臨時休校や大規模イベントの自粛が続いています。そのため、自習ドリル、パズルゲームやボードゲーム等の売上が増加しているようです(→ニュースはこちら)。
ゲームといえば、私はドラクエ等のRPG(ロールプレイングゲーム)が好きで、昔はかなりやりこみました(いまも、時々、プレイしています)。
RPGではキャラクタの「ステータス(キャラクタや装備等の強さや能力等の数値)」を上げるために必死になって経験値稼ぎをしますが、経験値が貯まれば必ずレベルアップできるという、ある意味、努力が結果に必ず結びつくのがいいですね。
この「ステータス」、ゲームでは「パラメータ」と同じ意味で使われています。そして、この「パラメータ」、特許の分野でも使われています。聞いたことがあるかもしれませんが、「パラメータ発明」というものです。
「パラメータ」というぐらいだから、何らかの数値が関係しているのかな?と思ったとしたら、皆さん、筋がいいです。
◆パラメータ発明とは
パラメータ発明とは、発明を特定することを目的として独自に創出したパラメータ(「特殊パラメータ」ともいいます)や、独自に創出したパラメータではないものの、その発明の技術分野で慣用されていないパラメータを用いて特定された発明のことを指します。
より厳密には、ある特性値を表す複数の技術的な変数(パラメータ)によって示される範囲を用いて特定した要素を発明特定事項として有する発明をいいます。
簡単に言えば、発明の効果や機能等と何らかの相関関係にある変数(パラメータ)を用いて発明を特定した場合、当該発明をパラメータ発明ということになります。
数値限定されているので「数値限定発明」に含まれるとも言えますが、パラメータや複数のパラメータの組み合わせが独自のものだったり、その発明の技術分野では慣用されていないパラメータである点で、単に数値限定した発明とは異なる面を有しています。
◆パラメータ発明の具体例
では、パラメータ発明って、具体的にどのようなものでしょうか?
例えば、特許3327423号(発明の名称:偏光フィルムの製造法)の「請求項1」を例に挙げます(ただし、本件特許は異議申立により取り消されています)。
『【請求項1】 ポリビニルアルコール系原反フィルムを一軸延伸して偏光フィルムを製造するに当たり、原反フィルムとして厚みが30~100μmであり、かつ、熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係が下式で示される範囲であるポリビニルアルコール系フィルムを用い、かつ染色処理工程で1.2~2倍に、さらにホウ素化合物処理工程で2~6倍にそれぞれ一軸延伸することを特徴とする偏光フィルムの製造法。
Y>-0.0667X+6.73 ・・・・(I)
X≧65 ・・・・(II)
但し、X:2cm×2cmのフィルム片の熱水中での完溶温度(℃)
Y:20℃の恒温水槽中に、10cm×10cmのフィルム片を15分間浸漬し膨潤させた後、105℃で2時間乾燥を行った時に下式浸漬後のフィルムの重量/乾燥後のフィルムの重量より算出される平衡膨潤度(重量分率)』
上記のように、フィルムの厚さ、染色処理工程及びホウ素化合物処理工程で所定倍率まで一軸延伸することに加え、「熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係」を所定の式で表したパラメータを所定の数値範囲にすることで発明を特定しています。
こうすることで、「原反フィルム」に、所定厚さを有すると共に上記パラメータを満たす様々な「ポリビニルアルコール系フィルム」を含めることができます。
◆パラメータ特許のメリット
では、発明をパラメータを使って規定することにどんなメリットがあるのでしょうか?
まず、
物の構造を特定することが難しい場合に利用可能であり、
物の構造を特定するだけでは保護することが困難な機能的側面に着目して発明を保護することが可能です。
例えば、ぬいぐるみの発明があるとします。ぬいぐるみの構造は、通常、「頭部と、前記頭部に接続され、前記頭部より大きな胴体と・・・」というようにぬいぐるみの各パーツを指定して特定することができます。
しかし、例えば、このぬいぐるみの機能が『幼児のように抱きやすい』というような場合、単にパーツや各パーツのサイズを規定するだけでは当該機能を適切に保護できない場合があります。
そのような場合、新たな「パラメータ」を考え、このぬいぐるみを規定すると当該機能を保護できる場合があります。
例えば、『幼児のように抱きやすい』という機能がどこに起因するのか?を突き詰めて考えます。その結果、「頭部の直径と胴体の断面直径との比」や「頭部の直径と胴体の長手方向の長さとの比」というようなパラメータが、ある数値範囲である場合に当該機能が発揮される、ということが分かったとします(あくまでも想定です)。
その場合、これらのパラメータでぬいぐるみを規定することで、ぬいぐるみの頭部や胴体それぞれのサイズを規定するよりも”広い”権利範囲を確保できます。
更に、パラメータは対象を測定することで容易に特定できるので、権利侵害の発見も容易になる、というメリットもあります。
◆パラメータ特許のデメリット
ただし、パラメータで発明を規定した場合、「そのパラメータの技術的意義(構成の目的、当該構成を採用することで解決される技術的課題、当該構成が奏する作用効果等)は何か?」、パラメータ発明をサポートする実施例、数値範囲の設定の根拠、測定方法の記載等を特許出願の明細書に詳しく記載する必要があります。
もし適切な記載がない場合、将来的に特許が取り消されたり無効になったりすることもあります。
また、特許出願後にパラメータを満たす従来技術が発見されると、即座に特許性がなくなる可能性もあります。
例えば、上記ぬいぐるみの例で、「頭部の直径と胴体の断面直径との比」というパラメータをある数値範囲で規定した特許出願をした後、この特許出願前に既に知られていたぬいぐるみについて測定してみたところ、特許出願で規定したパラメータの数値範囲に入っていたような場合、せっかく特許出願したものの、新規性なしで特許にはならない、ということになります。
◆私見:パラメータを考えることで新たな着想が得られる!?
パラメータを考えることで発明を多面的に考えることができると思います。そして、パラメータを考えることで、新たな知見を得ることができる可能性もあります。
つまり、パラメータを考える場合、発明を様々な角度から検討することになり、また、いま考えている機能や効果を発揮させるにはどうしたらよいか?当該機能や当該効果は何に基づいて発揮されているのか?等を深く考えることになります。
そうすると、これまで用いてきた数値(上記ぬいぐるみの例で言えば、各パーツの大きさ)では発明の本質を捉えることが難しくても、ある特定のパラメータを使えば実はうまく捉えることができる、ということに気が付くことがあります。
その気が付いたパラメータで発明を特定し、特許に結びつけることもできますし、特許に結びつけなくても当該パラメータに関する情報を社内で蓄積し、他にも使い回せるようにしていくことで、今後の新たな発明等にも利活用できる意味で重要な知的財産になり得ます。
私も経験がありますが、このように発明を多面的に考えることは楽しいプロセスです。更に、このプロセスで、様々なバックグラウンドを持ったメンバーやデザイナーを交えてブレストすると、自分が持っていない視点で発明を見ることになるので、更に楽しく、面白くなったりします。
◆さて、このようなパラメータ発明、上記で少しデメリットを述べましたが、実は、特許を考えた場合、このデメリットをより慎重に考慮しなければなりません。どういった点に考慮するかについては、次回以降に回すことにします。
(Photo by BLM 本文とは関係ありません)
by KOIP
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