新型コロナウイルスが原因で社会が混乱している。昨日、また、小中高に臨時休校要請、というニュースが飛び込み、社会が混乱している。共働きやひとり親等の場合は本当に困った状況だろう。しかし、“学校がいったん休校になると、社会が即、混乱に陥る”ということ自体が問題なんだろう。
意匠法の話をしようと思うとき、毎回、この法分野で「デザイン」という場合、「意匠」のことを意味し、つまり物品(改正施行後は、一定の建築物や画像が加わる)という物理的な特定の形態を問題としなければいけないのが心苦しい。本当は、特定の形態を介して、社会や生活を良くしよう、というコンセプトも含めて「デザイン」なんだと思う。
この点、近時の意匠法改正の中でも、私見では、「デザイン・コンセプト」レベルなんじゃないか?と思う改正条文を以下で考えてみる。
<原則>
まず、意匠法では、登録要件たる「新規性」を満たすため、意匠出願は、その意匠を施した製品が市場に販売等される前に行う必要がある。より実務的な話として、既に意匠出願を行った最初の製品の意匠と、市場の声を反映した改良品の意匠が類似していれば、改良品の意匠は新規性がなく登録されない。もっともその場合は、既存の意匠権の類似範囲にも専用権が認められるため、最初の製品に係る意匠権で改良品も保護される。しかし改良品の意匠のみに類似する意匠を施した他社製品は排除できない。
<現行(改正法施行前)の意匠法>
このように、自己の複数の意匠が、それぞれ類似する場合、その範囲で意匠出願をする場合に利用できる制度が、関連意匠制度だ(出願人が同一の場合に限る)。
現行意匠法(改正法施行前意匠法)第10条は、“出願人は、自己の出願に係る意匠又は自己の登録意匠のうちから選択した一の意匠(以下「本意匠」という。)に類似する意匠(以下「関連意匠」という。)については、当該関連意匠の出願の日(…省略…)がその本意匠の出願の日以後であつて、…省略…その本意匠の出願が掲載された意匠公報(…省略…)の発行の日前である場合に限り、…省略…意匠登録を受けることができる。”と規定する。(意匠登録出願を単に「出願」とBLMにて記載。)
すなわち、簡単にいえば、核となる意匠を「本意匠」と定め、これに類似する意匠を関連意匠として出願すれば(又は、審査中でも関連意匠に修正可能)、出願人が同じであれば登録される。但し、現行法では意匠公報発行前までに改良品等の類似意匠を出願する必要があった。
<自己の複数の意匠が、非類似であることもあるので注意>
自社が改良品を販売することとなり、これに併せてさらにその意匠を出願することも多いが、その意匠が登録されると、最初の製品に係る意匠権の効力範囲が見えてくる。すなわち、類似なら拒絶されるところ、改良品の意匠が登録されたのなら、改良品といえども非類似であり、すなわち、最初の製品に係る意匠権と、改良品に係る意匠権の効力の範囲は狭い、と考えられる。
かかる事態を事前に予測し、効力範囲の境目に複数のバリエーションの意匠を出願し登録させることができれば、意匠権の類似範囲網は広がることとなる。
<一例>
例えば、下記の意匠図面は、三菱電機株式会社の製品「蒸気レスIHジャー炊飯器」に関する意匠登録の一部(※)であるが、平面視上の四辺に着目すると、四辺が削られ滑らかになっている形態、鋭角な形態、その中間に位置する形態の3つのパターンの意匠を確認できる。
(※:参考:経済産業省 特許庁編『なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集』(発明推進協会)93-108頁に掲載の「6 蒸気レスIH ジャー炊飯器(三菱電機株式会社)」。同社の製品開発の背景等も参考。なお、同社は、本章に挙げた3つの意匠以外に、部分意匠制度、関連意匠制度等を駆使して、本製品に関連する複数の意匠を登録させている。)
私見では、まだ世の中の大多数の炊飯器が丸みを帯び、台所での存在感を放っていた時代、三菱電機㈱の四角い(同社によれば「スクエア型」)炊飯器は画期的だったように思う。 2012年に下記写真のスクエア型炊飯器をを我が家も買ったからなんとなく覚えている。家電量販店で、蒸気レスで、棚にもすっきり納まる、おしゃれなデザインとして大々的に売られていたような気がする。我が家は2人暮らしで三合炊き用なので蒸気レスではないが、T-falと一緒にすっきり並ぶ。昭和の台所感は出ない(それはそれで、レトロ感でいいと思うが…)。
以下意匠公報より引用。
意匠登録第1343999号公報に掲載された意匠の斜視図(同公報より引用)。
(上記登録で四角い形態の炊飯器の意匠をカバーできる(他人の意匠の実施を排除できる)と思っていると危険!
