クリスマスに彩られた街並みがお正月色に塗り替えられ、それも滲んで落ち着くと、いよいよやって来る。今度は男子と女子がそわそわし出し、受け継がれる落ち着かない。
バレンタイン。
甘いチョコレートに淡い恋心を注いで、烈々な想いも一緒に届ける。
そう、今日はバレンタインデー。もちろん七江も大須先生に渡すためのチョコレートを持参している。問題は、いつ渡すのかということ。プリンの件で学んだ、職員室等の他の先生がいる場所はNG。呼び出すのも難しいだろう。
七江に残された道は、体育の授業が終わった後、職員室に戻る前の先生を捕まえる。これだけである。そこを逃したら、今度こそ自分でチョコレートを食べなければならない。今日体育があったのは、神様の思し召しなんだと勝手に思い込む七江であった。
四時間目の体育はバドミントン。めっちゃ好きな競技なのに、全っ然集中できない七江。一緒にチームを組んでいる友だちに叱咤激励されながら、なんとか最低限のプレーだけこなす。
後片付けに入ると、七江のか弱い心臓は激しくその存在を主張してきた。静まれ、心よ。何度もイメージトレーニングしてきたではないか。
「先生、これ。」
「七江?」
「ふふ、バレンタインチョコですよ。」
「これって… 」
「ずっと前から好きでした。」
「七江…俺もだ。」
「先生…」
いやいやいやいやいや。
「七江ー!」
「先生?」
「チョコは?」
「え…」
「なんだよ、七江からバレンタインもらえると思ってたのに」
「あ、これ」
「あんじゃんか。俺も好きだよ、七江。」
ないないないないない。
あんさー、ヒロ。私先生役やってほしいってゆうから、わざわざバイト遅刻してまで付き合ってあげてんだけど?
あ、ごめんごめん。ついウッカリして。
ウッカリってなんだよ。
バイト遅れて怒られない?ごめんね。
先に言っといたから平気だよ。でも、アンタの妄想発表会を見る気はないから。帰るわ!
ちょっ、ちょっ、待ってよ~。ごめんなさい!ちゃんとやります‼
また つづく。