『人口857万人のスイスが「人材競争力世界一」な理由』という記事に、以下が記載されていました(『』は記事から引用)。
『スイスにはもうひとつ、ETH(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)に勝るとも劣らない「知の拠点」があ』り、それが『EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)』であるとのこと。そして、『EPFLには、建築・環境工学部、機械・マテリアル・マイクロ工学部、基礎科学(化学・数学・物理学部)、情報通信学部、生命・バイオ工学部という5つの学部のほか、技術系と人文系の2つのカレッジが存在』しており、『開発途上国のコンテクスト--つまりは社会/経済的な「文脈」を多角的にリサーチし、そこから導き出された戦略に即したテクノロジーの研究開発をおこな』い、『製薬、医療、エネルギー、情報通信、移動、住宅、水、衛生、食料、農業分野』に力を注いでいるそうです。
KOIPが注目した点は、『「1日の収入が2ドル以下というアフリカの超貧困層地域には、たいてい先進国から医療機器の支援物資が送られていますが、その70パーセントは使われることなく打ち捨てられています。その国や地域の背景を顧みることなく『先進国のコンテクスト』を押しつけているからです。』という点です。
自分たちのコンテクスト(文脈)を押し付けているという指摘、普段あまり意識していないことですが、言われてみれば確かにそうかもしれません。例えば、先進国では当たり前に存在しているインフラ(空調や温調、防塵設備等)等が超貧困層地域には乏しいか全くありません。水を考えてみても、日本では蛇口をひねるだけできれいな水がすぐ手に入りますが、国によっては簡単には手に入らないところもあります。日本の常識が国によっては常識ではないということですね。
そのような地域で先進国用に製造された医療機器を普通に用いていたら、すぐ故障してしまいますし、電力供給が不安定な地域であれば精密装置をそのまま使うことはできず、自家発電等の設備を付帯させる必要も生じるでしょう。
上記のような『先進国のコンテクスト』を展開先国に押し付けてはいけない点は、知的財産にも当てはまります。
◆グローバル展開する場合、知財面は何を見ればいいのか?
それは、
(1)「図式」が異なる点
(2)グローバル知財パッケージの構築が必要である点
です。
「図式」とか「グローバル知財パッケージ」の説明は後ほどしますが、新型コロナの影響で製造の国内回帰も一部見られるものの、それでも販売先は日本国内だけではありません。海外への輸出がなくなることはないでしょう。すなわち、グローバル展開がなくなることはないと思います。
そういった状況下、海外進出してスムーズな事業展開を目指すのであれば、特許取得が多くの場合、求められます。特に、競合製品が製造販売されている国だけでなく、自社製品を用いて新たな市場を作ろうとする国等に進出するのであれば、特許の取得が有利な事業展開には必要になります。
しかし、特許取得だけでよいのでしょうか?
以下、上記2点について考えてみます。
◆「図式」が異なる点※1
「図式」とは、つまり、上記記事における「コンテクスト」です。例えば、日本における技術レベル、法制度、文化、考え方、常識等々は、製品展開しようと考えている国外のそれらとは同一ではありません。
例えば、日本に特許出願し、それを基礎にそのままPCT出願して日本、及び他の先進国や超貧困地域がある国で特許を取得したとします。
日本で特許を取得できたのであれば、少なくとも「実施可能要件」や「サポート要件」を満たしていることになるので、アメリカ等の他の先進国であれば、特許明細書を参照すればある程度、どのような技術であり、どうすれば再現できるのかについて当たりをつけることができます(もちろん、完璧に再現できるかというとそうではないことが多いでしょう。ノウハウまでは開示しないことが多いからです。そのため、実際にアメリカ等の他の先進国に展開する場合も展開先国にノウハウ等を持っていく必要があります。)。
一方、超貧困地域がある国はどうでしょうか
多くの場合、まだまだ技術レベルは高くはなく、また、法制度等も日本のそれとは異なります。精密さや厳密さが要求される装置等の場合、日本人なら当たり前に考えることも展開先国の人々が日本人と同様に考えるとは限りません。
したがって、日本でとった特許をそのまま持って行ってもすぐに製品を製造できる・使用できるとは限らず、日本のやり方をそのまま持っていくことはできません。持っていく先の国の事情に合わせたカスタマイズや、現地で使用する人の教育やマニュアル等、その場に合わせた「知の提供の仕方」が必要になります。
◆グローバル知財パッケージの構築が必要である※1
まず、知財パッケージとは、複数の知的財産が組み合わされた形態のことです。知的財産は特許権や商標権等の知財「権」に限られません。ノウハウ等も含みます。具体的に、知財パッケージは、パテント、デザイン、ブランド、ノウハウ、ソフトウェア、ビジネスモデルを組み合わせた形態です。
そして、グローバル展開する場合、日本における知財パッケージを、グローバル知財パッケージに再編成する必要があります。なぜならば、特許等の知財「権」のみで事業は成り立たず、日本のやり方をそのまま持っていくことはできないからです。特にビジネスモデルやノウハウ等は展開先国に合わせた内容にする必要があります。
つまり、ある製品について日本のみならず海外展開先でも特許や商標をとっていたとしても、特許や商標のみで事業展開はできません。そもそも現地に適したビジネスモデルを構築しなければなりませんし、現地で製造する場合の製造ノウハウや使用する場合のノウハウ・注意点等が日本におけるものと異なるからです。
例えば、宗教上の理由や展開先国での商標の意味が不適切であることなどを理由に、日本における商標と展開先国での商標を変える必要が生じる場合もあります。
このように、展開先国の「図式」を適切に把握しなければ、展開先国でどのような知財パッケージが必要であるかは分からないので、グローバル展開する際には展開先国の「図式」をきちんと把握した上でグローバル知財パッケージの内容を検討する必要があります。
※1「「特許の棚卸し」と権利化戦略、技術情報協会(2017)、第3章 第1節 知財経営の観点から判断した特許権の適正な保有件数」参照
◆一弁理士としてはお客様の事情をよく聞くしかない
グローバル知財パッケージを構成する知財については、「国を超えた図式」を考えなければならないということになります。つまり、展開先国の「図式」に合わせたグローバル知財パッケージの編成が必要になるということです。
ただ、日本の一弁理士としては自分のみでそこまで考えることは到底できません。お客様が海外展開する場合に、お客様から得た情報を基にある程度「想像」することができるに過ぎません。
しかし、そういった情報があるとないとでは、やはり、一弁理士としてアドバイスできる内容や、特許明細書の書き方にも影響を与えると思うので、お客様と弁理士とのコミュニケーションが極めて重要だろう、と思います。
テレビ会議が普通になれば、かえってこれまでより気軽にコミュニケーションが取れるかもしれませんね。
by KOIP
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