その後出願された下記は、上記とは類似しないと判断され登録。)
意匠登録第1349091、1348076、1344034号の各公報に掲載された意匠の斜視図(同各公報より引用)。
登録第1348076号と、登録第1349091号は関連意匠制度を利用して出願されている。
(さらに、シャープな印象を与える下記意匠もその後、登録。上記意匠群とは非類似とされた。)
意匠登録第1445049号公報に掲載された意匠の斜視図(同公報より引用)。
意匠登録第1349091、1348076、1344034号の実施意匠の可能性があるものとして上記写真。
我が家のものだと少々解りづらいので、AmazonのHPより引用させて戴いた。この色彩については、『女性デザイナーが提案した二度塗りの「赤」色は、コストの点から一旦は一度塗りに決定』。しかし、そのデザイナーは、『女性が一目惚れしないとダメ」という強い意見』だったという。(『』内引用:上記「なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集」)
もはや、三菱電機株㈱の上記スクエア型炊飯器の意匠登録の後に、同社も含め、複数の企業が、スクエア型の炊飯器に係る意匠を出願し、スクエア型の形態のみは意匠権で独占できないことは解ってきたが、当時、三菱電機㈱のスクエア型炊飯器の販売はインパクトがあったと思う。ただ、それは外観の問題だけではなく、まず、技術開発の成果と相まって、デザイン・コンセプトがスクエア型(+赤い着色)に結実したからだと思う。
つまり、上記「なるほど、日本の素敵な製品 デザイン戦略と知的財産権の事例集」を参考に、私見を交えて考えると、
同製品は、従来製品が沸騰させて蒸気を出して美味しく炊くというものだったのに対し、沸騰させて蒸気レスで「うまみ成分」を逃さず美味しく炊けるという技術的成功と、蒸気が出ないため棚においたまま炊けることでインテリアにも馴染むというコンセプトを、直方体を基調にした製品の外観形態で具現化したと言えるだろう。上記3つのパターンの意匠は、異なる出願日で登録されているため、特許庁の審査では、平面視上の四辺の形状の違う3つのパターンは、意匠全体の印象が異なり、非類似の意匠と判断されたことが伺える。従って、幾つかのパターンの意匠を出願して権利範囲網を広げることで、蒸気レスで美味しく炊けるインテリアにも配慮した炊飯器といったコンセプト自体を間接的だが保護できる可能性がある。
ちなみに、同書は、とてもいい本でお勧めなのだが、いま手に入るか解らない。探して読んで欲しいのだが、デザインの実現と、技術開発経緯とが、時系列で一緒に書かれている。
<改正法施行後の意匠法>
改正施行前の意匠法10条では、上述のように、関連意匠制度を利用する場合、意匠公報発行日前に改良品(先行意匠の類似意匠)を出願する必要があるのに対し、改正施行後の意匠法10条では、本意匠の出願日から10年を経過する日前に、かかる類似意匠を出願すればよいことになる。また、関連意匠にのみ類似する意匠については、当該関連意匠を本意匠とみなして登録を受ける等、かなりの自社の類似意匠群が長く登録されていく(それぞれ各意匠について意匠登録をしなければいけないが)、ということになる。つまり、デザイン・コンセプトがしっかりしており、物理的な特定の形態に結実している場合、時代に合わせ、又は機能を向上させて改良させた製品が保護され続けることになると考える。
2020/2/29追記:意匠権は、標識法ではないので、存続期間の縛りがあるので注意。改正意匠法については今後書いていきたいと思う。
これで、少しは、意匠法も世の中のためになるだろうか?
By BLM
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