「恋心を注いで」⑤ | My-Hero

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ヒーローに憧れた夢。

誰もいなくなった放課後の体育館。七江も先生と同じ場所に立って、スリーポイントシュートを打ってみた。先生とは正反対の情けない放物線を描き、網にすら到底届かない位置でもう下降し始めている。七江の放ったボールは直ぐに床を鳴らし、ポーンポンポンとそのまま向こうへ転がっていった。

実際に自分でやってみると、より先生の凄さを実感できた。大須先生って、やっぱりめちゃくちゃカッコイイ。本気で尊敬しちゃうなぁ。また先生のバスケット、見せてもらおーっと。七江は、先生のことを想うだけで幸せになる自分がいることに気付いた。そのことが、とても嬉しかった。

「一回だけだからな」と面倒くさそうに呟いてシュートの体勢に入り、ダムダムと何回かのドリブルでゆっくりと微調整をして。かと思いきや一転、素早い動きで額の前までサッとボールを持っていく。沈めた膝を伸ばすのと同時に上へと高く跳ぶ。腕を通してその力をそのままボールに注ぎ込んだかと思うと、グーンとゴールへ向かい真っ直ぐにそれは飛んでゆく。

着地した先生はパシュッの前にもう振り返り、体育教官室の方へとその歩みを進めていた。パシュッを、先生の背中越しに見届けたのは七江だ。

なにこれ…カッコ良過ぎる

映画のワンシーンの様な光景に、思わず息を呑む。こんなにも心を揺さぶられるなんて。男の有言実行が、こんなにもカッコイイなんて。今まで全然知らなかった。その刹那、七江は正真正銘本気で大須先生に惚れていた。


先生ー!エアループシュートが見たいです!

できるか!

えーーーーーー

何歳だと思ってんだよ。

35歳…ですよね?

現役の頃とは違うんだから。

そーう、です、よね~。。

分かったよ。ちょっと待ってろ。

え?


七江ー!やってもらうから、見てろよー

え?あ、はいっ!


ゴール近くの空中でパスをキャッチして、そのままシュートを打つ。大須先生が部員の子たちに頼んでくれたらしく、またしても生で見ることが実現した。七江には完全にエアループシュートだった。漫画の中のそれより、断然こっちのがカッコ良かった。

実際に演技を見せてくれた一年生部員の子たちに、何度もお礼を言い頭を下げた。全然いいですよ、と恐縮する二人。とても良い人たちで、更にありがとうが重なった。


先生ー!エアループシュートめちゃくちゃカッコ良かったです!

流石にダンクは危ないからな。

いえ、『スラムダンク』よりカッコ良かったです。ありがとうございました!

全然いんだけど、七江さー

はい。。

もうちょっと静かにできないの?

え?

いや、キャーキャーうるさいからさ。

すみませんっ


部員に慕われてる感じとか、威厳のある感じとかが垣間見れて、七江はまた一つ大須先生を尊敬した。自分がしてないことをしてる人、自分ができないことをできる人。七江はそんな人を尊敬してしまう。大須先生はその最たる人だった。

七江は、尊敬できる人が好きだ。だから七江は、大須先生が大好きなんだ。





また つづく。