6月7日の記事で、「ブランドのイメージの保護」について、土肥先生おーっ!ラブラブの「商標法の研究」(中央経済社、2016)の「第13章 ブランドイメージの保護(土肥206-219頁)」をほとんどパクって(よく言えば引用して。『』内引用。)、勉強した。

 

 同記事で取り上げたのは、COPAD-DIOR事件(EuGH 23.4. 2009-Copad/Dior WRP 2009, 938. GRUR Int. 2009, 716)。 EU商標指令で、改正前8条2項は、商品の品質等に関するライセンス契約中の規定に反する使用権者に対して、商標権者は商標権を行使することができると定めるが、商標権者は、ブランドイメージ保護を理由に安売業者に商品の提供を禁止するライセンス契約に違反したライセンシーに対して、商標権を行使することができるのかが問題となった。 かかる規定の解釈は、フランス破棄院から欧州裁判所へ付託され、先行判断は、同指令8条2項の「生産される商品の品質」には、『物質的特性だけでなく、高級感のような特製をも含むとされた。したがって、『安売業者に対するライセンス対象商品の提供が「豪華な雰囲気を失わせ高級品としての特質を損なう」ものであることが証明されるときは、原告は商標権を行使することができる』と示した。その他先行判断は省略。(下線・太字はBLM。)

 

 以上について、BLMとしては、欧州裁判所は、商品の品質に、ブランドイメージ(雰囲気、高級感等)が含まれると解釈した、と理解し、我国はどのように解釈しているか不明(というかぶー汗BLMは勉強不足で知らない)である点、我国で商標権者の品質コントロール権限を保護する旨は、近時の判例や学説の多数説であると考えるが、欧州裁判所がコントロール権限の保護に着目して上記判断したのか、品質の一つとしてのイメージの保護自体を認めたのか、きちんと整理できていない(これも個人的に!?ぶー汗)という点を挙げて、同日の記事を終えた。今日は、違う角度から、「ブランドのイメージの保護」について考える。

 引き続き、土肥先生おーっ!ラブラブの上記書籍の同章(土肥206-219頁)」をほとんどパクって(よく言えば引用して。『』内引用。)、勉強する。

 

L’Oréal事件(EuGH 18.6. 2009-L'Oréal WRP 2009, 930)

事案の概要

 英国で高級香水を製造販売する『原告L'Oréalは』、『香水として、"Tresor"、"Miracle"、"Anais-Anais"及び"Noa"などの高級ブランドを擁し』、『被告Mと被告Sは、英国で高級香水のイミテーションシリーズ"Creation Lamis"を販売』(被告Bが製造)し、『このイミテーションシリーズには、原告の製造販売する"Tresor" のイミテーションである"La Valeur" も含まれており、その容器及び包装は"Tresor"のそれに類似していた。』 

 被告MとSは、上記『"Creation Lamis"の販売に際し、イミテーションの対象となった高級香水とイミテーション香水との比較商品リストを作成し、小売店に提供した。この比較商品リストにおける高級香水の文字商標"Tresor"、"Miracle"、"Anais-Anais"及び"Noa"の使用は、原告商標権の侵害を構成する』等を理由に、訴えを提起し、原審はこれを認めたので、被告らは控訴した。

 

欧州裁判所に求めた先行判断*は以下

*BLM注: 6月7日の記事にも書いたが、EU加盟国の国内商標法を調和させるためのEU商標指令があり、その規定の解釈に関して、各国から欧州裁判所に付託し、出された先行判断。

『比較リストでの原告商標の使用が、指定商品と同一の商品に係る登録商標と同一の標章の使用について排他的な権利を認める欧州商標指令5条1項a所定の使用として、被告標章の使用が禁止の対象となるのか』。

『対象となるとしても、同指令6条1項bにいう商品の種類、品質等その他の特徴を表示する表示として禁止権が及ばないものとなるのか』。

BLM私見では、我国の商標法の下で考えると、本件は、被告らの文字商標"Tresor"、"Miracle"、"Anais-Anais"及び"Noa"の使用は、原告の登録商標及び指定商品の同一範囲での使用で形式的には商標権侵害となるが、被告の使用は、商品リストにおける記述的な使用で、いわゆる商標的使用ではなく、商標権侵害には該当しないとなりそうだ。この点、欧州裁判所は以下のように判断したという。

 

