韓国京畿道にある教団の修錬苑で行われた“霊性3日修錬会”から帰郷した日の午後、長男夫婦の住む瀬戸内海に面した呉市の住居で一泊して翌日夕刻高速と一般道を経由して帰郷した。
長男は帰宅していなかったが孫の11歳の男の子と6歳女の子が大歓迎して迎え入れてくれた。お盆の季節里帰りしてわずか1カ月しか経過していなかったが二人の成長した姿には驚かされるものがあった。
長男の嫁の佑香が「最近ね。二人きりになると兄妹喧嘩ばっかりなの。どちらかと言えば下の女の子が上のお兄ちゃんに挑戦していくようにみえる事が多いのね。『下の娘にとってはすべてがお兄ちゃんと平等でないと気が済まないみたい、お兄ちゃんにしてみれば年齢も上だからオヤツにしても同じなんて不公平だ』といったことで喧嘩がたえないの」と言いながら笑った。
夏休みに帰郷した時には祖父母の前では見せなかった孫たちの一面をみて嬉しくなった。素直な感想だった。
森本芳樹は息子が10歳の時、小学校5年の時の参観日の一コマを思い出した。田舎の小学校で2クラスしかなかった。息子のクラスを参観したついでに隣の教室のもう一クラスを窓越しに覗いてみた。教室の中から数人が一斉に芳樹に視線を送ってきた。その中の一人と目線が有った。その子は1年生と2年生の時息子と同じクラスだった。
田舎の小学校ゆえ一年生たちは町内に一つしかない保育園からの卒園生か近所の顔見知りの友達だった。芳樹はその年の1月に瀬戸内海沿岸の市内から転職した事もあって、長男は小学校の入学に合わせて引っ越してきた。友達も、顔見知りの人は誰もいなかった。
入学式が終って数日たった日、夜勤明けで帰宅すると長男が『今日はお腹が痛いと言うのよ』妻が困惑した表情で言った。
翌日は妻が学校まで送っていってやっと登校した。お腹が痛いと言って休む事が1週間に2、3度続いた。
芳樹は三交代勤務の仕事だった事もあり、長男の全ては妻に任せきりだった。夏休みが明けて芳樹は心配したが1週間過ぎるころ『昨日は元気に帰ってきたわ。そして今日は晴れ晴れとして登校したわ。一時はどうなるか?と心配したが一山越えたようで安心したわ』『何か有ったのかね?』芳樹は妻に聞いたが『判らないわ』と言った。
謎が解けたのはしばらく経ってからだった。
芳樹が町内会の会合で同じ集落の食料品と雑貨の店を親から引き継いだ落合誠から声をかけられた。
『長男さん元気で行っているかね?』
芳樹は『一時はちょっと登校を渋った様子もあったけれど、最近は元気に登校してるようで安心していますよ』と言った。
落合誠は『この前ね、帰宅する途中うちの店の前のベンチで疲れて座っていたんだね。横には我が家の息子もいたんだ。ベンチの横には帰宅道の近くで採ったらしいタケノコの大きなのが転がっていたんだ。一年生の子供が両手でやっと持ってる大きさなんだ。君の処の子供さんはタケノコが竹藪に伸びているなんて初めてみたらしくて、我が家の息子と二人でタケノコ狩りをしたらしいだ。二人で意気投合しあって、やっと店の前まで二人で運んできと言うんだ。こちらも二人の姿をみて嬉しくなってね。オヤツに店のアイスクリームを奢ってやったんだ』
話を聞きながら『いろいろ気を使ってもらって感謝します』
と言って恐縮した顔をした。『うちの息子は身体はデッカイが以外にも繊細な面が有ってね。二人は馬が合うっていう雰囲気だったね』と言って笑った。
芳樹は後年、悟った。
子供を成長させるのは親だけでなく、友達によって成長させられる部分、周りの環境にいる人達によって成長してゆく部分など・・・・・親の知らない処で、多くの人の支えで成長していく・・・というのが理解できた。
翌朝、車で出発する時、下の孫娘が「これ、お爺ちゃんとお祖母ちゃんにあげる」と言って白いコピ-用紙に赤、緑、青の色鉛筆で書いた芳樹と妻の似顔絵の用紙を手渡してくれた。
森本芳樹はしみじみと湧きおこってくる感情の揺れに心を浮かせて感謝した。
車のハンドルを握りながら思わず高校時代に暗記した孟子の一文を思い出した‶吾が老を老として、以て人の老に及ぼし、吾が幼を幼として、以て人の幼に及ぼさば、天下は掌(たなごころ)に運(めぐ)らすべし。『孟子』)何故か古文の授業は好きだった。むしろ授業内容より講師の人柄に憧れ似た感情を抱いた。博学だけでは無かった。歩いてきた人生がの話がモノクロの墨絵のような美しさが感じられたからだった。
そしてもう一つは毎日朝の訓読の時間に唱えている家庭盟誓の第三節「天一国(てんいちこく)主人、私たちの家庭は、真の愛を中心として、四大心情圏と三大王権と皇族圏を完成することをお誓い致します」
この中の四大心情圏とは統一教会の解説によると『愛は、相対的関係を通して育まれます。その中心となるのが、家庭の親子関係、兄弟姉妹関係、夫婦関係です。そこで育まれるのが、父母が子女を愛する「父母の愛」、子女が父母を愛する「子女の愛」、兄弟姉妹が互いに愛し助け合う「兄弟姉妹の愛」、夫婦が互いに愛し合う「夫婦の愛」の四つです。神の愛が、家庭の中で「四大愛」として現れるのです・・・・と。
あれこれ考えながら中国山地を縦断して日没際に日本海が見える国道に出た。
海に波がほとんどなかった。夕日が西の日本海に沈む。
光の帯が太陽から真っすぐに此方に向かってくる。
刻一刻、一刻と夕闇が海面を覆う。
太陽の頭の頂点が海面に没した。
幻想の時間・・・・
静かな、静かな、時間が流れてゆく
これが自然に有りのままの姿・・・
長~い時間のトンネルを抜けて我が家に辿り着いた。
★次回に続く