紙は高級品だ。
 黒板に書き出されるものすべてを書き写そうものなら、学費と同じくらいかかるだろう。

 だから、教師が黒板に書く内容を教科書と照らし合わせ、頭に入れて行くしかない。
 確かにこれは、大変だ。



 隣でトルクが頭を抱えて唸っている。
 聞いていた通り、うるさい。
 他の生徒は慣れているのか、気にする様子はない。

 ヨウスはそっと嘆息した。
 彼には、難しく感じられなかった。
 多少、言い回しに癖のある教師だが、内容は単純だ。

 これで頭を抱えるなんて、どうしてやればいいのだろう?


   *  *


 朝二回、昼食を挟んで昼二回の授業がある。
 基礎科を合格していれば、中位学科は何でも受けて良い。
 一回ずつ変えている生徒もいる。

 トルクはいつも、昼からは武科の授業を受けに行く。
 すでに剣術で上級を取っているが、体を動かしたいらしい。

 武科には、用学という上位の学科もあるが、条件が満たされていない。
 何はともあれ、語学の中級に受からなければならないのだ。



 一人になったヨウスは昼の二回目だけ、ティセットと一緒に算学の授業を受けた。

 教師の目からも目立ったのか指名されて、黒板に書かれた問題を解くはめになる。
 ヨウスが当てられたときには慌てた。
 彼はまだ来たばかりなのに……というティセットの心配をよそに、ケロリとした顔で戻って来たヨウス。

 こちらの難度も問題はないようだ。



「たーだいまー」
 寮に戻ると、ヨウスは本を読んでいた。
 図書室にいったらしい。

「おかえり」
 ティセットはホッとした。

 生活のためとはいえ、授業のあとに仕事をするのは大変だ。
 ヘトヘトになって帰ってきた部屋で、誰か待っていてくれる。
 おかえりと言ってくれる。

 こんな嬉しいことはない。



 ヨウスにとって初めての授業はどうだったのだろう。
「どう?
 ついて行けそう?」
「あー、うん、なんとか」

 読みかけの本に栞を挟んで閉じると、ヨウスは小さく溜め息をつく。
「…………」
 何か言いかけてやめた。

「何?」
「うん……」
 自分の椅子を持って来て、ティセットはヨウスと向い合うように座る。
「言ってみろよ」

 しばらくの逡巡の後。
「……目立ち過ぎている気がする」
 ティセットは首を傾げた。
「何が?」
「……この…………顔が」

「…………」
 本人も自覚しているようだが、ヨウスは美人だ。
 男に使う言葉ではないが、それが当てはまるほどヨウスの顔は整っている。

「……ヨウス。
 何か、あったのか?」

 寮は東西に分かれているが、教室は上等生から初等生までが一緒に使用する。
 中等生と初等生は寮も同じで問題ないが、気をつけなければならないのが、上等生だ。