<イラスト:>

【分かってないなぁ~】

TVドラマに登場する妊婦の夫役は、大抵無関心・非協力的・役立たずなコトが多い。・・そこには(男たちが女ごころを)分かってないなぁ~」という空気(=社会通念)があると思う。

妻たちはそんな夫たちに期待せず、夫たちも立合い出産に余り関心を持たないコトが多いのではないか?・・。 だとしたら、とてももったいないと思う。

私(←以下「ブリキ」という。)はと言えば、「女ごころ」はもとより、「人の心」や「自分のココロ」すら分かってない。(・・残念どころではない。

でも、妻の出産に立合った感想は、人生経験の中でも最高レベルで「ちょ~面白い!」体験だった。そんな凸凹ならではの体験を紹介する。

【事の始まり】

始まりはまだ真っ暗な明け方に、突然妻に叩き起こされる。・・寝ボケているところへ「(陣痛が)始まった。ぅ~痛ぃ~」と言う。・・≪えっ、エライこっちゃ≫だ。

事前に病院からは「陣痛が始まっても慌てずに。間隔が15分位になってから来てください。」と言われていた。その間隔を計ると、既に15分(汗)

妻は陣痛が起きる度に動けなくなり、支度が思うように進まない。焦りつつも、なんとか無事に病院へ到着する。正直それだけでもホッとした。

妻は先に処置室へ通される。残されたブリキは独り待合室で、(周囲の空気ではなく)持ってきた『はじめての妊娠出産百科』(主婦の友社)を読む。(←アスピーなので・・) 

急いで「分娩」の項に目を通す。分娩第一期から第四期までの過程が書かれていたが、特に参考になるような内容は書いていなかった。ただ見開き2ページに「呼吸」という単語が5,6回程出てきたのを除けば。・・≪何コレ?≫だ。

【胎児の心音】

まもなく陣痛室と呼ばれる大部屋へ通される。部屋に入ると、妻が手前のベッドで横になっている。

ベッド脇に置かれた母子の状態をモニタリングする装置のスピーカーから、胎児の心音が「トクン、トクン、トクン」と聞こえる。可愛らしくもしっかりとしていて元気そうな心音だった。

部屋の奥の方からも、別の心音が聞こえてくる。そっちはもっとゆっくりとした寝息のような音だった。・・助産師さんの声も聞こえてきて「落ち着いてきちゃいましたね~。お母さんも少し休みましょう。」と話しかけている。≪そーか、きっと長丁場なんだろうなぁ~、大変そうだなぁ~≫と思った。

すると次の瞬間妻が、陣痛で「痛いっ!、痛いっ!、痛い~~~っ、んんっ・・・。」と唸る。

同時に心音も「ドグッドグッドグッドグッドグッドグッ」と急に音量もピッチも上がる。まるで警報や悲鳴みたいに鳴り響く・・

≪ど、ど~するオレ~・・?≫だ。

【スイッチ・オン!】

このとき、ブリキの中でスイッチが入る!・・「愛」や「正義感」のではなく、「好奇心」のスイッチだ。・・Eテレの『ピタゴラ装置』みたいに、アタマの中で好奇心の玉がコロコロと転がり始める。

とっさに「赤ちゃんに酸素をあげよう!、深呼吸しよう!」と、妻へ声をかける。

すると、妻が「ス~~ッ、ハ~~ッ」と、必死に深呼吸を始める・・。

すると、陣痛が、みるみるうちに収まってゆく・・。

≪ん?・・・役に立ってんじゃね?オレ。≫だ。

【妻のために。凸凹のために。】

アタマの中の好奇心について少し補足説明する。・・妻にかけた言葉には、≪痛みから気をそらそう。そしてイキんで息を止めてしまう時間をなるべく短くさせよう。≫という意図があった。

なぜなら、

  • 1)人は痛みや苦しみに耐えようとするとき、無意識に息を止めてしまう。
  • 2)息を止めると身体に酸素が供給されず、余計に苦しくなる。
  • 3)痛みばかりに意識を向けると、そこから抜け出せなくなり、辛さが長引く。

というコトを、「マインドフルネス・仏教・道教・古武術・心理学」などの本を読んで学んでいたから。

ブリキは、発達凸凹として、幼い頃からずーっと痛みや苦しみと向き合ってきた。だから、以前からこーゆー仕組みに関心があり知っていたわけだが、ケガの功名か?・・≪アダルトチルドレンでよかった・・?≫

【貴重な実験】

好奇心の玉は止まらず、ブリキはマッドサイエンティスト(?)のようになり、この立合い出産が「世紀の大実験(=仮説と検証)の場」になる・・(汗)。

ここで検証してたのは『妻はちゃんと深呼吸できるのか?・そして、本当に楽になれるのか?』で、その結果は『できた!・そして、本当だった!』だ。

この検証について少し補足説明する。・・『ヒトのアタマ(=脳)では究極的には同時に1つのコトしか処理できない。』

だから、深呼吸できたと言うことは、その瞬間「妻の赤ちゃんを想う力が、陣痛を超えた」というコトを示している。

つまり、妻を襲う「痛み」がこれまで経験したこともないレベルであるにもかかわらず、妻の「想い」がそれを超えたと証明されたわけだ。

その「究極の想い(=母の力?)」を目の当たりにし、今までに味わったことのない不思議な感覚が、感情の乏しいブリキの中に伝わってくる。

陣痛の度に声をかけながら、たぶん≪人生の中で最も大切な瞬間を体験し共感している。≫と実感する。

ここまでの体験ができただけでも、妻の出産に立ち合えてよかったと思う。・・≪つづく