コロナ禍の、beforeと、afterで、世界的な規模で社会が変わっているのではないか(これまで問題となっていたことが顕在化する、といった方がいいか…)と思う時、さて、自分の固定観念を変える必要があるかもしれない、と思う。
では、今、何をすればいいのか?と思う時、今ある現実が、どう出来上がっているか?歴史を少し遡って調べてみようかな、と思う。
日本は、明治時代〜第二次大戦後、多くの制度を欧米から輸入している。そこで、商標法実務を主な生業としているBLMとしては、日本の商標法制度の規範を知るのに、欧米制度をちょっと調べている。で、先般、商標法は、不正競争規制の一部だという人がいて、そうなの?!と素朴に驚いたので、、、。
(photo by BLM 2020/5/13
コロナ禍でも飛んでます。経済優先の社会は変わらないかな…)
5月5日の記事で、英米法国で「不正競争」とはどのようなものを意味するのか?」と題して、田中和夫先生の「米国州際通商上の不正競争」国際経済法研究会編『国際不正競争の研究』(昭和30年,有斐閣)を参考・引用しながら少々考えた。
(以下、『』内は同書からの引用。それ以外はBLM私見あり。なお、原本は旧漢字を用いて書かれているが、BLMにて新漢字にしている。間違いがあったらご了承いただきたい。)
上記5日の記事では、元来英米コモン・ロー上(大陸法系の国は別論)では、『不正競争とは、営業競争手段の中、在来認められていたいずれかの型の不法行為に当たる場合及びそれらからの発展として不法行為とされるようになった場合に対する総称であるに過ぎない。』とし、『不正競争という言葉は、第19世紀の末頃になって漸く、殊に米国において用いられるようになった』との説明を紹介した。
そして、『不正競争の法理は、営業の自由な競争をその前提と』し、『近代英米法は、営業の自由な競争を保護助長することを、その一つの基調』とするが、『本来真正な競争利益がないのにかかわらず、専ら他人の営業に損害を与えようとする動機で、その他人と同種の営業をはじめ、競争の結果損害を与えた場合』、『換言すれば外面上営業競争と見せかけたに過ぎない場合には、不法行為となる』との基本的な規範を紹介した。
米国に渡った不法行為は変容・拡大し、例えば、本来不法行為規制の対象外であった「虚偽表示による原産地等誤認惹起行為」は、1946年の米国商標法第43条a項で、被害者による民事の訴を認め、これにより、『コモン・ローの意味における不正競争、即ち競争の相手方から救済を求め得るという意味における不正競争の範囲が、この連邦制定法によって拡張された』と説明される。
一方、英米法のコモン・ローの典型的な不法行為の1つとして、例えば『品質不良の甲の商品を信用ある乙の商品であるかの如く偽って販売すれば、乙の商品であると誤信して買受けた顧客が損害を蒙る外、乙は現実に当該顧客を失うのみでなく、その信用を失墜するに至るから、顧客に対して詐欺となるとともに、乙に対しても不法行為となり、この後者の不法行為をpassing off 又はpalming offという』と説明される。 BLMの補足として、日本語では、「詐称通用行為」と言われたりすると思う。
不正競争規制の発展1
そして、『アメリカで不正競争という言葉を用い始めたのは、実にこのsecondary meaning の場合についてであった」という。この言葉は、アメリカでは、『本来一人が独占できない名称が、長期間の使用によって競争の相手方に対して保護を受けるようになった場合』に使われたと説明される。
上記5日の記事でも書いた「Wltham watches」事件において、『本来は、即ちその一次的意味においては、Walthamの町で製造された時計を意味し、この意味では被告会社についても真実であった。しかしこの言葉が二重の意味を持つようになり、若し被告会社がそのいずれかの意味であるかを明らかにせずに無差別的にこの言葉を用いることができるとすると、顧客が被告会社製造の時計を買いながら、有名な“Waltham watches”を買っていると誤解する大きな危険があった。それで、事件のポイントは、他人がその二次的意味でこの言葉を使用しないようにして、原告会社を保護し、しかも、何人もWalthamという言葉をその一次的意味、即ち町の名として使用する自由を与えておくことにあり』(田中152)、Holmes裁判官は、『被告会社に、時計の内裏側に“Waltham, Mass”と書くことを許し、文字盤に“Waltham”と書くこと及び広告に“Waltham watches”と書くことを禁止した』(田中151)という解決となったという。
BLMが上記事案について思うに、この当時、係る解決は、これで一件落着、という感じだったのかもしれないが、今日、広告宣伝方法も多様化し、メディアで発信される情報量も格段に増えている状況で、「waltham」の地域の時計会社の人は、いわゆる「商標的使用」としてでなければ(製造地域等を事実を示す使用であれば)、これを使ってよく、それ以外はダメ、という境界線をどう作るのか?難しい問題だ。 現在でも複数の事業者が製造地域等として使用する地域名と、地域から抜きんでた事業者の商標とをどう区別するか、という問題が発生することは十分考えられる。
思うに、結局、このような事案では、境界は曖昧にならざるを得ない、のだと思う。「Waltham watches」(地域名+商品)からなる商標は、我国では、まさに地域団体商標の対象か、又は、使用による識別力の獲得による登録(商標法3条2項の適用)の事例だが、取引上の全ての使用に排他権を行使できるとは限らないというのは、必然なのかもしれない。
さて、ここからが、新しい話。
不正競争規制の発展2
「逆passing off (reverse passing off)」って何?
