『~令和元年意匠法改正対応~意匠の審査基準及び審査の運用』(審査第一部意匠課意匠審査基準室)が公表されている。同公表資料の表紙には、「本資料は、令和2年(2020年)1月6日時点の情報に基づき作成しています。改正意匠法に対応する改訂審査基準案については、パブリックコメントを実施しており、その後の検討結果によっては、本資料の記載内容が修正される可能性がありますので、あらかじめ御了承ください。」と記載があるので、今後、正式に審査基準が出されると思う。現状はこの資料が参考になりそう。
かれこれ7,8年前に特許庁の審査官さんとお話したことがあるが、意匠は、「物品に係るもの!」という意識が強いように感じた。それを思うと、日本の意匠法の「物品」要件が緩和された訳ではないが、「建築物」等が追加された点は大きいように思う。
意匠法2条は、これまで、「この法律で「意匠」とは、物品(…(省略)…)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と定義されており、「物品」は「有体物である動産」と解されていたため、「不動産である建築物は保護対象外」とされていた。
令和元年改正意匠法(令和2年4月1日施行)により、「物品」に不動産が含まれる、という解釈はせず、「物品」の定義はそのままで、「この法律で「意匠」とは」、物品の形状等に加え、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等も加わり(画像については今回は省略)、それらについて「視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」となった。
なお、建築物に、外装と内装の両方について保護される。内装については、同改正法8条の2によれば、(内装の意匠)として、「店舗 、 事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、 建築物又は画像に係る意匠は、内装全体とし て統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録受けることができる。」と規定される。
この点、令和 元年10月23日第17回意匠審査基ワーキングルプの資料7には、「内装の意匠」の改正に係るページで、表参道駅に近いApple社の店舗写真を掲載しつつ(なお、現在はリニューアルされ写真とは異なる。)、
「近年、企業が店舗内装のデザインに特徴的な工夫を凝らしてブランド価値を創出し、サービスの提供や製品の販売を行う事例や、オフィス家具・関連機器を扱う企業が、自社の製品を用いつつ、特徴的なオフィスデザインを設計し、顧客に提供する事例が増えてきいる。そこで、意匠権による内装デザインの保護が可能となるよう、意匠法第8条の2が新設された。」と説明されている。
以下は、改正法解説ではないので、予めお詫びしつつ、思うところを書いてみる。
ブランド価値を高めるための方策として、その保護制度が強化されるのは良いのだろう。でも、オリンピック2020年を目指し、観光客を呼びこもう、ということで、店舗を新しくしたりした時期は、日本としては、もうちょっと前の時期だったように思う。
意匠法による保護は、商標法と違って、新規性を要する。従って、すでに建設してしまえば、意匠法による保護は得られない。もうちょっと前に改正されてもよかったのかもしれない…。
それに、今回の新型コロナウィルス流行が社会に与えた影響は、一つの企業のブランド価値の向上のみに着目するのではなく、社会全体の利益の向上の中に、ある企業のブランド(及びそれを支えるデザイン)の価値も組み込まれ、又は、その逆もあって、ある企業のブランド(及びそれを支えるデザイン)の価値の向上が、社会全体の利益の向上にも繋がる関係が求められているのではないか、と思わずにはいられない。
知的財産法が保護すべき対象が、何か別のフェーズに移ってきているような気がする。
例えば、下記写真は、上記の表参道のApple社の店舗外装の横の道なのだが、私はここを通るとき、いつも、「なんとかならないかなぁ」と思いながら通っている。つまり、歩道はめちゃめちゃ狭い。狭い歩道に電柱が立っている。歩道における電柱問題は、公共政策として安全面と景観面等で別途解決しなければいけない問題ではある。
ただこの場所に限った問題としては、Apple社(の大家?)の敷地なのだと思うが、これら数本の細い木を外して、多少でも、ここを歩行者に開放できないか。人を通らせないように木を植え、白いカラーコーンまで置いているのは、どんな事情があるのか…。
この道をさらに行くと、トンカツのまい泉等、沢山の魅力的な店が並ぶ通りに行く。表参道駅から降りてその通りに行くにはここを通る必要がある。一人ぐらいしか通れないでしょ?
・・・と言ったことを書いていたら、青山一丁目駅近くにあるHONDAの青山本社ビル(Honda青山ビル)のデザインのことを思い出した。
同社のホームページには、
『「安全なくして生産なし」という考えのもと、交通量の多い青山一丁目を
行きかう車や人の見通しをよくするため、交差点側の建物を丸く設計したり、
敷地の境界線から後ろに下げて建てています。また、地震の際、ガラスが
割れて落下し、通行人に危険が及ばないよう、すべての窓を幅1.5mの
バルコニーで囲むなど安全面も考慮しています。』との説明がある。
その上で、外観のデザインは、視覚的にもとても美しいと、私は思う。
BLMとしては、改正意匠法は意味がない、なんて、言っている訳ではない。
思うに、意匠法の保護対象を考える場合は、ある企業一社のブランド価値に、結果として貢献するとしても、まずは、社会にどう役立つのか、どう意義があるのか、を考えて、保護対象を見定める必要がある。意匠法の保護対象となる意匠(デザイン)は、そういう性質のものだ。商標法や不正競争防止法2条1項1号又は2号が第一義的に保護対象とする、識別力を発揮するためのデザインとは性質を異にする。
意匠出願をする場合は、上記の視点で対象を眺めると、見えて来るカタチ(又は重要な要素の組み合わせ)が違ってくると思う。出願人(代理人たる弁理士)としては、かかる視点で、出願対象を特定するのが望ましいのだろうと思う。
より実務的な話として、意匠に係る物品の説明で、カタチの保護価値について、説得力のあることが書けるかもしれない。
また、建築物、特に店舗の内外装のデザインについて、商標法や不正競争防止法2条1項1号又は2号で保護を求める場合、「周知性」が必要とされる場合が多いところ、意匠法で保護されるということは、新規性や創作非容易性をまずはクリアーすれば保護される可能性があり、中小規模の店舗でも保護対象として想定されている点、極めて意義があると思う。
さらに、画像デザインとも組み合わせた、近未来を見据えた実験的な建築物(空間)のデザインの創作を促進する効果も期待できる。社会をより良くするデザインを考えてきたApple社の今後の新しい取り組みも楽しみだ。
上述の通り、同改正法8条の2は、「内装」「を構成する物品、 建築物又は画像に係る意匠は、内装全体とし て統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として」出願でき、一定要件下、登録され得るのだ。
By BLM
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