『素材とデザイン要素との関係?』で、「ポリビニルアルコール系重合体フィルム」が黄変してしまうと消費者等に悪い印象を与えるので、それを抑制する技術に関する特許(特許5638533号)を取り上げ、『印象や五感、感性を技術で実現する』で、毛髪や皮膚に艶と潤いを付与したり、皮膚を滑らかにできる「化粧品基材」に関する特許(特許3315535号)を取り上げました。

 こういった人々の感覚や五感に訴える観点から、素材を活かした特徴を有する商品を開発するための技術開発が多くなされていると思いますが、今後はそこにもう1つの重要な観点をこれまで以上に考える必要が出てくると思います。

 まずは、人々の感覚や五感に訴える観点の例を見てみます。

◆人々の感覚に訴える観点の事例~無機材料の活用~
 巣ごもり消費が多くなっていることから、これまで以上にコンビニやスーパー等で食材を購入する人が増えています。そういった食材のうち、肉や魚介類等は、多くの場合、プラスチックトレー等の包装用容器に入れられ、これをフィルムでラップした状態で販売されています。

 このような状態で販売していると、食材から水分等が染み出ることがあります。その水分等がそのままの状態だと食材がふやけてしまうこともありますし、また、見た目も悪いので敬遠されがちですキョロキョロ

 そういったことを抑制する技術、つまり、食品の外観をきれいに保つ技術に関する特許もあります。 

 例えば、特許第5818246号の「包装用容器」という特許を見てみます。

 請求項1の記載は以下の通り。
 『 容器本体の基材と、前記基材に全面に亘って接着される多孔性のオレフィン系吸水樹脂フィルムを備える包装用容器であって、
  前記オレフィン系吸水樹脂フィルムが吸水層と防水層を積層してなり、
  前記防水層側の面が前記基材と接着され、前記吸水層側の面が前記容器の収容物側に配置されており、
  前記吸水層がオレフィン系樹脂25~55重量%およびその表面を親水化剤で処理された無機微細粉末45~75重量%を含有し、少なくとも一軸方向に延伸されていると共に、
  前記吸水層が、前記表面を親水化剤で処理された無機微細粉末を含有し且つ前記収容物側となる第1の吸水層と、前記表面を親水化剤で処理された無機微細粉末を含有し且つ前記防水層側となる第2の吸水層を積層した多層構造よりなり、第2の吸水層の液体吸収係数が、第1の吸水層の液体吸収係数よりも大きいことを特徴とする包装用容器。』

 つまり、食材から染み出た水分等を吸収する「無機微細粉末を含む吸水層」を容器に設けるわけですが、単に吸水層を設けるのではなく、容器表面に容器側から第2の吸水層と第1の吸水層とをこの順で積層し、第2の吸水層の方を第1の吸水層よりも吸水しやすくしています

 実際、上記特許の特許公報の段落【0007】~【0008】(抜粋)には、以下のように記載されています。
 『この構成によれば、吸水樹脂フィルムは容器本体に接着一体化されているので、子供やペットが吸水マットを誤食する危険性を確実に無くすことができると共に、容器本体の内面に全面に亘って吸水樹脂フィルムを接着することにより、包装用容器内で底部と側方に食品から出る水分や血液等を十分に吸収し、食品の鮮度、味、外観の低下を確実に防止することができる。また、容器の収容物側に位置する吸水層で、食品から出る水分や血液等を十分に吸収することができると共に、容器の基材側に位置する防水層で、吸水層が保持した水分等による後述する接着剤またはオレフィン系樹脂よりなる接着層等への影響を抑え、逆に接着剤等からの成分が容器の収容物側に流出することを抑えることができる。更に、吸水層をオレフィン系樹脂25~55重量%およびその表面を親水化剤で処理された無機微細粉末45~75重量%を含有し、少なくとも一軸方向に延伸されている構成とすることにより、成形性の改善、吸水性の向上、ラッピングフィルムの着脱性の向上を図ることができると共に、食品から出る水分や血液等の流れや貯留を確実に制御することができる。
【0008】
  更に、この構成によれば、第1の吸水層、第2の吸水層それぞれの毛細管現象による液体吸収係数の差異を利用することができ、食品から出る水分や血液等をスムーズに吸収することができると共に、第2の吸水層に貯められた水分や血液等が食品側に逆流することを防止することができる。』

 このように、食材の外観の低下だけでなく、鮮度や味等の低下の防止を、無機材料を使った技術で実現していると言えます。

 それでは、もう1つの重要な観点とは何でしょうか?

