結合されてなる平板状粒子と、
多官能モノマーと、
該多官能モノマーと前記平板状粒子との重合反応を開始する重合開始剤と、
を含むハードコート層形成用組成物を重合させてなるフィルムの少なくとも1層が基材上に積層されてなる偏光板保護フィルム。』
請求項1に記載の『平板状粒子』が無機ナノシートのことを指しています。具体的な材料は特許公報の段落[0032]に『膨潤性の含水ケイ酸塩、例えば、スメクタイト群粘土鉱物(中略)、バーミキュライト群粘土鉱物(中略)、カオリン型鉱物(中略)、フィロケイ酸塩(以下略)等』が例示されています。やはり、粘土は有用ですね。
そして、この無機ナノシート(平板状粒子)には、『グラフト部』というものがくっついています。文章だと分かりにくいので、特許公報の図1を引用します。
(上記特許の特許公報の図1を引用)
図1の「10」が無機ナノシートです。この無機ナノシートの表面と裏面にニョロニョロしたものを介して五角形状のものがくっついていますが、これらニョロニョロ&五角形の部分が『グラフト部』です。
無機ナノシートにはこのように、その表面に様々なものをくっつけて、その特性を制御することができます。
なぜこのような形にしたのでしょうか?
特許公報の段落[0030]に『本発明者は、平板状無機層状化合物が、フィルムのマトリックス中において分散して存在するだけであることが、フィルム硬度低下の原因であると考えた。そこで、平板状無機層状化合物の表面の表面修飾基として、硬化前(重合前)の組成物中における分散性を高めるだけなく、硬化時にフィルムのマトリックスと結合を形成可能なグラフト部を設けて、フィルム中においてマトリックスと平板状無機層状化合物粒子との間に架橋構造を形成する、具体的には、平板状無機層状化合物粒子の表面(主面)に、3つ以上の重合性基を有するモノマーを基礎とする繰り返し単位が1~4単位連結されてなるグラフト部を導入することにより、低透湿性と高い鉛筆硬度を両立できることを見出した』と記載されています。
つまり、単に無機ナノシートをフィルムに混ぜて分散させるだけでは空気中の水分を通しにくくすることや十分な硬さを得ることはできないのですが、無機ナノシートの表面に『グラフト部』のようなものをくっつける細工をすることで、水分を通しにくくすることができるだけでなく、十分な硬さも出てくるということです。いろいろと実験しないと分からなそうな感じですね。
◆製品になっているのか?
富士フイルムは「フジタック」という偏光板保護フィルムを販売しています(→HPはこちら)。
もしかしたらこの「フジタック」に使用しているかもしれませんが、詳細な説明はされていないので、上記特許を利用しているか否かは分かりません。仮に上記特許を利用しているとしたら、無機ナノシートは一部の分野で既に実用に用いられているということになりますね。
無機ナノシートは、その表面に様々な細工をすることができるので、細工の仕方によっては、これから他の分野でもどんどん実用化が進むのではないかと思います。
by KOIP
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