『本裁判所は既に、指令89/104第5条1項aに定めた排他的権利は、商標保有者にこの商標の保有者としての特別な利益の保護を可能にするために、すなわち、この商標がその諸機能(Functionen)を発揮するよう確保するために、認められているのであり、…(BLM省略)…ここでいう諸機能(Functionen)には、商標の主要な機能つまり消費者に対する商品又は役務の出所の保証だけではなく、商標のその他の機能である商品又は役務の品質の保証機能あるいはコミュニケーション機能、投資機能又は広告宣伝機能もこれに属する」。(BLM:下線及び青着色。)

 なお、土肥先生によれば、『先行判断が求められた内で比較商品リストにおける登録商標と同一の文字列の使用に関する部分をあげれば、次のとおりである。営業取引(特に、比較商品リスト)において、事業者がその商品の特徴(香り)を次のような態様、すなわち、①混同を生じさせず、②公証された周知商標が付された商品の販売を損なうことなく、③出所を保証する登録商標の主要な機能を損なうことなく、また商標の名声をイメージの棄損又は希釈化ないしはその他の態様で損なわないで、当該事業者のその商品の市場化において重要な役割を果たす、そのような公証された周知な登録商標の使用は欧州商標指令5条1項aの適用を受けるか』だったという。

 

「THE COURT OF JUSTICE OF THE EUROPEAN UNION (CJEU)」のホームページには、Case number:C-487/07(Judgment of the Court (First Chamber) of 18 June 2009. L'Oréal SA, Lancôme parfums et beauté & Cie SNC and Laboratoire Garnier & Cie v Bellure NV, Malaika Investments Ltd and Starion International Ltd.)として掲載されている。 上記下線及び青着色部分の英文は以下。

「These functions include not only the essential function of the trade mark, which is to guarantee to consumers the origin of the goods or services, but also its other functions, in particular that of guaranteeing the quality of the goods or services in question and those of communication, investment or advertising.」

 

商標の機能(土肥214-216)

 本件について、緑着色部分の上記『①混同を生じさせず』『②…商品の販売を損なうことなく』『③…主要な機能を損なうことなく、また商標の名声をイメージの棄損又は希釈化ないしはその他の態様で損なわない』というような場合、日本の商標法実務をやっている者からすると、不正競争防止法2条1項2号の適用はともかく、商標法の規範はこれを保護しないだろうと、普通に思うのではないか?
 この点、土肥先生も 『商標権の侵害との関係でいえば、被告標章が商品の自他商品等識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されていない場合、商標としての使用が認められず、商標権者は被告標章の使用を禁止することはできないという結論が導かれる。我国の被告広告の紛争事例でいえば、かつての「香りのタイプ事件」が、さらには近時「黒烏龍茶事件」が知られているが、主として不正競争をめぐる紛争事例であり、いずれも商標権の侵害の請求は認容されていない』とする。

 

 しかし、『これらの比較広告の事例における著名な商標と同一の標章は、著名商標に係る商品の出所を識別している。自他商品等識別機能という意味では商標として使用されている。無論、そこでの使用は自己の商品の出所を表示するために他人の著名商標と同一の標章を使用してはいないので、出所の誤認混同は生じない』とする。

 しかし、『本来、商標的使用があるかないかという問題と混同が生ずるか否かの問題とは別の問題のはずである』とも指摘する。

 

 つまり、BLMが理解するに、日本の商標法に照らすと、同法25条は、「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。(但書き省略)」と規定する。これによれば、このような登録商標に対する独占排他的な使用が認められるのは、原則的には、商標権者(&許諾された者)である。従って混同を生じるか否かはともかく、このような使用を許諾もなく他人が使用する場合は、権利侵害となるはずである。もっとも、現行商標法は、26条で、商標権の効力を制限する規定が置かれている。特に、6号では、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」も商標権の効力は及ばない。しかし、比較広告で、商標権者の登録商標に関し、(但し商標権者側の)自他商品識別機能、出所表示機能を発揮するような使用の場合は、6号も及ばないのではないか?と考えることもできる。そうすると、26条6号へ一度は行ったとしても、また25条に戻って、結局、同条をもって、混同が生じない場合でも、比較広告で商標権者を出所として、識別機能が発揮するような態様で使用し、かかる商標と自己の商標とを比較する場合も商標権の効力を及ぼし得るのではないか?という疑問を呈しているように思う。確かに、そうか、現行の我国商標法では、出所の混同がなければ商標権の侵害とはならない、と、皆思っている?!

