先生のことが大好きだった。肩幅が広くて見た目はちょっと恐そうだけど、笑ったときに見せる少年のような純真さに惹かれた。
先生ー、肩幅広いですね!
…。馬鹿にしてる?
先生の頭が大好きだった。トレードマークのツンツンヘアーは、冬のホッカイロよりもあったかくて。そこでいつも手を温めていたっけ。
先生ー、髪の毛芝生みたいですね!
馬鹿にしてるよな?
先生の声が大好きだった。こもったような低い声で、少し掠れてる。大人っぽくて、男前で、爽やかで、耳に心地好い。
先生ー、実は喉繊細ですよね!
馬鹿にしてんな。
先生のことが大好きだった。最後に、一緒に写真を撮りたい。色々なバスケの技を見せてもらった、この思い出の体育館で。先生にバスケットボールを持ってもらい。同じ一枚の写真に二人で写りたい。
大須先生、大好きです。
これ逃したら、次はないと思え!
う、うんっ。
いっけーーーーー!
お、大須先生ー!
!?何してんだよ?
あ、、はい。。
終業式とっくに終わったろ。今日は部活も休みだし。
あ、いやー。その、あのー
どうした?
あのー、先生今忙しいですよね??
まぁ、今日はな。
ですよね。
(って、それで終わり!?何よ「ですよね」って!?)
(だって先生忙しいって。。)
センセ。ヒロがね、センセーと一緒に写真撮りたいんだって。体育館で。
写真!?
ね?ほら、ヒーロっ!
あ、はいっ。一緒にぃ、でも忙しい…ですよね?
いや、いいけど…体育館?
ここでも大丈夫ですっ!時間かかっちゃうし。
いや、体育館でもいいけど
本当ですか!?ありがとうございますっ!
いざバスケットゴールの下に二人で並ぶと、あんなに望んでいたのが嘘かのように一気にプレッシャーが七江を襲う。絶対に目を瞑ってはならない。これからどんな場面で目を瞑ることになっても構わないから、この写真だけはどうか開いて写りますように。
選んでおいた比較的見映えの良いボールを先生に持ってもらい、これで準備は万端。大人っぽく写ればいいなーと思い、少しかしこまってみたものの。七江はもう、自分が今どんな表情をしているのか分からない。
先生は忙しいのに。ずっと見ていたから、きかなくても分かっていた。先生は本当に忙しいのに、一度も文句を言ってこない。
優しくて、嬉しくて、七江は泣きそうになっていた。この短時間で七江の感情は目まぐるしい変動を繰り返していた。
これが終わったら先生と本物のお別れをしなければならない。次学校に来るのは、高校三年生になった七江だ。その七江は、もう大須先生に会うことは出来ないのだ。
また つづく。