「恋心を注いで」⑮ | My-Hero

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ヒーローに憧れた夢。

さすがに保険のおばちゃんは不味かったか。向こうの玄関にいたのも怪しんでたし、こりゃバレたかもな。ま、仕方ない。何歳になっても緊張するもんだな、こういうのって。

一応喜んでくれてたし、クッキー好きって言ってたし、14日に渡せたし。上出来だろ、ホワイトデー。何より七江みたいにコケなくて良かったよな、うんうん。

それにしても、久々に話した気がする。クラスの皆とも上手くやってるみたいだし、元気そうで何よりだ。いつもの明るい七江だったな。あの一件から避けられてしまった様な気がしていたが、俺の思い過ごしだったか。もっと話しとけば良かったな。

七江のお蔭で、原点に戻って一から再出発してみようと思えた。諦めないで、頑張ってみようと考えられるようになった。教師として、これからもやっていこうと再確認できた。七江は俺の恩人だ。

転任のこととか、感謝の気持ちとか、話したいことはたくさんあるけど。残りの三日間を楽しく過ごせたら、それでいいのかもしれない。

一日一膳ならぬ、一日一言でも話せたらいいんだけど。難しそうだよなぁ。朝の挨拶担当を、明日から三日間やらせてもらおうか。校門にいれば絶対会えるもんな。「おはよう」も言えるし。


朝の挨拶担当をですか?

はい。

大須先生がですか?

はぁ…駄目でしょうか?

いえいえ、構いませんよ。

あ、ありがとうございます。

でも、どういった風の吹き回しですか?

え?

朝は苦手かと思っていました。一緒に担当したとき、とても眠そうでしたので。

あ、いや、確かに得意な方ではないんですけど。この学校とも、もうすぐお別れなので。

そうでしたね。生徒がいるのはあと三日ですしね。

ええ。最後まで我が儘を申し上げて済みません。

いーえ、こちらも助かることですから。では、明日から宜しくお願いしますね。

はい。ありがとうございます。





また つづく。