それは、上等生のトルクが嫌悪し、東寮にきた理由でもある。
 貴族子弟からの圧力。

 半数以上が貴族子弟の上等生。
 将来は政の一端を担う彼らは、すでに学舎内でも権力を振りかざす。

 その犠牲になり、退舎したものもいるくらいだ。



 ヨウスは緩く首を振った。
「嫌がらせを受けたんじゃなくて……」
「な、何だ?」

「……授業中に、噂されてるのが聞こえたり」
「う、うん……?」
「廊下を歩いてると、声かけられて、名前とか訊かれたり……」

 図書室で本を探していると、探すのを手伝うと言われ、それは助かるが、話し声が大きくなって司書に怒られた。

 夕食を食べていると、いきなりお菓子を渡されたり、好きな食べ物を訊かれた。

 ルフェランたちと別れて部屋に戻ろうとすると、札遊びでもしないかと声をかけられ、しばらく質疑応答……。

 などなど、かわいいものだ。

「傷があるから、怖がられると思ってたんだけどな……」



 ティセットは沈黙した。
 新しい同室生の顔をマジマジと見る。

 確かにヨウスの顔はきれいだ。
 遠くで見れば女に、近くでは男に見える、不思議な顔。

 本人が言うとおり、左のこめかみに黒い傷跡がある。
 血が止まらず、強い薬を使ったためにこうなったらしい。
 だが、普段は髪に隠れていて、気になるほどではない。

「美人って、大変だな」
 しばらく賑やかだろうなぁ、とティセットは他人事のように呟いた。


   *  *


 ティセットは生活費……主に食費を稼ぐために働く。
 ヨウスは?
 手紙だ。

 誰に? と尋ねると、なぜか彼は首を傾げた。

「…………誰、だと思う?」
「は? 何だよソレ」
 うーんと考えるヨウス。
「俺もよくわからないんだ」

 関係が判らない人。
 それは関係がない人。
 つまり他人ではなかろうか?

 そんな相手に手紙を出すなんて変だ。

 手紙を書くには紙がいる
 配達費だってばかにならない。
 なのに、良く知りもしない相手に手紙を書くヨウス。



「どんな人?」
 ヨウスの寝台に寝そべってティセットが訊く。
「んー……デカい」
 トルクのことだろうか?
 いやまさか。

「何してる人?」
「…………知らない」
 他人決定。

「そんなやつに手紙?
 何のために?」
 呆れて、少し強く言う。

「何の……?
 生きてるかわかるように」
「は?」
「前に死にかけたことがあるんだ」
「…………」
「それで、心配だからって……」

 つまり、生存確認のために手紙を送っていると言うことだ。
 他人に。

 あれだろうか。
 慈善家。
 宛先の主はそういう人なのだろう。



「……俺、寝るから」
 ティセットは自分の寝台に戻る。
「あぁ、おやすみ」
「おやすみ」

 不思議なやつが来たな。
 思いながら、ティセットは眠りに落ちた。
豚汁です。

向こうに少し見えるのはシソゴマおにぎり。

双方ともに食べかけです。

現在11:45。
食しております。









…………食いかけ載せんな(`曲´#)
BlueLineBlue-DCF_0343豚汁.JPG
 紙は高級品だ。
 黒板に書き出されるものすべてを書き写そうものなら、学費と同じくらいかかるだろう。

 だから、教師が黒板に書く内容を教科書と照らし合わせ、頭に入れて行くしかない。
 確かにこれは、大変だ。



 隣でトルクが頭を抱えて唸っている。
 聞いていた通り、うるさい。
 他の生徒は慣れているのか、気にする様子はない。

 ヨウスはそっと嘆息した。
 彼には、難しく感じられなかった。
 多少、言い回しに癖のある教師だが、内容は単純だ。

 これで頭を抱えるなんて、どうしてやればいいのだろう?


   *  *


 朝二回、昼食を挟んで昼二回の授業がある。
 基礎科を合格していれば、中位学科は何でも受けて良い。
 一回ずつ変えている生徒もいる。

 トルクはいつも、昼からは武科の授業を受けに行く。
 すでに剣術で上級を取っているが、体を動かしたいらしい。

 武科には、用学という上位の学科もあるが、条件が満たされていない。
 何はともあれ、語学の中級に受からなければならないのだ。



 一人になったヨウスは昼の二回目だけ、ティセットと一緒に算学の授業を受けた。

 教師の目からも目立ったのか指名されて、黒板に書かれた問題を解くはめになる。
 ヨウスが当てられたときには慌てた。
 彼はまだ来たばかりなのに……というティセットの心配をよそに、ケロリとした顔で戻って来たヨウス。

 こちらの難度も問題はないようだ。



「たーだいまー」
 寮に戻ると、ヨウスは本を読んでいた。
 図書室にいったらしい。

「おかえり」
 ティセットはホッとした。

 生活のためとはいえ、授業のあとに仕事をするのは大変だ。
 ヘトヘトになって帰ってきた部屋で、誰か待っていてくれる。
 おかえりと言ってくれる。

 こんな嬉しいことはない。



 ヨウスにとって初めての授業はどうだったのだろう。
「どう?
 ついて行けそう?」
「あー、うん、なんとか」

 読みかけの本に栞を挟んで閉じると、ヨウスは小さく溜め息をつく。
「…………」
 何か言いかけてやめた。

「何?」
「うん……」
 自分の椅子を持って来て、ティセットはヨウスと向い合うように座る。
「言ってみろよ」

 しばらくの逡巡の後。
「……目立ち過ぎている気がする」
 ティセットは首を傾げた。
「何が?」
「……この…………顔が」

「…………」
 本人も自覚しているようだが、ヨウスは美人だ。
 男に使う言葉ではないが、それが当てはまるほどヨウスの顔は整っている。

「……ヨウス。
 何か、あったのか?」

 寮は東西に分かれているが、教室は上等生から初等生までが一緒に使用する。
 中等生と初等生は寮も同じで問題ないが、気をつけなければならないのが、上等生だ。