米国州際通称条項における不正競争の観念は、連邦制定法の制定とその実施とによって広げられていくのであるが、コモン・ローにおいても次のような展開が行われたとされる。
『passing offでは自己のものを他人のものと見せかけるのであるが、逆に他人のものを自分のものと見せかけることを差止命令で禁止した判決』にみられるようになったという。『強いて言えば、逆passing offということができる』とされる。(田中143) かかる判決には以下のようなものがあるという。lこの事例は、他の文献でもよく引用されるものと思う。
International News services v. The Association Press, U.S. 215 (1918)(以下「AP事件」)
第一次世界大戦において、『大西洋岸と太平洋岸との時差の関係で、大西洋岸で早期版に出た記事を写して太平洋岸に電報を打つと、発信の自国(大西洋岸の時間)よりも到着の自国(太平洋岸の時刻)の方が早く、そのため、カリフォルニアでは、同じ戦争記事をのせたハースト系の新聞が、AP系の新聞よりも先に街に出ることがしばしばあった。それでAPがハースト系の通信社を相手取って、このやり方に対する差止命令を求めたのがこの事件である』とされる。
BLMの理解だと、passing offは、あたかも他人のもののように、自分のものを販売するの行為であるが、この事例は、他人のものを自分のものとして販売するケース。BLMの感覚だと、後者のケースの方が、不正な行為のように思え、規制したいところだが、法律的にきちんと考えると、著作権もなく、特許権もない、といった事例で、どんな保護対象を想定して、法的規制を課そうとしているのか?という点が問題となるのだろう。
田中先生によれば、AP事件について、 『これは明らかに今まで認められていた型のpassing offではなかった。ハーストは自己の報道をAPから来たものだとして、人につかませているのではなく、逆にAPの報道を自己のものとして人につかませているのであったからである。しかし、連邦最高裁判所は、(有力な反対意見があったが)差止命令を与えた。』と説明する。
そして、田中先生は、『この判決は、不正競争の範囲を拡張したものであることは明らかである。しかし、どの程度に拡張したものであるかは、必ずしも明瞭ではない。報道に限らず、すべての逆passing offは不正競争であるとの意見が、その後Schechter poultry Corporation v. United States, 295 U.S. 495, 531-2 (1935) において Hughes主席裁判官によって述べられており、また、右に述べたAP事件で、Pitney裁判官はすこぶる広汎な言葉を用いて、競争者間において不当と考えられる殆ど全ての行為が訴の対象となるような意見を述べてはいるが、果たして具体的事件が起こった場合にどの程度まで不正競争であると判決されるかは、今後の判例の発展に待たなければならない。』(田中154)とされる。
なお、上記Hughes主席裁判官は、その判決で、『「近年になって(不正競争の)範囲が広げられた。それは、不正表示(misrepresentation)と同様に不正私用(misappropriation)、即ち他人の物を自己のものとして売却すること ―衡平上は、競争の相手方に属するものを不正に使用すること、にも適用がある」と言ったと説明される(田中154)。
また、AP事件については、その判決で、Pitney裁判官は、
『(1)「自分で種を蒔かない場所で刈り入れる」こと、及び「種を蒔いた人の収穫」を自分のものにすることは許されない、(2)競争者の「一方の権利又は特権が他方のこれらと衝突する場合には、いずれの当事者も、相手方の事業を不必要に又は不公正に害することのないように、自分の事業を営む義務を負う」といっている』とされる。
BLMとしては、「reverse passing off」という言葉を時々聞くが、これは、本来の「passing off(パッシングオフ)」とは異なる規範の上に成り立っているように思う。また、言葉としては「misappropriation」という言葉を使った方が、これに紐づけられる別の規範を視野に入れやすいように思う。別の規範とは、商標(又は商標に化体したgoodwill)を財産と捉え、これを不正に流用する行為を規制する規範だ。かかる規範が認められるべきかは別途検討が必要だ。つまり、商標は、発明(特許法の保護対象)や、著作物(著作権法の保護対象)と性質が異なると考えられているので、創作物として把握していいのか(学説を抜きにすれば、マーケティング成果は創作物と把握してもいいかも?と思うが、厳格な法の世界で安易な言動は受け入れられない、と最近実感。)といった論点がある、と思う。
今日はここまで。
by BLM
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