ついに私は、本当に告白しちゃうんだ。友だちに先生役をしてもらい、入念なリハーサルも何度も繰り返した。
「先生、これ受け取ってください。」
「先生、私、先生のことが好きです。」
大丈夫、きっと上手くいく。バレンタインの神様、私に勇気を貸してください。
後片付けが終ると同時に、タイミング良くチャイムも鳴った。七江の心臓はというと、鳴り止むことを知らないようだ。その時、ついに大須先生が体育教官室に向かい始めた。今だ!今しかない!
先生ー!
ん?
ギャーーーーース
なにしてんだよ?
イタタタタ…
まったく七江は。
いや、すみません、体操服を踏んじゃって
気を付けろよ。
はい。すみません。
(ちょっと、ヒロー!!)
あ、いや、そういうことじゃなくて。あの、その、これ、
ん?
チョコです。
え?
あ、今日、そのー、バレンタインだし。。
あ、ありがとう。
はいっ!じゃあ。。
最悪だ、最悪のシチュエーションだ。告白の前にコケるなんて有り得ない。しかもあんなにズコーッて、漫画じゃないんだから。寡黙な先生があんなに笑ってたし。情けな過ぎて、顔から火が吹き出るわ。
ちょっとヒロ待ってよー。告白しなくていいのー?
だって、あんなにコケたのに、好きですなんて言えないよー
まあー、あれはナイか。
でしょ!?あんなにカッコ悪い姿晒した後で、好きですはナイよね??
んー、まあー。
どうしよ~。先生にバカだなって思われちゃったよぉ
それは前からだから、気にしなくて良いよ。
え?でもさ、変なやつだなって思われたよね?
それも今に始まった訳じゃないから大丈夫。
え?でもでも、好きって言えなかったよぉ
うん、せっかくあんなに練習したのにね。
グスン
まぁ、ドンマイドンマイ。告白するチャンスなら、またあるからっ!
グスン。ごめんね。せっかく色々付き合ってくれたのに。
んーん、私は全然っ。
あ、りが、とう。
あー、もう、泣くなヒロっ!
七江のバレンタインデーは、最悪の結末を迎えてしまった。好きな人の前で、あんなに激しく転んでしまうなんて。本来甘~い日の筈だったのに、七江にはただ苦々しいだけの辛い思い出になってしまった。先生に呆れられ、好きも言えず、七江は一人でフラれた気分だった。
また つづく。