小説 ♪絶唱♪ -23ページ目

小説 ♪絶唱♪

ドキメンタリ-風小説絶唱
epilogue《エピローグ》小説それから
第3部 こころ 75歳になった男が感じる天の役事
第2部 共鳴太鼓 未来を背負う若き世代の物語
第1部 やまぶきの花 戦後まもなく生まれた男が生きた昭和、平成、令和の物語。

  

 前回のあらすじ 橘竜二はアーケード街を歩きながら原爆ドームに向かって歩いていた。横断歩道を渡った先で青年たちが拡声器で何か訴えながらチラシを配布していた。竜二にチラシを渡そとした若い女性にの背後から男が覆いかぶさるように倒れてきた。そのあおりを受けて竜二は仰向けに倒れかかったが身体を捻って頭部を守りながらも倒れてしまった。チラシを配布していた青年の一団に助けられた。竜二は再び原爆ドームを目指して歩き始めた。休日の午後とあって川にかかる本安橋は大勢の通行人だった。

 

 竜二は青年に教えられたように元安橋の手前を川に沿って小道を進む。対面だと一人がやっと通れる道幅だった。

 立樹の枝の濃い緑が夏の太陽光線を和らげ視界を遮る。手に小型扇風器を持った若い女性が幾人もいた。

 濃い緑の樹木の葉の先に赤錆びた鉄骨が剥き出しなったドーム、建物の外壁になっていたレンガに残骸。見上げる無言の人たちの眼。

 原爆が投下され今年80年と言われる。竜二が生まれる4年も前の出来事だった。

 原爆ドームを訪れる人達は何を想い、何に心を動かされ、何を心に残してこの場から次の訪問地に向かうのだろう・・・・。

 

 平和公園に向かう観光客の後ろ姿を漫然と眺めている自分をジッと凝視している胸の奥底にいる塊が呟(つぶや)いているのを知った。

『お前には残された時間は限られたいるんじゃない』音の無い声だった。

 橘竜二は急遽明日の宮島参拝を取りやめ明日亡き妻の実家に訪問する事にした。

 

 「県北に妻の実家があるのでね。その昔“ヒバゴン”っていうのが出現したと全国的にも有名なった所だよ」

 広島県庄原市西条町、その昔は比婆郡西城町といった。平成17年3月31日に1市6町で現在の地名に変更された。その地を始めて訪れたのは昭和50年(1975年)、今から50年も前のことだった。田圃の稲は収穫され、田圃のアチラ、コチラから脱穀した稲束の燃え屑から煙が真っすぐ天に昇っていた。晩秋の夕暮れだった。

 

 次回につづく