少女は藁で墓石を磨いていた。
 風が吹けばまた埃にまみれるだろうに。
 現に、磨いた先から風が砂を運んでくる。
 磨いても磨いても、砂まみれ。

 それでも少女は磨きつづけた。
 未だはっきりと捉えきれない死別を惜しむように。

「イリ。それくらいでいいよ。
 もう行こう」
「まだー」
「村のヤツらが来るから行こう」
 兄妹は手を繋いで去っていった。

 ひとつだけ隅から追いやられた墓石が、消えた二人をいつまでも見守っている。





 ───枯れたら意味ないじゃん

 それは確かにそうだ。
 枯れてしまった花は不要なものとされる。
 美しいままでないと価値がないと言われる。

 それでも花は咲く。
 なんと言われようと。

 咲き。
 枯れれば種を残し。
 萎れて地に落ち。
 種は土に根を張り。
 地に落ちて土となる。



 この寂しげな大地に花が咲けば、さぞかし映えるだろう。
 赤茶色と青のコントラストの中で目を引くものになる。

 もっと水があれば。
 もっと土が肥えていれば。
 もっと風が穏やかで、陽射しが柔らかであれば。

 この手から溢れそうになるものを与えることができれば。

 ───お花はー?

 咲いたら、いいのに。
 この枯れた大地でも咲くような花が、あればいいのに。

 たとえば?
 そう、たとえば。

 この両手から溢れそうになるもので創造した花。

 しなやかな茎を親指で。
 ぴんと張りつめた葉を人差し指で。
 きゅ、と引き締まった萼を中指で。

 秘められた蕾を薬指で。
 鮮やかな雄しべと楚々とした雌しべを小指で。

 包む、滑らかな花びらを手の平で形作り。
 立ちのぼり、くすぐる香りを声に乗せてすべてを繋ぐ糸に仕上げる。

 それはそれは、美しい花ができるだろう。





『───、いいか?
 魔法はな、体の奥から湧き出るのだ』
 父の声が耳元で聞こえた。

『使うのではない。
 起こすのだ。
 体の奥の、リーイの血を揺さぶるのだ』

 父は熱心だった。
 一人息子のポポドスを大切に育ててくれた。

 小さな頃はわからなかった。
 不思議だとは思わなかった。
 ただ単純に、気難しい父が自分の顔を見ると笑うのが嬉しかった。

 父と母と、六人の姉と───もうひとりの母。

 もうひとりの母は病弱な人だった。
 働き者の健康な母は里長の世話でポポドスに構うことは少なかった。

 父と、母親代わりの姉たちに囲まれて幸せだった。
 ひとり息子の特権だと思っていた。

 あの日までは───……



『───、よく聞きなさい。

 おまえのお母さんが、亡くなった』
 異界との溝の近くには村があった。
 村というには小さな集落だ。
 溝が発生してすぐに魔物が襲ったのはこの村の人間だった。
 被害は、小さな集落ほど強く感じられる。

 補修作業が無事に終わったことを村長初め村人たちに伝えると、彼らは手を叩いて喜んだ。
 お礼にと振る舞われた食事で腹を満たし、宴会になだれ込む。

 ポポドスは逃げた。
 酒は苦手だ。



 外は夜風が涼しい。
 ブラブラと歩いていると、黒い影が建ち並ぶ村はずれに来ていた。
 影は、膝丈ほどの石だ。
 これが墓場なのだろう。

 一番隅の小さな墓が動いた。
「だれ?」
 幼い少女の声。
 小さな墓のそばに座っていたようだ。

「お墓まいりにきたの?」
「いや……。君は?」
「とーちゃんとね、かーちゃんのお墓よ」
 少女は小さな石の頭を撫でた。
「…………」

「とーちゃんとね、かーちゃんはね、お墓のしたの階段をおりていったんだって。
 でね、もう会えないんだって。
 でね、お墓のしたはね、お花がさかないんだって。
 だからね、いまね、にーちゃんがね、さがしにいってるんだよ」

