小説 ♪絶唱♪ -37ページ目

小説 ♪絶唱♪

ドキメンタリ-風小説絶唱
epilogue《エピローグ》小説それから
第3部 こころ 75歳になった男が感じる天の役事
第2部 共鳴太鼓 未来を背負う若き世代の物語
第1部 やまぶきの花 戦後まもなく生まれた男が生きた昭和、平成、令和の物語。

  

前回のあらすじ

何時ものファミリーレストランでいつものメンバーが集まった。話題は4日に出た最高裁第1小法廷の判決だった。本田は渡辺一喜に「我々を執拗に攻撃してくるのはどうしなんだと思っている?」と言って橘と木村の顔をみた。渡辺は二人と身近で話すの始めてだったこともあり、ゆっくした口調で言葉を選びながら言った。「いろいろな根拠はあるだろうが彼らにとって一番の大きな確信は歴史上の位置づけだと思っている。共産主義思想の歴史観、唯物史観に根拠を置いて、宗教の成立と、果たして来た役割と寄与を攻撃しているんだ。政府与党に貢献してきた勢力の一つだとしてね。だから選挙運動手伝った事を別な理由付けをして攻撃してね」木村一二三が「別な理由づけ?」これには本田が答えた「教会の勢力の拡大に利用したという見解なんだ。我々は信仰の自由を守り、共産主義の蔓延を防御するという設立の意味を捻じ曲げてね」橘が「正直に言うと渡辺さんの言っていることの三分の一を理解することも難しいんです。唯物史観、共産主義思想と聞いても基礎知識がないのでね・・・」と言った。本田は70年代の時勢と2025年の世相の激変を改めて自覚した。

 

 1週間が《瞬き》する間に過ぎる様な気持ちにさせられた。この期間に冬に逆戻りする寒さがあり、気温もマイナスまで下がり、降雪も車の屋根には15センチにもなった。これもつかの間20日には18℃まで上がり21日も18℃になった。


 市内の中学校の卒業式が開かれたと聞いた。19日には小学校の卒業式、21日は孫娘の通ってい幼稚園では学期末になり翌日から長い春休みらしい。
   木村一二三の子供の高校卒業と大学進学の祝いをかねて、集まったのはいつもの3人だった。本田と小学生の男の子の孫を持つ橘武、そしてもう一人この前と同じように渡辺一喜が同席した。

 

 木村がまず口を開いた。「最近は高校生の間でも同性婚に対しても何も抵抗もなく話題になりむしろ積極的に受け入れようとする雰囲気もあるようでね。この子が四月から大学生になるともっと心配になると妻と話しているんだ」

 渡辺が「この流れは世界的なものでこれに対抗するためにもっと真剣に取り組まなければ成らないと思っているね。この流れの奥にあるものをもう一度しっかりと知って防御しなければならないと感じているね。

 過去の家族の有りかたはこの前言った”上部構造と土台の関係”の上に立った見つめ方だということをハッキリしておかなければいけないと僕は思っているんだ」

 木村が「と言うと?」

 「日本に限定して論を進めてゆくとね。これはあくまで僕の見つめ方だがね。これまでの家族、もっとわかりやすくいうと入籍する時の苗字の問題、血縁関係や婚姻関係でなりたつ親族の問題、日本に残る文化的伝統、先祖に対する感謝と供養などは旧時代の全ての習慣は”古い時代の土台の上に造られた上部構造”だと極論してこれは打破して消し去らなければ新しい世の中は来ないという思想の上にたったモノのみかたなんだ。僕の言い方は乱暴な言い方だがね。極論すればそうなるんだ」と渡辺が言って本田に顔を向けてきた。

 木村一二三が「そう言えば、田舎に住んでいるころ、近所の駐在所のお巡りさんが言っていたね。この頃の若い世代はね、交通事故に成りそうな運転しているバ」イクを見かけて、ちょっと注意するとね。言うんだよ。『おう!おポリコウよ。これって法律違反ではないだろう』と言ってくるんだよ。素直に人の忠告を聞こうっていう雰囲気などないんだよ。最初から喧嘩意識なんだと嘆いていたのを思い出したね」

