誰もいなくなった放課後の体育館。七江も先生と同じ場所に立って、スリーポイントシュートを打ってみた。先生とは正反対の情けない放物線を描き、網にすら到底届かない位置でもう下降し始めている。七江の放ったボールは直ぐに床を鳴らし、ポーンポンポンとそのまま向こうへ転がっていった。
実際に自分でやってみると、より先生の凄さを実感できた。大須先生って、やっぱりめちゃくちゃカッコイイ。本気で尊敬しちゃうなぁ。また先生のバスケット、見せてもらおーっと。七江は、先生のことを想うだけで幸せになる自分がいることに気付いた。そのことが、とても嬉しかった。
「一回だけだからな」と面倒くさそうに呟いてシュートの体勢に入り、ダムダムと何回かのドリブルでゆっくりと微調整をして。かと思いきや一転、素早い動きで額の前までサッとボールを持っていく。沈めた膝を伸ばすのと同時に上へと高く跳ぶ。腕を通してその力をそのままボールに注ぎ込んだかと思うと、グーンとゴールへ向かい真っ直ぐにそれは飛んでゆく。
着地した先生はパシュッの前にもう振り返り、体育教官室の方へとその歩みを進めていた。パシュッを、先生の背中越しに見届けたのは七江だ。
なにこれ…カッコ良過ぎる
映画のワンシーンの様な光景に、思わず息を呑む。こんなにも心を揺さぶられるなんて。男の有言実行が、こんなにもカッコイイなんて。今まで全然知らなかった。その刹那、七江は正真正銘本気で大須先生に惚れていた。
先生ー!エアループシュートが見たいです!
できるか!
えーーーーーー
何歳だと思ってんだよ。
35歳…ですよね?
現役の頃とは違うんだから。
そーう、です、よね~。。
分かったよ。ちょっと待ってろ。
え?
七江ー!やってもらうから、見てろよー
え?あ、はいっ!
ゴール近くの空中でパスをキャッチして、そのままシュートを打つ。大須先生が部員の子たちに頼んでくれたらしく、またしても生で見ることが実現した。七江には完全にエアループシュートだった。漫画の中のそれより、断然こっちのがカッコ良かった。
実際に演技を見せてくれた一年生部員の子たちに、何度もお礼を言い頭を下げた。全然いいですよ、と恐縮する二人。とても良い人たちで、更にありがとうが重なった。
先生ー!エアループシュートめちゃくちゃカッコ良かったです!
流石にダンクは危ないからな。
いえ、『スラムダンク』よりカッコ良かったです。ありがとうございました!
全然いんだけど、七江さー
はい。。
もうちょっと静かにできないの?
え?
いや、キャーキャーうるさいからさ。
すみませんっ
部員に慕われてる感じとか、威厳のある感じとかが垣間見れて、七江はまた一つ大須先生を尊敬した。自分がしてないことをしてる人、自分ができないことをできる人。七江はそんな人を尊敬してしまう。大須先生はその最たる人だった。
七江は、尊敬できる人が好きだ。だから七江は、大須先生が大好きなんだ。
また つづく。