 ポポドスは胸が詰まった。
 幼い少女の言葉が、その笑顔に釣り合わないから。
 まだ「死」を理解できないのだろう。

 今回の結界の綻びからは大量の魔物が吐き出された。
 ポポドスたちが派遣されるまで、どれだけの人が死んだのだろう。
 聞くところによると、祭りの最終日だったというのに。

「兄ちゃん、待ってるのか?」
「うん。イリのにーちゃんだよ」
「兄妹は二人か?」
「うん。イリとにーちゃんがきょうだいなの」

「兄ちゃん、元気か?」
「うん。イリのにーちゃん、やさしいよ」
「そうか。
 イリはいい子だな」
「イリ、いい子?」
「そうだ。いい子だ」

 少女の両親の墓のそばに座ってしばらく話していると、少年の大声がした。
「おい、あんた!」
 手足の細長い少年がポポドスを睨みつける。
 少女が立ち上がる。
「にーちゃん!」

「イリになにすんだ! イリ、こっち来い」
「にーちゃん、お花は?」
 釣りあがった兄の視線をもろともせず、少女が尋ねる。
「こっちに来いって」
 しかたなく少年が少女のもとに歩み寄り、背にかばって見せた。

 どうやらポポドスは、悪者と勘違いされているようだ。

「あっち行けよ。
 ちゃんと墓はすみっこに作ったじゃねぇか。
 まだモンクあんのかよ!」
 少女が兄の服の裾を掴んでお花はー、と訊ねるのに幼い兄はそれどころではない。

「文句を言いに来たわけじゃないんだ。
 たまたまここに来たんだ」
 正直に話すと、少年は素直に信じてくれたようだ。
「なんだ。早く言えよ」



「なぁ、墓を作る場所って、家によって決まってるのか?」
「テキトーだよ」
 少年は両親の墓石から砂を払い落とす。
 すぐにまた風が砂をかぶせるというのに、何度も払い落とす。

 その手が名残惜しそうに見えた。

「……父ちゃんたちは、祭りのときに死んだから、『ケガレ』たんだそうだ。
 だからオレたちも村のそとに住んでる」
「穢れ……」
 ポポドスは首をかしげた。
 このあたりの因習だろうか。
 祝日に血を流した者に禍が降りかかると聞いたことはあるが。



 話題を変えようと、ポポドスは少年の手元を見た。
「花はあったのか?」
「てっ、てめぇにカンケーねぇだろ!」

「にーちゃんお花はー?」
 ポポドスの言葉に誘われて、少女がまた兄を攻める。
 少年の両手には花は見当たらなかった。

 荒野に咲く花は極わずか。
 それも高価なもので、よほど金の余っているものでないと手にできないだろう。

「お花ー」
「ま、また今度な」
「……うん」
 少女は素直に諦めた。
 両手は寂しげに兄の手を握りしめる。

 握りしめる両手は小さい。
 握りしめられる両手はやせ細っている。
 この大地と同じくらいに。



「……花は、買うのか?」
「うん。商人がときどき持ってくる」
「よく枯れないな」
「ちゃんと干してあるよ。枯れるもんか。
 あんた頭ワルいな」

「…………………………。
 生花は見たことないのか?」
「なにそれ?」
「乾燥していない花だ。
 時期が来れば枯れてしまう、咲いてそのままの花」
「枯れるんじゃ意味ないじゃん」
「……うん」
BlueLineBlue-DCF_0538チキンカツ.JPG

叩き起こされた…(´・ω・`)



チキンカツです。
昨日から下拵えしていたので、揚げただけ。
あとは厚揚げとワカメのお味噌汁。
どうだ!





(`д´)「揚げ過ぎ」





o(´∀`)○)`д´)



昼行灯くん、実家に帰りたまえ。