 渡辺は「共産主義の考えかた見方の特徴のひとつに弁証法ってのがあってね。これも極論すると自然など発展している現象どう見つめるかというという事なんだ。目に見える現象が表に現れるのはその内部に法則があるとみているんだ。その法則は『矛盾による対立物の統一と闘争』としてみているんだね。これは聞いた事があるかもしれないけれど『まず正が有って、その次の段階ではその内部に有る対立するモノが対立し、次の段階では反転して合に至る』というものなんだ。解りやすくいうと卵から雛が孵るのは卵の中にある受精細胞が外界と対立闘争して最後は殻を打ち破って誕生するとみるんだ」

 橘武が「それは違うんじゃないの、受精細胞は決して外部と対立も闘争もしていないじゃない」

 渡辺が「本当はそうなんだ。だがこの法則を公式化することによって歴史を矛盾による統一と闘争の法則に当てはめ、やがて所有者と非所有者の歴史は逆転し非所有者の世界が到来する・・としたんだ。この逆転が彼らが言う”革命”なんだ」

「今は誰も革命などと言っている人間はいないんじゃない?」橘が言った。

「そうなんだよ。共産党だって『社会の発展は、力ずくでできるものではありません。選挙で示された国民多数の意思にもとづき、階段をのぼるように段階的にすすんでいくものです』(共産党広報ページ)と言っているもね。でもこれは”共産主義を放棄した”という宣言ではないんだよね。また今の日本の歴史段階は『社会主義の前の段階で「財界中心」「アメリカいいなり」をただす民主主義革命こそ当面する階段です』(共産党広報ページ)とみているんだ。彼らが政権の座に登ってきたらどのような決議をし法律をつくってくるかは未定だと言っているようなもんだからね。さらに『「財界中心」「アメリカいいなり」をただす民主主義革命こそ当面する階段です』(共産党ホームページより)をみてみると財界、アメリカを自分たちの対岸にいる対立物とみている証拠の言動だという俺は思っているんだ。さらに時が来たら”共産主義の歴史発展の原則論にのかってこれからの方針を決め進めてゆくと宣言しているようなものと俺はみているんだ」渡辺の60年に渡る履歴が解るような言葉だった。

 

 店内に家族連れが入ってきて賑やかになってきた。

 

 木村一二三が「こんど場所を変えて唯物論、歴史観の唯物史観の講義を教えてもらいたいね」と言った。

橘も「そうだね。先輩たちが歩いてきた生の話も聞きたいしね」

木村が「ところで渡辺さんは今の攻撃にたいして打ち勝つ自信はあります?」と真面目な顔して聞いてきた。

 渡辺は「昔、大学生だったころ学内や町中で左翼の人たちとずいぶん論争したが左翼の理論も完璧なものではなく理論的には打ち勝ことはできると思っているが、こちら側は宗教であることを踏まえると理論だけでは完璧に防御、攻勢できるとは思えなくなってきているんだ。とくに最近はね」

 「と言うと・・・」橘が言った。渡辺は「宗教である以上理論だけでなく体験的な宗教、つまり”宗教体験がないと弱い”と解ってきたんだ。最近、私たちの子供や孫の世代が本苑で徹夜精誠や生活実践を通して”宗教的体験や精霊体験”をして証をしているのを聞いているとそれを痛切に感じるようになったね」

 本田は「私たちの世代のそういった宗教的体験というと寝ていると真っ黒い霊が襲ってきて首を絞められて息が出来なくなった。これは私の体験だけどね。それ以外に修練会でどこの国の言葉かわからないが異言をしゃべる修練性が現れたことも有ったね」

 本田の言葉に反応した様子は三人とも三様だった。

「本田さんの話は精霊までいかないが霊界の話で唯物論では解けない現象だとおもうよ。僕が言いたい歴史上に有った精霊によるキリスト教会の刷新運動のことなんだ。合衆国のペンテコスト運動に匹敵する現象だと考えてみても良いと僕は思っているんだね」続けて渡辺は「”要は神霊と真理に両面が大切なんだ”」と言った。 

 三人は席を立って店を出る準備を始めた。

 

 入口には2組くらいの家族連れが順番待ちでならんでいるのがみえた。

 

 外に出ると太陽が雲の切れ端から顔を出して輝いていたが、時折吹く風には冬の冷気が混在して冷ややかだった。

 

 本田は大学生だった1970年代初頭、左翼運動が激しかったころ読んだ三島由紀夫の小説「春の雪」を思い出した。それともう一句,高校生だったころの古文の教科書に載っていた松尾芭蕉、小林一茶と並び称される江戸俳諧の巨匠の一人蕪村の江戸時代の詩歌「春の海ひねもすのたりのたりかな」(与謝野蕪村)も

 

 次回3月30日ころ