さすがに保険のおばちゃんは不味かったか。向こうの玄関にいたのも怪しんでたし、こりゃバレたかもな。ま、仕方ない。何歳になっても緊張するもんだな、こういうのって。
一応喜んでくれてたし、クッキー好きって言ってたし、14日に渡せたし。上出来だろ、ホワイトデー。何より七江みたいにコケなくて良かったよな、うんうん。
それにしても、久々に話した気がする。クラスの皆とも上手くやってるみたいだし、元気そうで何よりだ。いつもの明るい七江だったな。あの一件から避けられてしまった様な気がしていたが、俺の思い過ごしだったか。もっと話しとけば良かったな。
七江のお蔭で、原点に戻って一から再出発してみようと思えた。諦めないで、頑張ってみようと考えられるようになった。教師として、これからもやっていこうと再確認できた。七江は俺の恩人だ。
転任のこととか、感謝の気持ちとか、話したいことはたくさんあるけど。残りの三日間を楽しく過ごせたら、それでいいのかもしれない。
一日一膳ならぬ、一日一言でも話せたらいいんだけど。難しそうだよなぁ。朝の挨拶担当を、明日から三日間やらせてもらおうか。校門にいれば絶対会えるもんな。「おはよう」も言えるし。
朝の挨拶担当をですか?
はい。
大須先生がですか?
はぁ…駄目でしょうか?
いえいえ、構いませんよ。
あ、ありがとうございます。
でも、どういった風の吹き回しですか?
え?
朝は苦手かと思っていました。一緒に担当したとき、とても眠そうでしたので。
あ、いや、確かに得意な方ではないんですけど。この学校とも、もうすぐお別れなので。
そうでしたね。生徒がいるのはあと三日ですしね。
ええ。最後まで我が儘を申し上げて済みません。
いーえ、こちらも助かることですから。では、明日から宜しくお願いしますね。
はい。ありがとうございます。
また つづく。