先生ー!これ、さっき作ったんですけど。。良かったら食べてください!
俺?
はい。。
何?
プリンなんですけど。。甘いものとか苦手でした?す、すいません。大丈夫です。
好きだよプリン。
え?
ありがと。お昼にもらうわ。
あ、ありがとうございます。じゃあ、失礼しますっ。
あ、七江!
はいっ!
これは?
へ?
入れ物。
あ、そっか。また後で取りに来ます!机の上に置いといてください。先生いなかったら、こそっと持ってきますね。
別にこそっとする必要はない。ありがとな。
はい!
今日の時間割は変則で、四時間目の数学と来週の家庭科を取り替えっこして、二時間連続の調理実習となっていた。献立の中にプリンも入っていて、それを作るときいたときから七江は小さな作戦を立てていた。
プリン、大須先生食べてくれるかな。
いつも真面目に授業を受けるタイプの生徒ではあったが、今日の七江は俄然やる気満々で実習に取り組んでいた。 先生もいるし、友だちも一緒だし、料理の苦手な七江でもプリン作りを失敗することはなかった。
みんな達成感に満ちた顔で楽しそうにプリンを食べる中、七江だけは先生にお願いして授業が終わるまで冷蔵庫で冷やしてもらっていた。味見ができないのが気掛かりであったが、同じ材料で作った同じ班の友だちも美味しいとの感想だったので、それを信じることにした。
体育教官室に入るのは、何故か普通の職員室に入るときよりも緊張する。扉を開くと中には体育の女性の先生が一人と、男性の先生が二人いた。大須先生は、その中の一番奥の机についていた。私が大須先生にプリンを持ってきた旨を伝えると、大須先生は他の二人の先生に冷やかされてしまった。
ちょっと申し訳なくなって、やっぱり持って帰って自分で食べようかとも思ったが。先生は恥ずかしがりながらも、食べると言って受け取ってくれた。ごめんなさいって謝りたい気持ちもあったけど、そんな初めて見る大須先生の仕草を可愛いと思ってしまった。明らかにプリンは好きじゃなさそうだけど、大須先生のついた小さな嘘の優しさに甘えて有り難く受け取ってもうことにした。
放課後、容器の回収にもう一度体育教官室を訪ねると、大須先生以外の二人の先生しかいなかった。ちょっぴり残念ではあったが、速やかに失礼しようと小走りに室内を移動した。
すると女性の先生が「大須先生、美味しそうに食べてたよ」と教えてくれた。男性の先生の方も「嬉しそうだったな、大須先生」と言ってくれた。そんな心優しい二人の先生に丁寧にお礼を言い、体育教官室を後にした。
人見知りの七江にとって、習ったことのない先生と話すのは物凄く緊張した。でも二人ともとってもいい先生で、なんだか嬉しくなった。1人になって初めて気付いたのだが、容器はきちんと洗われていて、中には可愛らしい飴が一つ入っていた。
カッコイイ。
律儀な大須先生の心意気に、またまた惚れる七江であった。年下の人にでも謙虚で、爽やかな感謝を伝えられる優しい人間になりたいと、七江は大須先生に強く憧れるのであった。
また つづく。