◆プラスチック等のごみを出さない「環境負荷低減」の観点
 プラスチック製の容器等は軽くて丈夫なので使い勝手は良いのですが、自然分解し難いので廃棄時に問題になります。プラスチックを適切に分別して廃棄処理することが自治体で進められていますが、それでも『廃プラスチック(廃プラ)が年間約800万トンも海洋に流出している』そうで(→記事はこちら)、流出した廃プラスチックが紫外線により劣化し、海で漂う間に細かい破片となってしまう「マイクロプラスチック」について大きな環境問題になっていますショボーン

 上記特許のように容器の見た目や容器に入れた食材の見た目だけを考えていたのでは、環境問題を解決することはできません。

 そのため、今後、より重要になるという観点が、環境負荷の低減を考慮するという観点です。

 例えば、自然界で分解しやすい分解性プラスチックを使ったり、紙を使ったりすることが考えられます。実際、紙を使った容器、「おりがみカップ」について注目されているようです(→記事はこちら。)

 また、そもそも「捨てる」というコンセプトを捨ててしまえばよいかもしれません。例えば「食べることができる容器」です。

 たとえば、『でんぷんトレーや野菜カップ… 食べられる食器でごみ減』という記事がありました。『愛知県碧南市の丸繁製菓は、「イートレイ」と銘打った食器を販売している。』とのこと。もし食器が食べられるのであれば、最早捨てる必要はありません。そうすれば、マイクロプラスチック問題の解決にも資することになります。

 ちょっと調べたところ、「丸繁製菓さんは、「食用トレイ」という名称の登録実用新案(実用新案登録第3178446号)を保有しています。出願日は2012年7月5日と結構前ですね。

 この実用新案の請求項1を見てみます。
 『 ソースをかけて味付けする食べ物において、
  澱粉を主原料として形成され、前記食べ物を盛付ける食用トレイであって、
  前記澱粉及び調味料等の練込んだ粉末生地を高圧で成型・焼成して形成されるトレイ本体を、備え、
  前記トレイ本体は、
  前記食べ物の収容凹所を形成する収容壁と、
  前記収容壁に一体形成され、前記収容凹所内に突出する複数の支承部と、
  前記各支承部間に形成され、前記収容凹所内に開口する複数の液溜凹部と、
を含んで構成され、
  前記食べ物を前記収容凹所内に収容し、前記液溜凹部に跨って前記複数の支承部上に載置する
ことを特徴とする食用トレイ。』

 澱粉が主原料になっています。もう少し詳しく見ると、公報の段落【0028】には、『トレイ本体1は、澱粉(主原料)、魚介(海老、蛸、烏賊等)及び調味料等を練込んだ粉末生地で形成される。』と記載されています。トレイだけでもおいしそう?!びっくり

 これならマイクロプラスチック問題は出てきませんニコニコ

◆世の中の変化を感じるには??
 人々の感覚や五感に訴える観点の特許に続き、環境負荷の低減を考慮するという観点の実用新案を見てみました。これらの例では、たまたま、人々の感覚や五感に訴える観点、環境負荷の低減を考慮するという観点の2つの観点を取り上げることができました。

 しかし、時代の流れ、社会の変化に応じて人々が求めるモノ・コトは変わっていったり、要求自体は従来からあったものでもその要求への希求が大きくなったり小さくなったりします。そうすると、考えなければならない観点も、その都度、変化するのだろうと思います(しかも、観点は1つとは限らず、複数あったりするでしょう)。

 こういった変化をどうやって捉えたらよいのでしょうか?

 BLMさんが『『アート思考』について考える』において、秋元雄史「アート思考」(プレジデント社)の『私はアーティストのことをよく「炭鉱のカナリア」に喩えますが、彼らはまだ多くの人が見えていないものをいち早くその目で見て、聞こえていないことを聞きながら、言語としては表現しようのないものを形やイメージに置き換えて伝えているのです。』(秋元36-37頁)を引用していました。

  どう変化するかについて敏感なのはアートに携わる人、アート思考の人といえるかもしれません。そして、どういったモノ・コトが求められるのか、より生活や社会に密着した発想に至るのが、デザイン思考なのかもしれません。そういった人々と、技術開発や商品・サービス開発をする人々が協働すれば、「そうそう、これだよ私が欲しかったものは!」というようなモノ・コトを世の中に提供できるかもしれません。

 KOIPはアートはさっぱりですが、新型コロナ感染拡大が収まったら美術館に行ってアートに触れてみたいですね。そうすれば、少しは世の中の変化に敏感になれるかも?


by KOIP

 

 

 

 

 

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