 

 この点、土肥先生は『たとえば登録商標と同一の標章を商標権者の商品を識別するために、換言すれば商標権者の商品の出所を示すために使用する場合には、それによって商標権者のブランドイメージを損なうこととなっても、商標権に基づき当該使用行為を禁止することはできないという結論になる。表示が誤認的であるのかどうかということは専ら需要者との関係で問題であり、ブランドイメージの不当な棄損との関係は別に論じられるべき問題であるが、これについての商標法上の手当てがなくてよいのかということでもある。』

 BLM私見では、かかる土肥先生の意見に関しては、不正競争防止法2条1項2号があるからいいじゃないか、という意見が出て来よう。また、商標権者の登録商標を記述的に用いているか否か、不明確なので、市場における自由な競争を阻害するおそれもある。不正競争防止法2条1項2号は、周知性よりもより需要者の認識が広く深い著名性が要求される等、適用において厳しい規定があるので、そちらで委ねればよい、とも考えらえるが、不正競争防止法の商品等表示(商標等を含む標識の広い概念)は、登録により公示されない対象にも適用されるので、商標法よりも、市場の自由な競争を阻害する可能性もある。

 

商標のとしての使用(土肥216-218)

 土肥先生によれば『「商標としての使用」ないしは「商標的使用」の概念は』、『1936年改正ドイツ商標法でみることができる』(土肥216頁)が、『1988年12月21日の商標に関する加盟国の法規定を調和するための欧州商標指令6条を国内法化した1995年1月1日施行の商標法(Markengesetz)には存在しない。現行法に置かれているのは、商標としての使用の概念に代え、営業取引における(im geschäftlichen verkehr)取引秩序に反しない使用(sofern die Benutzung nicht gegen die guten Sitten verstößt)の概念である(商標法23条)。ドイツ商標法の立法理由は、この概念の導入により、商標としての使用の概念はもはや必要としなくなった、と明言する。これによって、出所表示機能はもはや唯一の商標法上保護される商標の経済的機能ではないこととなった。商標権の自由譲渡の原則を採用し、商標が営業との紐帯関係から切り離された後も、出所表示機能との関係で商標としての使用を理解し、権利侵害の入口要件とすることで引きずってきた残滓をこれにより振り払うところとなった』(土肥217頁)という。

 

まとめ

 土肥先生によれば『自体商品等識別機能とは、商標が付された商品等が品質等を含め一定の内容を伴うものであることに責任を負う事業者のコントロールの下で生産されあるいは提供されたという保証を商標が与える機能をいう』と説明される。BLMとしては、一般に理解されている自体商品等識別機能は、商品等との関係で、普通名称や記述的文字ではなく、商品等との関係で何ら意味を有さず、意味を有していても暗示するにとどまり、自分と他者との商品を区別できる文字や図形等を意味するものと解されているのではないか。最も実際に市場に置かれて、商標を商品等に使用されて識別力を発揮する必要がある。いずれにしても、文字や図形等が持つ意味の問題と解されているのではないか?しかし、土肥先生の上記説明は、それ以上の意味を持つ。

 そして先生は、『この機能が保証されることで、商品等を提供する事業者は需要者又は取引者に対して商標を通じて商品の価格や品質を始めとする様々な情報を提供でき、事業者と需要者間のコミュニケーションが可能となる。このコミュニケーションが有効に機能することで、同時に品質及び価格っをめぐる市場における競争も機能する。商標が自他商品等識別機能を基礎として多様な情報を伝達する手段として、市場の透明性を促進する役割を担っている』とし、ブランドイメージも、事業者が需要者に伝達する商品情報の1つに数えることができ』ると説明する。

 さらに続けて、先生は 『わが国の現行商標制度の下では、狭義又は広義の出所の混同が商標の保護範囲を画するが、混同の有無を問わず、ブランドイメージを適切に保護する制度の検討が必要となっている。わが国の商標法において、著名商標制度の在り方とともに、古典的な意味での商標としての使用の概念からの脱却が求められている』との指摘で、第13章の「ブランドイメージの保護」を締めくくっている。

 BLMとしては、商標権の効力について、第三者の利益保護や市場における自由な競争の促進、需要者を惑わし高価な価格で買わせるとの見方もできるブランドイメージをどこまで保護すべきか立場が定まらない。ただし、自他商品等識別機能が、単に商標を構成する文字や図形等の問題ではなく、事業者のコントロール権限が絡む問題であるとし、商品の品質には、ブランドイメージも含むと解すると、事業者の営業努力を市場の活性化(物理的な品質レベルだけでなく、精神的な価値を高める商品等が生み出される市場の促進)に結び付けるのは、産業の発達を目標に掲げる商標法(不正競争防止法というより)の役割のような気もする。不正競争防止法2条1項2号だけでいいじゃん、というだけでは済ましてしまうと、せっかくの論点が消されてしまうような気はする。

 

by BLM

 

 

 

 

 

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